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習い事にレジャー…低所得家庭の子ども約3人に1人が「体験ゼロ」、年収別で2.6倍以上の差も…日本初の全国調査で判明した体験をあきらめさせる壁

集英社オンライン / 2024年5月5日 11時0分

水泳やそろばん、ピアノなど、子どものころに習い事をしていた人も多いだろう。こういった学校外での体験は子どもの心身の成長を促すとされる一方、親の経済力などの影響でその機会に格差が生まれているという。果たしてその実態はどうなのか。

【グラフ】世帯年収別「体験ゼロ」の子どもの割合

『体験格差』(講談社現代新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

世帯年収が低い家庭ほど、「体験ゼロ」の割合が高くなっている

最初に、全体の中で「体験ゼロ」の子どもたちがどれだけいるのか、その割合を見ていくところから始めよう。

ここでいう「体験ゼロ」とは、私たちが調査の項目に含めた様々な学校外の体験が、直近1年間で「一つもない」ことを意味する。要するに、スポーツ系や文化系の習い事への参加もなければ、家族の旅行や地域のお祭りなどへの参加も含めて「何もない」ということだ。お金を払わなければ参加できないものが多いが、無料で参加できるものも含まれる。

「放課後の体験」も「休日の体験」もゼロ。あるいは有料であろうが無料であろうがゼロ。こうした「体験ゼロ」の子どもたちは、調査の結果、全体のおよそ15%を占めることがわかった。逆に言えば、残りの85%、つまり大多数の子どもたちは、少なくとも何らか一つの「体験」に参加する機会を得ていたことになる。

もちろん、「体験ゼロ」以外という形で括られる子どもたちの中には、動物園に一度行っただけという子どもから、週に何日も習い事に通い、旅行やキャンプにも何度も行っているという子どもまでが含まれている。その違いに目を向けることはもちろん重要だが、同時に、ゼロかゼロでないかの違いにも注目が必要だろう。

こうした「体験ゼロ」の子どもたちの割合を、家庭の世帯年収別にも見てみよう(グラフ2)。

すると、世帯年収が低い家庭ほど、「体験ゼロ」の割合が高くなっていることがわかる。世帯年収が600万円以上の家庭だと「体験ゼロ」が11.3%であるのに対し、300万円未満の家庭では29.9%となった。つまり、2.6倍以上もの格差だ。

こうした経済的な格差は、各家庭が支払っている「体験」の平均的な年間支出額にも表れている(グラフ3)。世帯年収600万円以上の家庭のおよそ12万円に対して、300万円未満の家庭では5.5万円弱。具体的な金額の面でも、およそ2.2倍の格差が生じている。

体験にかかる値段

子どもたちが様々な「体験」の機会を得るためには、具体的にどの程度のお金が必要なのだろうか。低所得家庭を中心に、ときにあきらめざるを得ないこともある「体験」、その値段はそれぞれの分野ごとに、大体いくらくらいかかっているのだろうか。

保護者の回答をもとに、何らかの習い事や体験活動に参加するにあたって、過去1年間に各家庭で実際に支出された金額をまとめたのが、グラフ4だ。

まずわかるのが、概ね毎月の費用がかかる「放課後」の体験(クラブや習い事など)のほうが、1回ごとに費用がかかる「休日」の体験(キャンプなど)よりも、年間での支出額がかなり大きくなっているということだ。

前者の「放課後」の体験については、スポーツ系と文化系のどちらも、大体同じくらいの費用がかかっている。年間で平均8万円超だ。その費用の中には、毎月の月謝に加えて、スポーツ用品や楽器などの用具代、また遠征や合宿、発表会などの費用が含まれる場合も少なくないだろう。

他方、「休日」の体験については、最も高い「自然体験」でも3万円弱で、「放課後」の体験にかかる年間の費用に比べて半額以下になっている。加えて、お金のかかりやすい旅行から、動物園や水族館、コンサート、さらには地域の行事やお祭りまでが含まれる「文化的体験」が、それらを平均すると2万円を下回る水準。そして、職業体験などの「社会体験」は、1万円未満となっている。

体験の「提供者」ごとの違い

「体験」の値段を考えるうえでは、体験の「提供者」の違いに着目することも重要だ。

例えば、同じサッカークラブであっても、企業が運営するクラブに所属するのと、放課後のグラウンド等を使って保護者がボランティアで運営するクラブに所属するのとでは、保護者にかかる費用の水準が違ってくる。体験の「提供者」の違いまで見ることで、より細かなニュアンスを把握することができる。

そこで、今回の調査では、「放課後」と「休日」のそれぞれについて、子どもたちが参加している「体験」をどんな主体が提供しているのか、保護者に聞いている。

その結果について、まずは各種の習い事やクラブなどからなる「放課後」の活動から見ていこう。

調査では、①民間事業者、②地域や保護者のボランティア、③学校のクラブ活動、という3つの選択肢を提示した。そして、その回答をもとに、それぞれについて平均の年間支出額を示したのがグラフ5だ。体験の「提供者」ごとに金額の違いが出ているのがわかるだろう。

スポーツ系を見ると、「民間事業者」が運営する場合は平均で約9.2万円かかっているのに対し、「学校のクラブ活動」ではそのちょうど半分の約4.6万円となっている。文化系では「民間事業者」で9万円超、「地域や保護者のボランティア」で約3.5万円だ。こちらも差が大きい。

「民間事業者」で相対的に支出額が大きくなることはイメージしやすいだろう。講師や指導者の人件費、会場や設備にかかる費用が、基本的にすべてお金を払ってサービスを利用する側、つまり保護者の負担(受益者負担)になるからだ。

逆に、「ボランティア」や「学校のクラブ活動」の場合には、コーチに支払われるお金が交通費程度であったり、施設の利用にかかる費用が無料であったりすることで、保護者の経済的な負担が抑えられやすい。

ただし、地域の野球やサッカーのクラブなどをイメージすればわかる通り、保護者は単に利用者であるだけでなく、無償で様々な活動をサポートする存在として期待される側面もある。つまり、金銭的な負担の少なさと、時間的な負担の多さとがセットになっている場合があるのだ。

ひとり親家庭でかつ働いている場合などが典型的だが、こうした親にとっての時間的な負担が(お金以外の)壁となり、子どもが「体験」の場に参加することを難しくしてしまうケースもある。

休日の提供者

次に、「休日」の体験の「提供者」については、①民間事業者、②地域や保護者のボランティア、③自治体・公的機関、④プライベート(家族や友人同士)、という4つの選択肢を提示した。

そのうえで、「自然体験」、「社会体験」、「文化的体験」の領域ごとに年間の平均支出額を見ると、「放課後」の体験と同じく、いずれも「民間事業者」で高くなっている(グラフ6)。

「民間事業者」の次に費用が高くなっているのが、家族や友人との様々な場所へのお出かけや旅行などが含まれる「プライベート」だ。家庭ごとの経済力の格差が出やすい領域だと言えるだろう。

それらに比べ、「ボランティア」や「自治体・公的機関」が提供する「休日」の体験は相対的に安くなっている。それらの中には無料で参加できるものもあるが、一定の参加費、また交通費や食材費といった実費がかかる場合もある。

こうした体験の「提供者」ごとの支出額の違いから想像できることは、それぞれの保護者たちは自らの経済力に応じて、自分の子どもがどんな「体験」の場に参加するか(できるか)を判断しているだろうということだ。

単純化して言えば、低所得家庭の子どもは、地域のボランティアや自治体が提供する無料および安価な「体験」の場には参加しやすいが、企業などが提供するそれには参加しづらい、そんな状況があるのではないか。

体験をあきらめさせるもの

調査では、過去1年間に子どもに何らかの「体験」をさせてあげられなかった経験があると答えた保護者に対して、そうせざるを得なかった理由についても聞いている(複数回答)。

グラフ7は、その回答を世帯年収300万円未満の家庭に絞って集計したものだが、そのうち最も多いのは「経済的理由」で56.3%だった。

補足すると、昨今の物価高騰による子どもの「体験」機会への影響は低所得家庭でより強く出ており、世帯年収300万円未満の家庭ではおよそ半数にまで及ぶ(物価高騰の影響で子どもの「体験」の機会が「減った」と「今後減る可能性がある」との回答の合計)。

これまで見てきた通り、低所得家庭の子どもたちの「体験」にとって、「お金」が最大の壁であることはやはり間違いがない。だが、別の壁もある。

再びグラフ7に戻ると、保護者の回答で次に多かったのが、送迎や付き添いなどの「時間的理由」だ。こちらも51.5%と半数を超えている。そして、そのあとに「近くにない」(26.6%)、「保護者の精神的・体力的理由」(20.7%)、「情報がない」(14.3%)、「理由はない」(6.8%)といった回答が続く。

「時間的理由」が「経済的理由」に匹敵する割合となっていることは重要だ。共働きの家庭はもちろんのこと、ひとり親家庭で習い事への送り迎えや付き添いなどがより困難であることは想像に難くない。

しかも、子どもが小学生の場合(今回の調査の対象)、中高生などほかの年齢層に比べてそうした負担が大きくなるため、子どもたちが「体験」の機会からより遠ざけられやすい。

例えば、もしどこか別の出費を切り詰め、子どもの「体験」にかかる月謝を何とか捻出できたとしても、定期的に送り迎えをする時間はとれない、といった状況だ。

夏に海のキャンプに参加したいと言っていたけど、経済的にも私の体力的にも厳しかった。(大阪府/小学4年生保護者)

スポ少(スポーツ少年団)でサッカーをやりたがっていたが、私がフルタイムで仕事をしているので当番などができないと思い断念した。(福島県/小学5年生保護者)

いずれも、今回の調査で寄せられた、世帯年収300万円未満の保護者からの声だ。子どもたちがやってみたい「体験」をさせてあげられない。そこには、親たちを取り巻く複合的な障壁が存在する。その中心に「お金」の問題があり、ほかの要因とも深く絡み合っている。


文/今井悠介 写真/shutterstock

『体験格差』 (講談社現代新書)

今井 悠介 (著)
『体験格差』 (講談社現代新書)
2024/4/18
990円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4065353639

習い事や家族旅行は贅沢?
子どもたちから何が奪われているのか?
この社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態とは?
日本初の全国調査が明かす「体験ゼロ」の衝撃!

【本書のおもな内容】
●低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」
●小4までは「学習」より「体験」
●体験は贅沢品か? 必需品か?
●「サッカーがしたい」「うちは無理だよね」
●なぜ体験をあきらめなければいけないのか
●人気の水泳と音楽で生じる格差
●近所のお祭りにすら格差がある
●障害児や外国ルーツを持つ家庭が直面する壁
●子どもは親の苦しみを想像する
●体験は想像力と選択肢の幅を広げる

「昨年の夏、あるシングルマザーの方から、こんなお話を聞いた。
息子が突然正座になって、泣きながら「サッカーがしたいです」と言ったんです。
それは、まだ小学生の一人息子が、幼いなりに自分の家庭の状況を理解し、ようやく口にできた願いだった。たった一人で悩んだ末、正座をして、涙を流しながら。私が本書で考えたい「体験格差」というテーマが、この場面に凝縮しているように思える。
(中略)
私たちが暮らす日本社会には、様々なスポーツや文化的な活動、休日の旅行や楽しいアクティビティなど、子どもの成長に大きな影響を与え得る多種多様な「体験」を、「したいと思えば自由にできる(させてもらえる)子どもたち」と、「したいと思ってもできない(させてもらえない)子どもたち」がいる。そこには明らかに大きな「格差」がある。
その格差は、直接的には「生まれ」に、特に親の経済的な状況に関係している。年齢を重ねるにつれ、大人に近づくにつれ、低所得家庭の子どもたちは、してみたいと思ったこと、やってみたいと思ったことを、そのまままっすぐには言えなくなっていく。
私たちは、数多くの子どもたちが直面してきたこうした「体験」の格差について、どれほど真剣に考えてきただろうか。「サッカーがしたいです」と声をしぼり出す子どもたちの姿を、どれくらい想像し、理解し、対策を考え、実行してきただろうか。」――「はじめに」より

親の年収で子どもの体験に格差…水泳にピアノ、キャンプ…「友だちが行ってるから」では行かせてあげられない厳しい現実〉へ続く

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