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承認欲求の大暴走! 今パッとしない人ほど過去の成功体験を持ち出す…職場を腐らせる“いつも相手を見下す人”への処方箋

集英社オンライン / 2024年5月8日 8時0分

ことあるごとに「自分はこんなにすごいんだぞ」とアピールせずにはいられない同僚や上司。あなたの職場にもいないだろうか?

【写真】ハラスメントをする上司

書籍『職場を腐らせる人たち』より一部抜粋・再構成し、相手を見下すことで職場を腐らせる人たちの実態をレポートする。

いつも相手を見下す人

私が定期的にカウンセリングを行っている金融機関で、20代の男性行員のことで相談を受けた。この男性は、「最近、一流企業の〇〇会社の社長さんと会ってさ」「僕は有名な△△大学の出身でさ」などと言っては、いつも相手を見下す。

そのため、ほとんどの同僚が辟易しているのだが、本人はまったく気づいていないらしく、相変わらず学歴をひけらかし、自分が偉い人を知っているという話を繰り返すそうだ。

高学歴なのに、仕事ができない

この男性が高学歴なのは事実である。もっとも、仕事ができるかというと大いに疑問だ。本人は融資課で審査業務に従事することを希望していたので、入行後いくつかの部署を回った後、融資課に配属された。

個人や企業の顧客に融資し、その額に比例して利子を稼ぐのが金融機関のビジネスモデルなので、実績が目に見えてわかる花形の融資課で活躍したいという願望が強かったようだ。名門大学出身ということもあって、上層部もこの男性にかなり期待していたと聞く。

ところが、顧客対応があまり得意ではなかった。審査の際には、融資を希望する顧客と直接面談して話を聞き、交渉や調整をする必要があるのだが、それがうまくできなかったのだ。

こうした事情があったからか、この男性は上司から勧められて私のカウンセリングを受けた。その際、そもそも他人と話をすること自体が苦手で、顧客との面談があるときは、前の晩から緊張して眠れなくなると訴えた。

顧客との面談で、必ずしも決算書に記載されているわけではない情報を引き出し、業務内容や財務状況を正確に把握することができないと、融資が可能かどうかを判断するのは難しい。そのせいか、この男性は判断に時間がかかり、融資案件の数をこなすことができなかった。

しかも、融資を希望する顧客すべてにお金を貸せるわけではなく、どうしても融資不可の案件が一定の割合で出てくる。それを伝えた顧客から「なんで貸してくれないんや。こっちは首をつるしかないほど切羽詰まっているんだから、貸してくれてもいいやないか」と詰め寄られ、暴言を吐かれたことも、この男性の判断を遅らせる一因になったようだ。

先輩に相談したところ、「そういう客はどこの支店にもいる。本来は貸せないのに無理して貸したら、背任になりかねない。だから、融資の条件を満たしていなくて貸せない相手には、はっきり伝えるべきだ。場数を踏んで慣れていくしかない」と助言されたそうで、至極もっともだと思う。だが、この男性は、また暴言を浴びせられるのではないかという不安から、融資が可能か不可かの判断をなかなか下せなくなってしまったのだ。

1ヵ月に誰が何件の融資案件をこなしたかは、毎月グラフで示されるのだが、いつもこの男性が一番少なかった。しかも、自分より多くの融資案件をこなしていた同期の男性が、この男性の母校より偏差値も知名度も低い中堅私大の出身ということも、彼のプライドをひどく傷つけたようだ。

ちょうどこの頃、直属の上司である課長から、この男性について「いい大学を出ているのに、あまり仕事ができない。お客様と話すのが苦手みたいで、融資の件数をこなせない。だからといって、厳しく叱責したり発破をかけたりすると、本人のプライドを傷つけかねない。ややこしそうな案件はできるだけ回さないようにしているが、そうすると他の行員から不満が出てくるし、どうしたらいいでしょうか」と相談を受けた。

かなり寛大な上司という印象を受けたので、「元々能力はあるはずだから、しばらく見守るしかないですね」と答えておいた。

しかし、年単位で見守っても、この男性の顧客対応力が向上することも、こなせる融資案件の数が増えることもなかった。そのため、さすがに寛大な上司も業を煮やしたのか、「判断を伴う業務には向いていないのかもしれない。だから、判断を伴わない業務に回したほうがいいのではないか」と言い出し、上層部に相談した。

この男性は、花形の融資課での勤務を続けることを希望したようだ。だが、こなせる案件の数があまりにも少なく、同僚から不満の声があがっていたことも考慮したのか、契約書を作成する部署に異動させる決定を上層部は下した。

不本意だった異動

この異動は、本人にとってかなり不本意だったらしい。というのも、金融機関では一般に判断を伴う判断業務のほうが判断を伴わない定型業務よりも高く評価される傾向があるからだ。

とくに融資課は花形であり、そこで成果を出して認められたいという願望が強かったのか、定型業務部署への異動を左遷のように感じたらしい。しかも、融資課には正社員の男性が多いが、異動先の部署にはパートタイマーや契約社員の女性が多いことも、彼のプライドを傷つける一因になったようだ。

そもそも、この金融機関では、判断を伴わない定型業務は、できるだけ非正規社員に担当させるという流れになりつつある。正社員は、顧客対応及び判断を伴う審査や営業などの業務に従事させる、つまりできるだけ利ざやを稼げる仕事をやらせる方針のようだ。とはいえ、この男性は顧客対応が苦手なので、営業職に就かせる選択肢は、はなから考えられなかったという。

このような経緯を経て異動した男性は、冒頭で紹介したような言葉を吐いて、周囲を見下すようになった。それだけではない。「ただ書類を作るだけの単純作業には喜びもやりがいも感じられないんです。

パートのおばちゃんでもできるような仕事をするためにここに入ったんじゃありません。異動させられて、僕はキャリアをつぶされました」と支店長に訴え、元の融資課に戻してくれるよう直談判したのである。

 こじらせた承認欲求

これまでの経緯を振り返ると、この男性が自分の優位性を誇示して、周囲を見下すのは、自身の承認欲求が満たされず、欲求不満を募らせているからだと考えられる。本当は花形の融資課で成果を出して認められたかったのだが、実際にはそうはいかなかった。

それどころか、学歴では劣る同期に融資案件の数で負けるという体たらくで、結果的に不本意な形で異動させられた。当然、本人のプライドは相当傷ついたに違いない。

こういう屈辱的な事態は誰にでも多かれ少なかれ起こりうるはずだ。そんなときこそ真価が問われるわけで、自分が味わった敗北感とどう向き合い、どう乗り越えていくかでその人の価値が決まるといっても過言ではない。

この男性は敗北感と向き合おうとせず、乗り越えられなかったように見える。おそらく、学歴では自分のほうが勝っている同期に融資の実績では負けたという現実を受け入れられなかったのだろう。いや、正確にいうと、受け入れたくなかったのかもしれない。自己愛が強いので、自分の敗北をどうしても認められないのだ。

耐え難い現実から目をそむけ続けるには、「本当は負けていない。自分のほうが勝っている点もある」と自分で自分に言い聞かせられるもの、いわば傷ついた自己愛を補強するものが必要になる。

この男性の場合、異動先の部署で実績をあげて見返すことができれば、それに越したことはないのだが、それは無理だった。契約書作成の仕事を彼は見下していて、身が入らなかったのか、パートタイマーや契約社員の女性よりも1日に作成できる書類の数が少なかったからだ。

そうなると、仕事以外で自分のほうが優れている点をアピールするしかなくなる。だからこそ、この男性は自身の学歴をこれ見よがしにひけらかして相手を見下すようになったのだろう。

盛んに吹聴していた偉い人を知っているという話も、実は出身大学の同窓会で講演した一流企業の社長を間近で見た程度の関係にすぎないと、同じ大学出身の行員が話していた。ちなみに、この行員は現在携わっている業務で成果を出しており、周囲から一目置かれているうえ、上司からも評価されているからか、自らの輝かしい学歴を引き合いに出すことはほとんどないようだ。

くだんの男性に限らず、今パッとしない人ほど過去の成功体験を持ち出すように見受けられる。その最たるものが学歴だ。学歴は主にペーパーテストの点数で決まり、コミュニケーション能力や臨機応変に対応する能力を必ずしも反映しているわけではない。当然、業務内容によっては、高学歴だが仕事ができない人が一定の割合で存在する。

この男性の上司のように「いい大学を出ているのに、あまり仕事ができない」部下の件で相談を持ちかける管理職に何度もお目にかかったことがある。

これは、現在の入試制度を根本的に変えない限り、どうしても起こりうる悲劇だ。だから、高学歴なのに仕事ができない人がいたら、本人の適性を考慮して異動させるのは賢明な選択だと思う。ところが、この男性は、苦手な顧客対応をせずにすむ部署へ異動したにもかかわらず、それが不本意だったのか、不満たらたらで、周囲を見下すようになった。

このように周囲を見下し、自分の優位性を誇示する人の胸中には、こじらせた承認欲求が潜んでいることが少なくない。認められたいのに、認めてもらえないという不満がくすぶっており、ことあるごとに「自分はこんなにすごいんだぞ」とアピールせずにはいられない。

もっとも、いくらアピールしても、実績をあげられなければ、周囲から認めてもらえない。むしろ、総スカンの状態になりやすい。だから、余計に不満が募って、さらにアピールする。こうして悪循環に陥っていくのである。


写真/shutterstock

職場を腐らせる人たち(講談社現代新書)

片田珠美
職場を腐らせる人たち(講談社現代新書)
2024/3/21
990円(税込)
192ページ
ISBN: 978-4065351925

根性論を押し付ける、相手を見下す、責任転嫁、足を引っ張る、自己保身、人によって態度を変える……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか?

これまで7000人以上を診察してきた著者は、最も多い悩みは職場の人間関係に関するものだという。

理屈が通じない、自覚がない……やっかいすぎる「職場を腐らせる人たち」とはどんな人なのか? 有効な対処法はあるのか? ベストセラー著者が、豊富な臨床例から明かす。

「長年にわたる臨床経験から痛感するのは、職場を腐らせる人が1人でもいると、その影響が職場全体に広がることである。腐ったミカンが箱に1つでも入っていると、他のミカンも腐っていくのと同じ現象だ。

その最大の原因として、精神分析で「攻撃者との同一視」と呼ばれるメカニズムが働くことが挙げられる。これは、自分の胸中に不安や恐怖、怒りや無力感などをかき立てた人物の攻撃を模倣して、屈辱的な体験を乗り越えようとする防衛メカニズムである。

このメカニズムは、さまざまな場面で働く。たとえば、子どもの頃に親から虐待を受け、「あんな親にはなりたくない」と思っていたのに、自分が親になると、自分が受けたのと同様の虐待をわが子に加える。学校でいじめられていた子どもが、自分より弱い相手に対して同様のいじめを繰り返す。こうして虐待やいじめが連鎖していく。

似たようなことは職場でも起こる。上司からパワハラを受けた社員が、昇進したとたん、部下や後輩に対して同様のパワハラを繰り返す。あるいは、お局様から陰湿な嫌がらせを受けた女性社員が、今度は女性の新入社員に同様の嫌がらせをする。

こうしたパワハラや嫌がらせの連鎖を目にするたびに、「自分がされて嫌だったのなら、同じことを他人にしなければいいのに」と私は思う。だが、残念ながら、そういう理屈は通用しないようだ。」ーー「はじめに」より

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