パートナー喪失を乗り越え 『アローン・アゲイン』 <聞きたい。>青木冨貴子さん(作家)
産経ニュース / 2024年4月21日 10時20分
『アローン・アゲイン』青木冨貴子著(新潮社・1760円)
米作家、ジャーナリストで日本では映画「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」の原作者として知られる夫のピート・ハミルさん(2020年、85歳で死去)との33年にわたる結婚生活をつづった。
「ふたたびひとりになった」を意味する本書のタイトルに、強い思いを込めた。
「愛する人を亡くすのはつらいこと。でも、悲しみは一生抱えながら、ひとりになったことを自覚して前へ進むことが大事。私もこの本を書いたことで吹っ切れて、新しい一歩を踏み出せた。パートナーや親御さんを亡くされた人たちにもそれを伝えたい」
出会いは1984(昭和59)年の東京。来日していたピートさんに、月刊誌のためのインタビューを行った。その翌日、偶然にも彼の地元である米ニューヨークで働かないかというオファーが舞い込み、同年に渡米。3年の交際を経て結婚した。
同じ物書きだけに、相手に振り回され、「食うか食われるか」の状況に陥らないかと不安もあったが、「当時の彼は多忙のあまり、満足にコラムや小説が書けない状態。才能あふれる人なのにもったいない。もっと時間もエネルギーもためて、良い仕事をしてほしい」と夫を支える。
ピートさんは市民の声を代弁するコラムや小説、エッセーなどを執筆。結婚30年の記念日にピートさんからもらった手紙には「君はぼくをより良い人間、より良い作家にしてくれた」とあった。
ピートさんの根底にあるのは、「世の中は公正でなくてはならない」という思い。
「大家族で貧しい家に育ち、差別される人の痛みを知っていた。だから世の不条理や高慢な権威への怒りを書いた。もっともっと仕事したかったでしょう」
その思いを打ち砕いた病との長い闘いも、ともにした。ピートさんは糖尿病の合併症で入退院を繰り返し、昏睡(こんすい)状態から奇跡的に回復したこともあったが、帰らぬ人となった。「心から愛し、愛されたと思うし、2人でいて幸せだった。互いにリスペクトし合える関係でした」
(三保谷浩輝)
◇
あおき・ふきこ 作家。昭和23年、東京都生まれ。56年、『ライカでグッドバイ』でデビュー。59年から『ニューズウィーク日本版』ニューヨーク支局長を3年間務めた後、フリーランスとして執筆活動を続ける。ニューヨーク在住。
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