「グラフィック」であなたもまちづくりの担い手に
政治山 / 2016年9月8日 11時50分
「グラフィック・ファシリテーション」と「グラフィック・ハーベスティング」
「グラフィック・ファシリテーション」とは、対話のプロセスを文字や絵(グラフィック)で可視化するファシリテーションの手法の1つです。
それは大きく3つに分類されます。文字通りファシリテーターがグラフィックをしながらファシリテーションを行う「グラフィック・ファシリテーション」。会議や話し合いの場で話されていることを、専従のグラフィッカーが記録していく「グラフィック・レコーデイング」。そして、コミュニケーションを効果的に行うため、配布資料などに絵やデザインなどグラフィックの要素を取り入れた「グラフィック・コミュニケーション」の3つです。
絹村さんのグラフィック・コミュニケーション
また、「グラフィック・ハーベスティング」とは、対話の内容を文字だけではなく絵を含めて記録、対話から生まれた成果を振り返り共有し、次へのアクションにつなげていこうとするものです。このコラムで何度も紹介している静岡県牧之原市では、「サステナビリテイダイアローグ」の牧原ゆりえさんから、グラフィック・ハーベスティングを習っています。
牧原ゆりえさん
牧原さんは、グラフィック・ハーベスティングとは、グラフィック・ファシリテーションを収穫の手段として用い、大切な話し合いを行動につなげるためにプロセスをデザインし実践するための包括的な技術と定義しています。また、その効果として、(1)記録として振り返ることができる(2)シェアしやすくなる、などのほかにも、(3)自分の発言が形に残り場への信頼を作る(4)みんなにとっての意味を見つけられる(5)協働を継続していくための活力になる、などが挙げられます。
牧之原市が取り組んでいる公共施設マネジメント(コラム第42回「地域の公共施設のあり方を市民との対話で考える」)では、グラフィックの研修を受けた市民ファシリテーターが、当日の会場でのグラフィック・レコーデイングのほか、配布やまとめ用の分かりやすい資料の作成などに活躍しています。
今回は、まちづくりにおける、グラフィック・ハーベスティングの可能性について考えたいと思います。
グラフィックをする弘前市役所佐々木さん
きっかけとしての「グラフィック」
パートタイムで働きながら子育て中のママで、牧之原市の市民グラフィッカーとしても活躍する絹村亜佐子さん。絹村さんは、地区の自治会長さんからの依頼で、牧之原市主催のファシリテーションの研修に嫌々参加していました。「メインファシリテーターとして、大勢の人の前に立って話すのは私にはできない」そんな気持ちでした。
そんな絹村さんですが、絵が好きだったこともあり、牧之原市が開催した牧原さんのグラフィックの研修会で開眼しました。これなら私もできる。自分とまちづくりがつながるとは思っていなかったパートの子育てママが、まちづくりの担い手になった瞬間です。今では、牧之原市の対話の場では、絹村さんのグラフィックは欠かせません。初めは人前で話すことが苦手だった絹村さんも、今は対話の場の最後の振り返りを大勢の参加者の前で堂々と行います。さらに牧之原市以外にも活躍の場を広げ、近隣の島田市、御前崎市、静岡市などでの対話の場のグラフィッカーも務めています。
御前崎市に出張してのグラフィック・レコーデイング
また、2016年8月には、もう一人の市民グラフィッカーで、障害者施設に務める武田てるみさんと一緒になり、牧之原市主催のグラフィック研修会の講師を務めました。2回開催されましたが、facebookなどの呼びかけで若い子育てママを中心に、それぞれ13人、21人の市民が参加しました。プロの講師ではなく、参加者と同じ目線に立てる市民が講師を務めることで、参加者は私にもできるのではと思うのではないでしょうか。ファシリテーションの研修に参加していたころには考えられない成長ぶりです。
研修で講師務める絹村さん(右)と武田さん(左)
自治体職員、学生も直ぐに実践できる
2016年2月、筆者の研究室(青森中央学院大学経営法学部佐藤淳研究室)が主催で、青森で牧原さんを講師に招いてグラフィック・ハーベスティングの研修会を開催しました。当日は、学生、自治体職員、まちづくり活動を行う市民など40人が集まりました。そもそものグラフィック・ハーベスティングの目的を話し、線や人、アイコン(物事を簡単に絵柄にしたもの)の書き方などの基礎演習から、話を聞いて書く実践練習まで、たっぷり6時間の内容でした。
研修会に参加した弘前市役所市民協働政策課の佐々木絵理さんは、自分の担当業務として、自治会の役員の話し合いの場でグラフィックを実践、担当業務外でも担当課に頼まれ、市の総合計画策定に関する「Myひろさき創生市民会議」でグラフィックを行っています。また、久慈市役所観光交流課の米内千織さんは、昨年度の担当業務として取りまとめた「久慈市地域福祉計画」の冊子にグラフィック・コミュニケーションを活用しました。
久慈市役所米内さんのグラフィック・コミュニケーション
研修会に参加した筆者のゼミの女子学生、工藤明日香さんと花田茉央さんは、学びを即実践、私がファシリテーターを務めた青森県むつ市の総合計画策定の市民会議で、立派にグラフィッカーデビューを果たしました。むつ市のワークショップでは、大学生グラフィッカーのほか、参加していた高校の美術部の学生が画力を認められ、高校生グラフィッカーが誕生するといった嬉しいおまけもありました。ちょっとしたきっかけがあれば、市民グラフィッカーとして、対話の場の担い手になれる可能性を持った人はたくさんいます
グラフィックをする工藤さん(右)と花田さん(左)
絹村さんのような絵が好きで得意な市民は、どこの地域にも必ずいます。佐々木さんや米内さんのように、きっかけを与えればグラフィックで自分の仕事の幅を広げられる自治体職員も絶対いるはずです。現に、私が自治体職員向けの講演でグラフィックの話をすると、勝手に絵を書き出す職員が出てきます。また、学生時代「美術2」だった私のホワイトボードのグラフィックに触発されて、書き出す人もたくさんいます。
筆者のゼミの工藤さん、花田さんは、絵があまり得意ではありませんでした。それが、研修を受けたことがきっかけで、グラフィックを通して、大学生とまちづくりがつながりました。絵の上手な高校生も市民グラフィッカーになれます。グラフィック・ハーベスティングには大きな可能性があると思います。これまでまちづくりには関係ないと思っていた市民が、グラフィックをきっかけに、まちづくりの担い手にどんどんなっていってほしいと思います。
絹村さんが筆者の話をまとめたグラフィック・レコーデイング
◇
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第50回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
<青森中央学院大学 経営法学部 准教授、早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員 佐藤 淳>
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