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リーグ完全無視、スポーツ界初の上場…“結果でぶん殴る”琉球アスティーダ社長の経営手腕

REAL SPORTS / 2021年10月30日 9時35分

スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。元プロ野球選手の五十嵐亮太とスポーツキャスターの秋山真凜がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回はWebメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長が今一番気になるアスリートやスポーツ関係者にインタビューする「岩本がキニナル」のゲストに、国内最高峰の卓球リーグ“Tリーグ”の琉球アスティーダで代表取締役を務める早川周作社長が登場。国内プロスポーツクラブ初の上場、初年度最下位から創設3年でリーグ優勝するなど、一躍話題となったその優れた経営手腕のリアルに、サッカークラブ・南葛SCのGMも務める岩本編集長が切り込んでいく。

(構成=篠幸彦、写真提供=InterFM897)※写真は左から、五十嵐亮太、早川周作、岩本義弘、秋山真凜

琉球アスティーダ社長就任を引き受けたチェアマンの一言

岩本:早川さんはTリーグとは立ち上げの時から関わりがあったんですか?

早川:はい。リーグをつくった松下浩二元チェアマンが4大会連続でオリンピックに出ている元選手で、その松下先輩からお声がけをいただいて琉球アスティーダを引き受けることになりました。

岩本:松下さんは本当に卓球界のレジェンドですよね。

早川:そうですね。ただ、私は名前も聞いたことがなくて、たまたま松下さんという方に会ってくれないかと友人に言われまして、銀座の喫茶店で会ったんですね。そこで松下さんが4大会連続でオリンピックに出た卓球選手だということを初めて知りました。

岩本:卓球と縁もゆかりもなかった方が、なぜ卓球のクラブチームの社長をやることになったんですか?

早川:これまでJリーグやBリーグのクラブから社長就任の依頼はありましたが、ただ、そこでは全然心に響かず。その時に松下さんが「5歳で始めて、15歳でメダルが取れる可能性がある。また沖縄の貧富の格差がこれだけ拡大する中で、お金をかけずしてチャンスが与えられる球技が卓球以外にあるか」と言われたんですね。

 私は若干複雑な経歴で、19歳の時に父親が会社をつぶして蒸発をして、新聞配達でお金をためて夜間の大学に行きました。大学3年の時に起こした会社がたまたま急拡大して、被選挙権を得た25歳で会社を離れて2年半ほど元総理大臣の秘書を務めました。

 28歳で衆議院の選挙にチャレンジをして、間違って国会議員になれないかなと思ったんですが、間違えずに落選をしました。これは有権者の判断は本当に正しいなと思いましたね(笑)。

五十嵐:そんなことないですよ(笑)。今頃後悔している人が多いと思います。

早川:おやじがそうなって行政などに相談に行っても解決できない問題が多かったんです。そこで強い者や強い地域性を守るものではなくて、弱い者や弱い地域性に光を当てていきたいと志すようになり、政治の道で今の破産法を変えていきたいとか、中小企業やベンチャー企業の支援を行ってきました。そんな志を持っていた私にとって、まさに「5歳から15歳をお金をかけずに」というところでグサッときてしまって、30分で引き受けてしまってですね。そこからえらい目に遭ったという(笑)。

岩本:その時にもともと「沖縄の卓球クラブを」という話だったんですか?

早川:私が10年ほど前に沖縄に移住をしていて、こちらと行ったり来たりという生活をしていました。その中で、沖縄でチームを引き受けてくれる人を探していたという流れですね。

岩本:そこまではスポーツビジネスはまったくやっていなかったということですか?

早川:まったく興味がなかったですね。地元のBリーグの琉球ゴールデンキングスさんに個人的に協賛をしたり、冠試合を買ったりとか、本当にその程度であまりスポーツに対して“=ビジネスではない”という意識があったので、スポーツビジネスというものにはまったく興味がありませんでした。

ビジネスでもスポーツでも、“結果でぶん殴る”のが一番

五十嵐:もともと卓球にも興味がなかったけれど、「5歳から15歳にお金をかけずに」というところに魅力を感じてということなんですね。

早川:そうですね。そこからわれわれの選手をパンダカーに乗せて入場させようとか、そういう話をリーグに提案すると「スポーツ選手の品位を害する!」と言われまして。私としては「品位とかどうでもいいでしょう」と思ったんですけど。

 Tリーグができあがって運営の実行委員会に入ったんですけど、1回目の会議が6時間くらいあると聞いたんです。その会議に行って、1時間くらいたったら本当につまらなくて、「帰ります」と言って出ていきました。

 そこでチェアマンに「僕はリーグ全無視でいきます」とはっきり言ったんですね。「僕はこの業界を良くするために正しいことを正しくやって、しっかりと結果を出していきたい。それを考えたら余計なしがらみとか僕には一切通じないです」という話をしました。

五十嵐:ものすごい笑顔でバッサリいきましたね。

岩本:4クラブしかないうちの1クラブのボスがこの感じだと改革せざるを得ない感じになりますよね。そんな宣言をして「あいつは何なんだ!」とならなかったんですか?

早川:すごくたたかれましたね。僕はビジネスとか、スポーツでもそうだと思うんですけど、結果でぶん殴るというのが一番いいと思っています。スポーツ業界で初めての上場会社になろうとか、絶対に日本一のクラブチームになるんだというところを突き進んできましたので、無事にそういった形ができてきて、徐々に周りも変わっていきましたね。

最下位の1年目から3年目でリーグ王者になれた理由

岩本:競技面のところはビジネスではコントロールできないところがあると思います。その中でクラブは2020-21シーズンの年間王者となりました。なぜ王者になれたのか、どう分析されているんですか?

早川:1シーズン目で面白かったのが、チェアマンから「優勝できるよ」と言われまして、いろんな選手を紹介いただきました。でもやれどもやれども勝てないんです。断トツの最下位なんですよ。負けていく中で「なんで個人で優秀な選手がいるのにわれわれは勝てないんだろう」と考えました。

岩本:そう思いますよね。

早川:試合の形式を見るとダブルス・シングルス・シングルス・シングルス・シングルスという団体戦なんですよね。個人の強さではなくて、チーム力で勝たなければいけない。

 そこで「この選手がいれば絶対にチームが強くなる」「この選手がキャプテンになったら絶対に強くなる」「この選手がいれば、絶対この選手も付いてきてくれる」と、チームマネジメント的にキーマンとなる選手を片っ端から口説いていったというのがあります。

 試合前の練習している姿、コンディション、試合中の点数を取られた時、負けた時など、卓球はその時の表情によって選手の人間性がことごとく表れるんですよね。「この選手がうちに来たら絶対に勝てる」「この選手はうちに呼びたい」という人間を1年目に徹底的に交通整理していきました。それで2年目は監督も代えましたし、選手も大幅に入れ替えました。

五十嵐:いろんな卓球選手をフラットな目で見ているからこそ冷静に判断しているのかなと思いました。

早川:選手とご飯を食べに行って「僕はおまえらが大好きだし、愛しているし、絶対に面倒見るよ。だから僕が考える志を一緒にかなえようよ」と言うんです。そこで卓球、スポーツというものを通じてどういう世の中をつくっていきたいのかを明確に理解してもらいます。そのビジョンやミッションを理解してもらえない選手はわれわれは要らないと思っています。

「当たり前のことを当たり前に」 チームに徹底したビジョン

五十嵐:アスリートにとってビジョンはチームが勝つ、リーグで優勝するというところですけど、社会的にどういったビジョンがあるんですか?

早川:“アスティーダ”というのは「アス=明日」「ティーダ=太陽」で“明日の太陽”という意味で、「ものすごくいろんな歴史を抱えてきたこの沖縄・琉球から明日の太陽になるんだ」と決めているわけです。例えば試合で「2−7や1−10であったとしても絶対に諦める姿勢を見せるな」と言っています。

 もしかしたら一回しかその試合を見ていない子どもたちがいる可能性がある。また、テレビでもその一回しか見ない可能性がある。そうなったら絶対にそこで諦めている姿は見せてはいけないわけです。そういうマインド的なところで「夢を与えるのがスポーツで、夢と感動を与えるスポーツに新しいお金の循環をつくるんだ」というところを明確に理解してもらっています。

岩本:これは経営と強化が一体じゃなければいけないですね。僕の携わるサッカーでもすごく大事で、その2つが離れているチームはなかなかうまくいかないですね。

五十嵐:軸が一本通っているか、通っていないかの違いって何なんですかね。それをチーム全体で徹底していけるというのは強いチームの証拠ですよね。

早川:僕は選手に同じことを何度も繰り返し言うんです。こういう社会で、こういう人生の中で、こんな社会をつくっていきたい。それにはこんなことが課題だからこうしたいんだと。優勝というのはわれわれにとっては一つの通過点なんですよね。「最高&最強のチームをつくるんだ」という本当に単純なフレーズで浸透して、「われわれは最高で、最強であり続けなければいけないんだ」という意識になっていくんですよね。

 日々のプライベートの生活でもそうだし、試合の時に応援に来たファンの皆さんへの接し方でもそうです。断トツのSNSフォロワー数の増加率などを評価されてTリーグに「ベストファン賞」というのをもらっているんです。そうした徹底した考えに基づいてプライベートや練習、試合も「当たり前のことを当たり前に」ということを口酸っぱく言い続けています。

あえてスポーツ業界で上場しようと思った3つの課題

岩本:琉球アスティーダは国内プロスポーツ運営会社として初の上場会社でもあります。

早川:僕がなぜスポーツ業界であえて上場会社をつくろうと思ったかといいますと、夢と感動を与えるスポーツにはお金の循環が必要なのに循環がされていないわけです。その理由を掘り下げていくと3点の課題がありました。

 1点目がガバナンスが効いていないこと。スポーツ業界はチームで経理と財務が一緒だったりするんですよ。2点目はディスクロージャー(情報開示)がされていないこと。われわれは発行者情報をすべて開示しています。売り上げが悪かろうが全部開示して、リスクもすべて開示します。そして3点目は一社も上場している会社がないこと。だから僕はこの3点に懸けようとチャレンジをしたわけです。

五十嵐:プロスポーツチームが上場しない理由はなんだと思いますか?

早川:Jリーグのクラブも何社か上場を検討されています。規約があってJリーグには主要な株主が移動する場合には、理事会の許可が必要というものがあるんですね。これはどのリーグにもあるんですけど、なんでこの規定があるのかというと、例えば反社会勢力とか、余計なところにスポーツで実権を持たせないためということになっています。

 そこで証券会社が応援してくれると決まってからリーグの規約を見たらTリーグにもそういった規定があるわけです。それで上場の準備を始めているのに突然、証券会社から「琉球アスティーダは上場できません」と言われたんですね。そこでどうしたら上場できるのかと詰めていった結果、理事会で解釈通達といいまして、株主の移転の時は何かの制限があるという約束事の解釈を上場会社になったら適用しないという通達をもらったんです。

岩本:一言で言っていますけど、これはめちゃくちゃ大変だったと思いますよ。

五十嵐:僕は理解し切れてないですね……。

岩本:つまり上場した場合はそのルールは無しという特例を認めさせるということですよね?

早川:はい。これは理事の方々に説明するのに15回くらいかかったんですけど、そもそも趣旨として考えた時に上場会社になるということは株主構成とか、取引先、反社会勢力のチェック、すべてのガバナンスを効かせてやります。そこで上場して株を持っていただく方も証券会社に口座を持つ時に全部反社チェックを受けるわけです。そうなってくると公開企業になればなるほど、よりクリーンな経営ができるという話で説得をしていきました。

岩本:簡単にいうと、プロスポーツのリーグ規約よりも上ですよね。上場するということは、もっと厳しくなるということですからね。

早川:おっしゃるとおりです。

琉球アスティーダに県外のスポンサーが多い理由

岩本:僕がすごく興味を持ったのが沖縄をホームにしているのにスポンサーが全国にいること。むしろ県外のほうがたくさんいるわけですよね。

早川:われわれはスポンサーとチケット収入に頼らないBtoC、BtoBのマーケティング会社として上場すると決めたんです。例えばミクシィが千葉ジェッツを経営権を取得したり、楽天が台湾で球団をM&Aしたりしています。つまりスポーツを使うとマーケティングとして非常に有用にもかかわらず、今のスポーツ業界は「胸スポンサーでいくら」「腕スポンサーでいくら」となっているんですね。だからわれわれは営業を徹底的にDX化しています。(編集注:DXとは、新たなデジタル技術を活用することで、既存のビジネスモデルを抜本的に変革し、新たな価値を創出することで、競争力を強化して将来の成長につなげること。デジタルトランスフォーメーションの略語)

 すごく簡単なイメージでいうと、「この地域の売り上げがいくら以上で、いくらの利益以上の企業に毎月電話でコールをしよう」と決めているんですね。コールセンター会社もスポンサー様になっていただいているので、毎月4000件のコールをします。そこから2.1〜2.2%のアポイントが取れて、50%の確度でスポンサー様になっていただく。そのトークスクリプトも日々回収しています。「この文言はこの業界に刺さる」「このフレーズを言った瞬間にガチャ切りされた」とか。そのデータがずっと蓄積されて、今すごくやりやすい形になっています。

岩本:五十嵐さん、これすごくないですか? このやり方をビジネスの世界ではやっているところはあるんです。営業に特化したり、マーケティングに特化したり。それを専門にやっている会社もあるんですけど、その手法をそのままスポーツ業界に持ち込んで、それをカスタマイズするというチャレンジをしているんですよね。本当にすごいことだと思います。

五十嵐:いや、衝撃です。そんな感じなんですね。

早川:われわれのスポンサー様になっていただいたら経営者同士をマッチングするなど、スポンサーになって(お金を払って)いただく以上に仕事につながるプラットフォームをつくっているんですね。お金をください、応援してください、というよりもしっかりと仲間を増やして、そのコミュニティに入っていただくと。下品な言い方をすれば1000万円で営業を雇うより、1000万円でうちのスポンサーになっていただいてそれ以上に数字が出せればいいわけですから。

<了>






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InterFM897ラジオ番組「REAL SPORTS」(毎週土曜 AM9:00~10:00)
パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜

2019年にスタートしたWebメディア「REAL SPORTS」がInterFMとタッグを組み、ラジオ番組をスタート。
Webメディアと同様にスポーツ界やアスリートのリアルを発信することをコンセプトとし、ラジオならではのより生身の温度を感じられる“声”によってさらなるリアルをリスナーへ届ける。
放送から1週間は、radikoにアーカイブされるため、タイムフリー機能を使ってスマホやPCからも聴取可能だ。
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