「親が元気なうちから準備する」はNG…老親をヨボヨボ老人に変える"家につけてはいけない介護設備"の名前
プレジデントオンライン / 2024年12月26日 18時15分
※本稿は、川内潤『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
■「親を詐欺から守りたい」という気持ちは分かるが…
近年は、1人暮らしの高齢者を狙った詐欺(さぎ)や、訪問販売などの悪質商法が増加の一途を辿っています。ですから、見守りサービスのみならず、防犯目的の商品もたくさん販売されています。
子どもにしてみれば、親が詐欺に遭って老後の大事なお金をだまし取られたら大変だと思うから、利用したいと考えるのでしょう。でも、自分たちの生活に置き換えたとき、リスクをすべて回避した生活を望むでしょうか。
先日も、認知症の傾向が出はじめた母親を持つ娘さんから、電話に防犯のために通話録音機をつけたという話を聞きました。お母さんは羽毛布団の打ち直しや保険の見直しを勧誘され、娘さんが知らないうちに契約をしてしまったといいます。気づいてクーリングオフができたからよかったものの、どうやら母親が自分から電話をしてしまっているらしいと知って、半ば強引につけてしまったそうです。
相手方に「この通話は防犯のために録音されます」と警告メッセージが流れるタイプなので、母親からは、「友だちに、『電話するとヘンなメッセージが流れる』と言われるから外してほしい」と懇願されているそうですが……。ただ、電話に録音機をつけたからといって、詐欺に遭う可能性がゼロになるわけではありませんよね。それはほかの商品でも同じこと。
詐欺に絶対に遭わないようにするためには、それこそ外部との通信をすべて遮断して、親を四六時中家に閉じ込めておく以外に方法はありません。冷静に考えれば、私たちだってリスクは少ないかもしれませんが、詐欺に遭う可能性があるわけです。
■自分で買い物に行けるのなら、行かせてあげたほうがいい
親が電話でそういう人を呼んでしまうのも、家に上げてしまうのも、結局は寂しいから。たとえ少々高くついてしまったとしても、「それで親の寂しさが紛れたんだから……」と考えられれば、子どもの気持ちも少しやわらぐのではないでしょうか。
また、よく詐欺に遭ってしまった親を叱る子どもがいますが、悪いのは詐欺をするほうであって、親ではありませんから、責めないようにしてください。
ある娘さんは、1人暮らしをしている認知症の母親の実家で、冷蔵庫を開けてびっくりしたそうです。1人ではとても食べ切れない量の4個入りのベビーチーズが、庫内にあふれんばかりに積んである。それなのに、スーパーマーケットに行ってまた同じチーズを買ってきてしまうと頭を抱えていました。
こういうケースはよくありますが、私は「いいじゃないですか、行ってもらったら」とお伝えしました。いつも行くスーパーが同じだったとしたら、それはチーズがほしいのではなく、誰かお友だちと会って話をして寂しさを紛らわせたいからです。
実は、スーパーに買い物に行くことは、デイサービスなどに行くよりよっぽどいいケアになります。迎えの車が来るわけでもないのに、自分の足で自ら外に出て、社会的な場所で人と接点を持って、会話をして、自分で荷物を詰めて帰ってくる。ケアの要素が実にたくさん入っています。
無理やりデイサービスに連れて行くより、ずっといい経験になります。
■「寂しい」という感情をなくすことは難しい
ですから、チーズが家に何個たまろうが、賞味期限切れになろうが、いいじゃないですか、と思うのです。冷蔵庫に入り切らなくなったら、娘さんが持って帰ってもいいし、こっそり捨ててもいいんですから、どんどん買い物に行ってもらいましょうよ。
親が訪問販売員や保険の勧誘員を家に上げてしまうのも、スーパーに行って同じ物を買ってきてしまうのも、理由は同じ。寂しいからです。そして、どんな人であれ、誰かと話すことによって、その寂しさがやわらぐからです。しかし、そもそも寂しいという感情をなくすことは難しいものです。
それなのに、多くの人が、「年老いた父や母に、寂しい思いはさせたくない」と、子どもがなるべく一緒にいることで、その寂しさを埋めてあげようとします。でも、こういう関わり方をしていくと、お互いによくありません。ならば、別の形で親の寂しさを軽減する方法を考えませんか。
たとえば、介護保険で利用できる通所リハビリテーションやデイサービスなどは、その寂しさをやわらげるサポートをしてくれると思います。あるいは、地域包括支援センターは、高齢者が人との関わり合いを持てるよう、趣味のサークルや健康体操教室などを開いています。健康体操教室を見ていると、体や手を動かさず、楽しそうにおしゃべりに夢中になっている高齢者の方たちを見かけますが、それでいいと思います。
もちろん、なかには「行ってみたけれど、やっぱり人と関わるのが苦手」と言う人もいますが、それは子どもがどうこうできる問題ではありませんから、無理強いは禁物です。
■元気なうちから手すりをつけるのはNG
介護保険を利用すれば、家に手すりをつけることができます。本来は、親が手すりをつけてほしいと言ってきたら、本当につけるべきなのか、つけるとしたら、どこにつけるべきなのかを、まずケアマネジャーに相談します。
その結果、必要だということになったら、福祉用具専門相談員が家に来て、ご本人の生活を見立てたうえで、どこに、どれくらいの高さの手すりをつければいいのかを決めます。
しかし、多くの子どもは本人がつけてほしいとひと言も口にしていないうちから、「将来、歩くのが覚束(おぼつか)なくなったときに転ばないように」と、先回りをして手すりをつけようとします。まだ、手すりなどなくても十分歩けているのに、です。
でも、足元が覚束なくなってきたとしても、その解決策が手すりがベストかどうかはわかりませんよね。杖かもしれないし、歩行器、シルバーカーかもしれません。しかも親が転ぶのが不安だからと、子どもがその不安を解消するためにつけた手すりが、親のために使われないどころか、障害になることもあるのです。
まず、手すりをつけると、せっかく今まで何も使わずに歩くことができていたのに、手すりが必要な歩き方になってしまいます。それに、どこに手すりが必要になるかは、腰が痛くなるのか、膝に痛みが出るのか、使う本人の状態によって変わってくるはずですよね。
■むしろ転倒を誘発するおそれもある
必要じゃないときにつけても無駄になることがありますし、実際、一度つけた手すりを外すことはよくあります。しかも、つけ方を間違えると、転倒防止どころか、転倒を誘発してしまうことさえあります。
廊下に手すりをつければ、当然、手すりの分だけ通路の幅が狭くなりますから、手すりに体をぶつけて転ぶこともあるでしょう。手すりの両端をちゃんと処理していないと、特に冬場などは、上着の裾などを引っかけて転んでしまうこともあります。
よく、リビングなどに座面が回転する椅子があるのを見かけますが、これなども高齢の方に優しいようでいて、実は転倒を誘発する箇所だったりします。ああいうところにふっと手をついて、転んでしまうのです。私たちがそういう話をすると、家族は「じゃあ、回転椅子を全部処分してください」となります。
でも、親が転ばないように子どもがあれこれ対策を取っても、転ぶときは転びます。転ぶかもしれないけれど、何か取りたいものややりたいことがあるから、頑張って立ち上がろうとしているわけです。それを、転んだら困るからと、「お母さん、椅子から立ち上がらないで」と制止するのは、親のやりたいことを奪ってしまうことになります。
本当に親のことを思うなら、親の好きにさせてあげませんか。
■GPSをつけるのであれば、外出に寛容になったほうがいい
ただ、そう思っていても、やはりそばで見ていれば、つい手を差し伸べたくなってしまうのが家族というものです。
そばにいると、転ばないように「ああしなさい、こうしなさい」と余計なことを言ってしまいます。でも、離れていれば見えませんから、親にプレッシャーを与えずにすみます。ですから、やはり距離感が必要なんです。
物忘れや生活の変化など、症状はいくつかありますが、認知症の親を持つ家族のいちばんの心配の種は徘徊(はいかい)だと思います。実際、外に出たまま家に帰ってこず、行方不明になってしまうケースが増えていて、社会問題にもなっています。
「このまま帰ってこなかったら、どうしよう」「どこかで事故にでも遭っているんじゃないだろうか」。家族は気が気ではありませんから、GPS(全地球測位システム)をつけることを検討している人も多いと思います。
本来は本人の了解を取ったほうがいいのでしょうが、伝えることでかえって混乱しそうなのであれば、知らせずにこっそりつけるのもありかと思います。大事なのは、GPSをつけているからこそ、家に閉じ込めない、「もっと外に出てもいいよ」と言うことです。
■親の暴言は家族に原因がある可能性も
GPSを使う目的は、あくまで親が外に出て道に迷ってしまったときに、居場所をスムーズに把握するためです。GPSをつけておきながら、家に閉じ込めてストレスを与えてしまっては、まったく意味がありません。
認知症の症状には大きな要因が2つあって、1つが脳のなかの海馬(かいば)が萎縮するという器質的な変化、もう1つが本人にかかるストレスです。この2つの要因が掛け合わさって、暴言、暴力、徘徊などいろいろな症状となって表れます。
ですから、脳の萎縮が相当進んでいたとしても、本人にかかるストレスが緩和できていれば、物忘れがあっても穏やかな状態でいられます。逆に、脳の萎縮がそこまで進んでいないにもかかわらず、かかるストレスが強いと症状は激しくなってしまいます。
そして、とても残念なことに、そのストレスの多くは、家族がよかれと思ってやっているケアに原因があります。つまり、親が徘徊したり暴言を吐いてしまうのは、家族にその原因があるかもしれないのです。
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NPO法人「となりのかいご」代表
社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業後、老人ホーム紹介事業、外資系コンサルティング企業勤務を経て、在宅・施設介護職員に。2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年にNPO法人化し、代表理事に就任。厚生労働省「令和4~6年度中小企業育児・介護休業等推進支援事業」委員なども兼務する。家族介護による介護離職、高齢者虐待をなくし、誰もが自然に家族の介護にかかわれる社会を実現すべく、日々奮闘中。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)、『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)、『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)などがある。
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(NPO法人「となりのかいご」代表 川内 潤)
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