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翻訳家でなく「コンシェルジュ」 プロ野球ヤクルトの現役通訳に聞いた「知られざる世界」 プロ野球通信

産経ニュース / 2024年4月20日 9時0分

今季ヤクルトに新加入したヤフーレ(左)とエスパーダ(右)に挟まれ、笑顔を見せる久野朗大通訳=横浜スタジアム(長尾みなみ撮影)

日本プロ野球には現在、80人を超える外国人選手が在籍する。〝助っ人〟たちの活躍に欠かせないのが、通訳の存在だ。米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の元専属通訳、水原一平氏による違法賭博事件でも注目を集めた職種だが、実際はどんな仕事をしているのか。2019年にヤクルト入りし、今季はサイスニードら投手陣の通訳を務める久野朗大氏(あきひろ、31)に聞いた。

プロ野球で多くの人が通訳の姿を目にするのは、試合後のお立ち台だろう。外国人選手の横にぴたりと寄り添い、インタビュアーとの橋渡し役を担う-。一見、華々しい仕事に見えるが、久野氏は静かに首を振る。

「選手の横でインタビューを訳すのが通訳の仕事と思われがちですが、実は言語を訳すという業務は仕事の1割程度。それよりも選手の私生活、グラウンド外でのサポートが主な仕事になります」

ひとえに私生活のサポートといっても、内容は驚くほど多岐にわたる。獲得調査の手伝いに始まり、来日時のビザ取得、日本での生活に必要な契約関係への立ち合いはもちろん、「『これ買っておいて』とか『ピザ頼んでおいて』とかもある。『家族の具合が悪いから病院に連れていって』『歯医者に行きたいから予約して』という依頼もありますね」。

選手が食事に行く際には希望を聞いてレストランの予約もする。休養日に「観光がしたい」といわれたら「日本で何がしたいか」をヒアリングし、候補地を提案。新幹線やホテルの手配なども行う。それらは全て、異国の地で戦う選手たちがストレスなく野球に集中できるようにするためなのだという。

「よく『通訳さん』といわれますけど、ホテルで観光をアテンドする〝コンシェルジュ〟という言葉の方が合っているのかなと思います。シーズン中は正直、ほとんど休みがないです」。そうほほ笑む久野氏の表情には充実感がにじむ。

ヤクルトには現在6人の外国人選手が在籍し、3人の通訳が1軍野手、1軍投手、2軍と担当ごとにわかれて選手を支えている。ひとくくりに「外国人選手」といっても、生まれ育った国の文化や性格など十人十色だが、久野氏は「言葉の真意を伝える」ことを重視するという。

例えば通訳1年目で担当したバレンティン選手は「やんちゃで、悪いところを指摘されるのが苦手だった」という。3年連続で本塁打王に輝いた主砲に、コーチのダメ出しをそのまま伝えても機嫌を損ねるだけ。久野氏は「ここがよかったよね、とあえていい部分から伝えるようにしていました。改善点を伝えるのは一番最後。通訳って翻訳家ではないんです。一字一句、全てをそのまま訳しても選手が聞いてくれなかったら意味がない。コーチや監督が何を伝えたいのかをまず理解して、どうしたら一番伝わるか。言葉の選び方や声をかけるタイミングはすごく意識しています」とこだわりを明かす。

水原氏については、日本ハムで通訳を務めていたときから一目置いていたという。「彼の英語ってとてもフランクなんですよ。大谷選手の物腰柔らかな感じを表現されていて、個人的には嫌いじゃなかったです」。だからこそ、今回の一件については「通訳は私生活にも蜜月に関わる仕事。大谷選手からの厚い信頼を裏切ってしまったことは本当に残念です」と胸を痛めている。

外国人選手初の2000安打を達成したラミレス氏は昨年の野球殿堂入りの際、歴代通訳の名前を挙げて「私の家族の一員のような存在でした」などと感謝を述べた。時に選手生命をも左右する責任の大きな仕事。久野氏は「それこそがこの仕事の醍醐味(だいごみ)ですよね。最近は自動翻訳機も出てきて『君たちの仕事もなくなるね』といわれるんですけど、僕はそうは思いません。通訳は人と人との信頼関係があって成り立つ仕事。機械に代わりは務まりませんから」と力を込める。日本球界を彩る外国人選手のそばには、誇りを胸に二人三脚でシーズンを伴走する通訳がいる。(運動部 川峯千尋)

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