グランドサンが語る自分をさらけ出し音楽を作る理由、マイク・シノダから受け継がれた精神
Rolling Stone Japan / 2024年2月22日 17時0分
カナダのトロント出身のオルタナティブ・アーティスト、grandson(グランドサン)。リンキンパークのマイク・シノダの楽曲「Running From My Shadow feat. grandson」(2018年)でも知られ、パンク、グランジ、ヒップホップ、インディーロック、エレクトロ……様々なサウンドを肉体化した陰影の深いパワフルなサウンドを奏でる。音楽活動と並行して、大きなプラットフォームを持たない活動家を支援する基金「XX Resistance Fund」を創設する等、社会活動にも積極的だ。自身の内面を深く見つめたセカンドアルバム『I Love You, Im Trying』を引っ提げて開催された初来日公演の直前にインタビューした。
【写真】グランドサン撮り下ろし(全5点)
ーライブではモッシュピットを誘発したり、力強くオーディエンスに呼びかけるMCが印象的です。あなたにとってライブとはどんな場所でしょうか?
グランドサン:僕は音楽を使って様々なことを伝えようとしています。それは政治的なことかもしれないし、自分のメンタルヘルスに関することかもしれない。その音楽をライブで演奏することで、誰しもがパワーを宿しているし、自分が望むままの変化を人生にもたらすことができるということを伝えていきたい。モッシュピットに入ったり、飛び跳ねたりすることをきっかけに人生は自分で切り開いていけるんだという気持ちを感じてほしいと思っています。
ー大きなプラットフォームを持たない活動家を支援する基金「XX Resistance Fund」を創設していますが、音楽活動と社会活動の相互関係をどう捉えていますか?
グランドサン:コミュニティの変化に向けて励ましたり、コミュニティの中で取り残された人たちに解毒剤的な音楽を提供するということを目指しています。直面している問題のスケールに圧倒されて何もできない人もいると思いますが、僕の音楽によって少しでもポジティブな方向に向いてもらえることができたら嬉しいです。例えば、僕の歌詞を何かに活かしてくれたり、僕のメッセージを自分のものにしてくれるようなことが積み重なって他の世界に繋がっていく。そういったことをイメージしながら、両方の活動を行っています。
Photo by Yukitaka Amemiya
ー昨年リリースされたセカンドアルバム『I Love You, Im Trying』はインディーロック、ヒップホップやエレクトロといった様々なサウンドが感じられますが、どんなアルバムにしたいと思いましたか?
グランドサン:僕はインターネット世代なので、手軽に様々な音楽を聞くことができる言わば音楽のビュッフェみたいな環境で育ってきました(笑)。自分で曲を作り始めてからも、いろいろな音楽を頂戴して、自分の指紋のついた音楽を作っていきました。音楽、特にロックはありきたりなものをやる必要はないと思っています。僕はソロで活動していますが、プロデューサーと組むことがプレッシャーになったり、具体的に「サビはこうやって作るんだよ」という指示にそのまま従って作るとありきたりのチーズバーガーみたいな音楽が出来上がってしまうことがあります。そうなりたくなかったこともあって、自由にいろいろな音楽を取り入れました。結果、ユニークな創造性がある作品になったと思うし、ロックの伝統的な信念を取り戻せた気がしています。そして、僕自身が自分の音楽の一番のファンだと思える作品にもなりました。
ー前作の『DEATH OF AN OPTIMIST』に比べて、歌詞の内容がパーソナルなものになっていますが、そうなったのはなぜでしょう?
グランドサン:優れたアーティストというのは、個人的なストーリーや政治的なストーリー、周りにあるものすべてを自分の音楽に取り入れるものだと思っています。結局すべてはポリティカルなことに繋がっていると思うんですよね。例えば生活していて、「救われない」と思うようなことは政治家が原因になっていることが多い。一方で、僕にとっては曲を書くことが一番のストレス発散です。世界中でライブをやっていく中で、色々と抱えていたものを楽曲にしたアルバムが作れたことで前に進める気持ちが生まれました。自分の感情や信念を曲にするのはすごくパワフルな体験です。自分のことをわかってもらうためのツールとして音楽を使ってきたんですが、自分をさらけ出した音楽でないとリスナーは入ってくることができません。それが「I Love You, Im Trying」でできたことは誇りです。
ーグランジとラップが融合したような「Eulogy」ではネット社会やメンタルヘルスといった現代にはびこる問題が描かれています。どんな想いで書いた歌詞でしょう?
グランドサン:自分が抱えている悩みや恐怖に浸って、スピーディーに完成した曲です。ミュージシャンは様々なことを言われるので、「自己表現をやっても仕方ないのかな」と思う時もあるんですが、この曲はすごく多くの人に共感してもらえました。崖の上にある灯台にいるような感覚で「誰も聞いてないだろう」と思って書いた曲なのに、いろいろな船が灯台をめがけて近寄ってきてくれたような感覚がありました。
ー「Eulogy」だけでなく、多くの曲が同世代を中心に支持されていることについてはどう思っていますか?
グランドサン:僕の音楽には嘘がなくて、むき出しの真実が描かれているので、そこが受け入れてもらえている理由なのかもしれません。表層的で消費されていく音楽と、掘り下げることで結びつきが感じられる音楽には違いがあります。でも僕は両方の楽しみ方をしてもらいたいんですよね。運動をしながら音楽を聞きたい人もすべてを忘れてテンションを上げたい人もいる一方で、音楽に深い結びつきを求めてる人もいます。すべての欲求に応えられるような音楽が作れたらいいなと思っています。
ー『I Love You, Im Trying』に収録されている「Half My Heart」の作曲・プロデュースは以前から関係性のあるマイク・シノダが手がけていますが、どんな経緯があったんでしょう?
グランドサン:単純に「一緒に曲を作りたい」っていう気持ちから始まりました。マイクは僕にとってのロールモデル。時代の代表者でもある影響力の大きいアーティストでありながら、ずっと好奇心や遊び心を失わない。彼の存在によって、僕をはじめとする下の世代にもずっと遊び心を忘れないという精神は受け継がれていますよね。
ー約6年前にマイク・シノダの「Running From My Shadow」にフィーチャリングされましたが、あのコラボはどんな学びがありましたか?
グランドサン:マイクはバンドメイトのチェスター(・ベニントン)を亡くした直後でしたが、凄まじい集中力を発揮して、アートを使ってファンが共感できる何かを届けることで、「悲しみに負けてしまわないで」ということを伝えたかったんだと思います。あの曲がきっかけでマイクのオープニングアクトとして演奏する機会があったんですが、彼らがいかに作品を通じてファンと深いつながりを持っているかを実感しました。ファンのことを思う姿勢と、音楽を通じてファンと何かを築き上げていく姿勢はすごく勉強になりました。あと、当時僕は23歳だったんですが、マイクはスターなのにすごく謙虚で、僕がスタジオでやったことを褒めてくれました。それに加えて、僕のために空けておいてくれていた最後の歌のパートを僕に任せてくれたんですよね。人を信頼する姿勢にも心を動かされました。
ー他に影響を受けたアーティストは?
グランドサン:たくさんいます。アーティストにかぎらず、社会派のコメディアンであるジョージ・カーリンや作家や詩人。自分のプラットフォームを使って自身の思想を拡散していく人や、ボブ・マーリーのように歌詞を使って自分の個人的なことを歌って世界に影響を与えたり、チャリティコンサートをやって社会的な意義を満たしていく人に特に惹かれます。アメリカや僕が育ったカナダでそういった活動をすることも大事ですが、より様々な文化に広げていく段階に来ていると感じています。
ー今の時代でシンパシーを感じる存在はいますか?
グランドサン:ケンドリック・ラマーやJ・コールといったストーリーを宿している優れたラッパーには共感します。あと、もちろんマイク・シノダです。
ー最後にアーティストとしてのヴィジョンを教えてください。
グランドサン:僕は自分が感じたものを人に伝えられる非常に恵まれた環境にいるので、それを忘れないでいたい。音楽を作ることは自身の解放でもあるんですが、今はそれ以上に人に優れたものを提供できる存在になりたい気持ちが強くなりました。僕が一番強く伝えたいのは怒りです。僕が強く持っている怒りを消化させた音楽を作ることで自然と夢がかなうと思っています。
Photo by Yukitaka Amemiya
<リリース情報>
グランドサン
アルバム『I Love You, Im Trying』
配信中
https://Japan.lnk.to/ILYIT
Official HP:https://wmg.jp/grandson/profile/
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