中居正広氏ファン向け引退表明「会いたかった/会えなかった」は稚拙すぎる…最後も露呈した「見積もりの甘さ」
プレジデントオンライン / 2025年1月24日 20時0分
■中居正広、突然の引退で「ファン広報」を優先した結果
2025年1月23日、タレント中居正広氏が突然の引退を表明した。順序としては、まず彼はファンクラブ宛てにお知らせを出し、それを報道各社が即座に引用して報じ、引退のニュースが駆け巡ったのである。
23日午後、中居氏の個人事務所「のんびりなかい」のサイトにはアクセスが集中、ほぼつながらない状況が続いた。ファンクラブ会員向け文書は産経新聞のサイトなどに即座に全文転載され、そちらが広く知られることとなった。
報道向けプレスリリースより、ファンクラブ向け文書を先に出すのは、おそらく長年の「有料会員ファンを優先する」というジャニーズ文化に則ったのだろうが、今回のような不祥事ゆえの引退においては、広報の姿勢として甘かったといえないか。
■中居ヅラ=ファンに向けた「会いたかった」メッセージ
「少しでもお先にご報告」と題したファンクラブ向け文書の末尾を、以下、産経新聞より引用する。
関係者各位の皆さま、ご迷惑をおかけしました。
重ねて、お詫び申し上げます。
大変、大変申し訳ございませんでした。
ヅラの皆さん
一度でも、
会いたかった
会えなかった
会わなきゃだめだった
こんなお別れで、本当に、本当に、ごめんなさい。
さようなら……。
この結果、SNSでは「ヅラ」という言葉がトレンド入りした。ヅラとは中居正広氏が命名したファンの愛称で、中居氏の熱心なファンは「ヅラ」「中居ヅラ」を自称してきたのである。
「#中居ヅラ」のハッシュタグとともに、Xではファンによる引退を惜しむ声があふれた。悲しむだけなら問題なかったかもしれないが、そこには怒り、憤り、逆恨みのような言葉も数多く見られた。
ファンクラブ向けメッセージを先に出せば、それがオリジナルとしてメディアに引用されることは十分に予想がついたはずだ。
お詫びにつなげて「会いたかった/会えなかった」というアイドル目線のポエムを入れ、「さようなら……」と未練たっぷりの文末で締める。52歳、性加害疑惑の渦中の人間が書く文章としては不十分どころか、稚拙ととられても仕方ないだろう。
■未練たっぷりの「さようなら…」が誹謗中傷を招いたか
また、この文書には何をしたのか、なぜ引退に至ったのかは書かれていない。「ご迷惑」と「損失」以外、何に謝罪しているのかも不明だ。地上波で司会番組をいくつも持つ大スターが引退せざるをえないのだから相当の不祥事があったはずなのだが、どう反省、改善していくつもりなのか、いっさい書かれていない。
むしろ「さようなら……」に込められた、望まぬ引退をさせられたとでもいいたげな「……」の未練が呼び水となったのか、被害者と噂される人物のインスタグラムのコメント欄は、その日のうちに中居ファンらによる数千件の誹謗中傷で埋まった。
■「#文春廃刊」など荒んだワードがXでトレンド入り
Xでも「#文春廃刊」=推しの不祥事を報道した文春などなくなってしまえ、「示談の意味」=示談になったのだから免責のはず、「守秘義務」=守秘義務のある被害者が漏らしたのが悪い、といったいずれも法的にも倫理的にも的外れなワードが23日から24日にかけて次々とトレンド入りを果たした。
おそらくこの引退は中居氏にとって不本意なのだろうが、「……」と同情を引き、このようにファンに乱暴な言葉をSNSに書き込ませてしまうと、かえって疑惑を深め、世間の印象を悪くするということがわからなかったのだろうか。
■吉沢亮の不祥事で「被害者叩き」をはっきり止めた事務所
ひるがえって、先日、俳優の吉沢亮が隣家(マンションの隣室)に酔っ払って不法侵入し、警察を呼ばれた際のアミューズの出した謝罪広報は見事だった。
まず、「吉沢亮が昨年末に起こした、自宅マンション隣室への無断侵入」と①端的に事実を報告し、「ご迷惑をおかけした隣室の方との間で、このたび示談が成立し、ご宥恕(ゆうじょ)いただいたこと」と②成り行きを報告。法的にクリアとなり、相手方とのトラブルが解決したことが前半で伝わる文書となっている。
また、当人の仕事に対する今後の姿勢を示したあとで、「当社はこれからも吉沢亮を支え続けて参ります」と③会社のスタンスを示し、ファンを安心させている。
そして何より重要なポイントは、「ネット上などで『隣人が入ってきたくらいで110番通報はしない』などといったご意見も散見されますが」「隣室の方について落ち度があるかのような批判等はおやめください」と、④被害者を叩くSNSの声を諌(いさ)め、やめるようにとはっきり伝えた点だ。
■吉沢亮は事務所の素早い広報対応で、一部CMは継続へ
報道後にスピーディかつ過不足のないプレスリリースを出すことで、吉沢亮は出演中だった酒類のCMは取りやめとなったものの、アイリスオーヤマはCMを継続、という妥当かつ失うものの少ない結果となった。ファンのみならず視聴者全般からも納得の声が出ており、広告主のアイリスオーヤマなどはかえって株を上げたとすらいえる。
もちろん、中居正広氏とフジテレビの性上納疑惑とは違い、この件は意図的な加害事件ではなかった。その点は大きな違いだが、スムーズに着地できたのは、企業対応がスピーディで法務的にも倫理的にも過不足がなかったからこそだ。
■中居氏にアドバイスできる専門家がいなかった可能性
このような視点が、本来は中居正広の声明にも必要だったはずだ。アドバイスしてくれる専門家やスタッフが周囲にいなかったことが彼の不幸ともいえる。苦言を呈してくれる人物をいつのまにか遠ざけてしまっていたのかもしれない。
引退メッセージでは「相手さまに対しても心より謝罪」し「引退する」と書いてはいるが、では、前回の声明の「芸能活動についても支障なく続けられることになりました」はなんだったのか。
1月22日発売の『週刊文春』では、一度目の声明で中居氏が「被害者は活動を了承」と入れたいと強く懇願していた、とあった。事態を甘く見積もっていたのだろう。
■倫理や人権の見地ではなく、お金だけで判断した結果
中居正広氏もフジテレビも、松本人志氏と同様、疑惑が出た時点であいまいに押し切ろうとしたが、外堀が埋まって現在の状況に陥った。報道が出ても本人は変わらず芸能活動を続け、フジテレビも(松本氏の場合は吉本興業が)社内調査せずに「関与はない」「事実ではない」と明言した。
だが、フジテレビは大口株主である海外投資家の要望に応えるかたちで、1月17日、しぶしぶ記者会見を開く事になった。
その会見でガバナンスの脆弱さが露呈し、スポンサー離れのドミノ倒しが始まった。ACジャパンへの差し替えのみならず、CMの出稿費返還を求める異例の事態も一部で起きているという。カンテレや系列地方局、ラジオ局にも影響が出始めている。そして中居氏は全番組が打ち切り、引退に至った。
つまりトラブル発覚時に、法務はもちろんのこと、倫理要綱や人権基準に照らしてではなく、お金(スポンサー離れ)のみで判断し、その場限りの対応を重ねた結果、失うものが莫大になったのである。
このフジテレビ、また松本人志氏と中居正広氏のスキャンダルは、日本のテレビ業界、芸能界にとって、また大手企業の広報やSNS運用にとって、薬にしなくてはいけない事例となるだろう。
■対応が違えば、もっと影響は小さく、誹謗中傷も防げた
12月の初報道の際に、各番組で中居正広氏がスーツを着て謝罪をしてひとまず最終回、そして番組名などをアレンジしてMCを替えて再開というやり方も、対応次第では可能だったかもしれない。
中居正広氏本人も、表舞台から引退するにせよ、 もっと綺麗な身の引き方があったはずだ。
だが初動を間違えた結果、フジのスポンサー150社超のうちすでに半数以上が離れ、中居氏の全番組は突如終了、テレビ業界・ラジオ業界で働く人々に多大なダメージを与えた。イメージの悪化から今後の求人に影響が出る可能性もあるだろう。
何より、被害者と噂される人物が誹謗中傷される結果ともなった。引退報告で、厳に二次加害を慎しむよう呼びかけることを、なぜ彼はしなかったのか。
■中居正広氏引退で幕引きではなく、テレビ局は総点検を
フジテレビ本体は、最悪の場合には身売りするなどして存続の道を図るのかもしれないが(生き残りのため、監督官庁である総務省との癒着を強めるのは最悪の展開だ)、系列の地方局は経営基盤も小さく、大打撃だろう。
中居正広氏・フジテレビの問題はこれで幕引きではなく、まだまだ続く。TBS、日テレ、テレ朝と、民放各局はすでに社内調査を行うことを発表した。これを機に、人権をないがしろにしないための各局の倫理要綱が「形骸化」していないか、総点検が必要だろう。そうするしかテレビ業界の信頼回復の道はない。
■フジ「一般人の中居さんに調査協力の義務なし」と放送
だが、23日午後5時のフジテレビのニュース番組「イット!」は、まず中居正広氏のファンクラブ向け文書の一部を読み上げて引退を報道し、彼がSMAP時代に「世界に一つだけの花」などを歌い上げる映像を流し、はなむけを送るようにして始まった。
そして驚いたのが、スタジオにいる河西邦剛弁護士が、中居正広氏はこれで引退して一般人になるのだから、フジテレビの設置する第三者員会の調査に協力する義務はない、と明言したのである。またスタジオではアナウンサーが、中居氏の言葉として「全責任は私個人にあります」と読み上げた。
時系列を整理すると、23日の日中に中居正広氏が引退発表。23日夕刻にフジテレビが中居氏個人に全責任があるという本人の談を報道し、彼はもう一般人なので調査協力の義務はないと説明。そしてその後にフジが第三者委員会の設置、という流れだ。
不誠実な態度で事態を悪化させておきながら、ここにきても、これは中居正広個人の問題である、そして彼はもう一般人なので聞き取りができず真相は不明、という逃げ道をフジテレビは残しているように見える。
■「夕食」を「一晩を過ごす」と言い間違えるフジ副会長
23日、フジテレビ遠藤副会長は、二度目の開催となった記者会見で「アナウンサーに対して、つまり彼女が普通の楽しい感情で過ごす席を一晩過ごせ…いや(手のひらを振って言い直す)夕食を過ごせるようにということを責任を持たなければいけないと思います」と話した。「夕食」を「一晩を過ごす」と言い間違えたのである。これが単なる言い間違えであることを祈りたい。
なお、女性社員が、自分よりも立場の強い取引先の男性と一対一で「夕食」をとらなくてはいけない職場というのは、あまり健全ではないということも申し添えておきたい。
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ライター・コラムニスト
東京大学文学部卒業、出版大手を経てフリーに。企業広報やブランディングを行うかたわら、執筆活動を行う。芸能記事の執筆は今回が初めて。集英社のWEB「よみタイ」でDV避難エッセイ『逃げる技術!』を連載中。保有資格に、保育士、学芸員、日本語教師、幼保英検1級、小学校英語指導資格、ファイナンシャルプランナーなど。趣味は絵本の読み聞かせ、ヨガ。
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(ライター・コラムニスト 藤井 セイラ)
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