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若い女性をつかめ! 食品は地下2階、化粧品は地下1階の決断 -三越

プレジデントオンライン / 2013年1月30日 14時0分

【三越 銀座店増床プロジェクト】 売り場面積を1.5倍に広げた三越銀座店(東京都中央区)。各地の百貨店が苦戦を続けるなか、原点回帰で「銀座地区一番店」の奪還を狙う。

■「公家」と「野武士」の強みを活かしきる

2010年9月11日。この日を境に銀座の人の流れが一変した、といったら大げさだろうか。地上を歩く人も、地下鉄構内の通行客も、銀座地区最大規模にリモデルされた百貨店・三越に吸い込まれていく。

以前の約1.5倍、3万6000平方メートルにスケールアップした銀座三越を訪れた客は10年9月だけで200万人を突破。10月に入り混雑は 一段落したが、それでも平日には約8万人、土日には約10万人の来店がある。9月末までの20日間で売り上げは前年比140%に達した。

なかでも、ふだん食品フロアで姿を見かけることが少ない男性の1人客をはじめ、3世代から成るファミリーや女子高生など、ありとあらゆる客層が集結している光景は圧巻だ。

リモデルにあたり、銀座三越は食品売り場を地下1~2階から、地下2~3階へと下ろした。売り場面積は10%増えたが、地下鉄の利用客が流入する機会は確実に減る。

執行役員 銀座店長 
安達辰彦

1975年、三越入社。銀座店の婦人服に配属となる。その後、営業企画本部店舗運営部長、新潟店長、百貨店事業本部店舗開発推進部長などを歴任。2008年3月より銀座店長を務める。

一般に、売り場は地下に潜るほど集客力が落ちる。だが、銀座三越は売り上げ構成比の3割を占める食品フロアを下ろした。この異例のレイアウトから見えてくるのは、伊勢丹との経営統合後、初の大プロジェクトにかける従業員たちの決意と覚悟だ。安達辰彦店長は言う。

「リモデルの目的は『新しい顧客の創造』です。この店は60代以上には強いが、30~40代が弱い。10年先、20年先を考えると、弱点だった客層を開拓する必要がある。食品のフロア変更はその一環です」

同店では、客の4割が地下1階から来店する。いわば「第二のエントランス」であり、ここが食品では若い女性を呼び込めない。そこで1階に婦人雑貨、地下1階に化粧品を展開。入り口を華やかにして、「ファッション強化」を印象づけた。

しかし、レイヤープランの決定に至るまで内部は紛糾を極めた。リモデル推進事務局リーダー・片桐英樹氏は当時をこう振り返る。

「雑貨部門は大賛成、食品部門は大反対でした。しかし、全体最適化を考えるとこの結論しかない。『経営陣が期待している以上の成果をあげて見返してやろう』と食品部門を鼓舞し、テナントさんとの交渉にも強気で臨めるように予算を手厚くしました。テナント誘致には妥協していません。成功の予感はありましたよ。今年7月、実際にフロアを見たときに、全体の見通しのよさから『これはいける』と確信しました」

片桐氏の読みは当たった。食品は目標の売り上げ前年比110%を上回り、150%で推移している。

現場の士気が下がったままなら、この成功はなかっただろう。背景にあったのは「意識の共有化」だ。08年4月に伊勢丹から銀座三越に移ってきた営業統括部長・江坂元秀氏は、その過程を「ストローク」という言葉を使って振り返る。

9階の「銀座テラス」。3000平方メートルの大空間は新旧館間の区道を廃した「2館一体化増床」の成果。名物の「銀座出世地蔵尊」も人気。

「2年半の準備期間中、毎週のように定例でストロークを重ね、みんなが同じ方向を向くように調整してきた。誰もが共通の意識を持たないと成功は望めない。コミュニケーションの徹底には同じことをぶれずに何度も繰り返すしかありませんから」

婦人服ではこんなことがあった。あるバイヤーは、年齢層の高い保守的なブランドを減らし、ファッション性の高い新しいブランドを増やそうとした。魅力のある提案だったが、ゆきすぎれば、既存客を失う。

「『お客様のためにはこうするべき』というバイヤーの言い分を聞いたうえで、一歩引いた立場から『いや、こうじゃないの』と返す。そのやりとりを通して、この店に何が必要なのかを擦り合わせていく」(江坂氏)。

たとえば増床前とブランドは同じだが、ラインアップを大きく変えている店がいくつもある。テナントに「銀座店オリジナル」の商品開発を依頼しているからだ。既存客の戸惑いを軽減しながら、銀座三越ならではの提案も同時に行うという試みだ。ストロークとは、銀座三越の軸を確認したうえで最善の道を探し出す場といえる。安達店長は言う。

「大事なのは、議論じゃなくて話し合いをすること。相手を負かすとか、自分の主張を言うのではなく、相手の思っていることを聞き出して核心が何かをわかり合う。それがコミュニケーションですよ」

根気強く繰り返されるコミュニケーション。そこには統合した伊勢丹の影響が見て取れる。三越は「公家型」の社風で知られ、時代に対応して素早く方針を変えていく。悪く言えば腰が据わっていない。一方、伊勢丹は「野武士型」。マーケティングの強さを武器にしながら、「仮説―検証―修正」を徹底的に繰り返す。すぐに成果が出なくても成果が出るまで諦めず徹底する。三越出身の安達店長は、そんな泥臭い「伊勢丹流」に刺激を受けたという。

「『やろう』と言ったことは必ずやりきる。お客様の情報をつかんだうえで仮説を立てているからヒット率が高い。うちにはない強みです」

銀座三越が何をやりきったのか。食品に並ぶ改革が9階の公共スペース・銀座テラスだ。約3000平方メートルの空間には芝生の広場や計134席のレストスペースが設けられ、物販スペースはない。日本で最も地価の高い場所を、売り上げに貢献しない公共スペースとして使う。間違いなく「冒険」だ。その理由を片桐氏は「モノではなく、思い出となる時間を提供するためだった」と話す。

(右)伊勢丹出身で営業統括部長の江坂元秀氏。(左)リモデル推進事務局リーダーの片桐英樹氏。

「百貨店はかつて、子ども時代の楽しい記憶を象徴する場所でした。消費がモノからコトへとシフトしたことを考えれば、百貨店にコトを演出する場があってもいい。先日、銀座テラスを利用されたあるお母さんから、『久々におじいちゃんが孫と楽しい時間を過ごすことができた。ありがとう』とお礼を言われました。家族の絆を担う思い出の場所になる。これこそが我々の目指す『マイデパートメントストア』なんです」

買い物をするだけでなく、その空間にいるとワクワクする。楽しい記憶と一体化している。「マイデパートメントストア」という名称はそんな百貨店にだけ許される。

リモデル前の銀座三越はコンビニのような百貨店だった。場所は銀座のど真ん中だ。便利には使えるが、用が済めばそれで終わりの店だった。

「銀座三越はいつもその時々に売れている商品やブランドを入れて、高効率をなんとか維持してきた。しかし、一過性の取り組みではもう継続的な成長は見込めない。将来を考え、お客様といっしょに我々が成長していくスタンスでないと」(安達店長)

百貨店業界は低迷している。だが、それは、業態にあぐらをかき、立地に依存し、同質化し、目の前の顧客を見失ったからではないか。『銀座四丁目にたまたまある百貨店』ではなく、『銀座四丁目の、銀座三越』という印象を刻み込む店へ――。挑戦はこれからが本番だ。

※すべて雑誌掲載当時

(ライター 三田村 蕗子 門間新弥=撮影)

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