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JR九州の新しい観光列車「かんぱち・いちろく」乗車リポ! 他の列車にはない“一風変わった体験”があった

オールアバウト / 2024年5月1日 21時15分

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2024年4月26日、JR九州の新しい観光列車「かんぱち・いちろく」が運行を開始した。新しいデザイナーを起用したこの列車の車両や車内、お弁当、車窓から見える景色などを紹介しよう。

JR九州に新しい観光列車「かんぱち・いちろく」がデビューした。運転区間は、博多~由布院~別府が「かんぱち」、別府~由布院~博多は「いちろく」。どんな列車なのか試乗会の模様をリポートする。

新しいデザイナーを起用したD&S列車

新しい観光列車(JR九州では「D&S列車」と呼ぶ)は、運転区間のかなりの部分を占める久大本線(愛称「ゆふ高原線」)開通に寄与した麻生観八氏ならびに衞藤一六氏の名前に由来している。博多発が「かんぱち」(月水土)、別府発が「いちろく」(火金日)で2日かけて1往復している。(木曜は運転しない)

JR九州のD&S列車といえば水戸岡鋭治氏が長年デザインしてきたが、今回は鹿児島のデザイン会社IFOO(イフー)が担当、いよいよ新たな時代が始まったようだ。IFOOが列車デザインを手掛けるのは初めてだという。

興味深く車内に入ると、水戸岡氏の手掛けた車両に見られたにぎやかさや華やかさは影を潜めたものの、落ち着いたシンプルさの中にも気品が漂う洗練された独自のデザインに斬新さを感じた。博多駅に停車中の特急「かんぱち」

畳敷のプライベート空間にラウンジも

3両編成の車両は新車ではない。1号車と3号車は肥薩線で運行していた「いさぶろう・しんぺい」を改造したもの、2号車は久大本線などのローカル列車として走っていたキハ125を改造したもので、この形式の車両が観光列車になったのは初めてだ。

編成全体を眺めてみると、2号車だけがやや短いことが分かる。艶(つや)のある黒を基調とした車体には周囲の風景が映りこみ、駅構内で見ると、反射の具合で真っ黒ではないように見えるのが面白い。列車の走行ルートを図案化したものが描かれるとともに、沿線の駅名などのローマ字がぎっしりと書きこまれていて、これは水戸岡デザインを踏襲したものといえる。

1号車は赤をベースとしたソファ席。火山や温泉を思わせ、大分・別府エリアの風土をモチーフにデザインしたという。片側に通路があり、3人向かい合わせの席はヨーロッパの長距離列車のコンパートメント風だ。個室ではないものの、ソファの背が高いので個室のような雰囲気である。それぞれテーブルもあり、ゆったりと食事が味わえる。面白いことに運転台すぐ後ろの席は畳敷の個室になっていて、プライベートな空間だ。

2号車は「ラウンジ杉」。樹齢約250年の杉の一枚板カウンターが目を惹く。飲食や鉄道グッズの販売もあり、席を離れての気分転換にももってこいだ。大きな窓から眺める沿線の風景も素晴らしい。

3号車は福岡・久留米エリアの風土をモチーフにデザインし、平野や耳納連山の山々をイメージした緑を基調とした落ち着いた空間だ。通路をはさんで、2人掛けと4人掛けのボックス席が並ぶ。シートはソファのようにゆったりとしているのみならず、背もたれが高いので半個室のようなつくりで落ち着ける。1号車同様、運転台のすぐ隣は畳敷の個室となっている。

3号車のボックスシート。折りたたまれたテーブルを広げて食事をする今回は4人掛けのボックス席をあてがわれた。ちなみに列車は特急で全席グリーン車扱いである。 

曜日ごとに異なるお弁当は“名店の味”

福岡市内の名店「味竹林」が用意した豪華な昼食特急「かんぱち」は博多発12時19分。まずは久留米駅まで鹿児島本線を南下する。すぐに客室乗務員さんが食事をもってやってきた。

食事ができるようにテーブルをセットして、専用のランチョンマットを広げると、2段重ねのお重が置かれた。上段と下段を並べたところで、献立の説明を受ける。

この日は水曜日だったので、福岡市内の名店「味竹林」が用意した和食のお弁当だ。玄海ヒラメ、日田ワラビ酢の物、豊後牛白ワイン煮といった沿線の食材をふんだんに盛り合わせた豪華なもので、ちらし寿司と八女茶御飯もある。他の曜日は別の名店が担当する独自のメニューとなる。

おもてなし駅の駅舎や歴史にも注目を

車窓の見どころは久留米を発車し、久大本線に入ってからなので、しばらくは食事に専念する。列車は特急とはいえ、あちらこちらで運転停車をしながら進む。特に急がないという意味の特急なのであろう。乗客も観光が目的なので、誰も文句は言わない。

田主丸駅での歓迎ぶり。ゆるキャラ「くるっぱ」も愛嬌を振りまく久留米から久大本線に入る。右手には耳納連山の穏やかな山並みが続く。博多を出て1時間ほどたった頃、小さな田主丸(たぬしまる)駅に到着。ここで12分停車する。ホームでは大勢の子どもたちと地元の人々が小旗を振って出迎えてくれる。

河童の形をした田主丸駅の駅舎田主丸は河童(かっぱ)伝説で知られた町で、河童の形をした愉快な駅舎が目につく。田主丸町のある久留米市のゆるキャラ「くるっぱ」も参加して愛嬌(あいきょう)を振りまいていた。地元の名産品やゆるキャラグッズを販売する出店には、河童の衣装をまとった人もいて大いに盛り上がっている。

伐株山も車窓に登場あっという間に12分が過ぎ、大勢の人々に見送られて発車。列車は大分県に入り、日田を過ぎ、次第に山深いところを走るようになる。天ケ瀬を出てしばらくすると、「慈恩の滝」が車窓右手に見えるとのアナウンス。見物や撮影がしやすいように徐行運転してくれるのはうれしい。

続いて、台形状の特異な風貌をした伐株(きりかぶ)山が同じく右手に見えてくる。すっきりした写真がなかなか撮れず、何枚もシャッターを押してしまう。そして豊後森を出ると、すぐに鉄道遺産ともいうべき9600形蒸気機関車と扇形庫の脇を通過する。このあたりは車窓からの見どころが多く、休む暇がない。

恵良駅前では獅子舞による歓迎もあった列車は豊後森の次の小駅・恵良(えら)で16分停車する。ここでも大勢の子どもたちや地元の人々の歓迎を受ける。子ども2人による1日駅長、駅前での獅子舞など田主丸駅とは異なるおもてなしに目が行く。また地元の八鹿酒造が商品を販売していた。

ところで、この小駅に停車した理由は、列車名ともなっている「かんぱち」ゆかりの地だからだ。すなわち、駅近くに本社がある八鹿酒造を再興するとともに、久大本線敷設に尽力した人物・麻生観八氏にちなんでの命名なのだ。駅舎内には、「九重町先哲資料館」があり、麻生観八氏の業績を年譜とともにたたえている。

映像とともに「かんぱち」の旅を振り返る

由布院駅では6分停車。特徴ある駅舎が出迎えてくれる恵良を発車すれば、30分ほどで由布院に到着する。由布院駅付近では、線路が弧を描くように大きく迂回している。これは大分県の実業家・衞藤一六が由布院駅を経由するように尽力したためで、「一六曲がり」と呼ばれている。別府発、博多行きの観光列車「いちろく」は、この衞藤一六にちなんでいる。

映像とともに「かんぱち」の旅を振り返る由布院駅では初めて降車が可能となり、博多から由布院までの乗車となる人もいる。この後、大分までは淡々と田園地帯を駆け抜けていく。

特に車窓の見どころもないので、車内では2号車のラウンジに集まるようアナウンスがある。ここまでの列車旅を、映像を映し出しながら振り返る。視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚という5つのポイントから振り返るという点が目新しい。

最後に、スタッフから特製の金平糖をお土産にいただいて席に戻った。

「ゆふいんの森」「或る列車」……次はどの列車に乗る?

由布院駅では「かんぱち」と「ゆふいんの森」がすれ違う博多駅から別府駅まで4時間40分もの長旅だったが、2カ所の駅でのおもてなし、バラエティに富んだ車窓、ぜいたくな昼食など盛りだくさんの内容で、終わってみればあっという間だった。

久大本線には、「ゆふいんの森」「或る列車」といった観光列車(D&S列車)もあり、競合しているけれど、それぞれに特色があり、何度通っても尽きることのない魅力でいっぱいだ。次に出かけるときには、どの列車に乗るか? 悩ましい選択でもある。

旅行代金=1万8000円(食事代込み)、畳個室=2万3000円

取材協力=JR九州 

※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正いたします(5月2日 20時45分:編集部追記)

この記事の筆者:野田隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。
(文:野田 隆)

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