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<ユニクロ、10兆円企業へ>柳井正「われわれは物流会社になる」発言の真意…ムダな商品を「つくらない・運ばない・売らない」

集英社オンライン / 2024年4月24日 8時0分

3兆円企業「シーイン」がブチ壊した世界のアパレル会社の常識…「デザインから生産完了まで3日」衝撃の製造プロセスはなぜ成り立つ?〉から続く

独自の「物流戦略」をもとに圧倒的な競争力を生み出す企業は、どんな取り組みをしているのか? ユニクロが2016年から取り組んできた物流戦略を解説する。同社の代表取締役会長・柳井正氏の「われわれは物流会社になる」という言葉の真意とは?

【図】2018年に柳井氏が打ち出したサプライチェーンの理想図

書籍『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』より一部を抜粋再構成し、お届けする。

「われわれは物流会社になる」──
柳井氏による発言の真意

いまから8年ほど前(2016年)のことです。「ユニクロ」や「ジーユー」を国内外で展開するファーストリテイリングの会長兼社長である柳井正氏が、「われわれは物流会社になる」と社内会議で激しく訴えました。



実際に2020年11月には、ファーストリテイリングは定款に「倉庫業及び倉庫管理業」「運送取次事業」などを追加し、本格的な物流事業の展開を可能にしました。

もちろん、物流会社に業態転換するという意味ではありませんが、それくらいの機能を有するアパレル企業へと成長するという意気込みを感じさせます。

ご存じのように、同社のビジネスモデルは、商品企画・デザインから工場生産、店舗販売まで自社で一手に担う「SPA(製造小売業)」です。高品質・低価格を武器に世界市場から支持を集め、直近の決算(2023年8月期)では売上高2兆7000億円を超え、今期は3兆円に達する見込みです。

その同社がなぜ、わざわざ「物流会社になる」と社内を鼓舞する必要があるのか?

実は、柳井氏は「ファーストリテイリングは物流会社を目指す」と宣言する前から、「物流を本業としないグローバル企業が物流会社になる」と発言していました。

きっかけは世界最大のEC企業、アマゾンの台頭です。

ファーストリテイリングは、世界のトップ企業をお手本としながら成長してきました。いまや、アマゾンが世界でも有数の物流会社であることは、誰もが認めるところです。

柳井氏は、アマゾンの成長をモデルに、ファーストリテイリングをアップグレードしていきました。SPAモデルではギャップ、ファストファッションではザラを展開するインディテックスなどをモデルとしていますが、物流における成長モデルとしてはアマゾンを意識しているのです。

ファーストリテイリングは、自社ECからの配送が受注から1週間近くかかっていた頃は、アマゾンの物流を利用できるマーケットプレイスで人気商品を販売していました。しかし、アマゾン並みの翌日配送、店舗でのEC商品の受け取り、さらには店舗スタッフによるラストワンマイル配送が可能(一部店舗)になると一転。

売れ筋データの流出を避け、マーケットプレイスでの販売を中止しました。

2023年8月期の決算説明会で、柳井氏は次のような主旨の発言をしています。「売上高5兆円の道筋は見えた。あとはこれを2倍にするだけで、目標とする売上高10兆円を達成できる」と。

しかしながら、ファーストリテイリングが「物流会社になる」と発言した真意は、売上拡大だけではありません。

売上目標達成よりももっと先、アマゾンのように世界中にある商品をムダなく、自由自在に動かし、必要とするタイミングで、顧客の手元に届けることを可能にする物流機能をもったグローバル企業を目指しているのだと、私は考えています。

ムダな商品を「つくらない・運ばない・売らない」

同社では、2018年8月期決算説明会の場で「サプライチェーン改革」を打ち出しました。

柳井氏曰く、「それまでのサプライチェーンでは、年間13億着の服のために、企画・計画から生産、物流、販売にいたるまで1年以上の時間がかかっており、〝無駄なものをつくり、運び、売る〞サプライチェーンになっていた」そうです(図2-1)。

それを「お客様が求めるものをつくり、お客様が求めるものを運び、お客様が求めるものを売っていく」サプライチェーンに変えていくというものでした(図2-2)。

その実現のため、同社ではグローバルで事業展開する世界トップ企業との間で、さまざまな分野でパートナーシップを結んでいきます。

〝つくる〞プロセスでは、世界中の膨大かつ良質な情報をリアルタイムに集め、商品企画・販売量に反映していくため、グーグルの人工知能を活用し、世界中の情報と販売データをもとに、世界的コンサルティングファームであるアクセンチュア社のアルゴリズムを用いて、精度の高い商品企画と販売数量を決定しています。

〝生産体制〞については、東レと共同開発した素材を備蓄し、ニット機械の製造販売を行う島精機製作所と顧客の要望に適した商品づくり、リードタイム短縮を図る生産体制を構築しています。

〝運ぶ〞ことについては、全世界での自動倉庫展開を軸に、販売に必要な商品のみを保管して運送することを徹底しています。

そのために、2018年10月に自動倉庫の設計・開発を手掛けるダイフクとパートナーシップを締結。2019年11月には倉庫内作業ロボットの動きをコントロールするソフトウェア開発のベンチャー企業、ムジン(MUJIN)、3次元立体走行型自動搬送ロボットによる自動ピッキングシステムを提供するエグゾテックソリューションズ(Exotec Solutions SAS)と、それぞれの間で、戦略的グローバルパートナーシップを結んでいます。

ダイフク、ムジンとの協業による全自動倉庫は、入庫生産性80倍、出庫生産性19倍、保管効率3倍、省人化率90%。ピッキング作業者の歩行数は0歩を可能にしました。商品のピッキングで歩かずに済むため、教育係が移動しなくてもピッキング作業を指導でき、教育コストも80%削減が可能になりました。

なお、エグゾテックソリューションズの自動ピッキングシステムは「スカイポッド」と呼ばれるもの。第1章(ヨドバシカメラ)の最後に少し登場したのを覚えているでしょうか?最大重量30㎏までを、12メートルの高さまで昇り降りする3次元立体走行型自動搬送ロボットにより高密度保管を可能にし、最大毎時400行数(オーダー)を出庫することができます。生産性は同じ規模の従来型倉庫に比べ4倍、保管量は5倍です。

自動搬送ロボットは秒速4メートル(時速に換算すると、14.4キロメートル)の速さで、前後左右上下に移動します。全世界で4000台が稼働、うち日本国内ではファーストリテイリングの2拠点で1000台が稼働しています。

スカイポッドは、フランス、米国、日本にそれぞれ置かれたコントロールセンターにより、タイムゾーンに分かれて24時間監視しており、トラブル時の80%はコントロールセンターからの遠隔操作で解決できると言います。

このほか、RFID(自動認識技術)検品精度は100%、AIカメラによる24時間遠隔監視体制を確立。24時間稼働で、出荷までのリードタイムも従来の64分の1まで短縮しているそうです。

なお、RFIDによる検品は、実験室のような理想的環境であれば100%の精度を出すことは難しくありませんが、実際の倉庫では、金属が多い現場で電波の干渉が出ることもあり、100%の精度はなかなか出せないと言われています。

ダイフク、ムジンの両社とも、グローバルな展開でさまざまな現場を経験していることもあり、RFID検品精度100%が実現できたのだと思います。

〝売る〞に関しては、過剰在庫の削減と品切れの撲滅を同時に達成し、値引きによる売り切りからの脱却を目指しました。

こうした数々の取り組みが実を結び、2019年11月時点でダイフクとは国内2拠点、海外2拠点で倉庫自動化に着手しており、合計1000億円規模の物流投資になる計画です。

 世界の有名アパレル企業と
渡り合うファーストリテイリング

ファーストリテイリングの業績を見ると、2023年8月期は2兆7000億円超の売上を挙げ、2024年8月期には売上高3兆円を超える計画です(図2-3)。では、グローバル企業と比較したとき、ファーストリテイリングは、どのくらいの規模になるのでしょうか。同社では、業界でのポジションとして、世界の主なアパレル製造小売業との比較を掲載しています。

ファーストリテイリングの掲載データは2023年8月時点とズレがありますが、売上高では、ザラを展開するインディテックス(5.16兆円、Inditex,S.A、スペイン)、H&Mのエイチ・アンド・エム・ヘネス・アンド・マウリッツ(2.99兆円、H&M Hennes & Mauritz AB、スウェーデン)に次ぐ、世界第3位です。

ただし、H&Mは現在、あまり業績が芳しくなく、事業の建て直しを進めているところで、2023年8月期も大きく業績を伸ばしたファーストリテイリングとの差はどんどん小さくなっている印象です。

実際に2019年には、ユニクロがH&Mに代わり、スウェーデンオリンピック・パラリンピック委員会とナショナルチームのユニフォーム制作を請け負うなど、H&Mの領域を侵食しています。

第4位は、かつてファーストリテイリングがSPAのモデルとしていたギャップ(2.33兆円、GapInc.、米国)。このほか、売上高1兆円超の企業としてCalvin Klein,Tommy Hilfigerを展開するPVH(PVH Corp.、米国)、ヨガのブランドとして急成長しているルルレモン(lululemon athletica inc.、米国)が名を連ねています。

あくまでもファーストリテイリングが考えるアパレル製造産業の時価総額ランキングですが、それを見ると、ファーストリテイリングは、インディテックスに次いで第2位。第3位がルルレモン。スポーツブランドとしての時価総額ランキングでは、アディダスを抜き、ナイキに次ぐ第2位のポジションに位置しています(図2-4)。


図/書籍『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』より
写真/shutterstock

アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略(PHP研究所)

⻆井亮一
アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略(PHP研究所)
2024/2/19
1,045円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4569856551
人手不足、EC市場の成長による宅配数の増加、トラックドライバーの労働時間規制、輸送費の高騰……。物流における「2024年問題」は、課題が山積している。

この問題が2024年だけで終わればいいが、今後も物流を巡る環境は過酷さを増していくことが予想される。当然、その影響からは日本企業で働く我々も免れない。今後、物流は「企業格差」を広げる原因の一つとなるだろう。

物流は、企業の生産性や収益性を大きく左右する。そのことにいち早く気づいた企業たちは、先手を打つ。アマゾン、ヨドバシ、アスクル……、独自の「物流戦略」をもとに圧倒的な競争力を生み出す企業は、どんな取り組みをしているのか?

本書では、物流の最新事情に精通する著者が、 「物流最前線」を走る企業をピックアップ。優良企業の物流戦略と、それを可能にする仕組みを紹介する。

物流の「今」と、高収益を生み出す企業のビジネスモデルがわかる! そこから「次の一手」が見えてくる!! あなたの会社を「物流で勝つ会社」にする選りすぐりのケーススタディをご覧いただきたい。

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