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『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を音楽から紐解く リアーナ、ボブ・マーリーの名曲カバーと「強き女性たちの物語」

Rolling Stone Japan / 2022年11月10日 17時40分

サウンドトラック『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ミュージック・フロム・アンド・インスパイアード・バイ』 (C) MarvelStudios 2022

『ブラックパンサー』の続編『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のサウンドトラック『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ミュージック・フロム・アンド・インスパイアード・バイ』が、11月11日(金)の映画公開に先駆けて配信スタート。リアーナによるリード・シングル「Lift Me Up」を筆頭に、国際色豊かな40人以上のアーティストが参加している。前作に続いて話題を集めそうな『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の音楽面を、ライター・辰巳JUNKが解説する。




前作が成し遂げた「ブラックカルチャーの勝利宣言」

2022年11月11日、ついに『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が公開される。世界中の映画ファンがわき立つ大作だが、それと同時に、壮大な音楽イベントにもなるだろう。

2018年、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)初の黒人スーパーヒーロー映画とされた前作『ブラックパンサー』は、歴史的な記念碑だった。当時の北米では『アベンジャーズ』を超えてスーパーヒーロームービー史上最高の興行成績を達成。黒人同士の信念の衝突を描いた物語も高く評価され、アカデミー賞作品賞部門にノミネートされた初のスーパーヒーロー映画にもなった。

”ヒーローが必要なのは誰だ?
君にはヒーローが必要だろ 鏡を見ろ そこに君のヒーローがいる”
(ザ・ウィークエンド、ケンドリック・ラマー「Pray For Me」)



『ブラックパンサー』が特別だった理由のひとつは、独自のアフリカン・ワールドを創出した点にあるだろう。舞台は、世界から隔絶された超文明国家ワカンダ。同企画で「アフリカ人であることの意義」の探究を志したライアン・クーグラ―監督は、MCUとしても珍しい「スタジオ外の人材」を集めていったという。重要視された音楽面も同様である。起用されたのは、監督の盟友であるスウェーデン出身作曲家、ルドウィグ・ゴランソン。そして、作品とリンクするインスパイアアルバムの制作を委託されたのが、トップ・ドッグ・エンタテイメント、当時そのエースだった(現在は独立)ラッパー、ケンドリック・ラマーだった。

ケンドリックがキュレーションした『ブラックパンサー:ザ・アルバム』は「2010年代最高のサウンドトラック」という評価を打ち立てている。彼に加えてフューチャー、シザ(SZA)、カリード等の北米ラップ/R&Bスター、そしてベイブス・ウドゥモ、ジャヴァといった南アフリカのアーティストも集結。豪華なヒット作というだけでなく、作品テーマやキャラクターの心情を深掘りするアルバムになっていた。

なにより、映画とともに「ブラックカルチャーの勝利宣言」として受け止められた。『ブラックパンサー』が公開された2018年は、R&B/ヒップホップがアメリカで最も人気な音楽ジャンルになったと発表された年でもある。アメリカ社会とエンターテインメント業界で疎外、搾取されつづけてきた黒人の人々のクリエイティビティが内実ともに頂点に立ったこと。それを明確化した記念碑こそ、この映画でありアルバムなのだ。それゆえ『ブラックパンサー』最大のレガシーとされているのは、厳しい環境に立たされがちな黒人の子どもたちに希望と勇気を与えていったことだ。「Pray For Me」にてケンドリックが「ヒーローが必要な君」に贈ったラップは、黒人スーパーヒーローのメッセージを体現している。「君こそが君のヒーローだ」。

6年ぶりカムバック、「母親」リアーナ起用の背景

そして2022年、待望の続編『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が完成した。今回の音楽布陣も強力だ。音楽ファンにとってのインパクトは前作以上だったかもしれない。スーパースターたるリアーナ6年ぶりのカムバック・ソロ曲「Lift Me Up」がリードシングルとしてリリースされたのだ。

”絶望的な夢の中で身を焦がしている 私を抱きしめながら眠りについて”
(リアーナ「Lift Me Up」)



早速Billboard HOT100初登場2位を記録した「Lift Me Up」は、子守唄のようなバラード。そのシンプルさゆえに、リアーナの歌声が唯一無二である証明とも評されている。ポイントとなるのは、作詞にも参加したクーグラ―監督が、人選の理由に「母性」をあげたことだろう。事実、ラッパーのエイサップ・ロッキーとの子どもを出産したばかりのリアーナは”私の許でゆっくりしてね”とやさしく歌っている。この愛情深きヴァイブは、おそらく『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の物語と深くリンクしている。

歴史的な大成功を遂げた『ブラックパンサー』は、喪失の悲劇に直面したシリーズでもある。主人公ティ・チャラ王を演じたチャドウィック・ボーズマンは、2018年、大腸癌によって逝去した。映画関係者の多くが彼の闘病を知らなかったとも伝えられている。マーベル・スタジオ、そしてクーグラ―監督は、ティ・チャラの代役を立てることはしなかった。そうして『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は大切な存在の喪失、追悼を描く続編として打ち立てられたのだ。長らく音楽業界を離れていたリアーナが楽曲提供を引き受けたのも「チャドウィックに捧げるため」だという。

『ブラックパンサー』は、元々「女性キャラクターが魅力的な映画」として喝采されてきた。主人公ティ・チャラをとりまく妹シュリ、母ラモンダ、護衛隊長オコエ、スパイのナキア……今作では、偉大な王を喪った彼女たちが試練に立ち向かう物語になると予想されている。予告編時点でアンジェラ・バセット演じる母ラモンダの張り裂けるようなスピーチにフォーカスされているため、母親となったリアーナによる子守唄のような歌声は、映画館でより深く響くだろう(ちなみに、鑑賞済みの批評家のあいだでは、アンジェラと「Lift Me Up」がともにアカデミー賞の有力候補とささやかれている)。

ボブ・マーリー名曲のカバーと「強き女性たちの物語」

公開に先がけ、サウンドトラック『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ミュージック・フロム・アンド・インスパイアード・バイ』もリリース済みだ。メキシコ人俳優テノッチ・ウエルタ演じる海の王国 タロカンの王ネイモアがワカンダに襲来する物語なだけあり、重要視されたのはメソアメリカ、およびナイジェリアの音楽文化。本アルバムでも、ピンクパンサレスやストームジーに加えて、ジャスティン・ビーバー「Loved By You」への参加でもおなじみのバーナ・ボーイ、マヤ語でラップするパット・ボーイ等が参加している。



とくに注目が大きいのは「Lift Me Up」制作にも参加したナイジェリア出身シンガーソングライター、テムズ(Tems)だろう。同じくサウンドトラックに参加しているフューチャーとの「WAIT FOR U」が大ヒット中の彼女は、今回ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの名曲「No Woman, No Cry」をカバーしている。

”女性よ 泣かないで”
(Tems & Marvel「No Woman No Cry」)



説明不明の名曲は「『ワカンダ・フォーエバー』にとって完璧な選曲」と語られている。ボブ・マーリーの私的な歌とも言われるが、ザ・ウェイラーズのベーシスト、アストン・バレットはこのように説明している。「もちろん、母親、女性の強さについての曲だ。俺らはしっかりした女性を愛しているからね」。

耐えがたき喪失を描く『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』だが、きっと、強き女性たちを中心にして、未来への希望も指し示してくれるはずだ。「No Woman No Cry」カバーが使用された特報映像では、テムズがやさしく歌声を重ねていく。”きっとすべてがうまくいく (Everythings gonna be alright)”。そして、その旋律は、前作でティ・チャラの勇姿を飾ったケンドリック・ラマーによるブラック・ライブズ・マター・アンセム「Alright」に变化を果たすのだ。”俺たちは大丈夫だ(we gon be alright)”。






サウンドトラック
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ミュージック・フロム・アンド・インスパイアード・バイ』
配信リンク:https://marvelmusic.lnk.to/BPWF



『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
2022年11月11日(金)映画館にて公開
監督:ライアン・クーグラー
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:レティーシャ・ライト
©MarvelStudios 2022
公式ページ:https://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther-wf




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