DJシャドウが語る追憶の90年代、トライし続けることの大切さ「ヒップホップは世界共通の言語」
Rolling Stone Japan / 2025年1月24日 12時0分
30年以上に渡って、世界中に影響を与えてきたDJ/プロデューサーのDJシャドウ。1996年のアルバム『Endtroducing……』は、デビュー作にしてビートとサンプリングの新たな境地を開いた、ヒップホップの革命的なアルバムとなった。昨年2024年には4年振りとなるニュー・アルバム『Action Adventure』を発表。NAS主宰のMass Appealからリリースされ、インストゥルメンタル・トラックを14曲収録し、今なお進化し続けるDJシャドウの音楽を聴かせている。この『Action Adventure』を引っ提げ、2017年以来7年振りとなる大規模なツアーが行われているが、来日公演では盟友DJ KRUSHのサポート・アクト出演が決まっており、この組み合わせも非常に楽しみだ。
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ーこれまでに日本には何回行きましたか?
DJシャドウ 12回は行ったよ。
ー初来日の時のことは覚えています?
DJシャドウ もちろん。1995年のMo' Waxのツアーで、あれは日本に行ったツアーの中で最も長いものだった。ジェームズ・ラヴェル、DJ KRUSH、FUTURAと一緒で、日によってはMonday満ちるとUFOも出演していた。当時はMo' Waxをアシッド・ジャズだと思っていたファンもいたんだけど、僕とジェームズ、DJ KRUSHはすでにヒップホップ、ドラムンベースの世界に向かっていたんだよね。
ー当時の日本はどうでした? レコード店に行った時の良い思い出などはあります?
DJシャドウ 1995年に行った時はヤバかったね。僕の地元のウエストコーストにはアフリカ・バンバータの「Death Mix」なんてなかったから! それを最初に行ったレコード店で見つけたんだ。「Death Mix」の未開封のレコードが壁に飾ってあったんだよ。それでジェームズとドルに換算するといくらになるのか相談をしていたら、他の人がそのレコードを買ってしまったんだよね(笑)。「Oh no! 急いで買えば良かった……」ってジェームズと話してたら、店員が奥からもう一枚未開封のレコードを出してきて、壁に飾ったんだ。当時の日本のレコード店は最高だったね。
ー2019年のアルバム『Our Pathetic Age』のツアーはコロナ禍で中断になりましたよね。あの時は音楽アーティストとして何を考えましたか? 最新アルバム『Action Adventure』の制作は、まさにコロナ禍の最中にeBayで見つけた200本のミックステープがきっかけになったんですよね。
DJシャドウ コロナ禍は音楽アーティストに限らず、誰にとっても大変な時代だったし、自分では認めたくはないけれど、かなり落ち込んでいたんだ。僕と音楽の関係というのは、常に重要で神聖なもので、2020年の5月あたりからはどんどんダークな方向に向かっていって、究極まで行った時に、今の時代の音楽を全く聴きたいと思わなくなってしまった。それは自分が今いる時代から逃避したかったからで、自分が聴きたいと思ったのは昔の音楽だった。だからコロナ禍の2020年、2021年は自分の音楽を作るなんて全く考えられなかったね。とにかくノスタルジックな音楽を聴いて、幸せな気持ちになりたかった。本来の僕は常に新しいものを発見したいし、新しいアイデアを試したい人だ。でも人生で初めてそういったものに背を向けることになって、自己嫌悪だって感じたし、自分で音楽を作る気にも全くならなかった。僕は過去の音楽を作りたいわけではないし、今の時代の音楽を作りたいからだ。
ミックステープに関しては、友達からオークションを教えてもらったもので、少額だったけど入札したら落札できたんだ。ミックステープを何本か聴いてみると、ボルチモア、ワシントンDC、ヴァージニアのラジオ局の1984~86年のものだった。ミックスを担当していたのはNumarxで、ミリ・ヴァニリがカバーした「Girl You Know It's True」を作ったクルーだ。ミックスは楽しくてエネルギーに満ちたクリエイティブなもので、ラフだけどチャーミングな感じなんだ。そのミックスのおかげで、長い間聴かなかった曲も聴けたし、彼らの音楽のテイストが当時の僕のテイストと似ていることもわかった。自分が若い時に好きだった音楽を第三者の視点を通して再発見できたわけだから、ワオ!って思ったよ。彼らの当時の音楽に対する喜びが僕のところにも来た感じがしたんだ。それで、「OK、僕の準備はできた」ってなったよ。その喜びが鍵となって、僕と音楽の関係が再び開くことになったんだ。
ーそのミックステープを聴いて楽しめたから、良いインスピレーションをもらえたわけですね。
DJシャドウ ジャーメイン・スチュワートの曲「We Don't Have To Take Our Clothes Off」を覚えている? あの曲は有名だよね。でも僕の大好きな「The Word Is Out」は今ではどこでもかからなくて、それが40年振りに聴けたんだ。「ああ、この曲は完全に忘れてたよ!」ってなって。何か心地良い気持ちになれたんだよね。
ーそこからアルバムを作ろうと思ったのですか? それとも自然と曲を作り始めた感じですか?
DJシャドウ アルバムを作るという重荷は背負いたくなかった。「OK、アートを作る準備はできた」というステップを踏み出した感じだった。絵を描くアーティストが、「OK、スタジオにキャンバスを用意しよう」という感じで、とにかく思いついたことを始めてみたんだ。それで実際にやってみて、自分が楽しめるのかどうか、これは人のためなのか、自分のためなのか、そういうことを音楽を作りながら何度も自分自身に確認してみたよ。それで最初の2カ月間やったところで、もう自分としては十分だと思えた。自分がどれだけ進化したのかとか、良いものを作れているのかとか、そんなことはどうでも良かった。自分が何かをクリエイトしているだけで良かったんだ。2週間も経つと、これは良いなと思うもの、今までに自分がやらなかったようなものが出てきたから、そのまま制作を続けることにした。気がつくと6~7曲、満足できるものが出来ていたよ。そこから方向性が見えてきて、制作にも一貫性が出てきて、自分としてはこれはアルバムにしようと思えたんだ。
ー今の話を聞くと、このアルバムにはミックステープにあったノスタルジックな要素もあるし、今の時代の音楽を作ろうと意識した要素もあって、その二つの要素が良いバランスとなって形になっているのが理解できました。
DJシャドウ ありがとう。ファンからは「どうして『Endtroducing』みたいな音楽をまたやらないのか? みんなが大好きなのに」って言われることがちょくちょくあるんだ。僕は「やろうと思えばできるよ。でもあのアルバム以降、何年もかけてやってきたことを忘れることはできない」って答えている。『Endtroducing』を作った当時の僕は、音楽理論について何も知らなかった。だから自分がやっていることもよくわかっていなかった。でも歳を重ね、いろいろな制作を行い、UNKLEの制作を行い、プロのエンジニアと仕事をして、他のアーティストと仕事をして、技術を覚えて、人生の中で少しずついろいろなことを学んできたわけだから、そういったものを忘れるわけにはいかないんだ。たとえ30年前、40年前のアイデアを再発見したとしても、今の自分が持っている知識を活かして、今の音楽にしなくてはいけないと思っている。過去の音楽にインスパイアされながらも今の技術に適応することで、さらに新しいものが生まれるからね。しかもそこには新しいアイデアも加わるわけだから。
ーアルバム収録曲の「You Played Me」はその最たる例ですね。ジャン・ジェロームの1990年のニュー・ジャック・スウィングの曲を、DJシャドウはこんな風に今の時代の曲として蘇らせたんだと思いましたね。
DJシャドウ あの曲は大好きでね。ミックステープにインスパイアされて生まれた曲の良い例だと思うよ。ミックステープにはラップだけではなく、80年代のR&Bもたくさん入っていたんだ。1984~85年当時の僕はR&Bを避けていて、ラジオ局にはラップだけをかけてほしかった。だけど当時のラジオ局はジャネット・ジャクソンやジェッツ、ルーサー・ヴァンドロスをかけていたし、その中でLL・クール・JとかToddy Teeもかけるという感じだったから。
ーアルバムの他の曲でも、シンセサイザーのメロディが素晴らしい一方で、ビートの方は細かいチョップが入っていたりして、懐かしさもあるメロディと最新のビートのバランスが素晴らしかったです。今回、メロディとビートはどのようなアプローチを考えたのですか?
DJシャドウ 『Action Adventure』においては、ソングライティングの中でメロディを活かすことをこれまで以上に重要視した。それまではビートがすべてをリードしていたんだ。だけど今の僕は意識してメロディがすべてをリードできるようにしている。
ー同時に、サウンド・クオリティが非常にクリーンでクリアで、解像度が高いサウンドになっていると思いました。
DJシャドウ ありがとう。そこもスゴく意識している。すべての周波数を分離するのにも、サウンド・デザインをするのにも、より多くの時間をかけているし、どの音も全体の中でちゃんとした役割を持てるように心がけている。僕はエンジニアの学校に通ったことはないけれど、何年にも渡ってトライし続けて、学び続けているんだ。若いプロデューサーが10分でできることも、僕がやると1週間かかったりする。自分に自信を持てたことはないけれど、トライすることはずっと続けているし、使える絵の具の色を増やすような感じで、自分のツールに新しいものを加えることはずっと続けている。
ー『Action Adventure』の曲は今回の来日時にもたくさんプレイしますか?
DJシャドウ するよ。ツアーは「Action Adventure Japan Tour」というタイトルなんだけど、プロモーターからは僕の音楽の集大成的な選曲でやってほしいと言われているから、過去30年以上に渡る音楽もプレイするつもりだ。『Endtroducing』の曲もやるし、『Psyence Fiction』の曲もやるし、『The Outsider』を含めたどのアルバムの曲からも何かしらの要素を取り入れ、ミックスをして、ビジュアルとも絡めていく。僕の音楽を知っている人も、知らない人も楽しめると思うよ。デンバー郊外のレッドロック野外劇場のライブで、若いビートメイカーのオープニングをやった時も、1万人いる観客のほとんどは20代の若者で、僕の音楽を知っている人は10%ぐらいしかいなかったと思うんだ。それでも僕の音楽は観客に届いたよ。音楽はエネルギーだと思っているし、今の時代の音を鳴らしているからこそ届いたわけで、それこそが僕は大切なポイントだと思っている。
DJ KRUSHと僕はヒップホップとの出会いが似ている
ー昔からの日本のアーティストとの交流についても聞きたいのですが、それこそ90年代のMo' Wax時代から、DJ KRUSH、NIGO®、MUROといった人たちとの交流がありますよね。
DJシャドウ NIGO®とA BATHING APEのスタッフとは最初のツアーで出会ったんだ。当時のA BATHING APEはオフィスも小さくて、まだカルト的な存在だった。すべてはジェームズのおかげだね。DJ KRUSHともジェームズのおかげで出会えたんだ。MUROは最初のツアーではなくて、その直後ぐらい、95年か96年に出会っている。僕はヒップホップは世界共通の言語だと思っていて、DJ KRUSHと僕はヒップホップとの出会いが似ているんだよね。ロック・ステディ・クルー、映画『Wild Style』、FUTURAなど、DJ KRUSHには大きなきっかけがあったと思うし、僕にも大きなきっかけがあった。NYで生まれたカルチャーなんだけど、日本にいようが、カリフォルニアにいようが、ブラジルにいようが、僕たちはヒップホップにアクセスしてきたわけで、このカルチャーに全身全霊を捧げてきた。MUROもこのカルチャーをレペゼンしているし、ブレイクビーツに対する愛、ヒップホップに対する愛があったからこそ、アクセスの難しかった時代でも情報を集めて整理し、時には捨てるものがありながらも組み立てることで物語を生み出し、ほとんど宗教に近いもの、一つの世界のとらえ方を作ったと思うんだ。MUROはヒップホップのアイコンだし、僕が非常に共感できる人物なんだ。
ー今回の来日でやりたいこと、ツアーが終わった後の予定について教えてください。
DJシャドウ 昔はデカいバッグを見つけてレコード店に直行したり、A BATHING APEに行ってスニーカーをゲットしたりという感じだったけど、今の僕のアプローチは「禅」という感じかな(笑)。ベンチに座って道を歩く人を見たり、美味しいご飯を食べたりして、大好きな日本にいるというだけでピースでハッピーになれるんだよ。ツアーが終わった後は、すぐに次のアルバムの制作を始めずに、自分の人生で初めてのことだけど、これまでの歴史のアーカイブに取り組みたいと思っている。30年間新しい音楽を作り続けてきたけれど、一度立ち止まって、今までやってきたことに文脈を与えることが重要なんだ。自分が成し遂げてきたことを、すべてのコラボレーターたちとともにお祝いをしたいんだよね。それを僕は正しいやり方で、たった一度だけやってみたい(笑)。ちょうど今日も昔のカセットテープに入っている4曲をPro Toolsに落とし込んだばかりだ。
DJ Shadow - Action Adventure Japan Tour
サポート・アクト:DJ KRUSH
【東京公演】
2025年2月7日(金)Spotify O-East
開場18:00 開演19:00
問い合わせ:ライブネーション・ジャパン LIVENATION.CO.JP
【大阪公演】
2025年2月10日(月)梅田クラブクアトロ
開場18:00 開演19:00
お問い合わせ:梅田クラブクアトロ TEL:06-6311-8111
チケット料金(税込)スタンディング:9800円
※未就学児(6歳未満)入場不可。6歳以上はチケット必要。
※1ドリンク代必要
公演ホームページ:https://www.livenation.co.jp/artist-dj-shadow-3862
企画・制作・招聘:Live Nation Japan合同会社
協力:The Orchard
Website: https://djshadow.com
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