世界的オペラ演出家カロリーネ・グルーバーが手掛ける20世紀オペラの最高峰 ベルク『ルル』 ワールド・プレミエ公演の演出プランを発表!
PR TIMES / 2021年5月21日 13時45分
“男性の運命を狂わせる女”と言われたルルは、悲劇の少女だった?ルルのアイデンティティに焦点が当てられ、現代の価値観で描かれた全く新しい『ルル』が誕生
公益財団法人東京二期会は、今年8月に開催を予定しているオペラ『ルル』のワールド・プレミエ公演に向けて、演出プランを発表いたします。
『ルル』はウィーン世紀末を生きた作曲家アルバン・ベルク未完の大作オペラです。演出は斬新な舞台で数々の名作に新しい感動を生み出し世界最高の評価を受ける演出家カロリーネ・グルーバー。新制作世界初演の舞台をお届けします。
カロリーネ・グルーバーは、「『ルル』は私の演出家としての集大成」と語り、「今こそ『ルル』を上演する時代」と公演への力強い意志を表明しています。そして、今回ついに自身の演出プランを発表。あわせて、グルーバーが信頼し、彼女の演出を具現化するクリエイターたち、ロイ・スパーンによる装置、メヒトヒルト・ザイペルによる衣裳デザインについても、その一部を公開します !
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演出 カロリーネ・グルーバー プロフィール Profile
演出 カロリーネ・グルーバー Karoline Gruber
オペラ演出家として国際的な活躍を見せており、これまでにインスブルック古楽音楽祭およびベルリン州立歌劇場『月の世界』、ハンブルク州立歌劇場『ポッペアの戴冠』(「オーパンヴェルト」誌の年間最優秀演出家にノミネート)、同『ナブッコ』『ジューリオ・チェーザレ』、 ボン歌劇場『ダルダノス』、ザクセン州立歌劇場『クレオフィーデ』、ライン・ドイツ・オペラ『プラテエ』、ミュンヘン・キュヴィリエ劇場『セメレ』等を演出。2005年から10年までベルリン芸術大学で演出法の講義を担当し、現在はライプツィヒ音楽大学教授。日本においては東京二期会『フィレンツェの悲劇』『ジャンニ・スキッキ』でデビュー後、びわ湖ホール『サロメ』、東京二期会『ドン・ジョヴァンニ』(ライン・ドイツ・オペラとの共同制作)、『ナクソス島のアリアドネ』 を演出。最近では17年ウィーン国立歌劇場プロコフィエフ『賭博者』、ゲルトナープラッツ歌劇場ヘンデル『セメレ』、ハンブルク州歌劇場コルンゴルト『死の都』のほか、ライン・ドイツ・オペラにおいては東京二期会との共同制作公演『ドン・ジョヴァンニ』の再演を重ねている。
女性蔑視時代に生まれた『ルル』が、現代の価値観が加わり全く新しい『ルル』に変貌。
これまで、このオペラの主人公ルルは、男性の運命を狂わせる「運命の女(ファム・ファタル)」の代表的な存在と言われてきました。ルルの美貌、魔性、そして官能性が圧倒的であればあるほど「運命の女(ファム・ファタル)」としての説得力を持つものとされ、そのことに重きが置かれてきたのです。
対して、今回演出を手掛けるカロリーネ・グルーバーは、そのようにして描かれるルルはあくまで男性から見た一面的な姿に過ぎないのではないか、と疑問を呈します。そして、「#Me too」運動などをつうじて、これまで抑圧されてきたセクシャルハラスメントや性暴力が明るみになるようになった現代においては、『ルル』はある意味で「#Me too」オペラではないか、と語っています。
貧民街で自分の本名すら知らされずに育ったルルは、シェーン博士によって売春婦として訓練を受けさせられ、挙句の果てにあらゆる男女から、人間としてではなく、性的な対象として扱われてしまう女性です。そうしたルルの姿は、「運命の女(ファム・ファタル)」であるよりも、社会の犠牲者であると感じられる方が多いのではないでしょうか。
グルーバーは、今回、これまでほとんど描かれることのなかったルルの出生と彼女の内面、魂に焦点を当てようとしています。21世紀を迎え、女性のアイデンティティが大切にされる現代だからこそ、オペラ『ルル』は新しく蘇るのです。
カロリーネ・グルーバーによる『ルル』演出プラン
今回の演出の基本的目的は、主人公「ルル」の実際の生い立ちを正確に探り出すことである。
『ルル』は1人の若い娘の悲劇である。ベルリンのアルハンブラ・カフェの前で花を売っていた12歳のとき、彼女はシェーン博士に見初められる。博士は彼女を知り合いの女に預け、そこから学校に通わせた。それはつまり、12歳の女の子が、淫売屋のおかみによって売春婦として訓練を受け、やがてはシェーン博士に娼婦として仕えるということだ。彼女の父親とされるシゴルヒが、いつからヒモとして登場したのか、詳細は不明だ。シゴルヒは彼女を「ルル」と呼んだ最初の人物だが、シェーン博士は彼女を「ミニョン」と呼んだ。
ルルは自分の本名を知らない。男たちは彼女を人間ではなく、単なる性的な対象とみなし、まるで犬を呼ぶように、自分の好きな名前で呼んだ。年老いた医事顧問はまるで調教馬のように、「ホイ、ネリー」と呼んでいる。
画家もまた、性的な空想を刺激するために彼女を利用し、「エーファ」と呼んだ。シェーン博士は「粗暴な男」(オペラから引用)であり、性的妄想に彼女を利用した。博士はブルジョワ的な表裏のある倫理観の持ち主で、のちに「ルル」が彼に極度の心理的な圧力をかけて初めて、彼女と結婚することになる。
彼の息子、音楽家のアルヴァは、父と同じく彼女を「ミニョン」と呼び、最初は遠くから彼女を崇め奉り、母親、またはマドンナになぞらえているうちに、すっかり彼女の虜になってしまった。
物語の中心にいるのはルルであり、舞台の中心になるのはルルの肖像画である。
絵画は男の妄想を具現化したもので、常に、欲望に満ちた視線を浴びる。ルルは、男たちが彼女に割り当てた役を、逃げようともせず全うする。そのような彼女の態度は、心理学でいうストックホルム症候群を思い起こさせる。誘拐や強姦など監禁事件の被害者が、生き延びるために、妄想の中で好意的な感情を抱くほど犯人に同化し、依存してしまうという現象だ。
第1幕3場では、ルルが、まるで市場の売り物ように一番高く買う客に売られ/結婚させられる場面で、彼女の置かれた立場が集約する。
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢ですら、彼女を自分の欲望の対象としか見ていない。
自分の本当の気持ちを表現できないルルの心理状態を明らかにするために、本演出では「ダンサー」を加える。
ルルをめぐる出来事に合わせて登場し、彼女の「魂」として心理状態を表現する。
肖像画は、男の妄想を具体化したものだということを象徴的に表現するために、いちばん最初に裸のマネキンを見せる。すなわち「形成されていない」素の女を、本物のマネキンと映像のマネキンという形で見せ、それが、オペラが進むにしたがって、男たちの様々な妄想に応じて形を変えていく。
舞台装置は6枚の移動式映写パネルから成る。そこにこれらの妄想を映し出し、オペラの様々なシーンにおけるルルの心の動きを表す。主人公の心理状態を、更に映像で拡大して見せる。
衣裳は、ルルが男たちから押し付けられる役割に合わせて構想している。それによってルルの心の空虚さや、失われた人格が露わになるだろう。
2021年4月26日
ベルリンにて
(日本語訳:市原和子)
装置デザイナー ロイ・スパーンによる 『ルル』舞台模型
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衣裳デザイナー メヒトヒルト・ザイペルによる デザイン画
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