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【結婚しない若者たち】結婚は「社会で生き延びるためにするもの」だった時代から、「天井知らずの期待をするもの」となった現代の弊害とは

集英社オンライン / 2023年4月19日 18時1分

人生においてただ一つ、本当に重要なものは「他者との関係」である。人間関係の意外な真実と確かな戦略を集めた『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)より一部抜粋・再構成してお届けする。(全3回の3回目)

結婚は「社会で生き延びるためにするもの」

昔は、結婚がすべてを制していた……。しかしその当時、結婚は愛とは関係がなかった。

実のところ、歴史的に見れば、「愛が結婚をだめにした」とも言えるかもしれない。あるいは、「愛が結婚に打ち勝った」とも言える。歴史家のステファニー・クーンツが指摘するように、有史時代の大半を通して、結婚のテーマソングは、ティナ・ターナーの『愛の魔力』(“What's Love Got to Do with It”=愛と何の関係があるの)だったかもしれない (この曲を結婚式で使うのはお薦めしないが)。


有史の大部分において、結婚は愛よりもむしろ経済との関係が深かった。何も邪悪な計画の一部だったわけではなく、当時は生活がとんでもなく苦しかったという事実によるものだ。

「恋愛結婚」は、現実的な選択肢ではなく、むしろ「死なないように助けて」というのが当時の典型的な結婚だった。人生は意地が悪く、残忍で、短いことが多かった。自分一人の力ではやっていけない。食べ物を口にすることや盗賊を追い払うことが最優先で、個人としての充実感は後回しにされていた。

歴史家のクーンツは、現在、政府や市場が担っている役割を、結婚が果していたと指摘する。また、社会保障や失業保険、医療保険がなかった時代に、それらの代わりを果たした面もある。今日のキャリアが請求書の支払いのためのもので、自分が情熱を持てるかどうかと必ずしも関 係ないのと同様に、当時、誰と結婚するかは支払いのためであり、自分が夢中になれる相手かどうかはあまり関係がなかった。結婚相手は、ソウルメイトというより、同僚に近かったのだ。

一方、金持ちにとっての結婚の歴史は、MBA(経営学修士課程)のM&A(企業の合併・買収)の授業のようなものだった。重要なのは、然るべき相手を見つけるより、然るべき姻戚を得ること。今でこそ義理の親族に文句もあろうが、昔はそれこそが結婚する理由だった。

考えてみてほしい。恋愛し、子どもをつくるためにではなく、有力な家族と長期にわたる協力関係を築くために婚姻が必要だったのだ。実際、中国など幾つかの国では、「亡霊婚」が見られたほど、義理の家族が重要視されていた。そう、死者と結婚するのだ(良い点:夫婦喧嘩はなさそうだ)。北米大陸の太平洋岸北西部に住む先住民、ベラクーラ族の社会では、然るべき姻戚を得る競争があまりに激しかったので、他家の犬と婚姻関係を結ぶこともあった。本当のことだ。

配偶者を愛してはならなかった時代さえある

もちろん、昔も既婚者が恋に落ちることはあった……。しかしそれは通常、配偶者とではなかった。そのための情事だったのだ。

アレクサンドル・デュマがウィットを効かせて言ったように、「結婚の契りはあまりにも重く、それを運ぶには2人、ときには3人が必要」だった。配偶者を恋愛対象にすることは不可能であり、不道徳であり、また愚かだと見なされることが多かった。

ストア哲学者のセネカはこう言った。「妻を愛人のごとく愛するほど不浄なことはない」。また、ローマの哲学者たちは、妻を情熱的に愛している人を何と呼んでいたか。「姦通者」だ。

さらに重要なことに、クーンツによれば、夫婦間の恋愛は、社会秩序を脅かすものだと考えられていた。当時の生活は厳しく、個人の幸せを優先する余裕はなかった。個人の充足感より家族、国家、宗教、地域社会への責任を優先しなければならなかったのだ。

結婚は、きわめて重要な経済的、政治的制度だったので、愛の気まぐれに任せるわけにいかなかった。情熱だって? そんなものには蓋をしたほうがいい。邪魔になるから。一夫多妻制の文化では、妻を愛することが容認されていたが、それは2番目か3番目の妻の場合だった。まずは社会を営まないとならないのだから!

しかし、その後状況が変わった。1700年代に入り、啓蒙時代が到来した。人びとは、
「人権」という、新しくてとっぴなものについて話し始める。誰もが突然賢くなったわけでも、立派になったわけでもない。要はまたも経済。自由市場だ。人びとはもっとお金を稼ぐようになり、一人でも暮らしていけるようになった。個人主義が現実的な選択肢になり、それで1800年代には、ついに人々が愛のために結婚するようになった!

ところがじきに、なんだか事態が悪化した。たしかに、個人はより多くの選択肢と、愛と幸福の素晴らしい可能性を手に入れたが、「すべてを克服する」ことに関して言えば、結婚ははるかに不安定になった。結婚に対する人びとの満足度を高めた理由そのものが、結婚を壊れやすくしてしまったのだ。

「デート」は1890年にようやく誕生

1890年代に人びとが「デート」という言葉を作らざるをえなかったのは、それまでこの概念は存在すらしなかったからだ。かつては盤石だった結婚という制度がたえず攻撃され脅かされるようになった。

そして20世紀初頭には、崩壊の危機に瀕した。電気や自動車、鉄道、抗生物質など、まさに息をのむような変化が立て続けに起きていた。1880年から1920年のあいだに、アメリカの離婚率は2倍になる。

しかし、それから第二次世界大戦が起こった。大戦後、アメリカは好景気に湧き、それとともに結婚も好調になった。雇用が増加し離婚率が低下した。そして1950年代には、今でも多くの人が「伝統的」な結婚と考える「核家族」の絶頂期を迎えた。『うちのママは世界一』『ビーバーにおまかせ』『パパは何でも知っている』などのドラマに描かれているような、パパにママ、2・人の子どもと犬1匹。何もかもが素晴らしかった。

しかし皮肉にも、今も多くの人が結婚の理想型ととらえるこの時代は一過性のものだった。歴史学者のスティーブン・ミンツとスーザン・ケロッグは、この時代を「例外中の例外」と呼んでいる。たしかに長くは続かなかった。

1970年代に入ると、「伝統的」な結婚はすでに崩壊しつつあった。アメリカの各州は、無過失離婚を認めだした。ただ自分が幸せでないというだけの理由で、法的に結婚生活に終止符を打てるようになったのだ。1980年には、アメリカの離婚率が50%に達した。

何世紀にも及ぶ変化がほぼ完了した。未婚者は、もはや半端者だとか不道徳だとか見なされなくなった。同棲カップルの数は急増した。妊娠したから結婚しなければならないということもなくなった。そして2015年、最高裁は同性婚を承認した。愛が勝利したのだ。

いや、愛は勝利をおさめただけでなく、歴史上初めて、結婚に不可欠なものになった。それがどれほど新しい概念なのか、私たちは忘れている。

人類学者のダニエル・フルシュカによれば、1960年代には男性の3分の1、女性の4分の3が、結婚前に愛は必ずしも必要ではないと考えていた。1990年代には、男性の86%、女性の91%が「愛していなければ結婚しない」と答えている。何世紀もかけて、結婚のテー マソングは、ティナ・ターナーの「愛と何の関係があるの」からビートルズの『愛こそはすべて』( “ All You Need is Love”)へと変化したのだ。

恋人ができると、友だちは2人減る

しかし、このような自由にマイナス面がないわけではない。ノースウェスタン大学の社会心理学者、エリ•フィンケル教授は、現代のパラダイムを「自己表現的な結婚」と呼んでいる。つまり、結婚の定義はあなた次第―これはちょっと怖ろしい。

あなたは、自分が結婚に何を望んでいるか、はっきりわかっているだろうか? わかっておいたほうが身のためだ。

結婚はもはや教会や政府、家族や社会によって定義されるものではない。言ってみればDIYキットで、取扱説明書は別売りだ。昔の制度的結婚は、たしかに多くの意味で不公平、不平等だったが、ルールは明確だった。今日、私たちは混乱している。

しかもそれだけではない。私たちの結婚に対する期待値は、天井知らずになっている。過去に結婚が提供してくれた多くのものを依然として求めるのに加え、今では、結婚はすべての夢を叶えてくれて、最高の自分を引きだしてくれて、成長し続ける機会をあたえてくれるべきだと考えている。

ローリング•ストーンズの『無情の世界』(”You Can’t Always Get What You Want”=欲しいものがいつも手に入るとは限らない)はプレイリストに入っていない。人びとは不幸だから離婚するのではなく、もっと幸せになれる可能性があるから離婚するのだ。

フィンケルによれば、以前は配偶者と別れるのに理由を必要としたが、今は配偶者でい続けるのに理由を必要とする。さらに、結婚に対する期待値は高まっていながら、それに応える私たちの能力は下がっている。夫婦ともに仕事をする時間が増え、いっしょに過ごす時間が減っている。1975年から2003年のあいだに、平日に夫婦がともに過ごす時間は、子どもがいない場合には30%、子どもがいる場合には40%も減少した。

それと同時に、結婚は、本来その負担を軽減してくれるようなほかの関係を締めだしてきた。オックスフォード大学のロビン・ダンバーの研究によると、恋人ができると、(時間と精神的エネルギーの面で)親しい友人2人が犠牲になるという。

またエリン・フィンケルによると、1975年にアメリカ人は、週末の1日につき平均2時間を友人や親せきと過ごしていたが、2003年には、その時間数が40%減少したという。その一方で、1980年から2000年のあいだに、幸せな結婚が個人の幸福度を予測する 度合いはほぼ2倍になった。結婚は人びとの人間関係の一つではなく、まさに人間関係そのものになった。

私たちは、人生全体の“配偶者化”を経験しているのだ。

『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)

エリック・バーカー (著), 橘玲 (監修), 竹中てる実 (翻訳)

2023年3月24日

1760円(税込)

404ページ

ISBN:

978-4864109499


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