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「学校へ行くのは時間のムダ」。なぜ少子化の中で通信制高校の志願者は増え続けているのか? 現場教員が指摘する2つの要因

集英社オンライン / 2023年2月15日 10時1分

少子化の波の中で近年、通信制高校への志願者が増加している。「多様な学び方」を求めた結果といえば聞こえはいいが、現場の教員からは懸念する声も上がる。

20年間で倍増する通信制高校の志願者

今年も受験シーズンが終わりを迎えようとしている。

少子化の波の中で、今、通信制高校への志願者が増加していることを知っているだろうか。特に私立の通信制高校志願者が増え、20年前と比べて入学者数が倍増しているのである。

通信制高校と全日制高校の大きな違いは、学校に通学するかどうかだ。全日制高校では基本的に毎日通学して授業を受けるが、通信制高校では送られてくるデータや書類を使ってレポートを提出したり、テストを受けたりすることになる。


学校によっては週に何度か、あるいは年に何度か登校することが決まっているが、基本的には毎日登校することはない。

生徒にとって高校生活の花は、生徒同士で顔を合わせて友情や愛情を育むことだ。にもかかわらず、なぜその機会に乏しい通信制高校を志望する生徒が増えているのか。ある県の教育委員会はその理由を次のように述べている。

「多様な学び方を求める生徒が増加したため」

だが、現場の教師の声はこれとは異なる。通信制高校の志願者増加の裏側に光を当てたい。

不良文化が消えてゲーム・インターネット文化が台頭

一時代前まで、全日制以外の高校(通信制や定時制)に通うのは、ヤンキーのような不良というイメージだった。全日制に行けない、あるいは中退した生徒たちが通っていることが多かった。

だが現在は、通信制や定時制高校に限らず、暴走族を結成して非行をくり返すような昔ながらの不良はほとんど存在しない。それは図を見ていただければわかるだろう。20年ほど前から非行で検挙される子供の数が減っているのである。

出典:「令和元年版 犯罪白書:少年の刑法犯 検挙人員中の再非行少年の人員・再非行少年率の推移」

大人の中には、こうした統計を根拠にして「子供の問題が減少した」と言う人がいる。

だが、これは大きな間違いだ。たしかに子供たちの問題行動が非行という形で現れることは少なくなった。だが、それと入れ替わるように別の問題行動が増えたのである。それが、不登校だ。なぜ非行に代わって不登校が増加したのか。一般的にはいくつかの理由から説明がなされている。

まず、国によって不良文化が抑圧されたことがあるだろう。

1980年代くらいまで、学校で起きている校内暴力や非行といったことが大きな社会問題となっていた。これによって町全体の治安が悪くなり、暴行死のような事件が起きていたのである。

国はそうしたことに危機感を抱き、これらの問題行動を抑えにかかった。学校に警察官を送り込んだり、暴走族の壊滅作戦を決行したり、更生の難しい少年を積極的に少年院に送ったりしたのだ。

これが功を奏して、社会から不良文化がなくなっていき、子供たちの間で表立って悪事を働くのがかっこいいという風潮が薄らいだ。だが、時代の変化とともに子供たちは別のツールを手にすることになる。
ゲームやインターネットだ。

子供たちの遊び方は一変した

昔は不登校になって家にひきこもっても、することがほとんどなかった。部屋の本棚に並んでいる漫画を読むか、昼寝をするくらいしかなかったのだ。だから、不良となって徒党を組んで悪さをする者が大勢いた。

だが、ゲーム機やインターネットの登場によって、子供たちの娯楽の幅が急激に広がった。スマホを手に取れば、半永久的にゲーム、SNS、動画などを楽しむことができるし、ネットフリックスやAmazonプライムに接続すれば好きなだけ映画やドラマを見ることができる。

こうなると、子供たちは無理して不良グループに身を投じるより、安全な部屋で自分だけの世界に没頭する方がいいと考えるようになる。そこに学校の問題、家庭の問題、子供自身の特性、社会の風潮といった無数の要因が絡み合い、ここ十数年で急激に不登校の生徒が増えていくようになったのである。

現在、不登校の小中学生は、全国に24万人あまりとされている。不登校予備軍を含めれば、1クラスの2、3人がそれに当たるのではないかともいわれている。

近年、通信制の高校に進学するのは、主にそうした不登校、あるいは不登校予備軍の生徒たちだった。他の生徒とかかわるのが苦手とか、いじめが怖いとか、発達の特性があるといった理由で、あまり人と接触することなく自分のペースで勉強をしたいという理由で進学を希望しているのだ。

こうした志望動機は、生徒たちが自分に合った学びを選んでいるという点で、歓迎すべきことだと思う。一人ひとりの個性に合わせて、適した学び方を選択するのが一番だ。

だが、学校の教員たちの中には、ここ数年でまた少し違う風潮が生まれているという意見も出てきている。

「コロナの影響」で不登校が増加

通信制の高校に勤める教員は次のように語る。

「たしかに今までは不登校の生徒が、安心して学業をつづけられるためにと通信制高校を志望することが多かったです。毎日は通えないけど、数か月に1度なら大丈夫という子には適していたと思います。

しかし、ここ2、3年は不登校ではない、まったく普通の子が通信制高校を志望することが増えました。君は全日制で大丈夫だろと思うような子が、全日制を受検することなく通信制に来るのです」

県の教育委員会が言うように「多様な学び方を求める生徒が増加したため」といえば聞こえはいい。実際、スポーツに力を入れるためとか、文化活動に勤しむためといった理由で通信制を選ぶ人もいるだろう。

だが、先の教員によれば、なかなかそうとは言い切れない面もあるらしい。教員は次のようにつづける。

「こうした生徒には2つの傾向があるように思うんです。1つがコロナ禍の影響ですね。コロナ禍によって不登校が増えたのは知られていることですが、それ以上に一般の子供たちの間にも『学校なんて別に行かなくてもいいんだ』という認識が広まりました。

タイパ(タイムパフォーマンス)なんて言葉がありますが、学校へ行くのは時間のムダ。学校は通信制で月に1度だけ行って、余った時間をゲームに費やしていた方がいいと考える子が出てきたのです。少し前には信じられないことでした」

もし本当だとしたら、あまり歓迎すべきことではないかもしれない。

「人付き合い」が苦手な子供の増加

学校は何も卒業資格を取るためだけにあるのではない。生まれも育ちも違う同年代の人たちとかかわり、意見を交わしたり、力を合わせて何かを成し遂げたりすることで、人間として生きていく力を育むための空間でもある。その面が疎かになれば、子供たちの心の成長に支障が出てくる危険がある。さらに教員はつづける。

「2つ目としてあるのが、人付き合いが苦手な子が増えたことです。今の子供たちはどこへいても『アツ(圧力)を感じる』といいます。コロナの影響もあるのですが、それ以前から多様な人たちと自由に触れ合う機会を奪われています。
そのため、人と生身で接することをできるだけ避けようとする傾向が顕著なのです。だから、先生とも生徒とも直接かかわらずに済む通信制へ行こうと考えるのです」

生まれつき他者とかかわることが得意な子供はいない。大多数は最初は苦手でも、人と接していくうちにだんだんと慣れ、集団の中で生きていく力を身につけていくのだ。こうした努力をせず、苦手だというだけで避けてしまえば、ますます人とかかわることが難しくなる。それが本人の生きづらさを生むことも十分にあるだろう。

私は通信制の高校が果たす役割は大きいと考える立場だ。

これまで障害のある子供や、難病と闘う子供が通信制高校へ行き、そこで自分のペースで無理なく学びを深め、社会へ羽ばたいていった姿を数多く見てきた。それゆえ、通信制高校が増えることには賛成だ。

ただし、先の教員が危惧するように、通信制高校へ行く必要がない子供たちまでもが、それを選択しているのであれば、また別にしっかりと考える必要のある問題ではないだろうか。少なくとも、県の教育委員会が「多様な学び方を求める生徒が増加したため」といって終わらせていい問題ではない。

なぜ通信制高校の志望者が増えているのか。近年の傾向、そしてコロナ禍の影響との関係性は何なのか。もう一歩踏み込んで、この現象を考えていく必要があるのかもしれない。

取材・文/石井光太

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