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「私たちはすごく非現実的な、夢の中にいるような時代を生きている」…見なかったW杯、安倍氏の国葬、岸田政権の今後、小室圭さん…芥川賞候補作家・鈴木涼美が噛み砕く2022-2023年の世相

集英社オンライン / 2022年12月30日 12時1分

独自の視点と文体で、世の中や社会、男と女を鋭く批評するエッセイやコラムで知られる作家の鈴木涼美。時事にも関心の高い彼女が振り返る2022年とは? 今年のニュースを「噛み砕いて」振り返りながら、2023年を語る。(後編)

2022年上半期に続き、文壇デビュー第二弾の小説『グレイスレス』が、2022年下半期の芥川賞(第168回)に連続ノミネートされた作家・鈴木涼美。
2019年6月から2022年6月まで「週刊SPA!」誌上で連載した時事批評コラムをまとめた『8cmヒールのニュースショー』(扶桑社)発売を記念し、気になる話題について語り尽くしてもらった。


「それはきっと、“キシダさんを救おう”
キャンペーンなんですよ(笑)」

――今年のワールドカップは見ましたか?

私は、スポーツを全然見ないので。ワールドカップも決勝戦の次の日、ニュースで色々騒いでいるのを見て、“へえ、まだやってたんだ”と思いました(笑)。

――日本戦も見なかったですか?

見てないですね。

――ある報道によると、実際には65%程度の人が一度もワールドカップを見なかったらしいです。

日本が初めてワールドカップに出て、ボロ負けしたフランス大会(1998年)の頃、私は中学3年生だったんですけど、そのときの視聴率は全盛期の紅白ぐらいあったんですよ。だからその頃は、本当にみんなが見てたっぽいけど、今回はそれほどでもないんですよね。

でもワイドショーの盛り上がり方は、五輪よりも激しかったと思います。私は最近、午前中になんとなくテレビをつけてたりするので、試合は見てないけどワイドショーの振り返りで把握はしていました。
あと、通っているネイルサロンが、目の前のモニターでワイドショーを流しがちで、一回3時間ぐらいかかるから『ひるおび』とか丸々見ちゃって(笑)。だからその日に『ひるおび』でやってたことだけ、やたら詳しくなるんですよね(笑)。

――ワールドカップ期間中のワイドショーの盛り上がりっぷりは、ちょっと異様でしたよね。

それはきっと、“キシダさんを救おう”キャンペーンなんですよ(笑)。だって、軍事費増強問題とかで支持率がどんどん落ちてる状態でしたから。みんながワールドカップに目を奪われて、テレビも政治の話題を端に追いやったんだから、一番助かったのは岸田首相ですよ。
そりゃ監督に電話しちゃうわと思って(笑)。“ありがとう!”みたいな。

「岸田政権支持率の顕著な低下は、社会が少し常軌を取り戻した結果」

――昨今の岸田政権の支持率低迷っぷりも注目ですね。

岸田政権支持率の顕著な低下は、社会が少し常軌を取り戻した結果だと思います。
安倍政権のときって、明らかなる問題が発覚したときでも、岩盤のように頑丈だったから。その頃と違って今は、人々がきちんと判断をしたくなっている感じがします。
基本的には政権なんて批判するもので、社会が厳しい目を向けるのが当たり前。ここ2〜3年で、そのあたりは少し普通に戻った感じがしますね。

昔の『クレヨンしんちゃん』を見ると、当時の橋本龍太郎首相がキャラクターとして出てくるんですけど、やっぱり悪者扱いなんですよね。すごく偉そうで、蕎麦を食べながら“蕎麦湯もってこい!”って威張っている人物として描かれたり(笑)。

しんちゃんやお友達に“おじさんはみんなの暮らしを守るために頑張っているんだよ”とか言うんですけど、“好きなものはなあに?”と聞かれて、しんちゃんが代わりに“お札束〜”と答えると、うっかり“当たり〜”って答えちゃったり(笑)。政治家なんて所詮そんなもの、という批判精神がありました。

だから今年、いくら亡くなっちゃったからといってタレントがこぞって“アベさん、お疲れ様でした”みたいな感じになったのは、すごく不健全で気持ち悪い。そう言わないと毒殺とかされるの?って(笑)。ロシアみたいで怖いなって思いました。

――そういう時期を経て、現在の支持率低迷に現れる政権批判は正常に近づいている証ということですね。

人々が少しは正常な批判能力を取り戻そうとしている兆しが、見えないでもないかなという感じですね。

「追悼のために安倍さんオマージュ
でもしているのかと思ったもん(笑)」

――安倍さんに関してはすごく人気がある一方で、『安倍やめろ!』のように憎しみをぶつけやすいタイプでもあったのかなと思います。その点、岸田さんは支持率が下がっても『岸田やめろ!』となりにくいキャラのように思えますが。

そうなんですよね。何をやっても許しちゃう熱烈ファンが少ないのはいいと思うんですけど、嫌う方も情熱的になれないという面がありますよね。

――人気がないから、アンチも盛り上がれないということですね。

そう思います。叩きどころはすでに十分あるとは思うんですけど。
強引に決めた安倍さんの国葬儀問題だって、結局、批判の声は断ち切れてしまって。参列した政治学者のドレスがどうの、とかいう話に終わってしまったのはなんだかなあという感じですよ(笑)。

今思い出してみても、あのときの国葬はもっと批判されるべきでした。あの強行突破感は安倍政権の頃を思い出して、追悼のために安倍さんオマージュでもしているのかと思ったもん(笑)。

――ちょうどエリザベス女王の葬儀が重なった時期でもあり、国葬の意味を考えさせられましたよね。

実際に安倍さんを愛した人はいっぱいいたし、彼に救われたと思っている人もいっぱいいるわけだから、やっぱり“ファン葬”としてやるのがよかったんですよ。私も思想は違うけど、それだったらいいなと思えたはずなんで。
熱烈支持者には高須さんのようにお金持ちが多かったわけだから、その人たちが資金を出して国葬よりも豪華なファン葬をやったらよかったんです。

あの国葬にしたって結局、国内からの来場者は安倍ファンと自民党の政治家ばかりだったじゃないですか。結局、『国葬』という名前がどうしても必要だったっていうことなのかな? なんか、よくわかんない理由で取り行われた謎儀式だったなと思います。

大砲の音、鳴り響いてましたよね。私は国葬をやっているとき、法政大学にいたんです。国葬生中継の裏で、また白井聡さんや島田雅彦さんというまっすぐな左翼(笑)、それにシアターブルックの佐藤タイジさんというロッカーを交えて語るというニコ生番組に出演していたんですよ。

「国葬自体は、なんでこれが可能なのかもよくわからない手続きだった」

――どんな話が出ましたか?

国葬自体は、なんでこれが可能なのかもよくわからない手続きだったし、最初は国全体として弔意を表すとか言っていたのが、だんだんと文言が変わっていったりとか、気持ち悪いものだなという話に。
そして“このままいくと、もう本当に日本やばいけど、どうする?”みたいな話をしていました。その横で、ロッカーがずっと歌ってるという(笑)。

「個人的に全然タイプではないけど、別に眞子さんが
そういう人を好きなのは勝手だし、全然いいと思います」

――話は変わって、アメリカの弁護士試験についに合格した今の小室圭さんについて、いかがですか?

小室さん本人に対して思うことより先に、しれっと“あれだけバッシングがあったのに頑張って本当にすごい”とか言ってる人が鼻につきます。
“自分は叩いてないから”“バッシングをしてた人たちひどい”みたいな感じの人。絶対にこっちが正面になるって踏んで“イチ抜けた”となっている人。ある意味、嗅覚は正しいんだけど、 なんかその空気の読めっぷりがいけすかないっていうか(笑)。

そういう人たちって、“ニューヨーク州の司法試験に合格する”とかいう権威に弱いじゃないですか。米国の権威ある賞を受賞したとか、試験に合格したとかなると、それだけで手のひら返して尊敬しちゃう欧米コンプレックス。そういう人は権威主義というか、医者や弁護士みたいな資格や職業にも弱いんですよ。

――日本人の多くはどうしても、欧米コンプレックスから脱却できないですよね。小室さん自身については?

私、個人的には小室さんの文章がマジで読みづらくて苦手です。あの脚注の多さとか(笑)。私の文章も脚注は多いけど、私の脚注の方が百倍面白いと思います(笑)。

小室さんはきっと優秀な人なんだと思いますけど、この先また追い詰められたとき、たとえば浮気がバレたときなんかにも、脚注たっぷりの『小室文書2』を出してきたりするのかなって。それより、論理を放棄して土下座できる人の方がかっこいいじゃないですか。

小室さんは個人的に全然タイプではないけど、別に眞子さんがそういう人を好きなのは勝手だし、全然いいと思います。
でも小室圭バッシングって一時期あまりにも極端で、髪の毛が伸びているだけで怒られていましたけど、私は結構ロン毛好きだから、“こっちの方がいいのにな”とか思ってましたけど(笑)。

そんなふうにバッシングが行き過ぎると、今度はそこから距離を取って、“自分は冷静に見てます”みたいな人が出てくるのは割と自然だし、なおかつ、それを示すのに合格っていういいタイミングがあったから、今度は擁護派がうるさくなったみたいなところがありますよね。

――小室さんや秋篠宮家を叩く人たちって、天皇家は手放しで褒めたたえる傾向がありますよね。

メーガン妃を批判する人も、イギリスのナショナリズム系の人だったりするから、“自分らのもの”と思っていたのを取られたみたいな気分になるのかもしれないですね。自分の理想通りの形ではないと、異常な恨みが出ちゃうのかもしれない。

「個人的な理由以外で、自由が制限されるなんて、
思ったこともなかったんです」

――扶桑社から発売された新刊『8cmヒールのニュースショー』は、「週刊SPA!」で2019年6月から2022年6月まで連載していた時事批評をまとめたもので、単行本化にあたって、2022年の後半部分を補足するような長い書き下ろしも追加されています。とても読み応えがあって、面白かったです。

ありがとうございます。連載は、本当にその週の出来事を取り上げるという縛りでやっていました。単行本化するために昔の文章を読み返していたら、かなり前のことなので自分でも忘れていることもあります。あの吉本の会長の変な会見のこととか(笑)。

マジで、すごいワイドショーでやってたじゃないですか。香港では周庭さんが逮捕された時期と重なっていて、あちらでは“最後の表現の自由”を求めて真剣に戦っている折、吉本では“新悲劇”みたいなことをやってたなあって(笑)。
私なんか吉本の件は、やっぱり組織に生きてる男って、育ててくれた吉本に反旗を翻すのかよ!みたいな話が好きなんだなって、男じゃないものとしてすごく冷笑的に見ていたんですけど(笑)。

――令和初期を見渡せるような本ですよね。

本当に、令和の最初の3年と丸重なりだったっていうのは、大きいかもしれないですね。元号がなんだよって感じもあるけど、後になってそういう分け方で語られがちですから。

「すごく非現実的な、夢の中にいるような感じでした」

――令和のはじめはコロナの時代でもあります。改めて考えると、私たちはすごい時代を生きているのかもしれませんね。

パンデミックが始まった頃、私はちょっと信じがたくて、航空会社から通達が来るまで旅行を頑なにキャンセルしなかったんです。2020年の3月も、ギリギリまでシンガポールに行ってたし(笑)。その次にプーケットとサイパンを回る予定だったから、細かいプロペラ機とかひとつひとつ個別に予約してたんです。
だから、キャンセルするのがすごくめんどくさくて。もう誰に反対されても絶対に行く!と思っていたら、結局、飛行機自体が飛ばなくなっちゃったんですよね(笑)。

私は人生で、お金がないとかお葬式に行かなきゃいけないとか親が病気だとか、そういう個人的な理由以外で、自由が制限されるなんて、思ったこともなかったんです。会社を辞め、末期癌だった母親が6年半前に亡くなって以降は旅行気分が高まって、いろんなところへ自由に行っていて。ドイツとともに世界中で一番どこにでもいける日本のパスポートを持っているわけですし。

それがあるときを境に、どこにも行けなくなるなんて、すごく非現実的な、夢の中にいるような感じでした。
私の祖母とかの世代は、厳しい戦争中に青春時代を送っていたけど、今は高校や大学の3年間が全部コロナ禍だったという青春丸かぶりの人もいるのかって思うと、すごくシビアな出来事ですよね。

連載も最初のうちは、コロナの話ばかりでした。コロナに関係すること、パンデミックに関係することしかニュースがなかったので。でも、その後はいろんな話題が復活してきて、改めて読み返してみると色々あったなっていう感じがします。

インタビュー・文/佐藤誠二朗 撮影/井上たろう

8cmヒールのニュースショー(扶桑社)

鈴木涼美

2022/12/22

1540円(税込)

240ページ

ISBN:

978-4594093570

ピンヒールを履いたいくらか鈍感な足のまま、
半ばディストピアと化した歪な社会をしばし呆然と眺めていた(本書より)

エッセイ、書評、小説の執筆業からコメンテーターまで多岐にわたり活躍し、初の小説作品『ギフテッド』に続き、第二作『グレイスレス』が芥川賞候補になるなど、いま最も注目される作家・鈴木涼美による初の時事批評集が刊行!

安倍晋三レジームの終焉、輝けない女たちの聖戦、コロナ狂騒曲、止まらぬ分断――。
令和最初の三年間に起きたさまざまなニュースを、「8㎝ヒール」の視座から批評した渾身のコラム62本を収録。

【本書に登場するおもなニュース】
ハラスメント規制法案成立/対韓輸出規制/吉本闇営業騒動/れいわ新選組旋風/消費増税/「ミス慶應」中止/フィンランド女性首相誕生/カルロス・ゴーン大脱走/トイレットペーパ売り切れ/突然の休校措置/緊急事態宣言発出/検事長賭け麻雀事件/女川原発再稼働へ/セシルマクビー閉店/『JJ』休刊/『エヴァ』完結/入管難民法「改正」見送り/終電繰り上げ/東京五輪の延期と開催/石原慎太郎逝去/ウクライナ軍事侵攻/映画
界の性暴力/安倍晋三元首相殺害etc.

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