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文藝天国が2度目のワンマンで表現した、五感がグルーヴする非日常

Rolling Stone Japan / 2024年2月27日 12時0分

文藝天国(Photo by たかつきあお)

文藝天国のキャリア2回目となるワンマンライブ「アセンション」が2024年2月17日(土)、日本橋三井ホールで行なわれた。聴覚、視覚、嗅覚のすべてが嚙み合って初めて感じることのできる快感があることを、ぜいたくな環境で味わうことのできた、特別な一夜になった。本誌独自ライブレポートをお届けする。

文藝天国はバンドではなく、五感それぞれを担う班に分かれた、ひとつのブランドとしての存在を強調している。すでにその活動の大部分が形になっており、音楽班(聴覚)、映像班(視覚)、服飾班(嗅覚)、食卓班(味覚)が、「文藝天国」を構成している(現在、触覚を担う「建築班」を構想中とのこと)。

当日は別会場にて食卓班による「喫茶文藝」、服飾班によるフレグランスメゾン「PARFUM de bungei」が行なわれ、オリジナルのスイーツと紅茶、香水が楽しめる3拠点同時開催となった。そしてライブ会場となる日本橋三井ホールは、開場1時間前には長蛇の入場列が作られた。

「まもなく離陸いたします。快適な空の旅をお楽しみください」。場内が暗転すると白の薄めの幕に、ko shinonome(ギター)、ハル(ボーカル)、すみあいか(VDJ)の3人のシルエットが浮かび上がる。しんとした独特の緊張感に包まれ、幕がかかったまま1曲目「尖ったナイフとテレキャスター」が始まった。2019年、当時高校生だった彼らの処女作『プールサイドに花束を。』の冒頭を飾る曲だ。曲終わりとともに幕が下り、3人の姿が露わに。間髪入れずに「メタンハイドレート」、「七階から目薬」、「夢の香りのする朝に。」を演奏。この日は二部制が敷かれ、「破壊」と名づけられた第一部はミドル~アッパーの楽曲が立て続けに披露された。


文藝天国(Photo by たかつきあお)

文藝天国の全曲で作詞作曲、編曲などを手がけるkoのギタープレイは変幻自在だった。ジャキジャキとしたテレキャスターの音色そのものは2000年代以降のギターロックからの影響を感じさせるが、ソロでは80sあたりのハードロックっぽいフレージングも垣間見えた。また、ピックアップセレクターを細かく切り替えるスイッチング奏法や、ライトハンドでタッピングするという小技も冴え、音源やMusic Filmだけでは見られない、koのたしかなテクニックが見られた。

視覚表現を担当するすみあいかはこの日VDJとしてステージに立った。文藝天国の演奏は基本的に同期と思われるのだが、時おり見せるkoとの目くばせには、ただ音源をタイミングよく鳴らすだけではない、「合奏」というライブならではの醍醐味が感じられた。


Photo by たかつきあお

そしてボーカルを担当するハルである。ほぼ直立不動で、鋭いまなざしで歌う姿が印象的だった。なにかを呼びかけるでもなく、ただひたすらに楽曲の一部(歌唱)として存在することを強調していたように感じた。

第一部の終わり「破壊的価値創造」が終わると3人が捌けステージが暗転。警告音のようなブザーとともに突如ステージに現れたのは、同曲のMusic Filmに出演していたsoanである。


soan(Photo by たかつきあお)

「新ユニット。破壊的価値創造、始めます」というひと言のあとにサプライズ的に披露された、「ラスト・フライト」。文藝天国とは対照的に、soanがステージの端々を動きながら感情的に歌うこの1曲は、事件性抜群だった。この日の夜に、文藝天国の派生ユニットとしてsoanを”主演”(「ボーカル」ではないようだ)に迎えた「破壊的価値創造」がスタートすることがSNS上でも発表された。ここだけ撮影が許可されたので、その一部を目にしたファンも多いだろう。



その後koとすみあいかが再登場し、ふたりが紅茶を楽しむティータイムへ。昼下がりのトーク番組を連想させるほどのユルさに少し拍子抜けしてしまったが、ここまでノーMCかつ怒涛の演出が続いただけに、張り詰めた緊張感が一気に和らいだ。

あいか「夏至も6月だし、冬至も12月で、季節って2カ月早く訪れるものだなと思ってるんです。そう考えると今はもう春が来ているなと思っています。今日は本当にありがとうございます!」。


Photo by たかつきあお

そして第二部「茶会」へ。ステージに3灯の間接照明が焚かれ、落ち着いた雰囲気のなか「秘密の茶会」がスタート。ハルの表情が一部にくらべ心なしか柔らかくなっているように見えた。次曲「天使入門」ではサビですみあいかがウィンドチャイムを鳴らし、キラキラとした音像が広がる。

楽曲の展開や音の質感にマッチしたビデオワークは、その想像を超える完成度の高さだった。視覚表現の中心にあったのは、文字どおりステージ後方、真ん中に施された円形のデザインだったと思う。

たとえば12曲目に演奏された「マリアージュ」。サビ前までは円の周りを白い光がぐるぐると回っていたのが、サビに入りパッとMusic Filmに切り替わった。楽曲の世界観が広がり、没入感が一気に増す。どの曲でもそうだったのだが、どうも、視線がこの円に集中してしまうのである。ステージ演出はすべてすみあいかがipadに描いたものが形になっているということだが、空間デザインと映像を巧みに使った演出は見事だった。

次の「フィルムカメラ」では、これもMusic Filmに出演していた壊死ニキが客席から立ち上がって登場。ステージに上がるのではなく、ポエトリーリーディングとともに客席を走り回る。音楽ライブではなく、演劇の舞台を観にきたかのような錯覚に陥る。


Photo by たかつきあお

14曲目「緑地化計画」で、これまで会場に充満していた香りがフッと消え、空調の冷たい空気が吹いてきた。香りはステージのスモッグと一緒に発せられていたのだと思うのだが、スモッグがなくなったことも相まって、みずみずしく清涼感のある雰囲気に切り替わった。

映像も、これまで抽象的な図形などが流れることが多かったのが、電車の車窓から見たのどかな田園風景が流れたりと、明らかにこれまでとは違う雰囲気に。ストレートなギターロックが、いっそう爽やかに鳴らされた。

16曲目、「エア・ブラスト」は、恐らくこの日初めて同期を使わず、ハルとkoのアイコンタクトで演奏が始まった。ギターソロ終わりに、音源には入っていない電車の音が一瞬カットインされて最後のサビに向かっていった。第一部の「シュノーケル」でも、水の中のポコポコといった音がサンプリングされていたりと、こうした世界観の作り込みが、文藝天国の魅力である。もちろんそこに映像も絡んでくる。聴覚と視覚が、しっかりとグルーヴしていくのだ。

最後に鳴らされたのは「奇跡の再定義」。koがギターヘッドのブリッジ部分をひと掻きしたら、轟音アウトロ始まりの合図。同期の音源にもギターは何本か重なっているはずだが、それらがグシャッと潰れてしまうのではなく、フィードバックがどこまでも美しく響くシューゲ・ナンバーだ。

フェイドアウトで演奏が終わり、大量のスモッグがステージに残されたかと思えば、もうそこにメンバーはいなかった。本当に演奏していたのだろうかと思うほどにあっけなかった。「様々な感覚器官を通して日常に宿る”天国”をつくり続けている」という彼らの言葉を借りるならば、それはたしかにこの日の夜、目の前に起こっていたことだった。


文藝天国
2nd one-man live「アセンション」
2024年2月17日(土)日本橋三井ホール
開場 18:30/開演 19:00
TICKET SOLD OUT

■セットリスト
第一部 破壊
1. 尖ったナイフとテレキャスター
2. メタンハイドレート
3. 七階から目薬
4. 夢の香りのする朝に。
5. seifuku
6. プールサイドに花束を。
7. シュノーケル
8. 破壊的価値創造
9. ラスト・フライト(破壊的価値創造)

第二部 茶会
10. 秘密の茶会
11. 天使入門
12. マリアージュ
13. フィルムカメラ
14. おいしい涙
15. 緑地化計画
16. 宿命論とチューリップ
17. エア・ブラスト
18. 奇跡の再定義

文藝天国Official HP https://www.bungeitengoku.com/

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