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日系ブラジル人はなぜ「移民化」したか 「多文化共生」先駆け、偽装戸籍で「孫」1千人も 「移民」と日本人の平成史③

産経ニュース / 2024年5月6日 14時0分

「移民」と日本人の平成史は、日系ブラジル人らの「デカセギ」ブームにより本格化した。日系人とは、かつて中南米などへ移民した日本人の子孫。わが国に定住する「移民」の先駆けとして、一時は30万人を超えた。それは日本人にとって「多文化共生」の始まりでもあった。

街宣車放火、機動隊出動

日系ブラジル人が多く暮らす愛知県豊田市の「保見(ほみ)団地」。住民約6700人のうち外国人が約3800人で57%を占める。85%以上はトヨタ関連の工場などで働く日系ブラジル人だ。

現在は穏やかな郊外団地の風景が広がるが、かつては日系ブラジル人らによるごみ出しのルール違反や違法駐車、深夜の騒音などをめぐり日本人住民との軋轢が深刻化していた。

1999(平成11)年、一部のブラジル人と右翼関係者のトラブルから大型街宣車が放火され、両者がにらみ合う中で機動隊が出動する騒ぎとなった。住民の一人は「右翼と暴走族が連日『外国人は出ていけ』と叫んでいた。ごみ団地と呼ばれ、最悪の時期だった」と語る。

団地は当初、「多文化共生のモデルケース」とも呼ばれたが、軋轢の時期をへて、現在もなお模索が続く。日本人住民が減る一方、外国人住民は横ばいで推移、2017年からは外国人の数が上回っている。

空前のデカセギブーム

デカセギブームが起きたのは、1990年の改正入管難民法施行がきっかけだった。かつて海外に移民した日本人の子孫に「定住者」という在留資格が与えられたためだ。

元法務省入国管理局長で日本大教授も務めた高宅茂氏(73)は「日系人の受け入れは、わが国との地縁・血縁的関係を考慮したもので、いわゆる外国人労働者や移民の受け入れではなかった」と説明する。

ただ、在留資格が最長5年で更新可能な上、就労に制限がなかったため、高宅氏は「結果的に多くの日系人が『就労目的の外国人』として来日し、滞在が長期化して『移民化』が起きた」。

背景には、80年代後半のバブル景気による人手不足と、ブラジル側の経済破綻があった。ブラジル側も日系人の日本での就労を目指しており、日系人の多いサンパウロ州の日系2世の州議会議員が来日し、自民党国会議員らに陳情していたという。

日本ではバングラデシュ人やパキスタン人の不法就労も問題化していたが、筑波大の明石純一教授(移民政策)は「政治的な働きかけかどうかはわからないが、国内での日系人の法的地位を安定させる目的と、日系人のほうが他民族より受け入れやすいという単純な考え方もあったのではないか」と推測する。

一方で、デカセギブームが過熱する中、日系と無関係のブラジル人やペルー人らが「戸籍」や「出生証明書」を偽造し、日系人になりすまして来日する「偽装日系人」が問題化。2000年代に大阪入国管理局が調査したところ、これらの偽造により1人の日本人の高齢男性に「子供」が多数いて、こうした記録だけをたどっていくと「孫」が1千人いることになるケースもあった。

日本語なしで在留OK

90年施行の法整備は、「平成の大改正」とも呼ばれ、現在の外国人受け入れの基本的な考え方にもなっているという。

過去に適用事例はなかったものの、入国時に「永住者」の在留資格を与える規定を削除。永住者の資格を得るには、まず別の在留資格で日本に滞在することを求めるようにした。これは、わが国が直接的に「移民」を受け入れないことを明確化したものだ。

在留資格制度が整備され、「雇った側」の責任も問われる不法就労助長罪も新設されたが、就労に制限のない「定住者」である日系人は対象外だった。

「移民化」した日系ブラジル人は、保見団地がある愛知県や、浜松市、群馬県大泉町など自動車産業の企業城下町に集住。自治体は日本語教育や外国語による情報提供など、それまで経験したことのない生活支援に追われるようになった。

入管関係者は「中国人や韓国人は留学などで来日して日本語を学ぶが、日系人は『日本人の子孫』という位置づけのため、学歴や職歴は一切不問の上、極端にいえば日本語を学ぼうとしなくてもいつまでも在留できた」と説明。

「初めて日本語の通じない外国人が長期在留する事態が生じた」

ピークの2007年に約30万人いた日系ブラジル人は、翌08年のリーマン・ショックの余波で「派遣切り」などに遭った。日本政府は、職を失い再就職もできなかった日系人を対象に、希望者に30万円の飛行機代を出して帰国を促進、約8万人が帰国した。

神奈川県に住む日系ブラジル人2世の男性は「あのとき出稼ぎ目的の人は帰国し、残った者は日本で頑張る覚悟を決めた」と話す。

現在、わが国の在留外国人約341万人のうち、日系ブラジル人は約21万人。ピーク時は中国、韓国に次ぎ3番目だったが、現在は5番目となっている。

保見団地では2020年、多文化共生を目指して描かれた壁画アートが落書きされた。建造物損壊容疑で逮捕されたのは、共生の相手となるはずの日系ブラジル人住民の男だった。男は容疑を否認、その後不起訴処分となり、動機はわかっていない。

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