1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 音楽

ブラック・ミディが濃密に語るカンとダモ鈴木、キング・クリムゾン、カオスな音楽世界

Rolling Stone Japan / 2021年7月6日 18時0分

ブラック・ミディ(illustrations by Anthrox Studio)

2ndアルバム『Cavalcade』が絶好調、今年9月には東名阪ジャパンツアーも開催するブラック・ミディにインタビュー。UK新世代ロックの旗手がプログレへの愛情と驚異の音楽観を語った。

先にこの記事ができあがるまでの経緯を説明しておこう。『Cavalcade』のリリースにあたって、レーベル(日本のBeatink / Beat Records)からは当初、ダモ鈴木との対談インタビューを提案されていた。カンのヴォーカリストとして知られる同氏とブラック・ミディは過去に共演歴がある。編集部としても素敵なアイデアだと思ったので、さっそく出演を打診してみることにした。残念ながらインタビューへの参加は実現しなかったが、ダモ鈴木から届いた返信は誠実で愛に溢れたもの。記事掲載の了承を得ているので、まずは貴重なメールをここで紹介しよう。

そのあとに掲載したQ&Aでは返信の内容も反映しつつ、バンドのプログレッシブな側面を掘り下げるべく、気鋭のライターs.h.i.に質問作成を依頼。ブラック・ミディのメンバーのうち、ジョーディ・​グリープ(Vo,Gt)とモーガン・シンプソン(Dr)が回答しているが、今回はほぼ全編でモーガンが語り倒している。



ダモ鈴木(Photo by Vincenzo Buscemi/Getty Images)

ダモ鈴木からの返信(一部を抜粋・編集)

久しぶりにブラック・ミディの名前を聞きました。彼らが元気でやっているようで喜ばしいです。

音楽雑誌に限らず雑誌や新聞は読まないのですが、彼らがまだ18歳だった頃に共演して、若いミュージシャンにありがちなメインストリームの姿勢ではなく、自分たちの音楽に対する前向きな自分たちの音を作るということは、初めて彼らのサウンドを聴いた時点から伝わってきました。ブリクストンのThe Windmillは私も何度となく出演した南ロンドンのキャパ150名程度の小さなベニューですが、ブッキング・マネージャーのティム(・ペリー)が私のやっていることを気に入って、定期的にコンサートをアレンジしています。私はその時その場限りの「今」の音楽を作っており、毎回ロンドンのミュージシャンとの共演を通じて、色々な挑戦をしてきました。その中のバンドの一つがブラック・ミディであったという事です。

彼らとはそのときに会っただけです。私がベニューに着いた時にはすでにリハーサルをしていて、その姿勢からも彼らの新鮮さは伝わってきましたし、会場には彼らの父親の何人か(この人達も私より何歳か若いのですが)も来ていました。彼らの音楽的センスが、若いブラック・ミディにDNAを通して伝わっているのでしょう。彼らも若い時にキャプテン・ビーフハートあたりを聴いてたのでしょう。

あれから何年か経っていますが、あの時の姿勢で彼ら独特の音……どこのジャンルにも当てはまらない方向に進んでほしいと思っています。

damo suzuki live at the windmill brixton with ’sound carriers’ black midi by black midi, damo suzuki
ダモ鈴木とブラック・ミディのセッション音源(2018年)

長々と書きましたが、私はインタビューをするほど彼らのことを知っているわけではなく、またアルバムを聴いて感想を述べるというのは私の世界ではありません。「生」の音楽しか聴かず、形が決まってしまったもの、自然でないものは私には合いません。

(中略)

私は聖書を基準とし、どの教会にも、組織にも属さないクリスチャンとして、それ故に常にこの体制という川の流れを避け、何処かの支流に位置している人間です。

Have a nice day!

God Bless You!
Energy!
Damo @ Cologne

***

その日、その時は、だれも知らない。天の御使たちも、また子も知らない、ただ父だけが知っておられる。
人の子の現れるのも、ちょうどノアの時のようであろう。
すなわち、洪水の出る前、ノアが箱舟にはいる日まで、人々は食い、飲み、めとり、とつぎなどしていた。
そして洪水が襲ってきて、いっさいのものをさらって行くまで、彼らは気がつかなかった。人の子の現れるのも、そのようであろう。
(マタイ伝24章36節から39節)

ダモ鈴木からの学び、ジャンルを超越すること

―実はこのインタビューの前に、ダモ鈴木さんにブラック・ミディとの関係について話を伺っています。ダモさんとの出会いと共演から学んだことについて教えてください。

モーガン:個人的には一番学びが大きかったギグだと思うね。今まで一度も会ったことのないアーティストと一緒に何百人もの観客の前で演奏するという彼の意欲に感激した。その点において彼を尊敬しているよ。学んだのは、とにかく流れに身を任せるということ。その流れはパワフルなものになるから。ものすごくクールな人だった。本当にすごいことをやっていると思う。

―カンの好きなアルバムは? 

モーガン:うーん、『Tago Mago』だね。

―どんなところが好きですか?

モーガン:流れがすごく良い。カンのアルバムは全部最高だけど。『Tago Mago』の「Halleluhwah」という曲は奇跡としか言えないよ。だからやっぱり『Tago Mago』だね。




―ダモさんはまた、「ブラック・ミディと出会ってから何年か経ちましたが、これからも当時のように、どのジャンルにも当てはまらない方向に進んでほしい」と仰っていました。「どのジャンルにも当てはまらない」というのは、自分達の音楽や今回のアルバムにおいて重要だと言えそうですか?

モーガン:もちろん! それは活動を始めた時から意識していたことだ。俺たちは、人に「このバンドはこういうものだ」などと言われたり、枠にはめられないようにしようという思いが強くあった。そういう風に音楽をカテゴライズするのはよくあることだし、その人の立ち位置でその人なりに理解しようとしているのだと思う。俺たちを他のバンドと比較したり引き合いに出したりするのを聞くと、その人が今までにどういう音楽を聴いてきたのかという背景が見えてくる。数年前は、他のバンドと比較されると「いや、そういう感じじゃないんだけどな」と思ってフラストレーションを感じていたりしていたけど、その人の大好きなバンドと俺たちを比較しているのなら、それ以上の褒め言葉はないんだなということに気づいたんだ。でも、どんな枠にもはめられたくないという思いはあるよ。それに俺たちの作曲の仕方は自然な感じだから、「じゃあマスロックの曲を作ろう!」とか「ノイズロックの曲にしよう」とか「フォークっぽい曲をやろう」と意識して作曲をしているわけじゃないからね。音楽が自然に出てくるんだよ。

キング・クリムゾンとビル・ブルーフォードへの敬愛

―他のバンドと比較されることについてもう少し質問させてください。今回のアルバムを紹介する文章ではキング・クリムゾンの名前が頻繁に出てきます。制作者自身としては、『Cavalcade』にもキング・クリムゾンの影響は強く出ていると思いますか? それともあまり関連がないように思いますか?

モーガン:キング・クリムゾンは、俺たちがそれぞれ直接的に影響を受けてきたバンドの1つであることは間違いない。マジでやばい。俺の理解を超越した境地にいる(笑)。本当に凄まじいバンドだ。でもその影響は『Cavalcade』だけに表れているわけじゃないと思う。昔から参考にしていたバンドなんだ。とは言ってもリハーサルで「キング・クリムゾンみたいな曲を作ろう」としているわけじゃないよ。ただ、全員にとって影響が濃いバンドを挙げるとするなら、キング・クリムゾン、マハヴィシュヌ・オーケストラ、スワンズ、ボアダムズだと思う。俺たちはバンドだから、音楽の好みが共通している時もあるけれど、逆に、他のメンバーが誰も聴かないような音楽を聴く時もある。だからバンドとしての影響は様々なものがあるんだけど、キング・クリムゾンはクソやばいよ。ただただ最高すぎる!



―では、『Cavalcade』にも影響があるならば、具体的にどの曲のどの部分に影響が表れていると思いますか?

モーガン:いい質問だね。(しばらく考えて)アルバムの曲だと、よく言われているのは、「John L」の中盤で、ギターとベースとドラムで、対位法っぽい感じのポリリズムなパートがあって、その後に音がいきなり止まるんだけど、その部分はキング・クリムゾンの影響が強いとたくさんの人に言われているよ。そうかもしれないね。ただ何度も言うけど、俺たちは別に「キング・クリムゾンならどうするだろう?」と考えながら作曲しているわけじゃないからね(笑)。あとは、このアルバムだと何だろうな…「Ascending Forth」かな。

―それは私も感じました! その辺を詳しく話してください。

モーガン:そう? あの曲はジョーディが書いたんだけど、俺たちがみんなで曲を仕上げていた時は、キング・クリムゾンのメロディックで美しい一面を意識していたと思う(※)。

※筆者注:どちらかといえば『Lizard』や『Islands』を直接的に連想させる優美なパートがある。




モーガン:話が少し逸れるけど、俺は3週間くらい前にビル・ブルーフォードと会う機会があったんだぜ!

―すごい! それはどのような経緯ですか?

モーガン:ポッドキャストの企画だったんだよ。俺のところに連絡があって「対談してみたい人はいますか?」と聞かれたから、ビル・ブルーフォードと答えた。そしたら、その数日後には彼の自宅を訪ねていて話し込んでいたってわけさ。本当に素晴らしい体験だった。作曲のプロセスなどについて話していたんだけど、ビルはブラック・ミディとキング・クリムゾンをよく引き合いに出して話してくれた。すごく良い人だったよ。

【関連記事】プログレ史上最高のドラマー、ビル・ブルーフォードが語るイエス、クリムゾンと音楽家人生

Morgan Simpson of black midi chats with Bill Bruford (King Crimson) on this weeks @Talkhouse Podcast

Listen at https://t.co/x3WFl5S2S9 pic.twitter.com/KWpzeOSJhc — RoughTradeRecs (@RoughTradeRecs) July 1, 2021 モーガンとビル・ブルーフォードのドラマー対談はTalkhouse Podcastで公開中。フィル・コリンズやビリー・コブハムなどについても語り合っている。

モーガン:ごめん、脱線しちゃったけど何を話していたんだっけ? そう、「Ascending Forth」はキング・クリムゾンの影響が深いところにあると思うね。あとは何だろうな…? 他に何かあると思う?

―特に顕著だったのは「Ascending Forth」ですね。でも前作『Schlagenheim』を聴いた時もキング・クリムゾンみたいだなと思って、それがきっかけでまた聴くようになりました。キング・クリムゾンについてもう1つ聞かせてください。どの時期の作品が好きで、どんなところが好きですか?

モーガン:俺にとっては……うーん、難しい質問だな。一番好きなのは、『Larks Tongues in Aspic』(※)に間違いない。色々な意味でぶっ飛ばされる。音楽的にも強烈だし、各パーツの作曲も素晴らしい。各パーツの存在感がすごいんだよ。アルバムが作られた1973年に俺はまだこの世にいなかったけれど、今までにあんなものを聴いたことがある人は誰もいなかったと思うよ。それ以前にもキング・クリムゾンはアルバムを出していて、『Islands』や『Lizard』、『In the Court of…』だっけ?

※筆者注:緻密な作編曲を主体とした初期の活動が1971年の『Island』に伴うツアーで瓦解したのち、リーダーであるロバート・フリップは即興演奏に長けたメンバーを招集(ブルーフォードもここで加入)し新たなラインナップで活動を再開。本作はその開幕を告げるアルバムで、交響曲的な展開構築と集団即興演奏を同時進行的に両立する音楽性が絶賛された。この編成は翌年の『Starless and Bibleblack』および『Red』発表後に解散することになるが、静と動を魅力的に兼ね備えた音楽性はロック史上最強バンドの一つという呼び声も高く、メタルやハードコアパンクも含む様々なジャンルに絶大な影響を及ぼしている。

―『In The Court of the Crimson King』。おっかない顔の奴がジャケットのやつですね。

モーガン:そうそう、そういう作品もあったけど、それらはトラディショナルなプログレッシブ・ロックな感じだった。作曲に関して言えばね。ジェネシスやイエスに近い感じだった。でも『Larks Tongues in Aspic』では方向性がガラリと変わって、何と言うか、このバンドの本性が現れたなと思った。アーティストがその真の姿を現す瞬間というのがあって、キング・クリムゾンにとってのその瞬間は『Larks Tongues in Aspic』だったんだ。他の例で言うと、プリンスがプリンスというアーティストになったのは『Dirty Mind』だと思う。マイケル・ジャクソンは『Off the Wall』でマイケル・ジャクソンになった。そのアルバム以前にも作品は存在しているんだけど、「このアーティストはこういうことか!」と納得する決定的作品がある。『Larks Tongues in Aspic』は俺にとって、そういうアルバムなんだ。



モーガン:とにかく実験的で……でも「実験的(experimental)」という言葉は頻繁に使われすぎているんだよな……本当に実験的なんだよ、あらゆる側面で。ギターのトーンや、メロディ、ドラムのパートなど。ビル・ブルーフォードのすごいところはそこなんだ。ドラムの使い方のユニークさ。彼は話してくれたよ。バックビートをあえて演奏しないでドラムを前面に出すようにしたと。「ドンチャ、ドンチャ」という一般的なビートは誰もがやっているから、ビルは自分でしかできないユニークなことをやろうと考えたらしい。そしてそれを見事にやってのけた。彼が成し遂げてきたバンドを聴けばわかる。イエス、キング・クリムゾン、そしてジェネシス。とにかく俺の一番のお気に入りは『Larks Tongues in Aspic』だね。でもビル・ブルーフォードは、1981年にリリースされた『Discipline』が彼の一番だと言っていたよ(※)。彼に一番好きなアルバムについて、俺が質問したんだ。あの時期が一番好きだと言っていた。結構意外だったね。その時のメンバーはビル・ブルーフォード、ロバート・フリップ、トニー・レヴィン、エイドリアン・ブリューで、2人のイギリス人と2人のアメリカ人だったから、それがダイナミックな雰囲気を生み出したんだと言っていた。もちろんその時期のキング・クリムゾンも素晴らしい音楽を作っていて、『Discipline』も良い作品だと思う。『In The Court of the Crimson King』ももちろん最高だ。でもやっぱり俺は『Larks Tongues in Aspic』が一番好きで、あの作品でキング・クリムゾンの真の姿が見えたと思ったんだ。

※筆者注:1981年に再結成したニューウェーブ期クリムゾンの第1作。1974年のクリムゾン解散後、フリップはデヴィッド・ボウイやピーター・ガブリエルなど含む様々なアーティストとの共演を重ねており、そこで得た発想や人脈がこの時期の活動の起点となった。7拍子と6拍子が滑らかに絡む「Frame by Frame」や5拍子のタペストリー的交錯が美しい「Discipline」などのポリリズミックなアンサンブルはガムランやケチャを参照したもので、ニューウェーブならではの民俗音楽志向と従来のクリムゾンのクラシック音楽(ストラヴィンスキーやバルトーク、ラヴェルなど)&ジャズ志向が超絶技巧によって完璧に融合。ドン・キャバレロ~バトルスをはじめとしたポストロックやマスロックの手法の礎となった。

ポップとクレイジーの両立

―それでは今回のアルバムの制作背景について質問させてください。『Cavalcade』は、ジャムセッション主体だった前作『Schlagenheim』とは異なり、リモートでアイデアを出し合う緻密な作曲を主体とする方式で制作されたと伺いました。そのような手法を選んだ理由を教えていただけますか。また、そうした新たな手法を選んだことによる利点や苦労したことなどはありますか。

モーガン:『Schlagenheim』の楽曲はメンバー4人で作曲されたものがほとんどだった。みんなが同じ空間にいて、曲のパーツごとにどうするかについて話し合っていた。それはそれで良かったんだけど、そのやり方には課題がたくさんあったのさ。特に2019年はツアーをたくさんやっていたからだと思う。他のメンバーはどうか分からないけど、俺はツアー生活と、ツアーから戻ってきてからの生活を区別するのに苦労していて、それが俺たちの作曲における生産性に影響を与えていたのかもしれない。つまり、2019年を通して俺たちは2、3曲しか作曲することができなかったんだ。だから全然順調に進んでいなかった。

そこで、物事がうまく進んでいないなら、別の方法を試してみようということになった。2020年初めくらいに1週間のUKツアーがあった。コロナの影響が出る直前だよ。そのツアー中は『Schlagenheim』以降の新曲も演奏していた。「John L」と「Chondromalacia Patella」、「Slow」と「Ascending Forth」を2月のライブで演奏した。「Ascending Forth」はジョーディが大部分を作曲してからみんなに紹介した曲なんだ。その時に、こういう作曲の仕方があって、今までとは違う制作もできるんだなと思った。そこからそういう方法にシフトしていって、その上、コロナの影響で同じ空間にいることが実質不可能だったから、個人で作曲をせざるを得ない状況になった。3月末には本格的にロックダウンに入り、6月になってからようやく一緒に制作活動ができるようになった。その時に、今まで各自で作っていた曲――「Marlene Dietrich」「Diamond Stuff」「Hogwash and Balderdash」「Ascending Forth」――を持ち寄って、話し合いながら肉付けして行った。個人的には、みんなと一緒に何かを作っていくというプロセスの方が好きだから、新しい手法に慣れるのには少し時間がかかったね。でも同時に、以前と同じ手法を続けても生産的でないということも十分承知していた。俺がわがままを言っても仕方ないし、最終的に同じ目的地に辿り着くために違った手法にしただけだから納得しているよ。今まではみんなでやっていた作曲を各自がやるようになったというだけで、それぞれの思いや考えを曲に反映することや、出来上がった曲が俺たちにとってパーソナルなものになることは変わらないからね。



―今の話に関連して、アルバム制作におけるサポートメンバーの関与について教えてください。例えば「John L」はサックスやピアノがフリージャズ的に多彩な変化をすることで生じる不協和音が楽曲の重要な要素となっていますが、これはプレイヤー各人の裁量、すなわちその場での即興に任せたものなのでしょうか。もしそうであれば、それは何テイクほど録音しどんな観点から選んだのでしょうか。

モーガン:あの曲に関して言えば、ピアノはジョーディが弾いていたものだと記憶しているよ。「John L」はマルタ・サローニとセッションできた2、3日の間に制作したもので、他のミュージシャンに参加してもらう前にできた曲なんだ。それまでは自分たちだけでできる限りのことをしようという姿勢だった。他のミュージシャンに参加してもらったのは10月、ジョン・マーフィとアルバムの残りの曲を録音した後のことで、サックスやピアノなどを追加した。セス・エヴァンスとカイディ・アキンニビは凄腕のミュージシャンたちで、特にカイディとは付き合いが長い。ジョーディとカイディは昔からの付き合い。俺たちはみんなブリット・スクールで知り合ったんだけど、俺とキャメロンは16歳の時に入学、ジョーディとカイディとマットは14歳の時に入学したんだ。カイディはとにかく最高だよ。昨日もパーティの帰りのタクシーの中で、俺はカイディのことを褒め称えていたんだ(笑)。最高のサックス演奏者だってね。セスも同じくらい素晴らしい。個人的な意見だけど、ミュージシャンの鑑として完璧な人たちだと思う。即興的に思い付くアイデアも素晴らしいし、色々なことを試してみようというオープンな姿勢も持っている。それに、どんな失敗をすることも恐れていない。本当に素晴らしいミュージシャンたちだよ。彼らのような人たちがアルバムに参加してくれてラッキーだった。

彼らのパートをトラックに載せることに関しては、何の問題もなくスムーズにできたよ。それ以前の時点で、俺たちは曲になるべくたくさんのレイヤーを重ねていたから、彼らが演奏する時も、彼らにプレッシャーはなかった。曲に息を吹き込むようなパートが必要なんだってわけじゃなかったからね。ケーキの上にさらに多くのチェリーをのせていくみたいな感じ(笑)。オーバーダブは数日間に分けてやった。セスとカイディに来てもらった時と、俺の彼女のロージーに来てもらった時。ロージーは実は昨晩、カムデンのJazz Café で友人のオリヴィア・ディーンのサポートアクトを努めたんだ。素晴らしかったよ。とにかく、ロージーと、友人のブロッサムがバックヴォーカルで参加して、トロンボーンにはジョー・ブリストウ、「John L」のヴァイオリンにはジャースキン・フェンドリックス。みんな素晴らしいミュージシャンで、それ以前にみんな俺たちの友達だ。俺たちの周りにこのような素晴らしい仲間がいるのは特別なことだと思うし、ありがたいことだと思っているよ。


5人のコラボメンバーも参加した、KEXP収録のパフォーマンス映像

―次に、アルバムの構成について教えてください。Stereogumのインタビューでは、ストラヴィンスキーとメシアンがインスピレーションとなって「Ascending Forth」のメロディができたという話が出てきます。単純なパターンや繰り返しのリフに頼らずに循環的な性質を生むということが「Ascending Forth」では見事に達成されているし、そうした性質はアルバム全体の流れにも宿っていると感じられます。こうしたトータルアルバム的な構成は意図的なものですか? 

ジョーディ:意図的とまでは言わないけれど、音楽に始まりや終わりが感じられないような、無限なものとしての音楽という概念が好きなんだ。マーヴィン・ゲイのアルバム『Whats Going On』にもそういう感じがあって、終わるところから始まる、という感覚がある。でもそれは強制的に循環させているのではなくて、その音楽を聴いているとそれが無限に流れていくという感覚を呼び起こされるんだ。今回のアルバムでもそれと同様に、馬鹿げた細かいパターンに頼らずに、催眠効果があるような音楽を作ろうと思った。パターンを繰り返すということを十分にやれば催眠効果は必ず出てくるし、そういう風に作られた音楽で素晴らしい音楽もたくさんある。だけど、それはある種のカラクリだから、それだけに頼り過ぎたくはない。


ブラック・ミディの最新アーティスト写真として使われているイラストは、前作での3Dアニメに引き続きAnthrox Studioによるもの。


『Cavalcade』ジャケット。日本盤の帯について、バンド側は冨田勲の旧譜の帯を引き合いに色みや帯幅などを提案。それをもとにアートワークを担当したデヴィッド・ラドニックがまとめた。

―次の質問は少し踏み入っているので、秘密にしたい、隠したいと言うことであれば話さなくても結構です。CDの冒頭には「Intro」というシンセサイザーの無限音階的な序曲がありますが、これはアルバムトータルの完成度を高めるために配置されたものなのでしょうか。また、これをストリーミングサービスでは配信していないのはなぜなのでしょうか。

モーガン:そんなことはない、いい質問だと思うよ! これは面白いことだと思うんだけど、アルバムを受け取った側の人たちは、俺たちが考えている以上に物事を深読みすることが多いよね。それに毎回驚かされる。だからこの質問は興味深いね。「Intro」はオーバーダブをやっている最後の何日か前くらいまでアルバムに使うことを決めていなかったんだ。ジョーディがスタジオでシンセサイザーで遊んでいて、ローランドのJupiter 8だったかな? それが壮大な音の鳴るシンセで、俺たちはスタジオにいる間ずっとそれをいじって遊んでいたんだ。その最中に、やばいパッチを発見して、みんなで「この音はすげえー!」ってなった。映画館に入って、これから史上最高の一大傑作を観るみたいな感じがしたんだ。だからその場のノリで、「このサウンドはイケてる!」となって、その上にギターやサックスなどの音を加えて、アルバムの最初にくっつけた。だから、人々が思うほど考え抜かれたものじゃなくて申し訳ないけど、それだけの経緯なんだよ。質問の後半は何だっけ?

―これをストリーミングサービスでは配信していないのはなぜなのでしょうか。

モーガン:そうそう! それは、俺たちの考えとして、音楽とは、ストリーミングサービス以外で聴く方がより深い体験ができるというのがあるからなんだよ。ストリーミングサービスでこの曲を配信しても無駄になる気がしたから。わざわざアルバムのCDを買いに行ってくれた人は、きっと、人生の44分間を捧げてアルバムを通しで聞いてくれると思うんだ。だから、そういう人たちの方が「Intro」の価値を理解してくれると思った。納得の行く答えになっているといいけど。



-もちろん、よく分かります。それでは最後に、ブラック・ミディの音楽におけるポップさについて質問させてください。先に伺ったような循環的な性質や、多彩な要素が融け合う混沌とした構造があるのに、ブラック・ミディの音楽は非常に聴きやすく親しみやすいし、こうした両立具合はバンドの重要な持ち味だと思われます。この持ち味は『Cavalcade』において過去作よりも数段高度に強化されていると感じられるのですが、それは意図的に目指したことですか?

モーガン:それは確かにあるね。かなり強く意識したことだと思う。つまり、自分たちの音楽に、対極の要素を織り混ぜて行くということ。でも今振り返ってみると『Cavalcade』以前は、その対極の1つの側に、より重点が置かれていたと思う。つまり、『Schlagenheim』の楽曲には、ある種の特殊なエネルギーとヴァイブスがあった。俺は自分のアルバムがリリースされたらあまり聴き返さないから、想定を前提に話すけど、『Schlagenheim』というアルバムを、チルアウトしているとき、つまり公園にいる時や、ビールを飲んでいる時や、友達と遊んでいる時に聴いているという状況を想像できないんだよ(笑)。『Schlagenheim』はそういうアルバムじゃないから。ある特定の精神状態でいることが求められる。それはそれで良いことだと思うよ。ある特定のマインドで聴くことが求められるアルバムというのもクールだと思うし。

『Cavalcade』では、君が言ったように、もっと親しみやすくしたいと思ったし、同時にもっとクレイジーにしたいという思いもあった。存在する領域の両端を最大限に活用したいと思った。その考えはアルバムのプロダクションの過程で最も活かされたと思う。俺たちが常に念頭に置いていたのは、ECMレーベルのキース・ジャレットやチャーリー・ヘイデンのアルバムのような、実際に演奏の場にいるように聴こえる素晴らしいレコーディング基準と、フランク・ザッパのようなクレイジーでカオスな音楽を融合させようということだった。俺たちが感じていたのは、そういう2つの対極があって、多くのアーティストはそのどちらかに傾倒しがちで、その間の両方のニュアンスを表現するものがないということで、だから俺たちはその間のギャップを埋めるような表現をしたいと思っていた。それに気付いてくれる人がいるのはとても嬉しいことだよ! 俺たちは音楽を、より身近なものにしたいと思っていると同時に、よりカオティックにもしたいと思っているからね。

―今日は取材に応じてくださってありがとうございました! 来日ツアーが決まって、すごく楽しみにしています!

モーガン:そうだったね! 昨日発表されたんだっけ?(インタビューは6月11日に実施)。日本のみんなに会うのが楽しみだよ。ライブもすごいことになるぜ! そのときにまた色々話そうね! 今日はありがとう!



ブラック・ミディ
『Cavalcade』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11766



black midi japan tour 2021
2021年9月15日(水)梅田CLUB QUATTRO(※キャパ制限あり)
2021年9月16日(木)名古屋THE BOTTOM LINE(※キャパ制限あり)
2021年9月17日(金)渋谷TSUTAYA O-EAST(※キャパ制限を鑑み1日2回公演)
詳細;https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11891

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください