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「通勤電車でお腹が痛くなる人」の意外な共通点…朝の不調に「夜の睡眠」が深く関わっている理由

プレジデントオンライン / 2024年4月28日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

「通勤電車でお腹が痛くなる人」には意外な共通点がある。早稲田大学睡眠研究所所長で医師の西多昌規さんは「過敏性腸症候群と睡眠には密接な関係がある。睡眠の質を上げることで、腹痛が和らぐ人は少なくない」という――。(第2回)

※本稿は、西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)の一部を再編集したものです。

■朝、急にお腹が痛くなるのはなぜなのか

朝起きたとき、とくに通勤や通学の際、電車やバスの中で毎日のように腹痛を起こして、途中下車して駅のトイレに駆け込むといったことで悩んでいる人が、実はかなりいます。過敏性腸症候群の人たちです。

過敏性腸症候群とは、腸に異常はないのに、慢性的な腹痛が起こったり、下痢・便秘などの便通異常が長期間続いたりする病気です。日本では、なんと10~20%もの人が過敏性腸症候群を患っていると報告されています。5~10人に1人ですから、かなり多い患者数です。

はっきりとした原因はわかっていませんが、ストレスや過度の緊張、自律神経の異常、腸内細菌の変化などが関係していると考えられています。過敏性腸症候群は、わたしがメンタルクリニックでの診療でもっとも診ることの多い消化器疾患で、薬剤を処方することもしばしばです。

こうした腹痛やお腹の調子の悪さ、便意は、仕事や学校のある平日の朝に起こりやすく、昼間や夜間、あるいは休日にはほとんど起こりません。このような特徴もあって、過敏性腸症候群はストレスのせいとよくいわれるのですが、本当なのでしょうか。

■過敏性腸症候群になる本当の要因

実は、過敏性腸症候群に見られる朝の不調に、夜の睡眠が関わっているという事実は、ご存じない方も多いと思います。

過敏性腸症候群では、患者が自覚する下痢や腹痛など胃腸症状の強さと、主観的な睡眠の質の悪さとの間に、強い関連がありました(20)。しかし、睡眠ポリグラフ(註10)を用いた検査では、過敏性腸症候群の患者と健康な人との間で、差は認められていません(21)

考えられるのは、過敏性腸症候群の人は、客観的に測った睡眠構造(深いノンレム睡眠、レム睡眠の割合など)に異常はないのですが、正常な腸からの刺激に対して、健康な人に比べてオーバーに脳と体が反応している可能性です。それで眠りの質が悪くなったように感じるのかもしれません。

過敏性腸症候群が睡眠の質を悪くしていることを紹介してきましたが、逆に睡眠不足が過敏性腸症候群の症状の要因にもなりえます。

■有効だった意外な薬

アメリカ、ワシントン大学の研究グループは、自己申告による睡眠の質の低下だけでなく、アクチグラフ(腕時計型の睡眠計)で計測した睡眠効率の悪さが、翌日の腹痛や不安、疲労の強さの予測材料になったことを示しました(22)

不眠症で寝付けない男性
写真=iStock.com/yanyong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yanyong

そのほかにも、アメリカ、メイヨークリニックの外来患者の調査で、睡眠不足を訴える患者のうち、33.3%が過敏性腸症候群であること(23)、夜間オンコールのある研修医の19%が過敏性腸症候群であり、睡眠時間が短い研修医ほど過敏性腸症候群の症状が出る頻度が高い(24)など、睡眠不足や睡眠の質の悪さは、過敏性腸症候群の要因になっています。

過敏性腸症候群の治療用に、現在ではいろいろな薬剤が発売されており、便秘タイプ、下痢タイプ、下痢・便秘混合タイプによって、薬剤を使い分けます。しかしこれまで述べてきたように、睡眠のコントロールも、過敏性腸症候群の治療にとって重要です。

新しい試みとして、メラトニンが過敏性腸症候群を改善する臨床研究のデータがあります。2週間のメラトニン投与で過敏性腸症候群の症状が有意に改善する、6カ月間投与したところ、過敏性腸症候群の50%が便秘の改善を経験する、などです。

メラトニンと過敏性腸症候群の研究結果をまとめたメタ解析でも、過敏性腸症候群の重症度や痛みに対して効果はあるという結果でした(25)。過敏性腸症候群の治療に、睡眠の管理も重要であることが、おわかりいただけたかと思います。

現在はメラトニン自体は治療薬として認可されていませんが、将来的には治療の選択肢になるかもしれません(註11)

■少なくとも日本人の1割が苦しむ症状

この章の最後は、国民的な不調である「便秘」と睡眠との関係を見てみましょう。睡眠が悪いと、便秘がひどくなってしまうのでしょうか。頑固な便秘は、「慢性便秘症」という病名がつけられます。

慢性便秘症とは、体外に排出すべき便を、量においても十分ではなく、かつ快適に排出できない状態が慢性的に続くことです。日本人の約1割が慢性便秘症であるといわれていますが、「便秘ぐらいでは医者に行けない」と思っている人も多いので、実際にはもっといるのではないでしょうか。

慢性便秘症の人を見ていると、毎晩下剤を欠かさず飲んでいますし、何か新しい、よく効く下剤はないかといつも探しています。日中も、毎日便は出ないにせよ、お腹をしょっちゅう気にしている人が多いように思います。

このように便秘は重病ではないのでしょうが、本人にとっては深刻な問題です。ただの「便秘」ではそのつらさが伝わらないのですが、ここでは単に「便秘」という表現で通します。

■なぜ女性に便秘が多いのか

便秘は、さまざまな病気と関連があることがわかってきています。たとえば便秘の人は、大腸がんや心疾患、脳卒中を起こしやすく、快便の人のほうが長生きするともいわれています。

便秘の症状にもバリエーションがあって、排便回数の減少や排便困難感、残便感などさまざまです。一般的に便秘の原因となるのは、年齢や性差もありますが、食生活や生活習慣の乱れ、ストレスによるところも少なくありません。また、便秘を引き起こす薬剤や病気もあります。

便秘は、やはりといっては失礼ですが、女性に多く見られます。女性に便秘が多い原因としては、筋力の低下、食事量が少ない、ホルモン(註12)という、3つの原因があると考えられています。

■睡眠不足が与える影響

睡眠の影響は、どうなのでしょうか。睡眠の質が悪いと、便秘を悪くする影響を与えているようです。

便秘の原因として生活習慣の乱れと書きましたが、睡眠はどこまで関係しているのでしょうか。不眠症など睡眠障害で通院中の人では、便秘のリスクが高いという報告があります(26)

睡眠時間が短い、あるいは睡眠の質が悪いと、便秘リスクは上がります。まず、健康な人では、食事をとることによって大腸(結腸)の運動が活発になるのですが、睡眠不足の人ではこの反応が起きにくいといわれています(27)

また、交感神経系がはたらくと腸の動きは抑制されるのですが、睡眠不足によるストレスで交感神経は睡眠中、とくにレム睡眠では活発になります。結果的に腸の動きは悪くなり、便がスムーズに下のほうに移動しなくなります。

また、睡眠不足や短時間睡眠によって、インターロイキン6やC反応性タンパク質など炎症物質も増加します。この炎症反応も腸の動きを悪くし、便秘をひどくしていると考えられています(28)

一方で、睡眠時間が長すぎるのも良くないというデータもあります。2022年に、アメリカ国民健康栄養調査から、便秘と睡眠との関係の解析結果が発表されました。

【図表1】睡眠時間が長い女性は便秘になりやすい
出典=『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)

対象は1万1785人であり、平均年齢は45~47歳、男女比はほぼ半々です。便秘の割合は、男性の4.3%、女性の10.2%でした。睡眠時間との関連では、女性では、睡眠時間が長い人のほうが、便秘になりやすいという結果でした(29)

■睡眠時間が長すぎる人は便秘になりやすい

とくに女性において、長すぎる睡眠時間で便秘になりやすくなるのは、どうしてなのでしょうか。2つの理由が、考えられます。

西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)
西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)

ひとつ目は、当然といえば当然なのですが、寝すぎる傾向の人は身体活動の低下、すなわちつねにゴロゴロしていて運動不足になっていることです。

2つ目は、睡眠時間が過多な人は、うつ傾向、あるいはうつ病の可能性があることです。一部のうつ病では、不眠ではなく、日中の強い眠気や、半日でも1日でも寝ていられるという過眠など、典型的ではない睡眠の症状が見られます。

また昔の薬剤に比べて、最近の抗うつ薬は便秘の副作用は軽いのですが、それでなくてもうつ病の患者では、便秘が多く見られます(30)

便秘に悩む人にとっては、睡眠時間や睡眠の質も忘れてはいけないことがわかります。とくに女性では、睡眠時間が長すぎる人は便秘になりやすい傾向があります。食事や便秘薬だけでなく適度な運動、それに睡眠にも気をつける必要があります。

[註10] 睡眠ポリグラフは、脳波・眼球運動・心電図・筋電図・呼吸曲線・いびき・動脈血酸素飽和度などの多くの生体活動を、一晩にわたって測定する検査である。ポリグラフ(ポリ=多数の記録指標のグラフ=表示)によって確認することであり、これによって、睡眠障害がより正確に診断される。ウェアラブル機器など簡易的睡眠検査が増えてきたが、もっとも信頼性の高い睡眠検査は、この睡眠ポリグラフであることに変わりはない。

[註11] メラトニン受容体刺激薬であるラメルテオンが過敏性腸症候群に有効であるというデータはまだない。過敏性腸症候群ではメラトニンそのものが欠乏しているという小規模な研究があり34、メラトニンのセンサーである受容体を刺激するだけでは効果はないのかもしれない。

[註12] 月経・妊娠で多く分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)は、腸の蠕動運動を抑制し、便の水分やミネラルの吸収が促進される。したがって、女性は男性に比べて便秘になりやすい。

20
Fass, R., Fullerton, S., Tung, S., & Mayer, E. A. (2000). Sleep disturbances in clinic patients with functional bowel disorders. Am J Gastroenterol, 95(5), 1195-2000.
21
Elsenbruch, S., Harnish, M. J., & Orr, W. C. (1999). Subjective and objective sleep quality in irritable bowel syndrome. Am J Gastroenterol, 94(9), 2447-2452.
22
Buchanan, D. T., Cain, K., Heitkemper, M., Burr, R., Vitiello, M. V., Zia, J., & Jarrett, M. (2014). Sleep measures predict next-day symptoms in women with irritable bowel syndrome. J Clin Sleep Med, 10(9), 1003-1009.
23
Vege, S. S., Locke, G. R., 3rd, Weaver, A. L., Farmer, S. A., Melton, L. J., 3rd, & Talley, N. J. (2004). Functional gastrointestinal disorders among people with sleep disturbances: a population-based study. Mayo Clin Proc, 79(12), 1501-1506.
24
Wells, M. M., Roth, L., & Chande, N. (2012). Sleep disruption secondary to overnight call shifts is associated with irritable bowel syndrome in residents: a cross-sectional study. Am J Gastroenterol, 107(8), 1151-1156.
25
Chen, K. H., Zeng, B. Y., Zeng, B. S., Sun, C. K., Cheng, Y. S., Su, K. P., Wu, Y. C., Chen, T. Y., Lin, P. Y., Liang, C. S., Hsu, C. W., Chu, C. S., Chen, Y. W., Yeh, P. Y., Wu, M. K., Tseng, P. T., & Hsu, C. Y. (2023). The efficacy of exogenous melatonin supplement in ameliorating irritable bowel syndrome severity: A meta-analysis of randomized controlled trials. J Formos Med Assoc, 122(3), 276-285.
26
Jiang, Y., Tang, Y. R., Xie, C., Yu, T., Xiong, W. J., & Lin, L. (2017). Influence of sleep disorders on somatic symptoms, mental health, and quality of life in patients with chronic constipation. Medicine (Baltimore), 96(7), e6093.
27
Dinning, P. G., Wiklendt, L., Maslen, L., Patton, V., Lewis, H., Arkwright, J. W., Wattchow, D. A., Lubowski, D. Z., Costa, M., & Bampton, P. A. (2015). Colonic motor abnormalities in slow transit constipation defined by high resolution, fibre-optic manometry. Neurogastroenterol Motil, 27(3), 379-388.
28
Ferrie, J. E., Kivimäki, M., Akbaraly, T. N., Singh-Manoux, A., Miller, M. A., Gimeno, D., Kumari, M., Davey Smith, G., & Shipley, M. J. (2013). Associations between change in sleep duration and inflammation: Findings on C-reactive protein and interleukin 6 in the Whitehall II Study. Am J Epidemiol, 178(6), 956-961.
29
Yang, S., Li, S. Z., Guo, F. Z., Zhou, D. X., Sun, X. F., & Tai, J. D. (2022). Association of sleep duration with chronic constipation among adult men and women: Findings from the National Health and Nutrition Examination Survey (2005–2010). Front Neurol, 13, 903273.
30
Liu, X., Liu, H., Wei, F., Zhao, D., Wang, Y., Lv, M., Zhao, S., & Qin, X. (2021). Fecal Metabolomics and Network Pharmacology Reveal the Correlations between Constipation and Depression. J Proteome Res, 20(10), 4771-4786.

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西多 昌規(にしだ・まさき)
早稲田大学教授 精神科医
東京医科歯科大学卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学客員研究員、スタンフォード大学客員講師などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院教授、早稲田大学睡眠研究所所長。精神科専門医、睡眠医療総合専門医などをもつ。専門は睡眠、アスリートのメンタル・睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に『休む技術2』(大和書房)『眠っている間に体に中で何が起こっているのか』(草思社)など。

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(早稲田大学教授 精神科医 西多 昌規)

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