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経口免疫療法により食物アレルギー症状の発生が抑えられるメカニズムを解明

PR TIMES / 2020年8月27日 15時45分

~食物アレルギーの治療法改善に役立つ成果~

順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの中野信浩 助教、北浦次郎 先任准教授、奥村康 センター長ら、および同大医学部小児科学講座の米山俊之 助手、清水俊明 教授らの共同研究グループは、経口免疫療法(*1)により食物アレルギー症状の発生が抑えられるメカニズムを、マウスモデルを用いた実験で明らかにしました。経口免疫療法は、Notch受容体(*2)を介したシグナルを通じ、免疫作用に関与すると言われる腸管だけでなく全身に免疫抑制性の細胞集団を増加させてアレルギー症状の発生を抑えることがわかりました。本成果は、経口免疫療法による「持続的な不応答性(*3)」の獲得に関わる細胞と分子を明らかにしたことで、食物アレルギーの治療法改善に役立つと期待されます。本研究は、米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI)発行の学術誌Journal of Allergy and Clinical Immunology誌のオンライン版に2020年8月27日付で公開されました。



本研究成果のポイント


経口免疫療法は免疫抑制性細胞を腸管だけでなく全身に増加させる
免疫抑制性細胞の増加にはNotch受容体を介したシグナルが重要である
経口免疫療法の効果や進捗を簡便にモニターできる指標の開発へ


背景
日本国内の食物アレルギー有症率は、乳幼児で5~10%、学童以降が1.3~4.5%とされています。原因食物を摂取することで即時型アレルギー反応が起こり、ときに多臓器にアレルギー症状が現れる重篤で生命の危険を伴うアナフィラキシーが引き起こされます。経口免疫療法は、自然経過では改善が見込めそうにない食物アレルギーの症例に対して有効な治療法として期待されています。本療法は、アレルギーの原因となる食物をアレルギー症状が起きないようごく少量から摂取し始め、毎日徐々に増量しながら、まずは脱感作(*4)と呼ばれる状態を誘導します。その後、原因食物の摂取を約2週間中断し、再び摂取したときにアレルギー症状が誘発されなければ原因食物に対して持続的な不応答性が獲得されたと判断されます。そして最終的にはアレルギー症状のない耐性(免疫寛容*5)の獲得を目指します。しかしながら、なぜ経口免疫療法を行うと原因食物を摂取してもアレルギー症状が誘発されなくなるのか、その詳しいメカニズムはよくわかっていません。また、小児の鶏卵アレルギー患者に本療法を行った先行研究では、耐性を獲得した症例は28%であったと報告されており、その効率の低さも問題となっています。そこで本研究グループは、どのような細胞や分子が持続的な不応答性の獲得に関与しているのかを明らかにするため、経口免疫療法のマウスモデルを作製し解析を行いました。

内容
本研究では、まず、鶏卵の白身のタンパク質である卵白アルブミンに対してアレルギー反応を起こす(感作された)マウスに経口免疫療法を施し、脱感作および持続的な不応答の状態が誘導されるマウスモデルを作製しました。次に、このマウスモデルを用いて、免疫細胞の分化や機能調節に関わるNotch受容体に着目した実験を行いました。Notch受容体を介して細胞内に伝わるシグナルを遮断する薬剤(Notchシグナル阻害剤)を経口免疫療法期間中に投与すると、脱感作は誘導されるものの、その後の持続的な不応答性が誘導されなくなることを発見しました(図1)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/208/resize/d21495-208-278156-1.jpg ]

そこで、1.食物アレルギーを起こさせたマウス、2.経口免疫療法によって持続的な不応答が誘導されたマウス、3.経口免疫療法期間中にNotchシグナル阻害剤を投与したことで持続的な不応答が誘導されなかったマウスの間で、細胞集団にどのような違いがあるのか解析しました。その結果、2.経口免疫療法マウスでは、免疫抑制性サイトカインであるインターロイキン-10(IL-10)を産生する制御性T細胞が腸管で増加しており、またヘルパーT細胞(*6)の活性化を強力に抑制する単球系骨髄由来抑制細胞(*7)が腸管だけでなく全身で増加していることがわかりました。さらに、1.アレルギーマウスではアレルギー疾患の発症に関与するIL-4を産生する2型ヘルパーT細胞(Th2)が腸管および全身に認められたのに対し、2.経口免疫療法マウスではIL-4とIL-10を同時に産生するTh2細胞の集団が増加していました。そして、3.経口免疫療法期間中にNotchシグナル阻害剤を投与したマウスでは、これらの免疫抑制性細胞の増加が観察されませんでした。また、2.経口免疫療法マウスから骨髄由来抑制細胞を除去したところ、持続的な不応答が誘導されなくなることを確認しました。
以上の結果から、経口免疫療法は制御性T細胞、単球系骨髄由来抑制細胞、IL-10を産生するTh2細胞といった免疫抑制に働く細胞集団を腸管または全身に増加させ、これが持続的な不応答の獲得に寄与していることが示されました。さらにこれらの細胞集団の増加には、Notch受容体を介したシグナル伝達が重要な役割を果たしていることも明らかになりました(図2)。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/208/resize/d21495-208-624604-0.jpg ]

今後の展開
今回の研究により、経口免疫療法により食物アレルギーの症状が誘発されなくなるメカニズムにおいて重要な働きをする細胞および分子が明らかになりました。今後、ヒトでも同様のメカニズムなのかを確認していく予定です。本成果をもとに、経口免疫療法の効果や進捗を簡便にモニターできる指標ができることが期待できます。より安全でより効率の良い経口免疫療法の改善につながるよう、さらに研究を進めていきます。

用語解説
*1 経口免疫療法: 食物アレルギー患者に対して行われる、連日原因食物を少しずつ食べていくことで、原因食物が食べられるようになることを目指す治療法。研究段階の治療法であり、まだ一般診療として推奨はされていない。
*2 Notch受容体: 免疫細胞やその他多くの細胞の表面に発現している受容体。この受容体を介して伝わるシグナルは細胞の分化などに関与している。
*3 持続的な不応答性: 経口免疫療法完了後、一定期間原因食物の摂取を中断した後、再びその食物を摂取してもアレルギー症状が誘発されない状態。完全な耐性(免疫寛容*4)とは異なる状態なのではないかと考えられている。
*4 脱感作: 原因食物を摂取するとアレルギー症状が誘発される感作の状態から、連日原因食物を摂取し続けることでそれまでアレルギー症状が誘発されていた量を超える量を摂取しても症状が誘発されなくなる状態。
*5 免疫寛容: 免疫系は外から侵入してきた異物を排除するために働くが、特定の抗原(物質)に対して免疫反応を起こさない仕組みもある。通常、腸管から吸収される食物(異物ではあるが)には免疫寛容が誘導されている。
*6 ヘルパーT細胞: 免疫応答に重要なリンパ球であるT細胞の一種で、同じくリンパ球のB細胞に働きかけて抗体産生を促したり液性因子を放出して種々の免疫細胞を活性化させる働きをもつ。ヘルパーT細胞にはさまざまなタイプがあり、2型ヘルパーT細胞(Th2)はアレルギーの発症において重要な役割を果たしている。
*7 骨髄由来抑制細胞: 炎症やがんなどで誘導されてくる未熟な骨髄系細胞の集団で、免疫反応を抑制する機能をもつ。骨髄由来抑制細胞は、形態や機能の違いから、単球系と顆粒球系に分類されている。

原著論文
本研究はJournal of Allergy and Clinical Immunology誌のオンライン版で(2020年8月27日付)先行公開されました。
タイトル: Notch signaling contributes to the establishment of sustained unresponsiveness to food allergens by oral immunotherapy
タイトル(日本語訳): Notchシグナルは経口免疫療法による食物アレルゲンに対する持続的不応答性の確立に寄与している
著者: Toshiyuki Yoneyama, Nobuhiro Nakano, Mutsuko Hara, Hiromichi Yamada, Kumi Izawa, Koichiro Uchida, Ayako Kaitani, Tomoaki Ando, Jiro Kitaura, Yoshikazu Ohtsuka, Hideoki Ogawa, Ko Okumura, Toshiaki Shimizu
著者(日本語表記): 米山俊之1)、中野信浩[責任著者]2)、原むつ子2)、山田啓迪1)、伊沢久未2)、内田浩一郎2)、貝谷綾子2)、安藤智暁2)、北浦次郎2)、大塚宜一1)、小川秀興2)、奥村康2)、清水 俊明1)
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科小児思春期発達・病態学、2)順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jaci.2020.07.011

本研究はJSPS科研費 基盤研究(C)JP18K08416、および公益財団法人 食生活研究会2018年度研究助成の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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