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なぜ「税」ではなく「賦課金」と呼ぶのか…月額1400円では終わらない「隠れ大増税」の実態を告発する

プレジデントオンライン / 2024年4月17日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Panuwat Dangsungnoen

■再エネのための「隠れ増税」で月額1400円のコスト増

2024年度の日本の国民負担率(見込み)は45%を超えており、今や五公五民に近い水準に達しつつある。インフレ率上昇に賃金上昇は必ずしも十分に追いつかず、毎年の社会保障費等の政府支出を抜本的な改革を実施しない場合、現役世代の家計は干上がりますます少子高齢化は進展していくことになる。

そのような中、今年度は再エネ賦課金が既に大幅に上昇することが決定した。電力料金に上乗せされている再エネ賦課金は、2024年度は1キロワット時あたり3.49円となり、標準的な家庭で月額約1400円のコスト増を迫られている。また、再エネ賦課金は日本企業にとって電力を大量消費する工場などのコスト増につながり、賃上げも含めた企業の余力を削ぐ要因にもなっている。

2024年度の再エネ賦課金総額は2兆6850億円であるが、実は再エネ賦課金に関する電力料金負担増は上述の国民負担率には計上されていない。財務省は税金と社会保険料以外は国民所得に対する租税負担等の総額に含めないとしているからだ。消費税約1%超に相当する巨額の負担を除外した国民負担率の数字は国民負担を測る指標として不正確な指標だと言えるだろう。現実の国民負担は数字で表れている以上に重くなっている。

そして、現代の日本では実質的な強制を伴う半税金的な支出が急速に増加している。それらは国民負担率に反映されないものの、中長期的に国民の生活を圧迫することになる。このような「隠れ増税」がまかり通る現状を放置することは極めて問題である。

■日本版「炭素税」で予定されている「大増税」

日本では「炭素税」という税金は公式には存在していない。主に、フィンランド、スウェーデン、フランス、ドイツなどの欧州において導入されている税金であり、企業などが燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税する制度だ。米国でもバイデン政権ら左翼勢力が推進しているが、現在のところ、シェールガス・シェールオイル産業を支持基盤に持つ共和党の強い抵抗にあって実現していない。

もちろん、日本でも「炭素税」が国会で公式に創設されたことはない。多くの国民の認識も同様のものだろう。しかし、「日本版・炭素税」は既に昨年の通常国会で「隠れ増税」の形で導入が決定されている。そして、国民に将来的に大増税をもたらすことが予定されている。

■10年間で20兆円発行する「GX経済移行債」

この「日本版・炭素税」とは、「GX賦課金」のことを指す。GX賦課金は昨年5月に制定されたGX推進法の中に盛り込まれたもので、再エネ賦課金と同様に「賦課金」という扱いとなっている。具体的には、2028年から「化石燃料の輸入業社などに対して、輸入する化石燃料に由来するCO2排出量に応じて賦課金を徴収する」という建付けだ。この際、徴収された賦課金は、「脱炭素成長型経済構造移行推進機構」(GX推進機構)が10年間で20兆円発行する「脱炭素成長型経済構造移行債」(GX経済移行債)の返済原資となることが予定されている。

この悪質性は、GX経済移行債はあくまでも政府とは異なるGX推進機構が発行するものであり国の借金ではないということ、そしてその原資となるGX賦課金は当然に税金として扱われないということだ。

しかし、実際には同法の制定はGX経済移行債20兆円分を埋めるための大増税が決定したことを意味する。当たり前であるが、化石燃料輸入事業者に課された賦課金は企業や一般国民に価格転嫁されることになるため、国民・企業の負担は確実に増加することになる。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■実態が分かりにくい「隠れ増税」で国民の生活基盤を破壊

更に、GX推進法にはもう一つの大増税政策が仕掛けられている。それは電力会社に対する排出権の買取義務付けである。この買取義務付けは2030年代から運用開始が予定されている。2030年代は前述の再エネ賦課金の支払額がほぼ終わる時期だが、その代わりに電力会社に排出権買取を義務付けて、国民から電力料金を限界まで絞り取ろうとする強い意志を感じる(そして、もちろん電力会社による排出権の買取義務化も国民負担率には含まれないだろう)。

数年後から「隠れ増税」による大増税が、国会でろくに議論もないままほぼ全会一致で成立してしまっていることに戦慄せざるを得ない。エネルギー・電力という現代社会なら誰でも使用する対象に賦課金を課すことは逆進性の観点からも問題がある。これらの制度は貧しい人の家計負担を著しく増大させるとともに、企業に対するコスト増によってその脆弱な雇用を破壊する。政府は税金・社会保険料という名称ではなく、その実態が分かりにくい「隠れ増税」を推進し、国民の生活基盤を破壊しようとしているのだ。

■なぜ「炭素税」ではなく「賦課金」と呼ぶのか

日本政府はGX賦課金のことをあえて「炭素税」と呼ばないようにしている。

2022年11月に行われた閣議後記者会見のやり取りは非常に興味深いものだった。西村明宏環境大臣(当時)が記者から「炭素税の必要性について明確に議論すべきだ」と問いかけられた際の出来事だ。これに対して、西村大臣は「今御指摘ありましたけれども、確かに総理の発言の中では『賦課金』という言葉になっておりましたが、『賦課金』という言葉が炭素税のことだと承知しておりまして……」と回答している。つまり、日本政府は「GX賦課金は炭素税である」と記者会見で公式に認めているのだ。

西村明宏環境相(当時)「GX賦課金は炭素税である」と記者会見で公式に認めた=2022年12月27日、東京・霞が関の環境省
写真=時事通信フォト
西村明宏環境相(当時)「GX賦課金は炭素税である」と記者会見で公式に認めた=2022年12月27日、東京・霞が関の環境省 - 写真=時事通信フォト

では、何故、政府はこのGX賦課金を明確に「炭素税」として呼ばなかったのか。財務省がGX賦課金を税金として扱いたくない理由は、税金とは異なる賦課金の複雑な徴収方法以外にもある。

実は炭素税は西欧諸国では法人税・所得税減税の原資として使われている。つまり、ストレートに「炭素税導入の是非」として議論をした場合、既存の諸税率の引き下げの議論が必ず生まれてしまう。減税を頑なに拒む財務省にとっては炭素税導入によって減税議論が活発化することは望むところではないのだ。したがって、賦課金の名称で、減税を回避しつつ、実質的な増税を達成することを選んだ、と言えるだろう。

■見え隠れする経済産業省の「時代錯誤な野望」

そして、GX賦課金にはその使途を差配する経済産業省の時代錯誤の野望が見え隠れする。

経済産業省は3月27日、2035年を目途とし、官民が連携した複数社が参画する国産旅客機の開発を進めることを明らかにしている。今後10年で官民合わせて5兆円を投資するとしているが、その原資は「GX経済移行債」である。

同省は三菱重工業の「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」に補助金500億円つぎ込んで失敗したことを既に忘れてしまったのだろうか。そして、戦後の航空機産業政策の失敗は愚にもつかない旧通産省がシャシャリ出てきたことこそが問題だったということも。今回のGX経済移行債を食い物にするプロジェクトに複数社が関わることでとても成功するとも思えない。むしろ、責任の所在が不明確になりガバナンスが崩壊、そして大失敗することは予想に難くない。

■復活する「産業政策」の悪夢のための大増税へ

しかも、経済産業省の野望は航空機だけにとどまらない。先進国が自由経済の流れに逆行し、国家資本主義に傾きつつある中、同省はここぞとばかりに産業政策を復活させ、巨額の補助金バラマキを推進している(本格稼働前から大失敗がほぼ確定しているラピダスなどもその一つだ)。

同省の産業構造審議会に提出された「GX実現に向けた分野別投資戦略について」(2023年11月)では、GX賦課金を利用した自動車産業、鉄鋼産業、化学産業、紙パルプ産業、セメント産業、SAFなどへの脱炭素に向けた投資計画が並べられている。一見すると、もっともな役人の御託が並んでいるが、要はGX経済移行債を際限なく使わせろ、という利権誘導の主張にすぎない。

経済産業省
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

GX経済移行債を用いた事実上の産業政策予算は、一般会計から外れた形で使用されることになるだろうから、国会審議の対象にも十分になることはないだろう。このような目くらましの財政運営の手法は、財政民主主義の原則を逸脱した行政機関の暴走といっても良いものだ。

これらは旧通産省の産業政策の失敗を扱ったマイケル・E・ポーターの『日本の競争戦略』の21世紀版が発売するとしたら、確実に新たなネタになりそうな愚行である。

今更、過去の産業政策の愚策を繰り返すくらいなら、本来の炭素税のように法人税や社会保険料(企業負担分)を引き下げて、企業に自由に活動させたほうが良い。国民に対して隠れ増税で負担を課し、役人任せの予算運用を容認し、財政民主主義を破壊する「環境をお題目とした増税」に対して、有権者は明確にNOを突き付けていくべきだ。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学公共政策研究所 招聘研究員
パシフィック・アライアンス総研所長。1981年東京都生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』(すばる舎)などがある。

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(早稲田大学公共政策研究所 招聘研究員 渡瀬 裕哉)

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