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子どもがピンチの時こそ姉妹で協力! ―卵を守るダニの助け合い―

PR TIMES / 2024年4月2日 17時40分

 集団で生活する動物のなかには、協同で子育てをする種がいることが知られています。千葉大学大学院園芸学研究院 長泰行准教授とオランダ・アムステルダム大学 Arne Janssen准教授の研究グループは、体が小さく目の見えないダニが、一緒に繁殖する他個体を識別すること、また、捕食者がいるときに限って姉妹と協同で卵を守りながら繁殖することを発見しました。動物の協同保護が危険な状況によって変化することを示した成果で、動物における協同行動の起源の解明につながることが期待されます。
 本研究の成果は2024年3月9日に国際学術誌Oecologiaにオンラインで公開されました。



研究の背景


 研究グループは、農業作物の重要害虫であるアザミウマ類やハダニ類の捕食性天敵であるキイカブリダニやミヤコカブリダニが、自分の子供、特に卵や幼虫を捕食者から守る行動について研究を行ってきました。
上記2種のカブリダニは、体長が0.4mmほどで、お互いの卵や幼虫を食べることがあります。特に、ミヤコカブリダニは他種のカブリダニを食べる性質が強いことから、キイカブリダニにとっては捕食者になります。キイカブリダニは、自分の卵のそばにいて、卵を捕食者から守る習性があります。さらに、自分の卵と他の個体が産んだ卵では、自分の卵をより守ることから、血縁認識の能力をもつことが分かっています(1-3)。野外において折れた葉の間などで複数個体が卵とともに観察されるだけでなく、実験室で飼育をしていても同じ場所に複数個体が集まって卵塊を形成することが観察されます(図1)。
 このようなことから、キイカブリダニは他の個体と一緒に捕食者から卵を守っており、さらに、卵を守る際に血縁関係の遠い個体よりも近い個体と助け合うもしれないと考え、その検証を行いました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/831/resize/d15177-831-63625e306bca8dc04f64-0.png ]


研究成果


 今回の研究では、血縁関係の違いとしてキイカブリダニの姉妹または非姉妹の2個体による卵の保護を調べました。本種の母親1個体が産んだ卵10個を成虫まで育て、その内の雌同士のペア(姉妹)と、異なる母親から生まれた雌成虫のペア(非姉妹)を用意しました。これらキイカブリダニの姉妹あるいは非姉妹のペアによる繁殖を、卵の捕食者であるミヤコカブリダニのいる状況と、いない状況で室内操作実験により調べました。キイカブリダニは産卵する一方、ミヤコカブリダニはその卵を捕食します。これらのダニを24時間維持した後に残っているキイカブリダニの卵の数を測定することで、ミヤコカブリダニの捕食の影響を評価しました。
 実験を20回繰り返したところ、ミヤコカブリダニがいないとき、キイカブリダニ2個体の血縁関係にかかわらず、残った卵の数に違いはありませんでした(図2)。しかし、ミヤコカブリダニがいるときには、キイカブリダニの卵の数は減少するものの、非姉妹のペアよりも姉妹のペアの方が残った卵の数が多かったのです(図2)。キイカブリダニはミヤコカブリダニの存在によって産卵数を変化 させないことが既に分かっているため4、この違いは姉妹による卵の保護がミヤコカブリダニの捕食を弱めたためだと考えられます。そこで、本当に卵を守る行動が「ペアの関係が姉妹かどうか」で違うのかを確かめてみました。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/831/resize/d15177-831-bc29427a7372d18f1a5f-1.png ]


 キイカブリダニは、捕食者を積極的に追い払うわけではなく、卵のそばにいることによって卵を守ることが分かっています。そこで、姉妹あるいは非姉妹のペアが産卵場所にいる時間を調べました。キイカブリダニが姉妹と一緒にいるときは、姉妹でない個体と一緒にいるときよりも2個体ともが産卵場所を離れている時間が約40%短いことが分かりました。また、姉妹が2個体とも卵のそばにいる時間の割合も、非姉妹が2個体ともいる時間の割合よりも約4倍高かったのです。キイカブリダニの姉妹は交代で餌を食べに行くことで卵を置き去りにしないことに加え、1個体よりも2個体で守る時間を増やすことで卵が捕食者から襲われにくくしているのかもしれません。これらの結果から、卵が捕食者に食べられる危険がないときには、姉妹で助け合いませんが、卵が危険なときには姉妹は協同で卵を守りながら繁殖することが明らかになりました(図3)。
[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/831/resize/d15177-831-a3752d89df59f57f282d-2.png ]


今後の展望


 動物が協同で子孫を捕食者から守る行動は多くの種で知られていますが、真社会性であるアリやハチ以外の節足動物において協同保護が実証されたのは本研究が世界で初めてです。今後は、「キイカブリダニはどうやって一緒に繁殖する相手が姉妹であると認識するのか」、「他の捕食者に対しても協同で卵を守るのか」、「単独で卵を守るよりは姉妹でない個体と一緒に守るのか」といった疑問にも注目し、協同保護の起源の解明にも迫りたいと思っています。
 カブリダニ類は、農業の現場で害虫を防除するために天敵資材として用いられることがあります。その際、複数世代にわたって継続的に繁殖させることで、同一の親やその近い親同士の間での交配が続くことで、遺伝的多様性の減少や繁殖異常といった問題が生じる可能性があります。今回の研究成果は、血縁関係の近い集団には欠点だけではなく、卵を守る上で利点があることを示したものです。特に、アザミウマ類は作物の害虫である一方、カブリダニ類の卵を食べてしまうことがあり、天敵による防除を難しくしています。アザミウマ類の防除効率を高めるために、アザミウマに対してもキイカブリダニが協同保護をするのかどうかを明らかにする必要があります。

掲載論文


論文タイトル:Sister predatory mites collectively protect their eggs against predators
著者:Choh Y, Janssen A
掲載誌:Oecologia
DOI:https://doi.org/10.1007/s00442-024-05521-2

参考文献



1. Saitoh, F. & Choh, Y. Role of kin recognition in oviposition preference and cannibalism by the predatory mite Gynaeseius liturivorus. Exp Appl Acarol 76, 149-160 (2018).
2. Saitoh, F., Janssen, A. & Choh, Y. Predatory mites protect own eggs against predators. Entomol. Exp. Appl. 169, 501-507 (2021).
3. Shishikura, S. & Choh, Y. Adult females and larvae of the predatory mite Gynaeseius liturivorus avoid cannibalism via kin recognition. Animal Behaviour 211, 35-41 (2024).
4. Saitoh, F. & Choh, Y. Do intraguild prey protect their eggs from intraguild predators that share their oviposition site? Animal Behaviour 140, 49-55 (2018).

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