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トイレで衝動的に裸になったひきこもり48歳女性「人でいたくなくなった…」泣いて謝るだけの母と取り合わない父の手で精神科病院に連行…それでも消えなかった家族への罪悪感

集英社オンライン / 2024年4月6日 12時0分

「もう結婚も子どもも無理だね」母の言葉に「俺だって、こうなりたくてなったわけではない」…それでも知的障害と発達障害を抱える43歳男性がたどりついた場所〉から続く

全国におよそ146万人いると推計されるひきこもり。その半分は女性とされているが、多くは家庭の中にいるため、なかなかその実態が見えてこなかった。本記事に登場する東京に住む主婦の女性(48歳)は断続的にのべ4年以上ひきこもった経験を持つ。子どもが幼いときは特に大変だったという、この女性の生きづらさとは何だったのか。そして、そこから脱することができたきっかけとは――。(前後編の前編)

【画像】「ドライブに行かない?」とひきこもり女性が連れて行かれた場所

(後編)

言いたいことを言えずに過食嘔吐

野中絵里子さん(仮名・48)は幼稚園のころから、父の仕事の都合で引越しをくり返してきた。そして新たに行く先々で「求められる自分」を演じてきたという。

例えば、小学校低学年を過ごした福岡では男子を追いかけまわす「裏番長キャラ」だった。転入当初、机の中にカエルの死体を入れられるなど嫌がらせをされ、「ここでは強いほうがいい」と感じたのだ。

小5で東京に移ってからは学級委員も進んでやる「真面目な優等生キャラ」だった。そうすると母親が喜んだからだ。野中さんはずっと母親の目を気にして生きてきたという。

「小学生のころは髪の毛を母に切ってもらっていたんです。兄には『猿みたい』ってからかわれたけど、母が大好きなマッシュルームカット。洋服も母が着せたい服を着る。それがいいんだと思って、疑ったこともなかったですね」

高校生になると、身体に異変が起きた。

朝起きると頭痛がして、ひんぱんに熱も出るように。鼻血が止まらなかった時期もある。本当は共学に行きたかったのだが、教師からも両親からも大学付属の女子校を勧められ、自分の思いを押し通せず引っ込めてしまった。

言いたいことを言えないストレスが原因だったと今ならわかるが、当時は自分でもどうしていいかわからず、過食嘔吐に走った。

「学校は陰気で空気が重いし、生徒はすごいインドアな感じの人か、渋谷で合コン三昧みたいな人ばかりで、話も合わない。高校がつまんないから、いっぱい菓子パンを食べて(笑)。

朝、コンビニ寄って菓子パン2つ買って、お弁当の前に食べる。放課後はファーストフードにバイト行って、余ったハンバーガーを持って帰って公園で食べてから、家帰って夕飯食べて、みたいな。お腹もいっぱいになるし、お手洗いに行っては吐いていました。それがおかしいとも思ってなかったですね」

過食のせいで6キロ太ったので、母親も娘の変化に気が付いていたと思うが、何も言わない。バイト先でタバコを覚えて、自室で隠れて吸った吸い殻をカンカンに入れて机にしまっていたのだが、ある日帰宅したらきれいになっていた。

だが、やはり母親は何も言わない。よく一緒にお茶を飲みには行ったが、そこでも重要な話はしない。

「言えよって思うけど、母も自分の親と深く話すことをしないで育ったみたいで、私とどう関わっていいのかわからなかったんでしょうね。私も自分の思いは言えないままだし、母も私の内面には踏み込んでこない。母には栄養バランスに気を配った手料理で育ててもらっているし、ずっと心配されているのはわかるので、なんか、私は常に罪悪感がありましたね」

先輩社員に嫌味を言われ傷つく

大学に入ってからは友だちや彼氏の家に泊まって、なるべく家にいる時間を減らした。母から逃れることしか思いつかなかったからだ。

大学卒業後はアパレルの販売店に就職した。新規オープンする店舗に配属され、開店の準備にあたったが、2か月ほどで仕事に行けなくなってしまう――。

まだガランとした店内に商品が届き、「整理をして」と命じられても、新人の野中さんにはどうしたらいいのかよくわからない。正直に「わかりません」と言ったら、女性の先輩社員にバカにされた。
 

「えー、そんなこともできないの」

野中さんが男性社員に可愛がられるのも、先輩女性は気に食わなかったようで嫌味は続く。野中さんはどんどん疲弊していった。

「もともと人の気持ちには敏感だったので、毎朝、『あ、嫌われているな』って感じるのが、ちょっとしんどくて。それに、新しい環境に慣れるのが大変で、感覚が過敏になっていって、ちょっとしたことで涙が止まらなくなったりしました。

でも、嫌な気分を晴らしたくて、仕事が終わってから以前のバイト先の友だちと飲みに行って、翌朝、エナジードリンクを飲んで、何とか仕事に行く。そんなことを続けていたら、精神的に不安定になってしまって……」

あるとき、「親にずっと言えなかったモヤモヤした気持ちを伝えたほうがいい」と友人たちに勧められ、皆に見守られて両親と話をした。ところが、母親は泣いて謝るばかり。仕事が忙しくて、ふだん家にいない父親は「何を言ってるのかわからない」と話が通じない。

野中さんは衝動的にビルから飛び降りたくなったが、ビルの中で窓は開かない。トイレの個室に飛び込むと、なぜか着ている服を脱いだのだという。

「自分でもよくわからないけど、人でいたくなくなったというか、消えてなくなりたかったのかな……」

罪悪感を抱えて家にひきこもる

家に戻ると、野中さんは荷物の仕分けを始めた。自室にある家具の多くは「これがいい」と母親が選んだもの。好きではないのに母には言えず、居心地が悪いまま暮らしていたが、自分が本当は何が好きなのか知りたくなったのだ。

「ドライブに行かない?」

ある日、遊びに来た親戚に誘われて車に乗り、連れて行かれたのは精神科病院だった。
 

「私は病気ではないから」

懸命に訴えたが聞いてもらえず、注射を打たれて意識を失ってしまう。気が付いたときは手足を拘束され、オムツを穿かされてベッドに横になっていた。何より辛かったのは、自分のことが自分でもわからなくなっていることだった。

自律神経失調症と診断され、3か月間入院。退院後は自宅療養をした。半年間、ほとんど家から出ずにひきこもっていたのだが、「心配をかけて申し訳ない」という罪悪感にずっと苛まれていたそうだ。

過食嘔吐をくり返した高校時代も、常に罪悪感があったと話していたが、どうしてなのか。疑問に思って聞くと、自分の気質について説明してくれた。

野中さんは40代半ばのころ、自分がHSP(Highly Sensitive Person)だと気が付いたそうだ。病気や障がいではなく生まれつきの気質で、一般的には「繊細さん」という呼び方もされている。感受性がとても強く、細かなことまでよく気が付く。ていねいな仕事ぶりが評価されることも多い。その反面、些細なことで自分を責めて罪悪感を持ちやすく、生きづらさを感じる人も多いという。

「普通の人なら、『こんなの嫌だ、絶対無理』と言ってその場で終わりにすることでも、私がそれを嫌だと言ったらお母さんがすごいショックを受けて傷つくと考えてしまい、何年も言えなかったりする。完璧主義のところもあって、うまくいかないことがあると、できない自分が悪いんだと罪悪感を持ってしまうんだと思います」

職場に復帰したのは半年後だった。人数の多い別の店舗に配属してもらい、教育係についた先輩が何かとフォローしてくれて、仕事を続けることができた。

夫の言葉でひきこもりから脱する

ところが、28歳のときに、再び3か月入院することになる。その少し前から、飲み友だちだった今の夫と付き合い始めたのだが、彼のことが好きで好きでしょうがないのに、彼の仕事が不規則で思うように会えない。それでストレスなどが溜まり、精神のバランスを崩したのだ。

退院後は、しばらく家にいたが、気持ちが休まらない。

「とにかく実家を出たい」
 

そう彼に訴えると、「結婚しよう」と言ってくれた。だが、新婚生活が始まっても、だるくて何もできず、部屋にひきこもったままの日が続く。野中さんが「ごめんね」と謝ると、夫はこう言ってくれた。

「ゆっくり休んでていいよ。寝てりゃあ、いいんだよ」

動けない妻のために夫は漫画をたくさん買ってきてくれたり、ゲームを持って来てくれたり。野中さんは初めてドラゴンクエストにどっぷりハマったと笑う。夫の帰りは毎日遅いので、夕食も自分の分だけ用意すればよく、コンビニで買ってきて済ますことも。そんな生活は1年ほど続いた。

このときの野中さんのようにずっと家にひきこもっていても、結婚して専業主婦の場合、「ひきこもり」として顕在化しにくい。

実際、国の調査でも当初、「主婦(夫)」「家事手伝い」を除外していたが、5年前の調査から、直近の半年間に家族以外との会話がほぼなかったすべての人を含めるようになった。2023年3月に公表された統計によると、全国で推計146万人いるひきこもりの半数は女性だった。

野中さんの場合、ひきこもり状態から脱することができたのは、夫が何度もかけてくれた言葉のおかげだという。
 

「外に出て刺激とかを受けると死んじゃいそうだから家にひきこもったんだけど、実家にいるときは家族への申し訳なさと罪悪感で全然、気が休まらなかったし、何とかしなきゃと思うから余計にプレッシャーもかかる。でも、旦那からは愛されている実感があったし、『何もしないことは悪いことじゃない。休んでていいんだよ』と言ってくれた。甘えてちゃダメだよという視線を感じずにいられたので、ゆっくり元気になれたのかな。1年くらいしたら、ちょっと働きたくなってきて、飲食店でバイトを始めたんです」

しばらくして娘が誕生。その3年後には息子が生まれて、野中さんは2児の母になった。ところが、あることをきっかけに夫と大喧嘩に――。
 

〈後編続く〉(後編)『「母親なのに、ひきこもりやがって」優しかったはずの夫がなぜ…48歳主婦に訪れた心の悲劇』

取材・文/萩原絹代 写真/shutterstock

「母親なのに、ひきこもりやがって」優しかったはずの夫がなぜ…48歳主婦に訪れた悲劇と不登校になった子どもが気づかせてくれた“本当の自分”〉へ続く

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