1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

三重県の公立中が、生徒に「性暴力」や「デートDV」を教えるわけ【保護者が知らない学校教育】

集英社オンライン / 2022年10月23日 10時1分

2023年度から全国の幼小中高で全面実施となる「生命(いのち)の安全教育」。教材や指導案などが文部科学省のHPで公開されているものの、まだまだ認知度が高いとは言えない中、すでに指導を行なっている学校もある。そこではどんな教育がされており、その効果はどのように現れつつあるのか、養護教諭に話を聞いた。

デートDVとは何か。教わらないと分からない

来年の全面実施に先駆けて、昨年度(2021年度)から「生命(いのち)の安全教育」に取り組んでいる三重県南伊勢町立南勢中学校の養護教諭、中世古さゆり先生にお話を聞いた。

――南勢中学校が行っている「生命(いのち)の安全教育」について教えてください。

「本校では、1年生では年3回、2年生は年4回、そして3年生は社会に出る前の集大成として年6回、性暴力の話を含む性教育を行なっています。



性暴力については、文部科学省が公開している資料を活用したり、外部講師をお招きしたりしながら、主にデートDVについて生徒に説明、指導しています」

――具体的には、どのような指導をされているのですか?

「性暴力やデートDVについて学ぶには、前提として「よい人間関係とは何か」「ちょうどいい距離感とは」ということを知る必要があります。

南勢中学校は、ほとんどの子どもが一つの小学校から持ち上がりで進学しているため、入学当初から仲が良い反面、関係性がほぼ固定化しており、『新しく人間関係をつくり、よい距離感を学ぶ』という機会が少ないのです。

子どもたちの間には、『この子にはこういうことを言っても許される』『あの子に言われたら断れない』という長年培った無意識の上下関係のようなものがある場合があります」

――確かに、馴れ合いの中で、意図せずそうした関係ができていることもありますよね。

「はい、そうしたことの延長上にある行動や言動が、デートDVになる可能性もあるんだよという話をすると、『えー! そんなこともDVになるの!?』という反応が返ってくることもあります。

具体的には、『スマホの中を勝手に見る』だとか『デート中、ずっとおごらされる』だとか、暴力という言葉とはイメージが結びつきにくいような内容です。

子どもたちはいじめについて、よくないことだと小さなころから指導されているから知っています。それと同じように、デートDVも同様に指導されなければ気づかないんですよね。そこで、社会に出る前の彼らとデートDVとは何かを一緒に考え、段階的に教えるようにしています」

嫌だと言える強さ、嫌だと言われてもへこまない強さ

――これまでは、学校で教わらなかったために、知らないうちにデートDVを受けていたということもあったと思います。

「子どもたちの中には、現時点では恋人がいなくても、高校生になったら好きな人と付き合ってみたいという憧れを抱いている子が多いです。

そのような子どもたちにデートDVの話をすると『でも、好きだったらいいんじゃないのかな』と反応が返ってくることも…。『L“OV”EとL“DV”Eは勘違いしやすい』んです。

私は、将来子どもたちに恋人ができたら、素敵なお付き合いをしてほしいと願っています。だからこそ、性暴力やデートDVとは何かということを知っていてほしいと思いますね」

デートDVについて、学級副担任とロールプレイを行い指導(中世古先生提供)

――「生命(いのち)の安全教育」の指導の中で、とくに意識されていることはなんですか?

「指導では、嫌なことをされたらはっきりと『嫌だ』と伝えることが大事と伝えると同時に、『嫌だ』と言われたときにへこまない気持ちをもつことも重要だと伝えています。そこでへこんでいたらお互いに本音を伝えられず、いい関係なんてつくれませんよね。

『好きだから断れない』ではなく、好きだからこそ『お互いに心地いい距離感』の取り方や、それを伝え合える心の強さを学んでほしいと思っています」

子どもたちは、性について正しい知識を知りたがっている

――性教育をスタートしてから、生徒たちの性に関する捉え方や感じ方に変化はありましたか?

「子どもたちに伝えたいことは、中学校3年間で計画的に伝えるようにしています。そうした積み重ねもあり、3年生になると、性の悩みを私にオープンに話してくれる子もいます。

1年生のころから『悩みがあったらとにかく周りの大人に相談してね』『保健室にいつでも話にきてね』と言っていることが伝わっているのかなと思いますね。3年生の中には、性教育をしている私を『かっこいい』と言ってくれる子もいますよ。

卒業生たちが、進学先の高校で中学時代に学んだ性教育のことについて新しくできた友達に話すことがあるそうです。すると、それを聞いた友達から『そういうことを勉強できたの、いいな』と言われることもあるのだそう。

これが子どもたちの本音であり、子どもたちは『性や交際について正しい知識を知りたい』と思っているんですよね。

性についての話をタブー視する風潮がまだまだありますが、正しい知識を得るためにも、改めて性教育の授業は重要だと感じます」

自分自身と大切な人を守るために学ぶべきこと

――最後に、「生命(いのち)の安全教育」の全面実施に期待することを教えてください。

「授業をしても、性についての話に全く興味がない子もいます。聞きたくないなと感じる気持ちを、素直に伝えてくれる子もいます。その気持ちもしっかり受け止めています。

しかし、自分のため、そしていつか大切な人ができたときのために性のことやデートDVなどについて、知識として知っておくことはとても大事だと思います。

文科省からさまざまな資料が公開されたことで、より性に関する指導に取り組みやすくなったのではないかなと思いますね。

これまでは、なかなか定着せず『学校では教えてくれないこと』というイメージが強かった性教育ですが、『生命(いのち)の安全教育』が全面実施されることで、『学校でも教えてくれる性教育』という認識に変わることを期待したいですね。

そして、自分のからだと心について、正しく知る、尊重する、相談することを忘れず、大切な存在である自分に気付いてくれるといいなと思います。学校全体で子どもたちのステキな未来を願い、取り組んでいきたいです」

>>>子どもたちを性暴力から守る「生命の安全教育」の中身とは?【保護者が知らない学校教育】では、「生命(いのち)の安全教育」の内容や、現時点で見えている課題点などをご紹介しています。

参考資料
性犯罪・性暴力対策の強化について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/danjo/anzen/index.html

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください