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なぜデヴィッド・ボウイの死後にドイツ政府からのメッセージが届いたのか…ベルリンの壁を崩壊へ導いたロックスターの歌声

集英社オンライン / 2025年1月10日 11時0分

2016年に69歳で死去した、イギリスを代表する伝説のロックスター、デヴィッド・ボウイ。数々の名曲を生み出した彼だが、そのなかでも『ヒーローズ』は特別なものになっている。いったいなぜなのか……。

【画像】西ベルリンでボウイと暮らしていたパンク界のゴッドファーザー

ロックの大スターに届いた政府からのメッセージ

デヴィッド・ボウイの訃報が流れたのは、2016年1月10日のことだった。

ロックンロールの新たな可能性を切り拓いた偉大なスターの死に、多くのアーティストや関係者、ファンが追悼のコメントを発信した。

その中でも話題になったのが、ドイツ外務省からのメッセージだ。

グッド・バイ、デヴィッド・ボウイ。あなたは今、#ヒーローズ の中にいます。壁の崩壊に力を貸してくれて、ありがとう。


(ドイツ外務省Twitter公式アカウントより)

第二次大戦後、敗戦国となったドイツは西側を資本主義のアメリカ、イギリス、フランスに、東側を共産主義のソ連に占領され、西ドイツと東ドイツという2つの国に分かれることになる。

東ドイツ領内にあった首都ベルリンも東西で分断され、西ベルリンは東ドイツにある孤立した島のような状態になった。

西に比べて、自由が少なく監視も厳しい東ドイツでは、不満を抱く国民が後を絶たなかった。そんな彼らにとって、格好の亡命先となったのが西ベルリンだった。

すると、東ドイツは“西”への亡命を防ぐため、1961年に西ベルリンを囲む巨大な壁を建造した。

デヴィッド・ボウイが、そんなベルリンの地を初めて踏んだのは1969年のこと。このときは音楽番組への出演が目的だったが、空いた時間にベルリンの壁も見に行ったという。

その後も、ツアーなどで何度か足を運んでいたボウイは、1970年代後半にイギー・ポップとともに西ベルリンで暮らし始める。

ベルリンがボウイに与えた影響

イギリスやアメリカでは有名すぎて外を出歩くことすらままならなかったが、西ベルリンでは日用品を買いに出かけて騒がれるようなこともなく、ひさびさにリラックスした日々を送ることができた。

ボウイはアメリカに戻るまでの数年間、ベルリンで『ロウ』『ヒーローズ』『ロジャー』という3枚のアルバムを制作する。ブライアン・イーノとともに作られたこれらの作品は「ベルリン三部作」と呼ばれている。

そして、この時代における代表曲の1つが『ヒーローズ』だ。

この歌はベルリンの壁沿いにある監視塔の下でデートを重ねる恋人たちを描いたものだが、そのモデルについては諸説ある。

レコーディングしているスタジオの窓から見えた、ベルリンの壁の前でデートをしている男女を見てインスピレーションを得た。

プロデューサーのトニー・ヴィスコンティが恋人と会っているのが窓から見えた。

画家のオットー・ミューラーの作品「庭壁の間で愛し合う二人」にヒントを得た……などだ。

いずれにせよ、ベルリンという場所とその歴史が、デヴィッド・ボウイの創作活動に大きな刺激を与えたことには違いない。

そんなベルリンに、変革の兆しが生まれたのは1985年のことだった。

デヴィッド・ボウイが西と東を一つにした瞬間

この年、ソ連の書記長となったゴルバチョフが「改革」を意味するペレストロイカを提唱すると、その影響は東ヨーロッパの共産主義諸国にも広まり、共産主義からの脱却を求める声は勢いを増していく。

歴史が大きく動こうとしていた1987年6月6日、デヴィッド・ボウイはベルリンの壁を背にコンサートを催す。

会場となった西ベルリンのプラッツ・デア・レプブリックには大勢のファンが集まったが、観客はそれだけではなかった。壁を挟んだ東ベルリン側にも数千人の人たちが集まっていたのだ。

スピーカのいくつかは東側に向けられ、コンサートが始まると、壁の向こう側から盛大な歓声、そして歌声が聞こえてきた。

その姿を見ることはできなかったが、人々の“存在”はボウイの心を大きく揺さぶったという。

それは壁で隔てられた西と東が、デヴィッド・ボウイの音楽を通じて一つになった瞬間だった。

1日だけなら僕らはヒーローになれると歌われる『ヒーローズ』を演奏したとき、それはまるで賛美歌のように聞こえ、ボウイは祈祷師になった感覚に包まれた。

また、この日のコンサートは、自身のキャリア史上最高に感動的なステージの一つになった。

そして、自由と壁の崩壊を求める東ドイツ国民の想いが実を結んだのは、1989年11月9日のことだ。ベルリンの壁は崩壊したその日、人々は「ヒーローズ」になった。

文/TAP the POP サムネイル/Shutterstock

参考文献
『デヴィッド・ボウイ』ジェリー・ホプキンス著 きむらみか訳(音楽之友社)
『デヴィッド・ボウイ 神話の裏側』ピーター&レニ・ギルマン著 野間けい子訳(CBSソニー出版)

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