MSF、不当な薬品特許に対抗するためのデータベースを立ち上げ
PR TIMES / 2012年10月3日 19時46分
国境なき医師団(MSF)は、2012年10月2日、不当な薬品特許に抗議する途上国の市民団体や患者グループのための新しいウェブサイト「特許異議申し立て(Patent Opposition)参考データベース」を開設した。より安価なジェネリック薬(後発医薬品)の生産が特許制度に妨げられ、多くの途上国が著しく高額な薬価を突きつけられている現状を受けて作成した。MSFの60ヵ国以上における医療活動でも手ごろな価格の薬を必要としている。途上国のHIV治療活動では、使用している薬の80%以上がジェネリック薬だ。
「特許異議申し立て参考データベース」へのリンクはこちら:patentoppositions.org
MSFの必須医薬品キャンペーン政策責任者であるミシェル・チャイルズは「製薬会社は次から次へと特許申請をし、本当に特許に値しない薬についてさえ、独占権が承認されています。申請された特許がすべて認められるというのは“神話”に過ぎません。よく調べてみると、特許申請には通過しなければならない法的審査が少なくとも1回はあるものですが、そこで却下されることもあるのです。『特許異議申し立て参考データベース』を開設した意図は、より安価な薬の普及を妨げている不当な特許に歯止めをかけようという市民団体や患者グループを後押しすることです」と話す。
「特許異議申し立て」は、不当な特許の承認を未然に防いだり、承認後であっても覆したりするための法的な異議の申し立てのこと。適正かつ公正な薬品特許の付与を保つ手段として、国際貿易のルールで認められている。特許異議申し立てが認められているタイ、ブラジル、インドなどの国では、不当な特許独占の承認を阻み、薬価の引き下げをもたらすジェネリック薬の競合状態の実現に成果が出ている。
MSFのHIV・結核専門家としてジンバブエで活動するエスター・C・カサス医師は 「インドの市民団体による特許異議申し立てが認められたことで、ロピナビル/リトナビル合剤のような重要なHIV治療薬についても、安価なジェネリック版が使えるようになりました」と話す。
インドのHIV陽性者団体「デリーHIV陽性ネットワーク(DNP+)」 代表ビカス・アフジャ氏は「大量の申請が行われているため、地域レベルの特許管轄局では重要な情報が見逃され、不当な特許が認められてしまう恐れもあります。2~3種類の錠剤を1つにまとめたり、既知の業界的慣習に則って薬を処方したりしただけで、『新規の特許期間(20年間)に見合う革新性がある』と見なされるべきではないでしょう。特許異議申し立てを行うことで、そうした情報に光を当て、根拠に乏しい特許が認められる可能性を低くすることができるのです」と指摘する。
特許異議申し立てが認められた1例として、HIV治療薬のジドブジン/ラミブジン合剤に関するグラクソ・スミスクライン社のインド特許申請に対し、同国の患者グループが異議を申し立てた例がある。当該の薬が“新たな発明”ではなく、既存の2種類の薬の組み合わせに過ぎないことが理由だった。この合剤は現在、途上国のHIV治療で広く使用されている。「インドがん患者支援協会」が申し立てた特許付与前異議も、イマチニブの酸塩製剤に対するノバルティス社の特許申請却下を促した。却下の理由は、当該の製剤が既存薬の新形態に過ぎなかったことだ。この動向は現在、インド最高裁判所における訴訟の主題になっているが、慢性骨髄性白血病治療薬のジェネリック版に道をひらき、薬価を月額2158米ドル(約17万円)余りから、92%減の174米ドル(約1万4000円)まで引き下げた。
MSFのミシェル・チャイルズは「不当な特許は、薬価引き下げをもたらす競合の登場を妨げるだけでなく、真の革新のための勢いをそぐものです。製品ライン上の新薬は非常に革新性の乏しいものであるにもかかわらず、製薬会社は、既存の分子化合薬や製法に対する特許をこれまで以上に取得することで、ジェネリック薬の競合を回避しようと躍起になっているのです」と話す。
「特許異議申し立て参考データベース」の目的は、不当な特許に対する異議申し立ての手順を市民団体に指南することだ。同じ特許申請が、異なる複数の国で同様の理由から異議申し立てを受けることも少なくないが、「特許異議申し立て参考データベース」によって、各団体が新たな協力体制を築いたり、重要な専門的知識を共有したりすることができる。重要な薬剤に関する特許異議申し立ての先例45件と、新たに異議申し立てを行う際の助けとなる200本以上の参考資料を検索し、リストアップできる機能も備わっている。このデータベースは、新しいデータが追加されることで拡充されていく。
今回のデータベースの開設は、HIV治療薬ジダノシンに対する不公平な特許付与について患者グループ「エイズ・アクセス財団」が特許異議を申し立てた結果、世界で初めて、タイ法廷で特許付与が覆されたことから10年周年を記念するもの。患者グループのニミット・ティエヌド代表は、ジダノシン訴訟10周年を記念するバンコクの抗議集会で「当時は、特許異議申し立てを試みる以外には余り選択肢がありませんでした。薬価が高額で、開発途上国ではまだ抗レトロウイルス薬治療が普及していなかったのです。だからこそ、私たちの命は危機にさらされていたのです」と話した。
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