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「紅麹」問題で傷ついたブランド 小林製薬の新戦略「ヘルスケアで成長路線」があだに

産経ニュース / 2024年5月10日 19時45分

「紅麹(べにこうじ)」成分のサプリメントを摂取した人の健康被害問題を巡り、特別損失38億円を計上した小林製薬。紅麹事業に乗り出した背景には、低迷する日用品分野から、利益率の高いヘルスケア分野に軸足を移す成長戦略があった。健康被害と紅麹の関係はまだ解明されていないが、経験の浅い事業により、ブランドは大きく傷ついた。安全管理が十分だったかが問われる中、信頼回復までの道のりは遠い。

「ユニークな案件は調査せず、スピード重視で開発に取り組んできた」

同社が1年間に創出した新製品のテーマ数は、令和2年を100としたときに5年に113まで増えたという。小林章浩社長は紅麹問題が発覚する前の今年2月、経営状況を説明する会見で、こう誇らしそうに述べた。

隠れたニーズをいち早くとらえた商品開発力は同社の強みだった。芳香剤「ブルーレットおくだけ」、発熱時の冷却シート「熱さまシート」など、コマーシャルでおなじみの商品は多い。

ただ、スピード重視の経営路線は近年、曲がり角を迎えていた。5年12月期連結決算では、売上高に対する営業利益率が14・9%で、平成29年12月期(14・6%)以来の低い水準だった。国内事業で37%を占める「日用品」分野の売上高は前期比0・3%減の490億円。日用品は新型コロナウイルス禍で買い控えが進んでいた。

一方、経営を牽引(けんいん)するようになっていたのが、国内事業比率の51%を占めるようになった医薬品やスキンケア、食品などの「ヘルスケア」分野で、7・6%増の670億円だった。利益率も高かった。

近年、同社はヘルスケア分野を伸ばす方針を進めていた。平成28年に下着大手のグンゼから譲渡を受けた紅麹事業にも期待をかけた。令和3年2月には、今回の自主回収対象となった機能性表示食品の「紅麹コレステヘルプ」を発売した。

そこに落とし穴があった。小林製薬は社名に「製薬」を冠するものの医師の処方箋が必要な医療用医薬品は扱わず、薬局で買える一般用医薬品を展開。口から体に入る薬や食品の経験が十分だったとはいいがたい。大阪の製薬企業幹部も「正直、同業だと意識したことはない」と話す。

紅麹菌を扱った経験もなかった。小林社長らは問題発覚後の今年3月の記者会見で「グンゼから技術をしっかり手順書として引き継いだ。技術者にも一緒に入社してもらい、(安全面は)大丈夫と認識していた」と説明した。しかし、国立医薬品食品衛生研究所の合田幸広名誉所長は「生き物である菌類を扱うには長い経験が必要で、工場や生産システムごと引き継がないといけない。食品事業を理解していないと言わざるを得ない」と指摘する。

紅麹原料をつくっていた大阪工場(大阪市、昨年12月に閉鎖)では、床に落ちた原料の一部を出荷するなどずさんな工程管理も判明している。ブランド再建には安全管理についての徹底検証が急務となっている。(牛島要平)

真壁昭夫・多摩大特別招聘教授「2つの責任、果たしていない」

経営戦略として有望な事業分野に進出する企業は多い。ただ、サプリメントのような食品は日用品とはまったく別の分野。小林製薬にノウハウがなかったとすれば、十分な準備が必要だった。因果関係はまだ不明だが、健康被害を巡る一連の経緯をみていると、準備不足だった可能性が高い。

企業が製品を供給する以上、安全な製品をつくる「製造者責任」と、安全性について消費者への「説明責任」がある。小林製薬はこの2つの責任を十分果たしているようにはみえない。

結果として、企業としてもっとも重要な社会の信頼を失い、ブランドはかなり厳しい状況に追い込まれている。経営陣に責任を果たさせるコーポレートガバナンス(企業統治)の機能を見直さなければ、再生は難しい。

一方、消費者は「この製品は信用できるか」という意識を持って自分の身を守ることが必要だ。サプリの成分などは公開されているので、情報を積極的に取る姿勢を持ってほしいし、疑問点があれば消費者庁などに問い合わせてほしい。

(聞き手 牛島要平)

機能性表示食品市場も縮小傾向に

健康志向の高まりによって年々売り上げを伸ばしていた機能性表示食品の市場にも、紅麹配合サプリメントの健康被害問題によって逆風が吹いている。メーカー各社は「紅麹と無関係の商品も避けられている」と肩を落とす。

調査会社インテージ(東京・千代田区)が全国のドラッグストアやスーパーなど約6千店を対象に集計したデータによると、機能性表示食品の販売額は平成29年の156億円から令和5年には3倍以上の491億円に拡大。今年も3月までは1週間ごとの集計でおおむね前年同期比10~20%増と好調に推移していた。

潮目が変わったのは3月22日、小林製薬が紅麹配合サプリメントの健康被害を公表してからだ。直前の週間販売額は10・3億円(前年同期比16・8%増)だったが、25~31日は8・7億円(同7・7%減)と減少に転じている。健康被害が相次いで報告された後の4月8日の週には8・3億円(同17・1%減)となるなど、消費者の不安が反映された結果となった。

機能性表示食品全体のイメージ悪化に各社は頭を悩ませている。主にアミノ酸関連の機能性表示食品を展開する味の素の担当者は「当社に紅麹を使用する商品はないが、関係ない商品も大きく影響を受けている」と話す。同社は独自の品質保証システムによって医薬品に近い基準で商品を製造しているが、消費者には企業ごとの管理体制の違いを把握するのは難しく、一様に避けられてしまっているのが現状だ。

アサヒグループホールディングスも店頭販売、通販ともに影響を受けている。担当者は「ホームページへの情報掲載や商品に同梱する手紙などで安全性を伝えていきたい」としている。(桑島浩任)

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