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地元のリトルリーグの子どもたちはみんな大谷のシャツを着ている…大谷翔平が変えたアメリカ人の日本人観

プレジデントオンライン / 2024年4月15日 8時15分

ツインズ戦の7回、ソロ本塁打を放ちチームメートに迎えられるドジャースの大谷翔平=2024年4月8日、アメリカ・ミネアポリス - 写真=時事通信フォト

大谷翔平はアメリカ人にどのような影響を与えてきたのか。コラムニストのディラン・ヘルナンデスは「大谷の登場は、野茂、イチローに次ぐまさにその次の進化だった。アメリカ人よりも大きくて、パワーがあって、足も速い。身体的に上回っている。それを受け入れるのに、4、5年かかった」という――。

※本稿は、ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■全米レベルのスターがいない野球のモロさ

【トモヤ】野球は正しい方向に向かっていると思う?

【ディラン】グローバルな成長は不可欠になってきている。米国内では、すでに最高のアスリートを他のスポーツにとられているから。そういう意味では、日本では身体能力の高いアスリートの多くが野球を選んでいるのは良いこと。韓国も似ている。ドミニカ共和国などいくつかの中南米の国でも、トップアスリートが野球を選んでいる。

各球団が地元ファンからの支持を基盤に成り立っていることが幸いして、メジャーリーグがなくなるってことはないと思う。各都市は、そこの野球チームと深い関係を築いているから。たとえばロサンゼルスでは、毎試合5万人が入るくらいドジャースと強い結びつきがある。

でも、全米で広く知名度や人気があるスターがいないのは不安材料ではある。レブロン・ジェームズやトム・ブレイディやパトリック・マホームズのような。それに労使関係の悪さが加わる。メジャーリーグには、プロスポーツで一番強力な選手会があるけど、オーナー側との間に長年蓄積された不信感と敵対意識がある。同じ船に乗っていることを理解していないかのような。どこかのタイミングで、以前のようなストライキが起きて、1年くらい試合が中断されるようなことになれば、大打撃を受ける可能性はある。全米レベルのスターがいないことで、他のスポーツよりも脆さがあると思う。

■大谷が野球を“クール”にする?

【サム】野球は良い方向に向かっていると思う。野球はディランの言うように地域に根差したスポーツで、NBAのようにスーパースターが主導するようなリーグではない。だから、NFLやNBAとは違ったやり方で成長できると思う。野球人気が低迷しているという見方は誇張されていて、僕は結構、健全な状態だと思っている。

浮き沈みはあるもので、21年から22年にかけての労使交渉で、シーズンがキャンセルなんてことになっていたら大打撃だったと思う。でも野球自体の人気は高いし、存在自体が脅かされる事態というのは想像しづらいね。

【トモヤ】大谷がドジャースのような人気球団の一員としてワールドシリーズで勝つことは、野球にどれだけ良い影響があると思う? 僕は、それによって、大谷がマイケル・ジョーダンとかセリーナ・ウィリアムズといったスポーツファン以外にも知られるようなスーパースターになって、アメリカで野球が「クール」なスポーツとして認知されるようになる可能性はあると思う。

■スターを軸にスポーツは盛り上がる

【ディラン】スター選手は、そのスポーツの広告塔だから、全米レベルの認知度があってほしい。(元ヤンキースの)デレック・ジーターは、最高の選手というわけではなかったけど、常に頼りになって存在感があった。彼を中心に、野球のストーリーが回っていた。

NBAはマイケル・ジョーダンを中心に回っている時代があって、その後、少し空白期間を経てから、レブロン・ジェームズの時代になった。この20年くらいは、レブロンを中心にNBAは回ってきた。他チームはレブロンを倒すためのチーム作りをする。そういう軸になる存在がいるとスポーツは盛り上がる。大谷が毎年10月にプレーオフで活躍できれば、そういう存在になれる。

【トモヤ】アメリカで大谷人気が高まっていることを、ディランは日系人としてどう感じているの?

【ディラン】いいことだと思う。二つの文化で育った者として、どの文化にも良いところと悪いところがあると感じている。大抵の場合、良いところと悪いところは同じところから来ている。つまり紙一重なんだ。

ドジャースのスタジアム
写真=iStock.com/Amy Sparwasser
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Amy Sparwasser

■「そんなにアメリカを崇拝する必要はないぞ」

多様性に反対の人もいるけど、アメリカ人の多くは、この国が移民によって成り立っていて、それが強みだということを理解していると思う。それでも、「アメリカがナンバーワン」みたいに思い込んでいる部分がある。僕はアメリカの全てが優れているなんて思わない。とは言え、日本には住めないかもしれない。でも、日本の良いところはいっぱいあるし、僕は日本の記者たちに、「そんなにアメリカを崇拝する必要はないぞ」って言いたい。

大谷の活躍を通して、アメリカが取り入れた方がいい日本文化の優れたところが注目されるのはいいこと。自分たちのやり方以外にも、色々な方法があるんだと気づくから。たとえば、マクドナルドで注文したビッグマックの中身が中心からずれているのを、お店の人がちょっと時間をかけて日本のように真っすぐにしたら、みんながちょっと幸せになる。

■子供たちがみんな大谷のシャツを着ているリトルリーグ

【ディラン】僕の年代は、マイケル・ジョーダンがみんなにとってヒーローだった。そのことが、僕らの世代が、その前の世代よりも人種偏見が少ない理由の一つだと僕は推測している。モンタナ州かどっかの人種偏見の強い家庭で育った子供が、マイケル・ジョーダンが好きすぎて、(黒人である)ジョーダンのようになりたいって思ったかもしれない。その人のようになりたいって思う気持ちは、思考を変える原動力になる。

僕の10歳の甥っ子は、地元のリトルリーグでプレーしているんだけど、彼の試合を見に行くと、子供たちがみんな大谷のシャツを着ている。みんな大谷みたいになりたいって言うんだ。その影響は、20年くらいは表れてこないかもしれない。でも、その子供たちが、憧れである大谷が14時間くらい寝ているなんてことを読んだら、僕もそうしなくちゃと思うかもしれない。

晴れた朝に野球のバット、手袋、ボール
写真=iStock.com/CHUYN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUYN

そういうふうに、彼が持つ日本的な価値観みたいなものも、アメリカ人に紹介されていくかもしれない。それは僕にとって嬉しいこと。誇りにすら感じると思う。日本の方がずっといいと思っている部分もあるから。たとえば、算数の勉強の仕方とか、日本のやり方でやってくれないかと願っている。アメリカのやり方は、ほんとダメだから。

■大谷はアメリカ人の日本人観を変えた

【トモヤ】野茂英雄、イチロー、大谷といった日本人選手は、アメリカにどんな影響を与えたと思う?

ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)
ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)

【ディラン】野茂はとてつもない人気だった。野茂が来たのは、多分ピークを過ぎてからだったんじゃないかな。それでも数年間は、素晴らしい投球を見せてくれた。野茂が来る前は、日本はアメリカの選手が行ってプレーする場所だった。それが野茂が来て、「日本のプロ野球もレベルが高いんだな」と知ったと思う。

イチローは、投手だけでなく、野手もメジャーで通用するんだと証明した。足も速かったから、日本人は技術だけじゃなくて運動能力もあるんだと思われるようになった。

大谷の登場は、まさにその次の進化だった。アメリカ人よりも大きくて、パワーがあって、足も速い。身体的に上回っている。それを受け入れるのに、4、5年かかった。それまでの偏見を大きく覆すものだったから。人というのは、分かりやすいカテゴリーに分類したがる。大谷も野茂やイチローと同じように、アメリカ人が持つ日本人観を変えたんだ。

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ディラン・ヘルナンデス スポーツコラムニスト
1980年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒。ドジャースとエンゼルスの地元紙ロサンゼルス・タイムズでスポーツコラムニストを務める。それ以前はサンノゼ・マーキュリー・ニュースに勤務。日本人の母を持ち、スペイン語と日本語も流暢に話す。

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サム・ブラム ジャーナリスト
1993年生まれ。シラキュース大学卒。2021年からスポーツ専門メディア『ジ・アスレチック』のエンゼルス担当記者を務める。それ以前は、ダラス・モーニング・ニュース、デイリープログレス、トロイ・レコードでスポーツ記者として勤務。AP通信スポーツ編集者賞やナショナルヘッドライナー賞を受賞。

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志村 朋哉(しむら・ともや)
ジャーナリスト
1982年生まれ。国際基督教大学卒。テネシー大学スポーツ学修士課程修了。英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。米地方紙オレンジ・カウンティ・レジスターとデイリープレスで10年間働き、現地の調査報道賞も受賞した。大谷翔平のメジャーリーグ移籍後は、米メディアで唯一の大谷担当記者を務めていた。著書に『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(共に朝日新書)がある。

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(スポーツコラムニスト ディラン・ヘルナンデス、ジャーナリスト サム・ブラム、ジャーナリスト 志村 朋哉)

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