音楽プロデューサー松尾潔・曙が活躍した「平成の大相撲ブーム」語る
RKB毎日放送 / 2024年4月16日 17時0分
4月14日に大相撲初の外国人横綱、曙太郎さんの葬儀が営まれた。相撲ファンでもある音楽プロデューサー・松尾潔さんが、翌15日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、曙と若貴兄弟が牽引した平成の大相撲ブームを振り返った。
平成の大相撲ブームを牽引した“アイドル”
4月14日にしめやかに葬儀が行われた曙太郎さん。今日は外国人初の横綱だった彼の活躍ぶりを振り返ってみたいと思います。
僕も葬儀に参列して、久しぶりに若乃花(花田虎上)さんが話しているところを見ました。若乃花、貴乃花の兄弟横綱、そして曙の3人はライバルでしたよね。その中でも曙と貴乃花は2強とされていて、「曙貴時代」という呼び方もありました。この3力士はみんな1988年初土俵の同期です。
もうそれ自体が昔話みたいになっていますが、平成の大相撲ブーム、特にこの3力士は今となっては信じられないぐらいのアイドルみたいな扱いでした。
異文化に接することの難しさ
今は外国人力士といえばモンゴル出身者が筆頭という感じになっています。朝青龍、白鵬、鶴竜、日馬富士、照ノ富士と、横綱をどんどん輩出しています。
一方で、まだ記憶に新しいのは、先月引退した22歳の北青鵬。暴力が日常化していたとされ今年2月に引退勧告されました。親方の宮城野親方(元白鵬)の責任問題というところまでいって、改めて異文化に接することの難しさを、受け入れる側の国の我々も感じています。
パスポートを隠された!?
曙さんは外国人力士初の横綱ですから、永遠に歴史に刻まれるわけですが、その彼の前にも歴史があったということも改めて振り返ってみたいと思います。その筆頭はなんといっても、高見山。曙の師匠にあたる人ですね。
僕は一度だけ、高見山さんと食事を一緒にしたことがあるんですが、「実家があるハワイに逃げ帰れないように、当時の親方がパスポートを預かっていた」と笑って話していました。これ、今の時代だとコンプライアンス的にあり得ないですよね。
「横綱の品格」
そういう時代を経て、その次は小錦。彼は横綱がもう目の前まできていましたが、当時マスコミでは「相撲協会が外国人横綱の誕生を快く思ってないんじゃないか」といった報道が流されていました。
たしかに、日本人力士だったら横綱に昇進していたのではないかという成績を収めても、なかなか昇進できなかったように、素人の目には見えましたね。僕だけじゃなく、当時釈然としない思いが、相撲を見ていた人にはあったんじゃないかと思います。
そのときによく「横綱の品格」という言葉が使われていました。「土俵上での振る舞いが、日本で国技と呼ばれることも多いこの相撲にそぐわないんじゃないか」と、小錦の場合はよく言われていました。
「強さは小錦、心は高見山」
その後に出てきた曙は当時「強さは小錦、心は高見山」という呼ばれ方をしていました。これ、随分と相撲協会にとって都合のいい言い方です。言い出したのは協会ではなく、当時のマスコミが作ったんですけど、これって今の時代に聞くと、不適切極まりないという感じがします。「個の人格を何だと思っているんだ?」と言いたくもなります。
アメリカ・メジャーリーグで初めて活躍したアフリカ系の選手、ジャッキー・ロビンソンになぞらえる方もいますが、パイオニアゆえの苦しみとか葛藤があったと思います。
引退後の3横綱
人生というものは短いようでそこそこ長いものです。特に相撲は20代の頃から周りの人が深いお辞儀をするような環境です。そして、引退した後のキャリアもまた、我々はずっと見ています。
江戸時代と違って、引退後の生活もメディアがずっと追っかけていますから、我々は小錦のその後も見ているし、曙のその後も見ているし、同じように若乃花のその後、貴乃花のその後だって知っているわけですよね。
先ほど3横綱の時代があったって言いましたが、この3人は誰も相撲協会に残らなかった。曙さんは格闘技に転向し、若乃花さんはタレント活動やアメリカンフットボールにチャレンジしたときもありました。
貴乃花さんだけはストイックなイメージで、相撲の道で最年少の理事になりましたが、伝え聞くところによると、年功序列が支配的な協会で浮いてしまいました。おまけに、後ろ立てだった元北の湖が亡くなって、居場所を失ってしまったと言われています。
3人それぞれの生き様は、横綱を取ったところからの先が長い、ということを教えてくれているようです。
最高のライバル
曙さんの逝去に際し、平成の盛り上がったころの相撲界を久しぶりにじっくり思い出して、改めて曙と貴乃花はいいライバル関係だったと思いました。
2人の対戦を動画で見直してみました。2人は現役のときに42回、本場所でぶつかっていて、その対戦成績はというと、21勝21敗なんですよ。もう完全にガチライバルですよ。本当にすごい時代があったんだなと思います。最初は曙が先行してたんですが、年下の貴乃花がどんどん体も大きくなって力もつけてきて、最終的には五分になりました。
もうひとつ、相撲ファンの間では有名な話ですが、曙は「もう引退か」と言われた後にも、頑張って縄跳びとかをして体を鍛え、優勝を二つ積み重ねたんです。こうした記憶とともに、今の相撲界に新しい未来があることを、僕は楽しみにしています。
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