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ボーイジーニアス独占取材 世界を揺るがす3人の絆とスーパーグループの真実

Rolling Stone Japan / 2023年2月17日 17時0分

左からジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダッカス、フィービー・ブリジャーズ(Photo by Ryan Pfluger)

今週末2月18日より来日ツアーが始まるフィービー・ブリジャーズと、ジュリアン・ベイカールーシー・ダッカスの3人によるスーパーグループ、ボーイジーニアス(Boygenius)がデビューアルバム『the record』を3月31日にリリースする。ニルヴァーナの表紙オマージュで大反響を巻き起こした、米ローリングストーン誌のカバーストーリーを完全翻訳。


アヴェンジャーズの出会いと再会

午前10時、マリブのズマ・ビーチは閑散としており、視界に入るのはハスキー犬1匹と腰まで海に浸かったサーファー1人だけだ。11月下旬の空はクレヨンで描いたようなセルリアンブルーで、完璧と言っていい日差しが降り注いでいる。それはまるで、トニー・ソプラノが夢に見た世界のようだ。もしかすると筆者は既に死んでいて、あの世で世界一エキサイティングなインディーバンドと対面しているのかもしれない。そう口にすると、ボーイジーニアスとして知られるジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・ダッカスの3人は声を上げて笑った。「煉獄でのランデブーってわけね」。現在27歳のダッカスはそう話す。「あなたの人生はどうだった?」

だが、紛れもなくこれは現実だ。当代屈指のソングライター3人からなるボーイジーニアスは昨年、デビューEPを発表した2018年以来初めてスタジオに入り、傑作と呼ぶにふさわしいデビューアルバムを完成させた。彼女たちは今、メディアの前で初めて同作について語ろうとしている。ビーチを歩く3人の姿は、「Anywhere for You」のビデオでのバックストリート・ボーイズを彷彿させる。大きく異なるのは、彼女たちには気負ったところがまるでないという点だ。

ブリジャーズ:昨日の夜、母さんが私の家で初めてのタトゥーを入れたんだ。

ダッカス:私は高校の時に、お母さんが入れるタトゥーをデザインしたよ。

ブリジャーズ:私、これからタトゥーを入れまくるつもりなんだ。

ベイカー(多くのタトゥーを入れている):ようこそ!

ダッカスは紫のフレームのサングラスと、白のコーデュロイのベースボールキャップを身につけている。砂浜に立つ現在27歳のベイカーは、黒のセーターの下にホットピンクのTシャツというルックだ。ロサンゼルスで生まれ育ち、近郊のカラバサスに最近家を買った28歳のブリジャーズは上下ともトレードマークの黒でまとめつつ、「ルーシーは私のことが好き、オヤジは私のことが怖い」とプリントされたベージュの野球帽を被っている。それはダッカスが2021年に発表した傑作アルバム『Home Video』に収録された、友人のろくでなしの父親を殺害する想像を膨らませる「Thumbs」にちなんでいる。


ボーイジーニアス 2022年11月29日カリフォルニア州ロサンゼルスで撮影
Photographed by Ryan Pfluger SUITS AND SHIRTS BY GUCCI. TIES BY VITOROFOLO.

ボーイジーニアスはクラシックロックが大好きだ。2021年にInstagram Liveでポール・マッカートニーと対話した時に、ブリジャーズは感動のあまり涙を流した。その一方で彼女たちは、ヒーローが常に男性であるという固定観念の打破に快感を覚え(バンド名はなすこと全てが褒め称えられる自信過剰な男性のリファレンスだ)、男性メンバーだけの有名なバンドと同じように扱われることを何よりも望んでいる。3人がソファに腰かけたデビューEP『Boygenius』のジャケットは、クロスビー、スティルス&ナッシュのデビュー作のそれと同じ構図だ。また本誌のカバーが、1994年1月号の表紙を飾ったニルヴァーナの写真のレプリカであることに気づいた人も多いだろう。

ベイカー、ブリジャーズ、ダッカスはそれぞれソロとして人気を得ているが、特にブリジャーズはパンデミックの最中にリリースされ、父親世代の耳にも届くほど話題を呼んだ2枚目のアルバム『Punisher』(グラミー賞4部門ノミネート)と、テイラー・スウィフト(今春のツアーでブリジャーズを前座に指名)、ポール・マッカートニー、ロード等のビッグネームとのコラボレーションを通じて大ブレイクを果たした。それでも、各自がクィアだと公言しているボーイジーニアスの3人は、全員が対等であることを常に重視してきた。フロントウーマンは存在せず、各自でアイデアを出し合い、全員が拒否権を有している。「互いに高め合うこと、それが私たちのアプローチ」とブリジャーズは話す。「全員がリードシンガーを務めて、その興奮を共有すること。結成当初から変わらないそのコンセプトが、このバンドの核になっている」

バンドの心臓であり、どこまでも感情的なボーカルで聴き手を圧倒するベイカー。メランコリックなメロディで恋の切なさを雄弁に物語り、ボーイジーニアスの魂を担うブリジャーズ。読み漁っているというロシアの小説に引けを取らないほどドラマチックな曲を生み出す、バンドのブレーンであるダッカス(ロックダウンの最中に読んだ『戦争と平和』を、彼女は「イケてる」と評している)。全員の共通の友人であるパラモアのヘイリー・ウィリアムスは、ボーイジーニアスについて「アヴェンジャーズのような存在」と語っている(彼女はバンドの写真撮影に乱入したのかもしれない)。


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ダッカスとベイカーの出会いは、2016年にワシントンD.C.で行われたショーだった。「楽屋に行くとルーシーがいて、『ある婦人の肖像』を読んでいた」とベイカーは話す。「きっといい友達になれると思った」。両者とも宗教を重んじる南部の出身(ベイカーはテネシー州、ダッカスはバージニア州生まれ)だったこともあり、2人はすぐに打ち解けた。ダッカスは本の最後の白紙のページを破り、自分のメールアドレスを書き記した。ほどなくして2人は長いメールを交換し始め、おすすめの本を教えあったりするうち、互いに恋心を抱くようになったが、2人がそれを認めたのはしばらく経ってからだった。

ベイカーとブリジャーズが出会ったのはそれから約1カ月後だったが、2018年に3人のジョイントツアーが決定すると、彼女たちはショーのプロモーション用の7インチシングルをレコーディングするつもりでスタジオに入った。「1曲だけのはずが、結局6曲も録っちゃって」とブリジャーズは話す。「喩えじゃなくて、文字通り恋に落ちたってこと」

同年秋にリリースされたセルフタイトルのデビューEPは、ファンと批評家の両方に衝撃を与えた。3人が奏でる感情に満ちたギターミュージックは、(数世代前の)誰もがロックに夢中だった時代を思い起こさせ、その復権を予感させた。互いにタイプの異なる才能の持ち主でありながらも、バンドが鳴らす音楽に確かな一貫性が宿っている理由の1つは、彼女たちが根本的な部分で互いに共感し合っているからだろう。「3人とも、この仕事の楽しいとは言えない部分をよく知っていたから」とダッカスは語る。「ほとんどの人に理解してもらえないことを、私たちは共有することができた」。ブリジャーズは2人と一緒にいると、「自分が抱えている問題が気のせいなんかじゃないってことを認識できる」という。



3人がフルアルバムを完成させるまでには、4年の歳月を要した。その間、彼女たちはほぼ全てのインタビューでボーイジーニアスの再集結の可能性について尋ねられたという。その度にはぐらかしていた彼女たちは、海岸に打ち寄せる波の如く、今日この場でもそういった質問に対するお決まりの回答を繰り返した。「またチャンスがあれば」(ブリジャーズ)「予定は未定だけどいつかは」(ベイカー)「そうなりますように!」(ダッカス)

3月31日にInterscopeから発売される『the record』は、全員にとって初のメジャーレーベルからのリリースとなる。緊張感の漂うコード進行、ウィスパーからシャウトまで振れ幅の広いボーカル、年下のいとこがTikTokに投稿した口パク動画が目に浮かぶようなリリック(首にタトゥーの入ったカウボーイ、「冬のビッチ」と呼ばれる人物、階段から転げ落ちる誰か)まで、本作が2023年のベストアルバム候補であることに疑いの余地はない。

ベイカーとブリジャーズ、ダッカスは、それぞれソロとしてのキャリアと目標に集中することもできたはずだ。だが、3人はバンドとしてアルバムを作った。「このバンドでは、ソロで形にできないことを追求する自由が与えられていると感じる。私が信頼し、心から尊敬するソングライターたちとそれを共有できるから」とベイカーは話す。「そのことに、私は偽りのない誇りを持ってる」

ブリジャーズがこう付け加える。「私たちはお互いに夢中なの。2人と一緒にいる時、私は自分のことがより好きになれるから」

ジュリアン・ベイカーの葛藤と信念

ベイカーは浜辺で丸一日過ごすタイプではない。テネシー出身の彼女は、これまでの人生でビーチを訪れたことが片手で数えられる程度しかないというが、それくらいでいいのかもしれない。マリブでの作曲合宿の時に、波が高すぎるからやめた方がいいというブリジャーズの助言を無視して、ベイカーは泳ぎに出た。「水面から顔を出して十分に息を吸う間もないくらい、波に飲まれっぱなしだった」と彼女は話す。「自分の中の逞しい部分が『私は十分に鍛えられてる。これくらいの波なんてどうってことない』と主張してたけど、実際はそうじゃなかった。下手すれば溺れてたと思う」

海の中でもがきながら、死を意識した瞬間もあったという。「死に方としては悪くないかもしれない、本気でそう思った。残された人々にトラウマを与えるような、孤独で暴力的な終わり方じゃないし、悲惨な病気に体を蝕まれるわけでもない。私はビーチで友達と楽しい時間を過ごしてたわけだから。子犬に窒息死させられるようなものだって思った」

その出来事は、『the record』の中でも突出してロック色の強い「Anti-Curse」を生み出した。同曲でベイカーは、イースターエッグをいくつも折り込みながらあの日のことを振り返る。”肺に入り込んだ塩”というラインは、ダッカスが歌うボーイジーニアスの曲「Salt in the Wound」を思わせるが、後半にはブリジャーズの「Savior Complex」のメロディが出てくる。「これぞライトモチーフ!」とベイカーが声を上げる。さらに、彼女は同曲でブリジャーズのお気に入りであるジョーン・ディディオンの「こんなにも若い人がいただろうか」というフレーズを引用している。

カリフォルニアらしからぬ曇り空の日の朝、筆者は『Abbey Road』をリピート再生しているベニスのカフェでベイカーと会った。黒のスキニージーンズはドクターマーチンのブーツの全体が見えるくらいまでロールアップしており、ハンターグリーンのジャケットの胸ポケットには、ノルウェーのブラックメタルバンド、メイヘムのワッペンが貼られている。袖からのぞいている拳の一方には「Hard」、もう一方には「Work」の文字が刻まれている。彼女の後方に1匹の蜂が寄ってきた時、ベイカーは穏やかな声でこう言った。「あなたの住処の上に家を建てちゃってごめんね」

取材の場にこのカフェを選んだ理由は、この店がベイカーのお気に入りであるエスプレッソトニックを出すからだ。去年3月に建てたテネシー州グッドレッツビルの家にいる時、彼女はアンゴスチュラビターズのオレンジにシンプルなシロップを混ぜ、オレンジのスライスを乗せているという。料理が好きで、サーモンの照り焼き、ツナステーキ、テラピアとハタのタコスなど、シーフードと野菜のグリル料理を好んで食べる。3年間交際を続けているマライア・シュナイダーは、パンを焼くのが得意だそうだ。

飼っている2匹の犬の話をする時、ベイカーは自然と笑顔になる。「私は典型的なクィア女性で、すぐに犬の話題にしようとしてしまう」と彼女は話す。「50歳になった時、ピットブルの保護施設かなんかを運営してるような気がする」



ハードコアなファンは、焼けつくようなギターから胸を揺さぶる簡潔なフレーズまで、ボーイジーニアスの曲におけるベイカーの役割を瞬時に理解するだろう。『the record』の2曲目「$20」は、ヘヴィなリフと”バッド・アイデアだと分かっていても、私は乗り気”というラインで幕を開ける。ベイカーは同曲のテーマについて、「抑え込もうとしている、熊を指でつつきたくなるような欲求」だとしている。またこの曲は、ベトナム戦争への反対を示したバーニー・ボストンの写真「Flower Power」へのオマージュでもあるという。「子供の頃に感じてた、人生に対する不満や葛藤と外界の間で生まれる摩擦を思い出した」と彼女は語る。「私は子供の頃から、そういうことに関心を持ってた。グリーン・デイの曲を聴いて、『ジョージ・ブッシュを辞めさせろ! 戦争反対! 石油のために誰かが血を流すなんて間違ってる!』と叫んだりしてね。両親は『10歳の子供が何言ってんの』って呆れてたけど」


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メンフィスの福音派の家庭に生まれたベイカーは、幼い頃から自分がゲイであることを自覚していた。「バイブル・ベルトの町に生まれ、教会の重圧を肌で感じていた私たちは、互いに共感できる部分がたくさんある」。ミシシッピでクリスチャンの家庭に生まれたヘイリー・ウィリアムスはそう語る。「誰とでも共有できる話題じゃないけど、突出した知性の持ち主である彼女とは、ごく自然にそういう話ができる。それに、彼女はぶっ飛んだユーモアセンスの持ち主でもあるんだ」

オピオイド中毒を克服した直後から、ベイカーはストレートエッジのハードコアシーンにのめり込むようになった。デビューアルバム『Sprained Ankle』と2017年作『Turn Out the Lights』リリース時の取材の場で、彼女は薬物を絶っていることを明言していたが、その後「自分の信念と価値観を根本から改めることにした」と語っている。「その一環として、こう自分に問いかけた。『私がずっと素面を貫いているのは心身ともに健康でいるためか、それとも極端なことに執着する性格のせいなのか?』。オール・オア・ナッシングってこと。私は素面でいるべきだと思ってる。意志を貫くのは容易じゃないし、常に謙虚であり続けないといけない」

ベイカーは名声をどのように捉え、『the record』のリリースによってより多くの注目を集めることをどう思っているのだろうか。「すぐ怖気づきそうになるのは、自分が田舎者だっていうコンプレックスのせいだと思う」。場所を変え、近所の小さなレストランの席についたベイカーはそう話す。「でも規模が違うだけで、それが自分の仕事だってことは理解してるから。自分の人生をコントロールするために、グリップはしっかり握れていると思う。普段よりも大きな会場で演奏するっていうだけで、家に帰れば近所の家の芝刈りを手伝うっていうのは変わらないし」

彼女はメニューに目を通している。「サンタバーバラ産のウニも追加しようかな」と彼女は言った。「ウニを乗せてトースト? まだ11時だし、そんな冒険心はないかな」

3人だからこそ弾けるユーモア

ビーチで会った時、ボーイジーニアスのメンバーは新曲の公開までに2カ月もないという事実に驚いているようだった。「$20」「Emily Im Sorry」「True Blue」のシングル3曲を同時に発表するうえで、彼女たちは今年1月がベストだと考えた。12月という選択肢はなく、2月は論外だった。

ベイカー:2月は……この話したよね。

ダッカス:2月なんてクソくらえって言おうとしてたでしょ?

ベイカー:ううん、2月は常にクソって言うつもりだった。

ブリジャーズ:常にクソくらえ!

ダッカス:(筆者に向かって)もし2月生まれとかだったらごめんね。



ブリジャーズは2020年6月に『Punisher』をリリースした直後から、特に意識せずにボーイジーニアスの曲を書き始めていたことに、後になって気づいたという。「パンデミックが起きて、創作意欲が薄れてた」と彼女は話す。「ボーイジーニアスのことはいつも意識してたし、3人で『世界ヤバくね?』みたいなメールを交換し合ってた。とにかく友達と繋がっていたかったから。その頃にこの曲を書き始めたんだけど、『これは絶対にボーイジーニアスの曲だ』って思ったの」

その曲とは「Emily Im Sorry」だ。ブリジャーズはデモをベイカーとダッカスに送り、「またバンドやらない?」と提案した。「3人ともその話題に触れるのを躊躇ってた」とブリジャーズは話す。「私たち全員、こんなに盛り上がってるのは多分自分だけだと思ってたから」

ベイカーは自分がどれだけエキサイトしていたかを、三人称を用いて説明する。「ここにいるビッチはGoogle Driveが大好き」。ブリジャーズからデモが送られてきたあと、ベイカーはLogicのセッションファイルが複数入ったフォルダを作った。それぞれのファイルには「boygenius 1」「boygenius 2」「boygenius 3」といったタイトルが付いていた。

「フィービーからは『曲にタイトルをつけないとね』と言われたっけ」。ベイカーはそう話し、大笑いし始めた。ダッカスがこう付け加える。「ジュリアンは曲ができるとGoogle Driveにアップするんだけど、『新曲ができたよ』って知らせてきたりはしない。一番多く曲を書いたのは彼女だね」

3人は2021年4月にカリフォルニアのヒールスバーグで、また同年8月にマリブで作曲合宿を敢行したほか、2018年からはグループチャットで頻繁にメッセージを交換していた。「Leonard Cohen」が生まれたのは、ヒールスバーグでの作曲合宿だった。愛犬のパグのMaxineと一緒に、ブリジャーズの運転するTeslaでロサンゼルスに帰る途中、3人はサビがない名曲について話し合った。「私はそういうフォーマットが大好きなんだ。下手をするとロクでもない曲になっちゃうやつ」とブリジャーズは話す。「でもうまくやれば、芸術と呼べるくらい超越したものになる。『Hallelujah』にはサビもあるけど、かなり近いと思う」

具体的な例を挙げようと、ブリジャーズは10分近いインディーシーンの名曲、アイアン・アンド・ワインの2005年作「The Trapeze Swinger」を2人に聴かせた。ブリジャーズは曲に聴き入るあまり進路を間違えていたが、2人は敢えて指摘しなかった。

「私もジュリアンも、曲が終わるまでは黙っていることにしたんだ」とダッカスは話す。「聴き終わった後でこう言った。『本当にいい曲だと思う。グッときた。じゃあUターンして』」

ベイカーはこう付け加える。「あんなに寛容になれたのは初めてだったかも」

「The Trapeze Swinger」と同様にサビがない「Leonard Cohen」は、ダッカスがアコースティックギターを弾きながら、チャーミングなライン(”ドライブを1時間も長引かせたことを、君は恥ずかしく思ってる/でもその間、私たちはより多くの恥を晒しあった/誰にも話したことのないストーリーを打ち明けながら”)、あるいはユーモラスなフレーズ(”レナード・コーエンはかつて、あらゆるものには裂け目があると言った/光はそこから入るんだって/私は実存的危機に直面し、仏教の修道院で官能的なポエムを詠んでるオヤジなんかじゃない/でも共感はできる”)を並べる曲だ。

その36単語は、このバンドの魅力を体現している。ボーイジーニアスは年老いた男性の悲痛な告白を引用しながら、続くラインで嫌味なく茶化してしまうようなソングライターの集まりだ。道を間違えた時に再認識したことを、ダッカスとブリジャーズはそれぞれ一言でまとめてみせる。

ダッカス:私たちの前では恥をかいてもいいってこと。

ブリジャーズ;2人の前では恥を晒してもいいってことね。


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2022年1月の大部分を、バンドはマリブにあるリック・ルービンのShangri-Laスタジオで過ごした。アルバムのレコーディングには、オートラックスでドラムを叩くカーラ・アザールと、ジェイ・ソムのメリナ・ドゥテルテがベースで参加している。1日に10時間以上作業することも珍しくなかったが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』『お嬢さん』『Yellowjackets』等のスリラー映画を観ることが息抜きになっていた。

今作では共同プロデューサーとして、マンチェスター・オーケストラやPJ・ハーヴェイとの仕事で知られるキャサリン・マークスが起用されている。マークスによると、メンバーにはそれぞれ朝のルーティンがあり、ベイカーはトレイルランニングを欠かさず、ダッカスはタロットカードで当日の「ヴァイブスをチェック」していたという。

マークスはブリジャーズと一緒にヨガをすることが多かった。「贅沢な感じがした」とマークスは話す。「例えばマンチェスター・オーケストラとレコーディングする時は、誰もエクササイズなんてやらないから。前日にバーボンを浴びるほど飲むだけ」

レコーディングの開始から2週間が経った時点で、3人はイルミナティ・ホティーズのサラ・タディンを、エンジニア兼アディショナル・プロダクション担当として迎え入れた。タディンの作業場所は、バックヤードにあるボブ・ディランが以前使用していたツアーバスの中だった。「各メンバーがソロの時とは違うカラーを出しているのがよくわかった」とタディンは話す。「ソングライターとしての信念と矜持にはこだわりながら、それぞれが軽薄な一面やユーモアのセンスを表現していたから」

タディンとマークスは共に、「Dont Fuck With My Girl」と題された曲がアルバムに収録されるのかどうか、気になって仕方ない様子だった。その収録が見送られたという事実は、アルバムのクオリティを物語っている。タディンによると、アウトテイクは他にも数多く存在するという。「25曲くらい書き上げたはずだけど、どれもヒットが期待できそうな出来だった」

フィービー・ブリジャーズの憂鬱

ベニスにある植物ベースのレストランでブリジャーズと会った時、彼女は店内を素早く見渡してから、黒のジャケットのフードを脱いだ。プラチナブロンドのヘアを軽く後ろに流した彼女は、オリーブの木に囲まれた中庭の席に着いた。『Punisher』で大ブレイクを果たして以来、外を出歩くことが難しくなったと彼女は話す。「内面には触れることなく、いろんなことを世間と共有するのって難しい」。テンペBLTを口に運びながら、彼女はそう言った。「もし今ソロアルバムのプロモーションが控えてたら、たぶん無理。きっとボイコットする」。彼女は典型的な南カリフォルニアのアクセントでオレンジジュースを注文したが、メニューにないと言われたため、水で我慢することにした。

『Punisher』のプロモーションで、彼女は様々な雑誌の表紙を飾り、深夜のTV番組にも数多く出演した。まだ国民的スターとまではいかないものの、エリオット・スミスやトム・ウェイツのような孤高のミュージシャンを尊敬し、プライバシーを侵害する極端なファンを「Punisher」という言葉で表現する彼女は、世間からの注目に居心地の悪さを覚えているという。「私は根っからのインディー人間だけど、文句を垂れるほど有名じゃないくせにって言われることもある」と彼女は話すが、それはボーイジーニアスのファンも同じだという。「ジョン・レノンの取り巻きくらい熱心なファンがいる一方で、親戚の中には私たちを一文無しだと思ってる人もいる。『いつになったら定職に就くんだ?』みたいなね」

ブリジャーズの母親がタトゥーを入れたのは、彼女が開いたフレンズギビングなるパーティの場だった(彼女のアシスタントのルームメイトはタトゥーアーティストだ)。「1年くらい母さんと口をきいてなかったから、フレンズギビングはちょうどいい機会だった」と彼女は話す。「これなら毎年やりたいと思ったから、今じゃ恒例になってる。母さんとはすっかり仲直りしてるんだけどね」

ブリジャーズが20歳だった2015年に、彼女の両親は離婚している。『Punisher』からのシングル「Kyoto」をインスパイアした父親との関係は複雑だったが、2人はパンデミックの最中に距離を縮めたという。「コロナが流行りだすまでの数年間、父さんとは音信不通だった」と彼女は話す。「パンデミックによって人と会うことが制限されるようになったことで、自分が何を望んでいるのか気づいたんだ。条件や建前なしに、本音で語り合いたいって」。この取材からほどなくして、ブリジャーズの父親は60歳で逝去した。ホットピンクに髪を染めた彼女と父親が並んで座り、イヤホンを共有している写真と一緒に、彼女はこう投稿した。「お父さん、どうか安らかに」

ブリジャーズの存在感は『the record』でも光っている。ボーイジーニアスが2018年に発表した「Me and My Dog」に激しく胸を揺さぶられたリスナーは、「消耗するばかりの恋愛」についての残酷なまでに率直なモノローグ「Letter to an Old Poet」に涙するかもしれない。「あれは自分の生き方を大きく左右する誰かが、等身大以上の存在になってしまうことを歌った曲」と彼女は語っている(誰のことを指しているのかという質問に対してはノーコメントだった)。

「Emily Im Sorry」は、”エミリー、どうか私を許して/少しずつ溝を埋めていきたいの/27歳の私は、まだ自分が何者なのかを知らない/でも何を求めているのかはわかってる”という歌詞が胸を熱くする曲だ。当初ビートルズに関する陰謀論にちなんだ「Paul Is Dead」という仮タイトルがつけられていた「Revolution 0」は、ブリジャーズの「オンラインで誰かを好きになる」体験についての曲だ(彼女は相手が誰なのかを明らかにしていないが、ファンの多くはアイルランド出身の俳優ポール・メスカルのことだと推測するだろう)。「ロックダウン下での濃密な時間は、ただただ美しかった」と彼女は話す。ブリジャーズとメスカルは婚約していると噂されていたが、後に2人は破局したと報じられた。ブリジャーズは多くを語ろうとしないが、今現在婚約していないことだけは明言している。



私生活に関する情報の流出を見事に回避している、テイラー・スウィフトのやり方をお手本としているかと訊ねると、彼女はこう答えた。「私は幸福感が滲み出ているような人々にインスパイアされるけど、私自身はまだそうなろうと努力している段階なんだ」。ブリジャーズはこう続ける。「彼女は深くて賢明な女性で、楽しむということを決して犠牲にしない。自分で定めた境界線を他人に踏み越えさせないっていうルールを、彼女は一貫して実践してる」

「有名人が成功を収めた後に、どうやって幸せになるのかってことはあまり報じられない」と彼女は話す。「私は世界中を一緒に回るメンバーを親友で固めていて、水を差すような存在が入り込まないようにしている」

そのセリフは、SZA『S.O.S.』のハイライトの1つであり、ブリジャーズがゲストとして参加している「Ghost in the Machine」での彼女のヴァースを思い起こさせる。”あなたは言った、私の友人はみんな私の従業員だって/そうなのかもね、でもあんたは最低”。そのラインがメスカルに向けたものだという見方もあるが、筆者はベター・オブリヴィオン・コミュニティー・センターのメンバーであり、一時は彼女と恋仲にあると噂されたブライト・アイズのコナー・オバーストを思い浮かべた。あとでブリジャーズに直接訊ねたところ、「政治家風に言うなら、思い出せない」という回答が返ってきた。彼女はBOCCの今後についても明言を避けており、ただ「わからない」としている。



R&B界のスーパースターであるSZAは、まずオンラインでブリジャーズに連絡をとった。何度かのやりとりを経てコラボレーションに合意した2人は、それから1週間程度で同曲を完成させた。「彼女のことがとにかく大好き」。ブリジャーズはSZAについてそう話す。「占星術、怒り、健康的な境界線とか、私たちはいろんなことについて話し合った。互いに文化的なボキャブラリーを共有していることがすぐわかったから。彼女は現実離れした才能を持ったソングライターだけど、同時にすごく人間的でもあるんだ」

自分がいかに「幸運」であるかを、ジャーナリストから指摘されることは多いという。「『成功を収めた今の気分は?』って時々訊かれるんだけど」とブリジャーズは話す。「私はいつもこう答えてる。『私は説得力のあるものを作った。あなたは黙ってて』」

「女性でありながら」への違和感

マリブのビーチを一緒に歩いた後、筆者はボーイジーニアスの3人とLittle Beach Houseでランチをとった(その店では写真撮影が禁止されているが、ある男性がブリジャーズのところにやって来て「僕の彼女はフィービー・ブリジャーズのTシャツを着て寝ているんです」と告げた。一緒に写真を撮ってほしいという相手の要望を、ブリジャーズは快く引き受けた)。

メンバー3人とも、ファンとの奇妙なエピソードには事欠かない。ベイカーはランニングの最中に、ダッカスはベンチで読書している時に声をかけられることが多く(写真を撮る時は座ったまま応じているという)、ブリジャーズは母親と話しながら目に涙を浮かべて歩いていた時、5ブロックにわたって尾行している人物の存在にまるで気づいていなかったらしい。

「ファンのことを貶すのって、別にアリだと思う」とブリジャーズは話す。「黙ってついてきて、後ろからこっそり写真を撮るようなやり方が間違ってるってことを知ってほしい」

ブリジャーズはオートミルクのコルタードを飲みながら、時々ストーブに手をかざしている。彼女はオヒョウのグリル焼きと柚子のアイオリソースにココナッツライス、ダッカスはシーザーサラダとシーフードタコスを注文していた。ベイカーが頼んだツナのポケが運ばれてこないので、ブリジャーズが店員に確認したところ、ベイカーは満面の笑みを浮かべてこう言った。「お母さんありがとう」

バンドの3人は全員、筋金入りの読書家だ。ランチ中の話題の大半はフィクションが占め、まるで卓球のラリーをするかのように、3人は最近読んだ作品の感想を述べあっていた。レイチェル・ヨーダーの『Nightbitch』、C.S.ルイスの『天国と地獄の離婚』、ジェニー・オフィルの『Weather』、レスリー・ファインバーグの 『Stone Butch Blues』など。翌日、ブリジャーズはレベッカ・ルーカイザーの『The Seaplane on Final Approach』を筆者に貸してくれた。

エリフ・バトゥマンの『Either/Or』のセックスシーンに話題が及ぶと、ボーイジーニアスの読書感想会は奇妙な方向に進み始める。「私なんか子宮がほぼ完全に閉じちゃったもん」というブリジャーズの発言に、ベイカーとダッカスは大笑いした。「この記事の見出しはそれで決まりだね」とダッカスは言う。

粘膜からシェークスピアが作曲ソフトのAbletonの使い方を学んだ場合のことまで、ボーイジーニアスの3人とテーブルを囲む時はトピックに際限がない。『the record』収録曲の中から、バンドのこういった愉快な側面が最も顕著に表れているものを挙げるならば、「Not Strong Enough」だろう。各自の楽曲への貢献度が最も均等で、”なぜ僕はこんな風なんだろう/君の男になれるほど強くない”というサビの歌詞も印象的な同曲は、シャープなリフと荒れ狂うドラムが強烈なインディーアンセムだ。そのドラムパートは、当時フランク・ブラックに夢中だったブリジャーズのアイデアだ。

シェリル・クロウの「Strong Enough」にちなんだ”君の男になれるほど強くない”というラインをブリジャーズが考えたのは随分前だが、それを最大限に活かせる曲が生まれるまで寝かせていたという。「私たちの中の2匹の狼は、自己嫌悪に陥ることもあれば、自意識の塊になることもある」と彼女は話す。「『僕は君の前に立つ資格なんてない。君の理想のパートナーになんてなれない』みたいな時もある一方で、『僕はあまりに混乱してる。理解するなんて絶対に無理だ!』みたいな時もある。自分がこの世で最も狂った存在だと思えるくらい、自己嫌悪は巨大なコンプレックスにもなり得る。大丈夫、君はそれほど狂ってない。それはすごく自分勝手な振る舞いに結びつくこともあるけど、私はどっちの解釈も好き」

ベイカーがこう付け加える。「あのラインはフィービーのワードプレイと、それをすごく繊細なニュアンスを伴うコンセプトに内包させるスキルを物語ってる」


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優れたバンドのメンバーが全員女性であるという事実は、決して特筆すべきことではない(トラヴェリング・ウィルベリーズやCSNYが「全員が男性のスーパーグループ」と形容されたことがあっただろうか?)。それはベイカー、ブリジャーズ、ダッカスの各自が、近年のインタビューで問題提起してきたことだ。彼女たちは「女性でありながら」成功を収めたという含みのある表現に違和感を覚え、アーティストではなくシンボルとして描こうとする善意の表明を嫌う。「差別化させないということを、私たちはずっと重視してきた。私たちが書いた優れた曲の評価に、不要な基準を持ち込ませないように」とベイカーは話す。「この世界が開かれた場であることを子供たちに伝えるなら、メンバーが全員クィアの女性であることを殊更に強調するよりも、バンドのライブ写真やアルバムのクレジットを見せた方がいい」

ボーイジーニアスの各メンバーは、それぞれインディーレーベルと契約している。ブリジャーズはDead Oceans、ベイカーとダッカスは共にMatadorのアーティストだ。しかし『the record』のリリースにあたっては、Interscopeという選択肢がベストだったという。「自分がメジャーレーベルと関わることはないと思ってた」とベイカーは話す。「でも別に、頭ごなしに否定しているわけでもなかった。原盤を自分たちで所有すること、制作における自由とリソースを与えてもらうこと、そういう条件を受け入れた上で、最良のオファーを提示してくれるレーベルを探していただけ」

アルバムのタイトルについては様々なアイデアが出たというが、『American Idiot』『The White Album』『Beach Boys』など、どれもボーイジーニアスらしいユーモアのセンスを感じさせる。「『In Rainbows』っていうのも気に入ってたよね」。ブリジャーズが笑顔でそう言うと、ベイカーは椅子から転げ落ちそうになるほど大笑いした。

「ゲイ!」とダッカスが叫ぶ。

「ゲイ!」とブリジャーズが合いの手を入れる。

ルーシー・ダッカスと「真の友情」

前世で、ダッカスはジャーナリストだったのかもしれない。取材の間ずっと、彼女は録った音声の質を気にかけ、どの発言がオフレコなのかを明確に指定していた(筆者がテーブルを離れている間に、彼女は筆者のことを褒めてくれていたのだが、その会話も録音されていたことを知って赤面していた)。「ルーシーはとにかく、よく気がつく」とブリジャーズは話す。「彼女に気づいてもらうと、すごく愛されてると思えるんだよね」

筆者とダッカスはある日の夜、持ち帰り用ボックスと同じピンク色のベロアのブースがある粋な寿司屋Wabi on Roseで会った。黒のセーター姿で味噌汁をすすっている彼女は、前日の夜にバンドのメンバー2人と遊び過ぎたせいで2時間しか寝ていないという。「あ、ちょっと待って」と彼女は言い、携帯電話を取り出した。「チェスの対戦をしてるんだけど、負けそうで。ちょっとの間だけオタク化してもいい?」

ダッカスは継続的に作曲しており、筆者との散歩中でもそれは変わらない。「作曲は自分自身と対話する手段なんだ」と彼女は話す。ダッカスは会話の途中でも曲の題材となりうるものを察知し、2人とのランチの最中にもこう話していた。「私の生物学上の母さんが、50代になって『ベッドの下に潜んでいたかのような怒りに気づいた』と言ってて。そのセリフにビビッと来たの、ヤバくない? 曲にできるかも!」

ダッカスはヴァージニア州リッチモンドの敬虔なクリスチャンの家庭で養子として育てられた。アルバム『Home Video』では、週に4回教会に通っていたことなど、彼女の生い立ちが描かれている。2018年作『Historian』はリスナーに衝撃を与え、職場を共にする恋人に別れを告げようとする7分近い失恋ソング「Night Shift」(”あなたのシフトは9時5時、だから私は夜勤を選ぶ/もう2度と会いたくない、できることなら”)は特にインパクトが大きかった。多くの共感を呼んだ同曲は、彼女にとっての「Thunder Road」というべき代表曲となった(父親のSpotify Wrappedプレイリストで、彼女はブルース・スプリングスティーンに次ぐ2位となっていたが、彼はこう話していたという。「君が私にとってのNo.1ソングライターであることは、この先もずっと変わらないよ」)。

ヘイリー・ウィリアムスは2017年に離婚した時、「Night Shift」に大いに救われたという。「(ルーシーに)初めて会った時、とても他人だとは思えなかった」と彼女は話す。「彼女の美しくてスモーキーな歌声が、ものすごく心地よかったから」

だがその心地よさは、「悲しみに暮れる女の子」というステレオタイプにつながることも多い。女性のソングライターが特定の感情のみを題材にするという先入観や、sad girl indieなるマイクロジャンルに当てはめられることに対して、彼女は幾度となく違和感を訴えてきた。「私と仲間が生き延びていける世の中であって欲しいだけ」と彼女は話す。「悲しみを内面化してしまったら、それが自分のパーソナリティになってしまう。それは鬱と結びついて、結果的に孤立を招くことも多い。私は少しでも多く喜びを感じていたいし、大切に思っている人みんなにもそうであってほしい。でも個人的なレベルで言えば、私は単にそういう枠にはめられるのが嫌。間違ってるし、黙れって感じ。私はもっとニュアンスに富んだものを表現しようとしているから」

ダッカスは2019年に、リッチモンドからフィラデルフィアに移り住んだ。過去1年半ほどは、家に帰れるのは月に5日程度だった(余談だが、飛行機での移動の際にはいつもCSNの「Helplessly Hoping」を聴いているという)。フィラデルフィアの自宅で過ごす時、彼女は目覚めてから数時間は一切言葉を発さないようにしている。紅茶を淹れてから作業部屋に移動し、キャンドルを灯し、タロットカードを引くのが彼女のルーティンだ。その後は日記をつけたり、読書をしたり、曲を書いているという。「そうするうちに、いろいろと思いがけないことが起き始めるんだ」と彼女は話す。

彼女は友人を大事にしており、バンドのメンバーは特に大切な存在だという。事実、『the record』の収録曲「Were in Love」はボーイジーニアスの絆の強さを物語っている。「Night Shift」が究極の失恋ソングだとすれば、「Were in Love」は真の友情を讃えるラブレターだ。シンプルなアレンジが本質を際立たせている同曲のレコーディング中に、キャサリン・マークスは涙を流したという。ダッカスは同曲でこう歌っている。”あなたが人生の筋書きを書き直すとしても、私はその一部でありたい”

収録曲を選ぶ際に、当初「Were in Love」に票を投じなかったベイカーは、自分の中で折り合いをつけるのに時間を要したという。「親愛の情が具体的に描かれるセンチメンタルな曲に、私は感情移入できないことがある。どこか怖いと感じてしまって。でも今では、あの曲は個人的なお気に入りの1つ」。ドライブ中に完成した曲をメンバー全員で聴いた時、ダッカスとブリジャーズは手を取り合った。



バンドはいくつかの主要都市で『the record』の発表記者会見を開く予定だ。取材に追われる事態を回避するという目的もあるが、一番の理由は楽しそうだから。「ひとまとめにするのって、どこか悪趣味で面白そうでしょ」とダッカスは話す。「フラッシュを浴びまくるフィービーとジュリアンを見るのが楽しみ」

バンドは今年ツアーに出る予定だが(コーチェラへの出演も控えている)、3人が一緒の時は通常ほど消耗しないのだという。「一晩に何千人もの前で演奏していると、時々メンタルが弱ってしまうこともある」とブリジャーズは話す。「他人に共感するのってすごく難しいけど、あの2人だけは別。一緒にいると、暗い気持ちも晴れてくる」

『Home Video』のリリースツアーで150以上のショーをこなしたダッカスも同意する。「3人でいると、自宅にいるかのようにリラックスできる。どの番組にするかを先に決めておいて、ショーがあった日は寝る前に1エピソードだけ一緒に観るの。子供が就寝前に絵本を読んでもらう感じね。2人のおでこにキスをして、布団をかけてあげるつもり」

3人はツアーのアイデアを練っているところで、中にはベイカーがギターソロを弾いている間にダッカスとブリジャーズがキスをするという案もある。3人全員がキスをする可能性について触れると、ベイカーは頭を振って腕を組んだ。「私たちとキスするのは嫌?」とブリジャーズが問いかける。

「自分はオールドスクールな一匹狼だから」と話すベイカーに、ダッカスはこう返した。「アリかもって思ってるくせに!」

ベイカーは両腕を広げ、笑顔を見せる。「もちろん冗談。みんなでイチャイチャしようね」

From Rolling Stone US.



ボーイジーニアス
『the record』
2023年3月31日リリース
再生・購入:https://umj.lnk.to/boygenius_therecord



フィービー・ブリジャーズ「REUNION TOUR」
2023年2月18日(土)京都MUSE
2023年2月20日(月)大阪NAMBA HATCH
2023年2月21日(火)東京Zepp DiverCity
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3824


PRODUCTION CREDITS
Produced by RHIANNA RULE. Photography direction by EMMA REEVES. Fashion direction by ALEX BADIA. Hair by DITA VUSHAJ at TRACEY MATTINGLY using LEONOR GREYL. Makeup by AMBER DREADON at A-FRAME. Manicure by SREYNIN PENG at OPUS BEAUTY. Styling by JARED ELLNER at THE ONLY AGENCY. Vintage fashion specialist: ALEXANDRA MITCHELL for ARBITRAGE NYC. Tailor: ALVARD BAZIKYAN. Production assistance DOUGLAS STUCKEY and KURT LAVASTIDA. Lighting design by BYRON NICKELBERRY. Photography assistance by NICOL BIESEK. Hair assistance by ALEX HENRICHS. Styling assistance by JESS MCATEE.

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