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<独自>遮断機下りないまま列車進入32件 過去3年で、国開示資料を本紙分析 車と衝突事故も

産経ニュース / 2024年4月21日 19時0分

遮断機が正常に下降していないのに、列車が踏切へと進入するトラブルが、令和4年度末までの3年間で少なくとも32件起きていたことが21日、産経新聞の調べで分かった。設備の異常や人的ミスなどが原因。横断中の車が列車と衝突した例もあった。乗客106人と乗員1人が死亡したJR福知山線脱線事故から25日で19年。踏切の無遮断トラブルは、脱線事故のような惨事を招きかねず、鉄道輸送をめぐる安全への意識や対策が再び問われている。

鉄道の事故やトラブルは、事業者から国土交通省への報告が規則で義務づけられている。遮断機が設けられた第1種踏切は全国約3万カ所。産経新聞では、国交省への情報公開請求で開示された資料を基に、遮断機が正しく下りていない状態で列車が踏切へと進入した事例を4年度末から3年間遡(さかのぼ)り、独自に集計、分析した。遮断棒の折損など、別の事故やトラブルが原因だったケースは除いた。

無遮断トラブルは19道府県で確認され、4年度17件▽3年度9件▽2年度6件-だった。原因別では、設備の異常などが15件、運転士や保守点検要員らによる人的ミスが13件で、落雷といった自然災害によるものもあった。資料には、レールに錆(さび)が生じたことで列車接近を検知できなかったり、作業員が踏切の電源を入れ忘れたりといった状況が記されていた。

実際、無遮断の踏切への列車の進入と車の横断が重なり、負傷者が出たケースもあった。

埼玉県皆野(みなの)町の秩父鉄道上長瀞(かみながとろ)-親鼻間で4年7月、遮断機が上昇したために踏切を横断しようとした車と接近した列車が衝突。車のドライバーが負傷し病院へ搬送された。列車の運転士は50メートル手前で遮断機の異常に気づき急ブレーキをかけたが間に合わなかった。付近で停電が発生し、送電がストップした際の設定に原因があった。

踏切の無遮断トラブルは、5年度以降もたびたび発生。6年2月には大阪市西成区の南海高野線の踏切で、列車が近づいているのに遮断機が上昇し、横断しようとした車と列車が接触している。

トラブルが相次ぐことについて、国交省も危機感を抱いており、担当者は「原因はさまざまだが、同じ事象が繰り返されないよう、鉄道事業者には対策を求める」としている。(調査報道班)

地方私鉄でトラブル目立つ 老朽化、設備更新に公的資金も

遮断機が正常に下りないまま列車が踏切内へ進入するトラブルは、人命に被害が及ぶ危険性が認識されつつも、全国で後を絶たない。経営が苦しい地方の鉄道会社の中には、短期間で繰り返しトラブルを発生させたものの老朽化した設備や機器の更新が追いつかず、行政側に公的資金の投入を求めたケースもある。

2月6日午前6時25分ごろ、大阪市西成区にある南海高野線の踏切で起きた事故。遮断機の上昇を確認した上で踏切を横断しようとした車が、接近した列車と接触した。

南海電鉄の当時の発表によると、重傷者はいなかったが、踏切のそばで商店を営む男性は「通勤や通学の時間帯は踏切を通行する人が多い。大事故となっていたかもしれず、恐ろしい」と不安をあらわにする。

国土交通省への情報公開請求で開示された資料を産経新聞が独自に集計し分析したところ、こうした踏切の無遮断トラブルは、令和4年度末までの3年間に20の鉄道事業者で32件発生。JR各社が8件、私鉄が24件。私鉄の中には企業規模が比較的小さく、営業する路線の距離が短いにもかかわらず、トラブルを繰り返す例もあった。

高松市を拠点に約60㌔の路線を有する高松琴平電鉄では、4年度末までの3年間で5件の無遮断トラブルが発生し、その後の昨年4~8月の間にもさらに3件起きた。

同社によると、主な原因は電気系統。踏切に電気を送るための変圧器のヒューズが破損するなどしていたといい、昨年8月には社長が責任を取る形で辞任した。

トラブルが続発したことについて同社は「踏切の安全を守るという観点から、こうした事象の発生は許されない」とし、老朽化した設備や機器の更新を急ぐ考えを示す。

ただ、同社は5年3月期決算で52億円余りの最終赤字を計上。新型コロナウイルス禍などを背景に苦しい経営が続いており、「安全第一」とはいえ、莫大な支出は経営に深刻なダメージを与えかねない。

香川県は昨年度、同社の要請に応じる形で、踏切の保安設備の更新などにかかる費用として1億8千万円余りの公的資金を投入した。

県議会で予算の承認を得る過程では、公的支援が適切かどうかを問う声が上がったものの、取材に対し県の担当者は「県民の安全確保のためには支援が必要と判断した」と説明している。(岡嶋大城)

「低コストな仕組みへ転換を」綱島均・日大特任教授(鉄道工学)

無遮断踏切への列車進入トラブルは、赤字経営を余儀なくされた地方の私鉄で起きるケースが多い。踏切を含む鉄道設備の保守や点検、更新に多額の費用がかかるため、これらを全て鉄道会社任せとするのは地方ではそろそろ限界といえる。

そもそも鉄道は、道路などと同様に人々の生活に欠かせない重要インフラの一つだ。維持のためには国や自治体が公的に支援しても何ら差し支えはないのに、まだまだ必要な支援が十分に行き届いていない。

踏切の保守や点検の現場では、少数の作業員が膨大な数の仕事をこなしている。そして現場が疲弊すれば人的ミスが発生し、危険な事故が起きる可能性は高まる。

現在、衛星測位システムなどを用いて列車の位置を把握し、踏切を制御する仕組みの開発が進んでいる。定期的に地上の設備の保守や点検などが必要な従来のシステムと比べ、維持などの面ではるかに低コストとされ、転換が望ましい。地方の交通網を維持するという観点からも、国が積極的に開発や導入を後押しすべきだ。(聞き手 木ノ下めぐみ)

踏切道 鉄道と道路が交差する場所。令和4年度末時点で全国に3万2442カ所あり、このうち遮断機と警報機がともに設けられた「第1種踏切道」が、全体の約9割となっている。踏切道改良促進法が制定された昭和36年当時は約7万カ所だったが、道路と線路の立体交差や統廃合が進み、約60年間で半数以下に減少している。

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