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なぜ日本人は橋下徹にあれだけ熱狂したのか

プレジデントオンライン / 2013年6月19日 10時45分

「日本維新の会」支持率の推移

■正論に沸きたった大阪の「お茶の間」

2012年12月、日本国民からの支持率、16.5%。13年4月、5.8%(共同通信世論調査「日本維新の会」の政党支持率)。

「支持率の急落」ではなく、これは「壊滅」といえましょう。自由民主党でも民主党でもない、日本再生のための第三極として、既存政党に対する批判票をその巧みなメディア露出戦略でかき集めてきた日本維新の会(※1)が大きな岐路に立っています。

日本維新の会と一口にいっても、支持率分析をしてみると奇妙なことが幾つか分かります。通常は、政党に対する支持というのは政策実績や政策への期待度というものが上位に構成されます。しかし維新の場合は、圧倒的に、共同代表である橋下徹さんに対する人気と知名度によるところが大なのです。12年11月の産経新聞の調査では、首相にしたい人として橋下さんが何と15.6%で安倍晋三さんらを抑えてトップ。5位に石原慎太郎さんが食い込みました。この時点ではまだ国会議員は合流した「たちあがれ日本」の面々しかいないにもかかわらず、です。それでは橋下さんに為政者としての実績があるかといえば、ほぼゼロどころか大阪府の財政再建には必ずしも成功しておらずむしろマイナス、わざわざ府知事から大阪市長へ鞍替えしてまで二重行政を解消しようとした「大阪都構想」もこれから何かが始まろうかという程度の状況にあります。

要は、日本維新の会に対する支持は、まだ何の実績もない「橋下徹という顔」に対する好き嫌いでしかありません。それも、大阪のメディア環境は全国からすると特異で、毎日のように橋下さんの活動や会見の様子が在阪テレビ局によってお茶の間に放映されています。抜群にテレビ受けするキャラクターと喋りで視聴者を翻弄すればするほどに、政策について語れば語るほどに、中身はともかく、一定の親近感を視聴者に持たせ、支持率の底を確保できる。

橋下さんのメディア戦略とは、あらゆる時事問題について、自身に群がるメディアを通じて、正論を吐いて支持を集めるというものでした。登庁時、退庁時に「ぶら下がり」と呼ばれる記者取材を時間無制限に受けるようにしました。そこでは大阪をめぐるトピックスだけでなく、広く時事問題に至るまで、橋下さんのモノの考え方が率直な言葉で語られ、市民の本音を汲むような形で鋭く論じられます。これを見た市民は、「橋下さんは分かってくれている」と感じる。こうして橋下さんの日々の活動がメディアを通じて見られることは、支持率の確保という点では好循環を持たせていました。

具体的な各種政策において、橋下さんが取り組んだり首を突っ込んだりしたもので、ろくな着地になっていないものが多いのもまた、事実です。最たる例が脱原発運動に軽々しく乗っかり、一大電力消費地であるにもかかわらず原発再稼動反対の方針にシフトして関西産業界から総スカンを受けた件です。電力供給不安に見舞われた一部産業が大阪府内の操業を他地域に振り分けなおすなどして、正規雇用が4万人近く失われて、いまなお回復する兆しはありません。おまけに、大阪府市が設置した脱原発のための有識者会議である「エネルギー戦略会議」にいたっては、大阪市監査委員により、4つの会議については条例に基づかずに設置されていたとして違法と認定され、解体に追い込まれてしまいました。

「庶民感覚からくる本音」を装った感情的な正論であるため、具体策では綻びが出てしまいます。それでもこれまでは、問題の収拾がつかなくなってくると議論を二転三転させた上でフェードアウトさせるアプローチで乗り切ってきました。「時事問題いっちょ噛み」をして、国民からすれば実現したらそれが一番良いことなのだけど利害関係者や法律などのコンテクスト(文脈)があるために、一足飛びには解決できない処方箋をメディア経由でばら蒔き、人気集めをする手法です。

そのたびに、敵が増えていくのですが、党勢が拡大している最中は問題にはなりません。なぜならば、圧倒的なメディア力を持つ橋下さんに敵認定されることは、橋下さんに勢いがある限り一方的に踏みにじられ抗弁すらさせてもらえず批判され続けることになるからです。橋下さんの矛先が国内に向かっているうちは、なかなか彼と互角でやりあえる人材は出ないでしょう。

■メディア戦術は一貫も、外交問題が落とし穴に

橋下さんを押し出したメディアの原理は、既存政治や政党に対するもやっとした有権者の不支持の態度であり、それが小泉改革の熱狂や、民主党の政権交代の世論を形成し、後押ししました。政権交代時に民主党を支持した有権者層が、前回の選挙で日本維新の会支持に回り、全国で20%弱という新興政党としては破格の支持率を得た理由はここにあるのです。

橋下メディア戦略のつまずきは、数字上は去年7月の女性スキャンダルに端を発します。子どもを七人儲ける妻帯者である橋下さんの淫らな性生活を、高級娼婦とされる女性に暴露されたこの一件は、橋下さんのメディア広報の受取先である女性有権者からの支持急落という致命的な一打を与えました。

我が国の女性有権者は、救済の余地のない女性スキャンダルについてはかなり容赦ないのが特徴です。例えば、みんなの党の渡辺喜美さんも離婚騒動が持ち上がりましたが、あれは奥さんの側にも問題があるという「救い」がありそこまで支持率を落とすものではありませんでした。が、橋下さんの場合は、奥様や子どもたちを置いて、欲望の赴くままに歓楽街で大枚はたいて享楽に及んだとなると女性支持は壊滅してしまいます。実際に、橋下徹さんに対する好感度という意味では全国女性層に対してはそこまで高くなかった支持率が、スキャンダル後の一部週刊誌で実施したパネル調査では10ポイント以上も下落させていました。

そのような下地のあるところに、旧日本軍の慰安婦を「必要だった」とした問題発言が出たのだからたまりません。5月27日には釈明のために日本外国特派員協会で記者会見を開き、在沖縄米軍に風俗業利用を勧めた自らの発言は「不適切な表現であり撤回する」としたものの、慰安婦問題への発言は「(慰安婦は必要だったと)誤報された」と撤回も謝罪もしませんでした。(※2)

橋下さんはなぜこんなことを言うのだ、と訝る向きも多いのですが、実のところメディアで絶大な人気を誇っていたころも、転落のきっかけになりそうな今回の一連の問題も、橋下さんがやっているメディア戦術自体は変わりません。彼は、うまくいっていたときも、問題を起こした今回も、同じ戦術を続けているだけなのです。

自分よりも大きな問題に対して、率直な物言いをして、メディアを通じて有権者に伝える。これだけ。かなり本気で、慰安婦問題については「戦場に性欲処理は必要だ」と考えていたのでしょう。そして、各国もやっていたのだから、何が悪いのだ、と。まさしく、日本人の中にも一定の割合で存在する本音ではあります。日本人の何割かが持つ潜在的な反米感情や、従軍慰安婦などの問題に反発を強く感じる人々の気持ちへの訴えかけで、支持を拡大しようと思ったのでしょう。ただし、その発言をする方向や、利害関係者は日本人だけではない。海外には海外の文脈が、彼らと日本の間には外交的な背景が存在します。日本の中だけで「また橋下さんが何か言ってます」というレベルでは収まらないわけです。

いままでは、脱原発であれば日本の経済団体や関電、経産省あたりにガンガン文句を言っていれば、状況を分からない脱原発の人々は支持してくれていました。いじめ自殺問題であれば「教育現場の最悪の大失態だ」として責任を他に被せてメディアに喋りまくる形で支持を集めようとしました。学校での国歌斉唱、大阪都構想など、すべてアプローチは同じです。

より大きな問題に言及していくアプローチで膨れ上がっていった結果が、日本国内だけでは解決しないアメリカ軍や慰安婦問題といった落とし穴に嵌るというのは、ある種予想されたことではありましょう。

※1:2010年4月に政治団体「大阪維新の会」を結成。12年9月に国会議員7人を加え、国政政党「日本維新の会」を結党。その後、太陽の党(旧たちあがれ日本)などが合流。13年1月より石原慎太郎と橋下徹が共同代表を務める。
※2:「日本は過去の過ちを直視し、徹底して反省しなければなりません。正当化は許されません。それを大前提とした上で、世界各国も、戦場の性の問題について、自らの問題として過去を直視してもらいたいのです」(5月27日に橋下氏が公表した「私の認識と見解」より抜粋)

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評論家 山本一郎
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年イレギュラーズアンドパートナーズを設立。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行う。著書に『リーダーの値打ち』『情報革命バブルの崩壊』『「俺様国家」中国の大経済』、共著に『ネット右翼の矛盾』などがある。ブロガーとしても著名。

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(投資家・作家 山本 一郎)

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