強いストレスがかかっても折れない人は何が違うのか…精神科医が「これほど重要なものはない」という能力
プレジデントオンライン / 2025年1月10日 17時15分
※本稿は、村上伸治監修『心のお医者さんに聞いてみよう 大人の愛着障害 「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■親にじゅうぶん甘えられたという人は実はほとんどいない
愛着形成がしっかりできている人は精神的に強靭です。人生の困難やストレスに直面してもへこたれず、たくましく生きていくことができます。
たとえば小さいうちに親や養育者にたっぷり甘え、「もうじゅうぶん」と思うほど甘え尽くした子どもには強固な愛着が形成されます。愛着がしっかり形成されれば、子どもは自然に親から離れ、なにも言われなくても自分の人生を歩み始めます。
ところが、人間は大きくなるとだんだん素直に甘えられなくなってきます。甘え足りないのに「もう大きいんだから」などと言われて愛着サイクルを断ち切られてしまった子は、愛着形成が不十分なまま大人になっていきます。
実際には、思う存分甘えきり、揺るぎない愛着形成ができている人など世のなかにほとんどいません。大半は中途半端な愛着形成のまま大人になっているのが実情です。
だからこそ、みんなそこそこの自己肯定感と他者信頼感はあるものの、強いストレスや逆境に出合うと簡単に潰れてしまうのでしょう。
■あなた自身に問題があるわけではない
愛着の問題を、童話「三匹の子豚」にたとえてみましょう。
普通の人は木造の家に住んでいます。ある程度の雨風には耐えられますが、強い台風や地震がくれば家は崩れてしまいます。
治療やケアが必要な人は、藁ぶきの家レベルです。一方、逆境にも負けないような人は、強いレンガ造りの家に住んでいます。
安心感や自己肯定感が乏しいと感じる人は、自分自身に問題があるのではなく「家の構造が弱い」と考えてみてください。原因は家の構造にあるのですから、補強工事で強化することはじゅうぶん可能です。専門家の知見を活用することをお勧めします。
藁ぶきの家の人はもちろん、木造の家に住んでいる人も、もっとしっかりした家=自分にしたいのであれば、レンガ造りの家を目指して補強・耐震工事をしていきましょう。
■自分の「家の構造」の弱点に気づく
愛着障害は正式には小児の障害なので大人には用いませんが、大人の患者さんと話をしていると、多くの方に愛着の問題が見られます。患者さんは愛着の問題とは気づかず、他の病気の症状や、自分の性格だと考えています。
とくに精神疾患が再発しやすかったり精神状態が安定しなかったりする患者さんに向き合っていると、愛着の問題が見えてきます。
たとえば「自分がきらい」と言う人には、「いつからですか」と聞きます。「小さい頃から」と答えた人は、たいてい愛着に問題があります。
また、愛着に問題があると自分をいたわることができません。多くの人が自分を傷つけ、まるで自分をむち打つような生き方をしています。
それを指摘すると「たしかにそうですね」とうなずく人が多いのです。
このように、自分の「家の構造」の弱点に気づくことは非常に大事なことです。弱点がわかれば、そこから補強工事をスタートさせることができるからです。
そのためにも、自分ひとりで悩まずに医師やカウンセラーに相談し、第三者の視点をとり入れるようにしてください。
■早く自立することを求められた幼少期
あなたはいままで「人に頼ってはいけない」と思って生きてきたのではありませんか。愛着に問題を抱えている人は過度に自分に厳しくして、困っていても人に助けを求めることができません。
助けを求められない心理を抱えてしまっている原因のひとつと考えられるのが、幼少期からの体験です。小さい頃に誰かに助けを求めたときに「自分でやれ」と断られたり、「うるさい」と怒られたりしたことはないでしょうか。
または「自立しなくちゃ」という思いにとらわれ、人に頼れない人もいます。「自分ひとりでやらなくては」「自分の問題は自分で解決すべき」と思い込んでいる人もいるでしょう。「こうなったのは自分のせいだから人に迷惑はかけられない」など、自責思考が影響している人もいます。
心の奥底ではSOSを発しているのに助けを求めることができず、限界まで自分を追い詰めてしまう人がとても多いのです。
■自立とは上手に依存すること
「人に頼る」とか「助けを求める」のは未熟であり、自立した人ではないと考える人が多いかもしれません。ですが、そうではありません。
赤ちゃんや幼児は、親にしっかりと甘え、依存するなかで心が成長していきます。依存は自立へと向かうために不可欠です。誰も頼らず依存しない幼児は、健全に成長できるでしょうか。恐らく難しいでしょう。
乳幼児期にしっかり依存することが、後の自立へとつながります。
また、自立を「誰にも頼らないこと」だと考える人が少なくありませんが、自立とは本当は「依存先を増やすこと」です。たとえば車いすで生活をしている人は、多くの人や物に助けてもらう必要があります。頼る先が特定の人に集中するのは避けるべきですが、多くの人に少しずつ上手に依存して、自分なりの生活をしている姿は、自立しているといってよいのです。
このように「自立とは上手に依存すること」です。人が育つ過程でもっとも身につけなくてはいけない能力のひとつは「上手に人に助けてもらう能力=ヘルプシーキング能力」です。
■自分の人生を俯瞰し、「よくがんばったね」とねぎらう
愛着再形成のレッスン①
いままでひとりでがんばってきた人がヘルプシーキング能力をつけようとしても、一朝一夕にはできません。段階を踏んで進めましょう。
最初のステップは、自分の心と向き合い精神構造に気づくことです。
自分の心を直視するのはラクなことではありません。
けれども、心の治療には自分の精神構造に気づくことが必要です。自ら精神のよりどころや弱点を理解して、初めて心を補強できるのです。
あなたは、何度もつらい気持ちに耐えながら、ここまでやってきたのではないでしょうか。
これまでの人生をふり返り、がんばった自分に「よくここまで生きてきたね」と労をねぎらってあげましょう。懸命に生きてきた自分をイメージし、「よしよし」とほめてあげてください。
自分の労をねぎらえたら、次のステップに進むことができます。
■成長のタイムラインをつくってみよう
長期的な視点で自分の成長のタイムラインをつくってみましょう。たとえば下記の方法をくみ合わせ、記憶のフックを刺激し、自分に起きたできごとを見つめてみます。
素直に自分のがんばりを認められないときは、たとえばそれが自分ではない他人のできごととして考えてみたらどうでしょう。「がんばってきたね」と声をかけたくなりませんか?
たとえば……
写真、手紙などを見返す
写真、手紙、思い出の品などの視覚的な要素を使うと、記憶がよみがえりやすくなる。
人生年表をつくる
年代別に社会的なできごとと個人的なできごとを書き出していく。時系列で人生を整理することで、多角的に自分をふり返ることができる。
マインドマップをつくる
自分を中心に、仕事や家族、趣味など、どんどん枝分かれさせ連想していく。それぞれの分野での経験や成長を書き出すことで、自分の人生の全体像を把握する。
自分の伝記をつくる
自分の伝記を構想するつもりで、人生の章立てを考えてみる。各章にタイトルをつけ、その時期のできごとや自分の感情、価値観の変化などを要約する。
■自己否定はいつ、どこで身についたのか考えてみよう
愛着再形成のレッスン②
愛着に問題を抱えている人は、他人に優しく自分に厳しい……まるで、人に優しくする反動で自分を傷つけているかのようです。「自分を大事にすることは自己中」と思い込んでいるのかもしれません。
こうした思考パターンがいつ、どこで身についたのかを考えてみる必要があります。もちろん生まれながらの気質ということもあります。でも、もし幼少期に親や周囲の人から「人になにかしなければ、自分は存在する価値がない」などと言われていたならどうでしょう。ほめられることに罪悪感を覚える、親にほめられると、反動で否定する言葉が浮かぶ、という人もいます。誰かに植えつけられた思考が習慣化し、素直に自分を大切にすることができなくなってしまったのです。
■他人にも自分にも優しくしてみる
いつも他人を優先したり、いつも自分を優先したりではなく、自分にも他人にも、優しさを均等にふり向けましょう。
他人に優しくしたら、それと同じだけ自分自身に「お疲れさま」「がんばってるね」と声をかけてあげてください。
自分自身をいたわる
愛着の問題を抱えている人は、心の奥底で「自分のことはどうでもいい」といって自分のケアを後回しにしがちです。しかし、自分自身をかわいがる「セルフケア」を怠ると、いずれ疲弊し、心と体の健康を保つことができなくなります。
もし、他人には優しくできるのに、それを自分に向けることにためらいがあるなら、他人を許し、他人に優しくしてあげたことを、そのまま自分にも同じ量だけしてみてください。意識的に自分をケアする時間を徐々につくっていきます。
自分の感情を認識する
自分の気持ちに正直になる。ネガティブな感情を無視せず、そこにその感情が存在することを認める。心のなかで「今日はちょっと疲れているな」「少しイライラしているな」と感じたら、その感情を言葉にしてみる。
いたわる時間をつくる
ベッドでゴロゴロする、好きな本を読む、どこかに行く、おいしいものを食べる、静かに音楽を聴くなど、自分がいま本当に望むことを少しだけやってみる。人の目を気にせず、人の期待を気にせず、ひとりで実行してみよう。
自分に優しくする言葉をかける
自分を責めてしまいがちな人は、内なる声が自分の希望を非難することがある。自分を励ます言葉を意識的にかけることが大切。「昨日はがんばったから、休んでいいよ」といった言葉を自分に向けて言ってみる。
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精神科医
1989年岡山大学医学部卒業後、岡山大学助手、川崎医科大学講師を経て、2019年より川崎医科大学精神科学教室准教授。専門は青年期精神医学。著書に『実戦 心理療法』『現場から考える精神療法 うつ、統合失調症、そして発達障害』(共に日本評論社)、編著として『大人の発達障害を診るということ 診断や対応に迷う症例から考える』(医学書院)などがある。
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(精神科医 村上 伸治)
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