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「食の欧米化が日本人の生活習慣病を増やした」のは本当か? この謎を解く沖縄の「平均寿命」と「脂質摂取比率」の意外な関係

集英社オンライン / 2024年3月13日 11時1分

ランチの後、しばらくすると「眠くなる」「だるくなる」、あるいは十分に食べたはずなのにすぐに小腹が減る、集中力が途切れる、イライラする――。北里大学北里研究所病院副院長・糖尿病センター長の山田悟医師は、こうした体調不良を「糖質疲労」と名づけている。日本人に増えているというこの現象の原因は「日本人の食の欧米化」にあるというが、本当なのか? 書籍『糖質疲労』より一部抜粋、再構成してお届けする。

「食の欧米化が病気の原因」という言葉にだまされている!

そもそも「食の欧米化」とはどのような現象を呼ぶのでしょうか。うっかり納得してしまいそうになる耳触りのよさはわかりますが、日本食が欧米でブームになったからと「食の東洋化」と言うでしょうか?「食の欧米化」の実態は明らかになっておらず、少々乱暴な概念ではないかと感じています。

「食の欧米化が生活習慣病の要因だ」という話は、少なくとも私が医者になった20世紀末頃には言われていました。学会の講演のスライドにおいて、ロナルド・マクドナルドやカーネル・サンダースが「Wanted!」と指名手配犯ばりに悪者にされていました。ただしこの場合、ターゲットは米国の食文化です。欧州の影はありません。

では、この25年間で日本において食の欧米化は進行したのでしょうか? それとも後退したのでしょうか? 誰も回答を出そうとしていません。なぜなら数値化できないからです。

たとえば、食事における脂質のエネルギー摂取比率の増加を欧米化の指標と考える人もいるようですが、そうであるならば、この25年で日本においては食の欧米化は後退しているか横ばい、という見解が出るはずです。脂質のエネルギー摂取比率はわずかに落ちているか、ほぼフラットだからです。

それなのにその間に糖尿病患者数は増え続けているのですから、「食の欧米化が生活習慣病の要因」という概念はとっくに消え失せていいはずです。

食の欧米化が日本人に悪いことをもたらすという概念は、ある種の麻薬です。それは、「本来の日本人の食事=和食」は極めて健康的であるという概念を背景にもっているので、日本人全員に快楽をもたらすのだと思います。

それは医療従事者であっても同じです。食の欧米化という概念を数値化し、その数値の変動と様々な生活習慣病の有病率、あるいは発症率の変動との関係性を検討するという、本来、医療従事者がなすべき検討を誰もしないまま、ただ気持ちがいい概念なので、盲目的に受容し、専門家として発信しています。

沖縄クライシス

「沖縄クライシス」という概念をご存じでしょうか。

日本に復帰した当初、もっとも平均寿命の長かった沖縄が、20世紀末から21世紀にかけて平均寿命の順位を(とくに男性で)落としている現象を指しています。

そして、多くの医療従事者はその背景として、沖縄にはもっとも米国の(食)文化が入っており、脂質摂取が多いから順位を落としているのだと推測しています。

しかし調べてみると、日本に復帰した当初から沖縄の脂質摂取比率は高く、平均寿命の順位の低下とともに脂質摂取比率は低下し、逆に炭水化物摂取比率が上昇していました。このデータは論文化していませんが、2015年の日本糖尿病学会年次学術集会で発表しました。脂質摂取比率の低下とともに沖縄県の平均寿命の順位は低下しているのです。

和食に誇りをもつのはいいですし、私自身もその食文化を誇りに思っています。しかし、医療従事者が科学的検証を怠ったままで事実に目を向けないとすれば、医学の未来はありません。

世界的に人の交流や貨物の流通が増え、食文化も含めたいろいろな分野でのグローバル化が進んでいます。欧米で和食屋、中華料理屋が増えることも、食の東洋化ではなく、グローバル化の一環でしょう。

世界中のおいしいものを自国にいながら享受できるようになったことはとてもよろこばしいことです。各国の食文化を優劣で比較しようとするのではなく、どこの国のどんな食文化においても対応できる食事法で健康になることを考えるべきです。ロカボはそんな食事法の1つです。

なお、和食には塩分が多く、脂質に乏しいという欠点があります。私は、それが高血圧症や脳出血にぜい弱で、肥満もないのに糖尿病を発症する日本人が多い「一因」と言えるのではないか、そう思っています。

欠点も知っていれば、食べ方で気をつけられますから、正しく知ることは大切です。

ぜひ「食の欧米化=悪」といった安易な言葉に縛られず、大いに世界の食文化を楽しみながら健康を増進していきましょう。

文/山田悟
写真/shutterstock

糖質疲労

山田 悟

2024/3/7

1,540円

192ページ

ISBN:

978-4763141217

食後の「眠い」「だるい」「食べ足りない」「集中力が下がる」は、「糖質疲労」かも!

糖質過多が「疲れ」と「病気」と「老化」を生む。
糖尿病専門医が教える「内臓を長持ちさせる」方法とは?
糖尿病だけじゃない。だるさ、老け顔、皮膚炎、腎炎、腎臓病、自己免疫疾患、痛風、脂肪肝……
それ、「糖質疲労」が引き起こしています。

こんな「健康神話」信じてませんか?
朝のリンゴは医者いらずである
朝はシリアル+低脂肪ヨーグルト+ハチミツが定番
目覚まし&美肌のために朝はスムージー
夜は腸内環境のための乳酸菌飲料
疲れたらエナジードリンク
ファスティングのあとの酵素ジュース
熱中症予防のスポーツ飲料
健診結果を聞いてからは「ランチはおにぎり&野菜ジュース」
そばならOK
ストレス解消・脳疲労回復・ごほうびには甘いもの
子どものころから「三角食べ」
……これ、「糖質疲労」を招く、間違った食べ方です。

油とタンパク質をしっかりとって、「ごはんだけ少なめ」にする。
そんな、ゆるい糖質制限をするだけで、あなたの健康と日々のパフォーマンスは激変します。
最新の医学情報、エビデンスを元にした「病気と糖の関係」と
「健康になる食べ方」をお届けする一冊です。

(もくじより)
・「朝食にフルーツ」はやってはいけない食べ方だった
・「そばならOK」は誤解だった
・ヘルシーの代名詞「サラダチキン」の落とし穴
・美容ドリンクを飲めば飲むほど「老けて」いく!?
・「満腹中枢」を正常に戻すには、たんぱく質と脂質を「お腹いっぱい」食べなさい
・「マヨネーズ」を加えると血糖値が劇的に上がりにくくなった!
・「病気」までのカウントダウンは「あと10年もない」!?

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