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SLラストランで博多駅長も卒業!バックヤードに密着「当たり前の事を当たり前に日々頑張る」

RKB毎日放送 / 2024年4月22日 18時22分

九州最大の駅、博多駅。新幹線、在来線、地下鉄が乗り入れるターミナル駅だ。この博多駅で行われる様々なイベントに必ず登場する女性がいる。JR九州の鐘ヶ江理恵博多駅長(49)だ。博多駅からJR九州の列車に乗車するのは、一日12万人。人々が行き交う博多駅の中心にいる鐘ヶ江駅長に密着した。

JR九州の博多駅長女性は二人目

2024年、人々の動きを止めた新型コロナウイルスが5類となり、初めて迎えた正月。鐘ヶ江理恵博多駅長が、福岡市博多区の櫛田神社に商売繁盛の祈願に訪れた。

鐘ヶ江理恵 博多駅長「今年の増収と同時に、お客さまにより快適にご利用いただけるように頑張りますということで祈願にきました。新型コロナが5類になってからの平年化なのでより気合いをいれてと思っております。」

安全を管理するバックヤード

人の動きが活発化するなか、博多駅も慌ただしくなってきた。安全を第一とする鉄道事業の裏側。鐘ヶ江駅長に案内してもらった。

「ここからがバックヤードです」

まず見せてもらったのは、「博多駅信号取扱所」。列車の運行を管理している。コロナ禍のうちに、JR九州の体制も、効率的なシステムが取り入れられていた。

アナウンス「普通列車二日市行き、6両編成で到着いたします」

1番から8番までのすべてのホームの様子をモニターで確認している。乗車案内も手元のボタンで切り替えて、すべてのホームのアナウンスをしている。

鐘ヶ江理恵駅長「おととしの3月までホームに一人配置していたんですけど、それをここで一括で。でも彼らは集中してやっているので、たとえばホームで具合の悪いお客様がいるとすぐ気付きます。」

「情報室」から指示車イス対応から密集緩和も

次に案内してもらったのは、「情報室」。駅構内に設置されたカメラのモニターが並んでいる。

鐘ヶ江理恵駅長「すべての博多駅の情報が集まってきます。ここですべてを判断して指示を出しています。」

長い行列ができたり、人が密集したりしないように、アナウンスして誘導する。列車事故が起きた際のダイヤの変更や、介助が必要な人への対応もこの情報室から指示を出す。

「情報室から介助の連絡です。はいどうぞ、11時51分発8番乗り場。新飯塚まで手動の車イス乗車案内となります、どうぞ。」

裏側から見た「みどりの窓口」

指定券などの切符を販売している「みどりの窓口」。

鐘ヶ江理恵駅長「ここが窓口の裏側です。このあたりから外国のお客様の対応をしてる窓口です。」

JR九州を利用する外国人観光客の数もコロナ前に戻ってきた。行列ができる様子をみて、その時々で、外国人と日本人に対応するブースの数を変えている。制服姿の鐘ヶ江駅長がコンコースにいると、問い合わせしてくる人もひっきりなしだ。

入試試験当日列車での痴漢防止作戦

駅長の仕事は、多岐に渡る。この日、鐘ヶ江駅長を訪ねたのは、福岡県警の警察官。

警察官「受験期における痴漢事犯対策への協力依頼ということでお願いします」

大学入学共通テスト当日の痴漢犯罪防止のための打ち合わせだった。

鐘ヶ江理恵駅長「受験生の方でそういう被害に遭われた時は車内できちんと手をあげて、声をあげてお知らせください、助けますというのと、周りのお客さまもそういうことがあったらご協力をお願いしますというのを呼びかけることで、痴漢行為ができなくなるかなと思うんですね。」

鐘ヶ江駅長自身も高校生のころ、痴漢に遭った経験があるという。

鐘ヶ江理恵駅長「初めて痴漢に遭ったときのこと、忘れないですよね。汗だらっだらですよね。汗がだらだら出て誰にどうしていいかわからない。これが試験の日だったら大変ですよね」

大学入学共通テストの2日前、博多駅構内でチラシを配り、キャンペーンを行った。テストの期間中は、列車に私服警察官が乗り込み、車内アナウンスで注意を呼びかける。去年より対策を一歩踏み込んだ。

車内アナウンス「本日は、大学入学共通テストです。痴漢行為防止のため、私服警察官が乗り込んでいます。被害に遭われている方は、大きな声で周囲の方にお知らせください。」

ななつ星の見送りも駅長の大事な仕事

JR九州の豪華寝台列車、「ななつ星in九州」。毎週火曜日、ななつ星の出発を見送るのも、博多駅長の大事な仕事の一つだ。

鐘ヶ江理恵駅長「博多発というか、JR九州の中では本当に特別な存在ですね。やっぱり私たちの中の憧れの列車でもありますし、ななつ星が無事に出ていくと、ちょっとほっとするところがございます」

進化中の博多駅 おしゃれなスポット

ななつ星が出発するホームにつながるエスカレーター。登った先の3階に広々としたスペースがあった。

鐘ヶ江駅長には、利用客がくつろげる空間にするための、新たな構想があった。

鐘ヶ江理駅長「下にある自販機とはちょっと違う自販機置きたいなと思って、交渉中ですいま考えているのは、サラダとか、ちょっと特殊なジュースとか、そういうようなのを売るようなことを考えてます」

ホームの真上にあるこのスペースからは、列車がホームに入る様子もよく見える。

鐘ヶ江理駅長「列車お好きな方にはそれを見ていただくスペースでもいいなあと思っています」

2か月後、新しいインテリアが運びこまれた。午後10時過ぎからの組み立て作業。鐘ヶ江駅長も作業に立ち会う。木製で、カーブを組み合わせたデザインの大型ベンチ。真ん中にはフェイクグリーンが入る。常にリニューアルし進化することは、JR九州の目標とするところだという。

鐘ヶ江理駅長「ほんとに通過するだけじゃなくて、快適に過ごしていただけるそんな場所にしたい。我々JR九州、JR九州の社員も変化しつつ、進化をしていけるといいなと思います」

進化する博多駅におしゃれなスポットが出来た。

16代目の博多駅長最初は「無理」

鐘ヶ江理恵駅長はJR九州の博多駅長としては16代目。2021年5月に就任した。最初は、駅長の辞令に驚いたという。

鐘ヶ江理恵駅長「私の頭の中に博多駅長っていうのはまったくゼロ%だったので、ただただびっくりして。無理って思いました」

1987年に国鉄から分割民営化して誕生したJR九州。当初、新幹線もなく赤字路線を多く抱えていたことから、鉄道以外の新規事業に力を入れてきた。現在では鉄道以外の収入が6割を超える。鐘ヶ江駅長は、入社以来、経理や財務と企画、新規事業を担当してきた。2018年からはJR九州リテールに出向、専門店事業の本部長を務めた。JR九州リテールは、駅の売店「キヨスク」を引き継ぎ、土産物を販売する「銘品蔵」を展開している。博多駅には、鐘ヶ江駅長がリテール時代に手がけたプレミアムコーナーがある。

駅長の前職は「お土産」の企画開発

鐘ヶ江理恵駅長「ここはちょっとした手土産に持っていっていただきたいなあという、冷蔵冷凍いろんなものが揃っています」

福岡市内で人気の菓子店がつくる洋菓子やお酒のおつまみ、和菓子も取りそろえている。こだわっているのは、九州の土地で作ったもの、あるいは九州の土地で作られた原料というところだ。鐘ヶ江駅長が鹿児島まで交渉に行って取り扱いが決まった「ラムドラ」は、人気商品だ。販売事業の担当から駅長になり、見方が変わったという。

鐘ヶ江理恵駅長「ここではいかに多くのお客様に足を止めていただくか、そしてもちろん小売りですので、売上のことを考えながらやっていたんですけど、今度、駅全体になるとお客様が安全にこの場で過ごしていただけるかっていうことが一番重要になってくるので、お客様が集まればいいというものではない、ちょっと視点がやっぱり変わりましたね」

JR九州リテール時代の上司に鐘ヶ江駅長の仕事ぶりを聞いた。

JR九州リテール本郷譲社長「鐘ヶ江駅長は、お菓子屋さんを買収するとか、新しい業態をはじめるっていう当社としては珍しいことを彼女は3年の間にやっていきましたね。これはやっぱり特筆すべきことだと思います。男性女性という概念なく抜擢もしましたし、彼女はそれに応えたと思いますね。あの年齢でまったく違う事業本部、まして博多駅長なんていうのは、もうピカピカのポストですから、そこに行くっていうことついては、背中を押しました」

バックヤードに掲示鐘ヶ江駅長の目標

140人が在籍するJR九州、博多駅のバックヤード。通路脇にコーナーがあった。鐘ヶ江駅長が個人で購入し読み終わったあとの日経新聞や、日経ウーマンといった雑誌が置いてある。安全運行などの基本的な業務の目標のほかに、鐘ヶ江駅長が掲げているのは、個人としての目標だ。

「仲間を大切にし、仕事を楽しむ。前例にとらわれず、日々変革。選ばれる人財となるために、日々自分を磨く」

鐘ヶ江理恵駅長「私が入社したときは、改札が有人改札だったんですね、人が立っていてお客様から切符をいただいて。まさか、こんなに全部機械になっているっていうことは、想像できなかった。本当に30年後どんな世界になっているかっていうことは分からないので、自分の仕事がずっとあるわけではない。そう考えると、自分で生きる道は自分でちゃんと作っていかないといけないから、担当業務以外のことも勉強するんだよっていうふうに言っています」

鐘ヶ江駅長を、部下の社員たちは、どう見ているのか。

前田圭輔副駅長「行動力がある、で、我々を社員を導いてくれる上司だなって日々思っていますので、我々は必死に食らいついて、ついていってるって感じです」

山本大海助役「ほんとにゴールを示してくれて、それに向かって全員で同じ方向を向いて働ける環境を作ってくれているなと、日々思っています」

私達、刷り込まれています

鐘ヶ江駅長が、女性が働く「ロールモデル」として招かれる機会があった。その会で鐘ヶ江駅長が披露したのは、財務部で資金課長をしていた当時のエピソートだ。10歳年下の男性社員とペアで銀行を回っていた時のことだった。

鐘ヶ江理恵駅長「とある銀行さんで支店長が彼に質問をします。私は課長なので質問は全部、課長である私が答えます。それに対してまた支店長が彼に質問します、私が答えます、よくわからない三角関係の会話がずっと30分ぐらい繰り広げられていて、でも私はずっと男性の中にひとりぼっちだとか、そういう世界で生きてきたので、あんまり違和感がなかったですね。帰り、彼が、『どうして今の人は、課長が説明をして課長が答えているのに、質問を全部僕にするんでしょう。僕の方を向いて。おかしくないですか』って言われて、『私が女性だからね』って私は淡々と答えたんですけど、彼にしてみたらおかしい。私達、刷り込まれているんですね。それが普通なんだって思い込んでいたんです。でもそれじゃいけないっていうのを、10歳年下の男性に教えてもらえました」

鐘ヶ江駅長は、1997年入社。入社3年目と12年目に育児休暇を取得している。

鐘ヶ江理恵駅長「私、1回目の産休育休を取る前は、あんまり仕事をまかせてもらえないところがありまして。育休とって戻ってきたら、『この人、ちゃんと働くんだな』って思ってもらったのか、そこから普通に男性と同じように仕事をまかせてもらえたような気がしたんですね。それで、頑張らなきゃって思ったんです」

いま、博多駅の職場では、男性も育児休業を申請するようになってきたという。

鐘ヶ江理恵駅長「男性が育児休業5か月とったりしていますので、いま、まだ普通になってない中、彼らはえらいと思いますし、こういう人たちが増えて、どんどん普通になっていくんだなと思います。そういう意味では『普通がこれなんだ』っていうことを根付かせることが大事だと思っています」

人身事故の対応瞬時の判断を迫られる

2月27日、JR鹿児島線、東福間駅の構内で、人と特急列車ソニックが接触する人身事故が発生した。夕方のラッシュアワーにかかろうとする時間。緊張に包まれる。事故があった東福間駅を境にして、上下線とも列車が止まっている状態だ。

副駅長が拡声器で、改札前で情報を伝える。

「現在のところ、再開のめどはたっておりません」

情報室では、警察の現場検証がどれくらいで終わるか状況を見ながら、どの列車を運休し、どの列車を走らせるか、決めていく。列車を止めている間に、待つ人々でホームは一杯になってくる。博多駅で出発を待っている特急列車をいま走らせるか、運転再開になったときに走らせるか、難しい判断を瞬時に迫られる。いま特急を走らせると、途中で止まってしまう。鐘ヶ江駅長は、再開まで特急の出発を遅らせる判断をした。再開した時に、各駅で特急を待つ人たちを乗せていくのだ。

事故発生から1時間後、現場検証が終了したという連絡が入った。

アナウンス「お客さまにご案内いたします。東福間駅構内での人身事故につきまして、現場検証が終了し、随時運転再開の許可が出ております」

運転が再開されても、ダイヤが戻るまでには、さらに運休や行き先変更と同時に、乗務員の手配にも追われる。

情報室「いま1番線に入っている列車がいて、乗務員がいなくて、厳しいかもしれません」

列車の行き先を変更するなどして、徐々に乗客の流れがスムーズになってきた。

鐘ヶ江理恵駅長「この時間はどきどきするんですよ。夕通勤にあたると、お客さまのお時間を本当にとってしまうので。でもきょうはいつもよりはダイヤが戻るのは早かったんじゃないかと思います」

SL人吉ラストランと鐘ヶ江駅長「最後の出発コール」

3月いっぱいで駅長を交代することになった鐘ヶ江駅長。3月23日はSL人吉のラストラン。鐘ヶ江駅長にとっても、駅長としての最後のイベントだ。

博多駅から吉塚駅まで回送するSLに乗って、インスタライブを行う。ホームにはSL人吉の最後の雄姿を見ようと、多くの鉄道ファンが詰めかけた。汽笛を鳴らすSL。インスタライブの画面に、「汽笛で泣いてしまいます」というコメントがアップされていく。SL人吉は、101歳での引退だ。再び博多駅に戻って、お客さんを乗せてラストランの出発式。鐘ヶ江駅長のかけ声で、SLが走り出す。

「出発!」

鐘ヶ江駅長は両手を大きく振って、SLを見送った。

鐘ヶ江理恵駅長「私の最後の出発式がSL人吉のラストランと一緒で光栄だなと思いながら、私もラストだなと思いながらやっていました。鉄道会社に入社したんですけど、博多駅に来てなければ鉄道がこれだけ大変な思いをして、みんなが当たり前のことを当たり前にやることを日々頑張ることによって、鉄道の運行ができているという苦労を知らずに私は卒業するところだったと思うので、本当にみんなの毎日の頑張りに感謝したいと思います」

2年11か月の博多駅長勤務、お疲れさまでした!

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