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月の中心部に固体の「核」を発見 過去の大規模なマントル転倒の証拠も

sorae.jp / 2023年5月25日 20時40分

地球唯一の自然衛星である「月」の内部構造は、惑星科学における長年の謎でした。20世紀前半までは、月の内部は地球のような層ごとに分かれた構造をしているのか、それとも火星の衛星フォボスやダイモスのように均質な構造をしているのかすらも不明だったのです。この謎に大きな進展があったのは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の「アポロ計画」によって月面に地震計が設置されてからでした。

地震波の性質(速度、屈折角、減衰の度合いなど)は、通過する物質の性質(密度、温度、固体か液体かなど)によって変化することが知られており、地球の内部構造は地震波の観測を通して推定されています。月にも「月震」と呼ばれる地震活動があることが地震計の設置により判明したため、測定された地震波のデータを元に月の内部構造を推定することができます。これにより、月には地球と同じような層状の内部構造があるらしいことが明らかにされました。

ただし、月震の規模や頻度は地球と比べて低いことに加えて、月面に設置された地震計の数が少ないため、地球のように詳細な構造を探るにはデータが不足していました。アポロ計画から半世紀以上経った現在ではアポロ計画以外にも設置された地震計があり、データの量も豊富になりましたが、今度はその膨大なデータの解釈に悩まされるようになりました。

このような背景があるため、月の内部に関する研究に大きな進展がみられたのはつい最近のことです。2011年になり、月には中心部に半径約330kmの金属核(コア)があることや、少なくともその一部は液体であること、マントルと核の境界部には部分的に融けた柔らかい層(半径約480km)があることが明らかにされました。

しかし、それ以上の明確な構造は引き続き不明のままでした。特に、月の中心部には半径約250kmの固体金属核が存在するという予測も出されましたが、この時点では決定的ではありませんでした。これは、核の半径が月そのものの半径の約20%と極めて小さく(地球など岩石惑星の多くは約50%)、それだけ通過する地震波が少ないためです。

【▲ 図: 今回の研究で、月の核は固体と液体に分離していることが明らかにされた。また、核とマントルの境界部の組成や物質は、過去の月で起きたマントル転倒の強力な証拠であるとしている。 (Image Credit: Géoazur/Nicolas Sarter)】

【▲ 図: 今回の研究で、月の核は固体と液体に分離していることが明らかにされた。また、核とマントルの境界部の組成や物質は、過去の月で起きたマントル転倒の強力な証拠であるとしている(Credit: Géoazur/Nicolas Sarter)】

コート・ダジュール大学のArthur Briaud氏などの研究チームは、月の核の謎について決定的な答えを得たと発表しました。研究チームはこれまでに取得された地震波のデータの再分析に加え、月の形状の厳密なデータや月内部の熱対流のモデルも使用して、月の内部構造に関する分析を行いました。

その結果、月の中心部には固体の核が存在する可能性が高いことが明らかになりました。地球の中心部には液体の外核と固体の内核が存在することが明らかになっていますが、月の核も地球と同じような構造をしていることになります。ただし、月の内核の半径は約258±40kmであり、これは内核の半径が月の半径のわずか15%しかないことを意味します。また、平均密度は7.822±1.615g/立方cmであると推定されました。これは、月の核がほぼ純粋な金属でできているというこれまでの予測と一致します。

さらに、今回の研究では、外核の外側を覆う部分的に融けたマントル下部について、鉄とチタンの鉱物であるチタン鉄鉱(Ilmenite)が豊富に含まれていることも示されました。これは月の内部に関する別の重大な謎である「マントル転倒(Mantle overturn)」の強力な証拠であるとBriaud氏は考えています。

月には表側と裏側で岩石や元素の種類が大きく異なるという謎があります。特に、月の模様として観察される黒っぽい玄武岩が主体の「海」は、月が誕生してから10億年程度が経った時点でマグマが供給されたことを示唆しています。マグマが供給されるには熱源が必要ですが、月の誕生後これほど遅いタイミングで大規模な熱源が発生したことは謎でした。

マントル転倒は、このような熱源の発生を説明するメカニズムとして1995年に提唱されました。マントル転倒では、月が誕生後に冷えて固まっていくに従い、マントルの上部で鉄やチタンなどの重い元素を含む鉱物が先に結晶化し、マントルの下部にはマグネシウムなどの軽い元素が集中するようになったと考えます。この場合、重い物質が軽い物質の上に乗っていることになるため、やがてマントル全体のバランスが不安定になり、重い物質は “転倒して” 沈み込んでいきます。

すると、重い物質が沈み込んだ際の重力エネルギーと、重い元素の中に含まれる放射性物質の崩壊熱が組み合わさることで、核の外側で再加熱が発生します。発生した熱は対流を引き起こし、マントルの物質と熱を上部へと運び上げ、鉄などの重い元素を含む玄武岩マグマを月の表面に噴出させます。これが現在、月の表側にある海になったと考えられます。

マントル転倒が起きた結果、鉄やチタンなどの重い元素を含む鉱物は核の近くへと沈み込みます。今回の研究結果はマントル転倒の強力な証拠となる重い元素の沈み込みに対応する状態をまさに示しており、内核の発見と共に重要だとBriaud氏は強調しています。今回示された月の内部構造モデルは、月の磁場が予測より弱すぎることなど、他にも山積している月の謎の解明にも影響を与えると考えられます。

 

Source

Arthur Briaud, et.al. “The lunar solid inner core and the mantle overturn”. (Nature) Arthur Briaud. “La Lune ouvre son cœur pour la première fois”. (Centre national de la recherche scientifique) P.C. Hess & E.M. Parmentier. “A model for the thermal and chemical evolution of the Moon's interior: implications for the onset of mare volcanism”. (Earth and Planetary Science Letters) Renee C. Weber, et.al. “Seismic Detection of the Lunar Core”. (Science)

文/彩恵りり

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