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石崎ひゅーい、新曲で歌うのは"次に進むためのバッドエンド"

Rolling Stone Japan / 2020年11月23日 21時0分

石崎ひゅーい

石崎ひゅーいが11月24日(火)にニューシングル『Flowers』を配信リリースする。映画『アンダードッグ』主題歌として書き下された楽曲は、ボクシングに命を燃やす男たちを描き、”かませ犬”をタイトルとした映画の世界観にピタリと寄り添った人間臭い歌詞とソリッドなサウンドが際立ったもの。彼はなぜ、こんなにもストイックで心を抉るような曲が書けたのだろうか?自粛期間中に書き上げたという曲のエピソードを中心に、「まったく完成されてない」というアーティストとしての自分について、語ってもらった。

ー「Flowers」のMV「アンダードッグ ver.」を拝見して、映画「アンダードッグ」の映像と曲が見事にマッチしていて非常に興奮させられました。今回、予告を見るからに強烈な印象のこの映画の主題歌を引き受けた理由を教えてもらえますか。

石崎:もともと、武監督の作品は好きだったんです。「百円の恋」という映画で友だちのクリープハイプが主題歌を担当していたりしていたのをきっかけに映画を観ていたんです。最近の「全裸監督」を観ても、武監督が作る世界観みたいなものが好きだなというのはあったので、ありがたいお話だなと思って、すぐにやろうと思いました。

ー石崎さんといえば、これまでもタイアップ曲を多く手掛けていますが、主題歌を作るときは既に完成した作品を観て曲を書きおろすわけですか?

石崎:今回の場合は、途中でオフラインの映像を送ってもらいました。映画版じゃなくて、映画の公開が終わった後にABEMAで配信されるドラマのバージョンを先にいただいて、台本もいただいて書いたんです。

ー台本も読むんですね。

石崎:そうですね、台本を一番最初にいただきました。

ーどのように曲を作っていったのでしょうか。

石崎:まず、現場に行って、森山未來さんや監督と初めてご挨拶させてもらいました。その時に監督が、「普段は日の目を浴びないようなどうしようもない主人公が、最後のリングの上でだけ光を浴びるような作品を作りたいんだ」という話をされていたのが印象的で、すごく明確でわかりやすいメッセージだなと思ったんです。監督のその言葉のおかげで「なんとなくこんな歌だな」というのは頭の中に生まれてはいました。あとは、映画だけに寄り添ったものではなく、自分の作品として、完成させるために僕の視点はどこから入れようかな、という作り方をしました。



ー主要キャストの、森山未來さん、北村匠海さん、勝地涼さんのうち誰の視点に立って、ということではなく?

石崎:それは、誰の視点でもないようにしようと思って。一番意識したのは、僕は「僕」っていう一人称を使う歌が多いタイプなんですけど、今回は「僕ら」の歌にしようというのは最初からあったんです。映画自体が、森山さんを軸に三者三様の戦いみたいなものを描いていたので。それに、この曲を作って詰めているときが、ちょうど自粛期間中だったんですよ。その頃、音楽をやっている友だちとか地元のお店をやっている友だちとか、みんなすごく良くない状況でギリギリで戦っているようなやつらばっかりで、そういうのを心配しあってZOOMで「大丈夫か?」とか言いあってたんです。みんな、同じような不安みたいなものを抱えながら生活しているタイミングでもあったので、そういうことも含めて自分の歌というよりは、「自分たちの歌」にすることで、少しでも一緒に並走できるような曲にしたいなと思っていました。

ー自粛期間中、『アンダードッグ』という作品があったことで奮い立たせられたというか、駆り立てられたところもあったということでしょうか。

石崎:それはめちゃくちゃありましたね。映像とかストーリーとか。自粛期間中にすごく考えたのが、2011年の東日本大震災のときに、表現者たちが表現することが良いことなのか悪いことなのかって迷っていたというか、考えさせられる時期があったと思うんですけど、そのときと若干状況が似ているなと思ったんですよ。それでもやっぱり僕たちは歌を作っていなかなくちゃいけないというか、そういう精神的な戦いみたいなものと、映画のストーリーが合致しているなと思ったんです。だから、映像からはたくさんパワーをもらいました。

ー普段は、そういう曲作りに駆り立てられる気持ちって、どこから作るんですか?

石崎:僕は基本的に、”人からもらう”んですよ。あんまり、景色とか映像とかから何かをもらってインプットするということがなくて、普段は結構人との出会いとか、その人自体から刺激をもらって、そのときに一番曲ができるんです。だから今回は、人と会えない状況だったので、自分の中でもヤバいなと思っていて。いつもそうなんですけど、映画に出させてもらったときに、撮影が終わった後とかに曲がバーッと生まれたりするんですよ。今まで自分が経験したことのないところに行って、出会ったことのない人たちと何かを作ったり、心を刺激してくれるようなことがあったときに曲ができるんです。だから今回は大変でしたけど、その中で映像に助けられた感じです。

ー逆に言うと「アンダードッグ」がなかったら自粛期間中は曲が生まれなかったわけですか。

石崎:生まれなかったです。この曲と、もう1曲書いていたのがあって、それを進めていた感じだったんですけど、結構ピンチだと思ってやってました。

ー「Flowers」は〈僕らは路上に咲く花〉という歌詞から始まる曲ですが、これはどんなときに生まれたフレーズなんですか。

石崎:映像や台本以外でも、ヒントを探してはいたんです。自粛期間の家とスーパーマーケットの往来みたいな生活の中で、何かあるかなって考えていたときに、家のそばでコンクリートにひびが入っていてそこから花が咲いているのをたまたま見たんです。それを見つけたときに、「あ、できた」と思ったんです。自分が見たものをちゃんと作品に落とし込まないと、自分の曲にならない気がするので。その花を見て、ゴールが見えた気がしたんです。

ー石崎さんのこれまでの曲には、人間臭さがありつつも、温かみもあったり華やかだったりという印象を持ったのですが、今回こういうストイックな世界観に自分を追い込むのは大変だったのでは?

石崎:今、曲作りをするときに意識しているのが、膨らませるというよりはどちらかというとそぎ落とすことなんです。すごく明確にしていくというか、そういう感覚で曲作りを捉えていて。この作品のオファーをいただいたときに、最初からこういうストイックなものを作ろうとは決めてました。


2019年12月3日@赤坂BLITZ 撮影:鈴木友莉

ー「アンダードッグ」は、生きることへの執着みたいなものを感じさせる映画だと思うのですが、アーティストにも曲作りやライブステージへの執着ってあるんじゃないかと思うんです。石崎さんにもそういう執着ってあるんじゃないですか?

石崎:そうだなあ……。なんか、基本的に自分の中からポンポン曲が生まれてくるタイプでは、もうなくなっていて。

ーあ、以前と比べて?

石崎:そうですね。デビューしたての頃って、湧き水のように言葉が生まれてきたりしたんですけど、正直、そういう意味での勢いはなくなっていて。やっぱり、曲を作る前に心を動かす何かをしなくちゃいけなくて。そこからもう曲作りなんですけど。今は結構、1つ1つが難産ですね。

ーそうすると、「Flowers」もモチーフがあったにせよ、難産だったんですか。

石崎:最初の頃に比べたら、難産でしたね。そこはデビュー当初に比べたらだいぶ変わったと思います。

ーそこをちゃんと客観的に見て言えるってすごくないですか。まわりから言われる場合はあるかもしれないですけど。

石崎:いやあ~、まわりから言われてます(笑)。曲をポンポン生んで渡したりはしていないので、普通に「曲書いてよ」ってめっちゃ言われまくるっていう。「そうだよね~」ってはぐらかすんですけど(笑)。

ー(笑)。追い込まれてから曲がでてくるタイプ?

石崎:ああ、それはあります。性格的に、追い込まれたら奇跡的に良いものが出てくるということはあるんですけど。だからもう、奇跡を本当に期待するというか。でもそれは宝くじみたいなことなので(笑)。ずっとそういう風にはしていられないなと思って、何かを見つけないとな、と思って生活しています。

ー常に曲を作ってストックしておく、という人もいますよね。

石崎:僕は全然そういうタイプじゃないですね。昔はそうだったんですけど。

ーそこが変わったのはどうしてなんですか。

石崎:すごく、俯瞰的になってると思うんですよ。石崎ひゅーいというアーティストを、もう1人の自分が俯瞰して見てる状態というか。それは良い面もいっぱいあるんですけど、曲ができないという悪い面も……めちゃめちゃ悪いな、その面は(笑)。そういう悪い面もあったりして、バランスみたいなものをどこに置いておけば良いかはいつも考えてますね。



ーじゃあ、執念という意味だと常に曲を作らなきゃということよりも、曲が生まれたときに完成させるまでに執念があるという感じでしょうか。

石崎:そうですね、曲を作り始めたらめちゃくちゃ良いものを作るということに関して執着はありますね。ただ、その前の段階で普段の生活からは特にないですね。

ーアーティストとしての自分とプライベートな自分をはっきり切り替えている?

石崎:どうなんですかね? いや、あんまり切り替えられるタイプではないですね。スイッチをオンオフするのは下手くそだと思います。まわりからスイッチを押されて、やっとピカッと光る感じで。だから、そういうコントロールみたいなものもこれからの音楽人生の中で1つのテーマになってくると思ってます。

ー本当に、自分を俯瞰で客観的に見れるんですね。

石崎:それは良い面もあるんですけど、すごくむずかしいんですよね。もっと自分本位になってしまってもいいんじゃないかなって思う瞬間もいっぱいあって。

ーお話を伺ってると、まだ完成されてない感じを受けます。完成されたアーティストとして見ていたので意外でした。

石崎:ぜんっぜん、まったく完成されてないですよ。ていうか、あっちこっちに行って意味わかんない感じになってますから(笑)。

ーとはいえ、みなさんが思っている石崎ひゅーいさんの曲というイメージはあると思うんですよ。それで言うと今回はサビの歌詞に〈Yai Yai Yai Yai Yai Yai Yai Yah〉という言葉じゃないフレーズが出てきていて。これは今までにない感じじゃないですか。

石崎:最終的に、なんて言っていいかわからないというのを、そのまんま歌にしたんですよね。映画自体にも、「果たして何のために勝負し続けているんだろう?」みたいなシーンがあって。でもそれってひと言では絶対に表せなくて。そんな気持ちが出ればいいなと思って書いたんです。

ー「Flowers」は〈いつか僕ら それぞれの咲き方で 誇らしく散れるなら〉という歌詞にあるようにすごく刹那的に聴こえます。半ばやけくそぐらいの気持ちも入っているように感じますが、そこはどう思って書きましたか。

石崎:やけくそというもあるんですけど、僕としてはどちらかというと「決別」っていうような気持ちです。終わりにするというんじゃなくて、ここから違う場所に行くというか。次のフェーズに向かっていくための「さよなら」ということなんです。そんなことを書ければ良いなって。僕はこれまでバッドエンドみたいな表現の仕方をしてこなかったんですけど、それはそれでありだなって思い始めたんですよね。昔は最終的に救いがあるもの、光があるものを意識して曲を作っていたんですけど、もう強烈なバッドエンドとかがないと、終わりにもできないというか。そういう衝撃的な終わり方、めちゃくちゃつらい終わり方をするというのも、1つの決別というところに繋がる表現になるなとは思っていて。それは最近変わってきたかもしれないですね。


2019年12月3日@赤坂BLITZ 撮影:鈴木友莉

ー続いていくための決別ということですね。そこもこの映画とリンクしているというか。

石崎:そう……だと良いなと思います(笑)。

ーまだ公開前ですもんね(笑)。今回、音作りも疾走感、リズム感がボクシングの映像と合っていると思ったのですが、ドラムの音がサンドバッグを叩いているような音に聴こえるのは深読みしすぎでしょうか。

石崎:デビューのときから一緒にやってもらっているアレンジャーのトオミヨウさんと今回も作らせてもらったんですけど、同じタイミングで映像を見て作れたので、そういう音の感じはボクシングの試合を連想させるという意識はあると思います。僕もトオミさんもそういう共通意識の中で作っていたので。ドラムの音は結構悩みました。生ドラムの音とドラムマシンの音を混ぜているんですけど、曲の表情をソリッドにさせるというか、それは意識してました。

ー前作の『パレード』とはまったく音の印象が違います。テーマによって全然違うものですね。

石崎:そうですよね。タイアップをやらせてもらうときは、とにかく自分の使える引き出しを全部開けて、「絶対これが一番似合う」というものを出せるところまで堀り下げるので。そこは自分本位では作らないというか、やっぱりその作品に寄り添うように作ることが大事だと思うので。

ー作品に対してはかなり感情移入して作るんですか?

石崎:そこを良いバランスで曲ができると良いのかなって。完全に寄ってしまうとそれはまた良くなくて。自分の核みたいなもの、今回だったらコンクリートから生えている花みたいなモチーフを見つける作業が必要ですね。

ーこれからの活動に向けて、今はどんなモードなんでしょうか。

石崎:まずは、見つけることから始めようと思ってます。すぐに曲を作るモードでもなくて。だから、こういうコロナの状況ですけど、やれる範囲とか行けるところを見つけて、自分の心を刺激するもの、それが場所なのか人なのかわからないですけど、冒険するというか。まずはそこから初めようという段階です。

ー12月25日(金)東京・渋谷WWWにて単独弾き語りLIVE 石崎ひゅーい「世界中が敵だらけの今夜に」が開催されますね。「Flowers」の歌詞がタイトルになってますが、どんなライブにしたいですか。

石崎:有観客でのワンマンライブが、ちょうど1年ぶりなんです。だからファンのみんなをすごく待たせている状態になってますし、その反面まだ少しライブを観に行くのは怖いという人ももちろんいると思うんです。そんな状況だけど、歌には他の何でも生み出せない、歌でしか生み出せない人の活力になるようなパワーがあると思うので、少しでもみんなの活力になれたら良いなと思っています。


<リリース情報>



石崎ひゅーい
シングル『Flowers』

配信日:2020年11月24日(火)

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