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〈那須2遺体〉犯人は「トクリュウ」でも「チャイニーズマフィア」でもなかった。“主犯”逮捕直前まで誤情報を垂れ流し続けた“コタツ”メディアの罪

集英社オンライン / 2024年5月11日 7時0分

〈那須2遺体・核心へ〉「消してほしい人がいるんだよね…」関根容疑者から“誘い”を受けた男を直撃「飛ばしの携帯6台準備できないかって佐々木からも相談された」「全部がヤバそうだった」と自身の関与は否定 〉から続く

東京・上野で飲食店を手広く経営していた宝島龍太郎さん(55)と幸子さん(56)夫妻が絞殺されて遺体が栃木県那須町で焼かれて見つかり、二人の長女の内縁の夫である関根誠端容疑者(32)らが死体損壊容疑で逮捕された事件。ここでは捜査経験がある元刑事や一部ネットメディアが、「トクリュウ」と呼ばれる匿名・流動型の犯罪グループや海外マフィアの仕業だとの見方を披露し続けた。警視庁と栃木県警の合同捜査本部は、4月下旬には関根容疑者を中心人物と見て包囲網を絞り、現場取材をしていたメディア各社もそのことに気づいていたが、“あさって”の方向を向いた“解説”は関根容疑者が逮捕される直前まで続いた。

〈連続写真〉“夜の正装”黒髪・スーツ姿の佐々木容疑者の正面写真と、サングラスをかけ“ライバル”店“に乗り込む関根容疑者

 

トラブル相手を幸子さんが中国語や朝鮮語でののしっていたことから…

当事者の誰ひとりに取材することなく、ネットやテレビなどの情報をつなぎ合わせた「コタツ記事」が、凶悪な殺人事件報道でも垂れ流されたという、悪しき前例になりそうだ。

事件は4月16日早朝、宝島さん夫妻の遺体が那須町の河川敷で焼かれた状態で見つかったことで発覚し、その日のうちに宝島さんのほうの身元が確認された。上野で焼肉店や居酒屋など20店舗近い飲食店を展開する「サンエイ商事」の社長で、店を集中させた一角が「宝島ロード」と呼ばれるほど存在感のあった宝島さんが殺害された上、遺体を焼くという残虐な手口だったことが目を引き、新聞やテレビ、雑誌などメディアが取材競争に入ったが、その中で、当初から取りざたされていたのが「トクリュウ」と「外国人」による犯行説だった。

「トクリュウとはSNSなどで離合集散を繰り返し、特殊詐欺や強盗などの犯罪を繰り返す犯罪形態・グループのことです。警察は治安上の新たな脅威になっているとして、去年は露木康浩・警察庁長官が重点捜査の対象に挙げ、犯罪の新たなトレンドになっています」と警視庁担当記者は解説する。

いっぽう外国人犯行説の背景には「夫妻二人を連れ去る乱暴な手口は組織力のある中国マフィアくらいしかできない」「遺体を河川敷で焼くという残酷な手口は日本人らしくない」といった見方が背景にあった。

「遺体発見翌日に平山綾拳容疑者(25)が警察に出頭してきて『名前は言えないが“アニキ”の求めで遺体処理役の実行犯として飲み仲間2人を紹介し、粘着テープなど凶器を購入して自分の車を飲み仲間に貸した』と供述しました。また宝島さんと近隣の店との間で客引きを巡るトラブルが耐えず、暴力沙汰が起きたり双方が“用心棒”のようなヤカラを店に待機させるなど、シノギを巡って拉致・殺害が発注され、それを反社会勢力が請け負ったのではないかという“見立て”が当初出たのは確かです。トラブル相手を幸子さんが中国語や朝鮮語でののしっていたことも、中国マフィア関与の噂に尾ひれをつけました」(社会部デスク)

トクリュウだの中国マフィアだのは、かすりもしない話だった

当の捜査関係者も「情報収集という点では、上野を縄張りにする組や外国人グループの事件当時の動向を確認するのは当然だ。今回も初期にはそのあたりは当然つぶしている」と話す。

ただ、現場で関係者や住民に直接取材を繰り返していたメディアは、警視庁がライバル店関係者から話を聞き、さらに当日のアリバイやカネの流れを確認し、トクリュウや中国マフィアの犯行の可能性は薄いと早々に判断したことを感じていた。

「ゴールデンウィーク前には警視庁はライバル店関係はほぼ洗い出し、宝島さんと周辺者の関係や行動をライバル店側にも詳しく聞いていた。その上でトラブルの現場でたびたび中心になっていた関根容疑者については特に関心を持って聞いていたようです」(警視庁担当記者)

長年“現場”にこだわるベテラン雑誌記者もこう話す。

「合同捜査本部は平山の交遊関係を洗い、“アニキ”が福岡県出身の佐々木光容疑者(28)であることをつかみ、4月28日に那覇空港で逮捕しました。警視庁は佐々木が、関根が事実上経営するサンエイ系列の焼肉店のすぐそばのガールズバーでキャッチをしていたことや、サンエイ内部で宝島さん夫妻と関根との間で経営の主導権争いがあったことをつかんでおり、佐々木の自供を待たなくても、この時点で関根が捜査線上に浮上していた可能性は高いとみていました」

警視庁は4月下旬には24時間態勢での関根容疑者の行動確認に入っていた。そして逮捕令状と家宅捜索令状の発付を得て、5月6日深夜に関根容疑者に対する強制捜査に踏み切った。
経営の分け前をめぐり不満を募らせた“番頭”が、社長夫妻を亡き者にして会社を乗っ取ることを画策し、知り合いにカネで殺害と遺体遺棄を請け負わせようとしたのが事件の構図とみられ、トクリュウだの中国マフィアだのといった要素はかすりもしない話だった。

「起訴ってなんすか?」と聞く者が記事をつくっている

ところが一部のネットメディアは5月に入っても「トクリュウが絡んでいるのではないか」などと、現場を取材していれば書けるはずがない記事を出し続けた。テレビのワイドショーでも「元刑事」の肩書きをもつコメンテーターが最後までこうした説を開陳し続け、結果的に誤報に近い報道が続いた。

「実はメディアの中でも、事件取材にはカネがかかるとして現場をきちんと取材して報じるという作法が軽視され、取材できる記者がどんどん減っているんです。ネットで情報を得る人が主流になる中、記事の内容よりもPV(ページビュー)を増やすことが重視され、安いコストでPVを獲得するためにテレビやネット、他媒体で報じられた内容をつなぎ合わせ、現場に出ることもしないで書く“コタツ記事”が事件記事でも生み出されています。

トクリュウがどうのこうのという話も、テレビで元刑事などが話しているので取り上げやすいんでしょう。今回も、現場に全く記者を派遣しないネットメディアが平気で記事を出しており、これまで以上にコタツ記事が量産されました」

念のために触れておくと、今回「元刑事」らがコメントをしているワイドショーを放送しているテレビ局などは、事件担当記者を投入して現場取材にあたっており、元刑事らはこうした記者がつかんだリアルな情報を知らないまま推測を重ねているだけのようだ。

事件取材経験が長い社会部デスクは渋い顔でこう話す。

「事件はひとつひとつが別物なのに、過去に捜査経験があるというだけで、なぜ起きたばかりで背景もわからない事件についてあれほど自信たっぷりに話せるのか、意味不明です。とはいえテレビ番組は、世間の関心が高い事件は長尺になるので、それらしい“見立て”をしてくれる刑事がいないと番組が成立しないという事情がある」

先のベテラン週刊誌記者も今回あらわになった事件報道のコタツ記事化の裏で起きている事態を嘆く。

「大きな事件になれば、現場で取材をしたいと思っている記者はいますが、行きたくても予算や与えられた取材時間がなく行けないということが日常的に起きています。現場を回らなくても『PVがとれたら勝ち』という風潮が、部数が減り続けるスポーツ紙、週刊誌内にできつつある。事件取材のベテランは減る一方なのに若手も育たず、殺人や遺体遺棄、損壊の区別がつかないどころか『起訴ってなんすか?』と聞く者が記事をつくっている。このままじゃいけない、とみな思っているのですが…」

ネットには数多くのニュースがあふれているが、足を使って記者が現場を取材して書いた記事を書き写すだけのコタツ記事がはびこるようになれば、現場取材をやめる動きに拍車がかかりかねない。2人の人間が殺害されて遺体が焼かれ、6人が逮捕されるという大型事件で、事件記者らが抱える苦悩も浮き彫りになって来た。                        

※「集英社オンライン」では、今回の事件について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。

メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com

X(Twitter)
@shuon_news 

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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