「太陽系外衛星」の有力候補「ケプラー1625b I」と「ケプラー1708b I」は実在しない可能性が高いと判明
sorae.jp / 2023年12月21日 21時23分
太陽以外の天体の周りを公転する太陽系外惑星は5000個以上見つかっていますが、太陽系外惑星の周りを公転する「太陽系外衛星(Exomoon)」は、発見が広く認められた例は1つもありません。
マックス・プランク太陽系研究所のRené Heller氏とゾンネベルク天文台のMichael Hippke氏の研究チームは、太陽系外衛星の有力候補とされていた「ケプラー1625b I」と「ケプラー1708b I」の存在を示すとされる観測データを分析したしたところ、衛星は実際には存在しない可能性が高いことを明らかにしました。また今回の研究では、もし太陽系外衛星が見つかる場合、それは太陽系にある衛星とはだいぶかけ離れた性質を持つであろうことも明らかにされています。
■太陽系外惑星は5000個以上、太陽系外衛星はゼロ?太陽以外の天体の周りを公転する惑星である太陽系外惑星は、1992年の初発見以来5000個以上見つかっています。そして太陽系では水星と金星以外の惑星が1個以上の衛星を持っていることを考慮すると、太陽系外惑星の周りにも「太陽系外衛星」があると考えるのは自然なことです。
太陽系外衛星の発見として比較的支持を得ているのは「ケプラー1625b I」と「ケプラー1708b I」です。これらはいずれも、NASA(アメリカ航空宇宙局)が打ち上げた「ケプラー宇宙望遠鏡」の観測データの分析によって見つかったものです。ケプラーは大量の恒星を一度に観測し、恒星のわずかな明るさの変化から太陽系外惑星を見つける「トランジット法」のためのデータを得た宇宙望遠鏡であり、これまでに2000個以上の太陽系外惑星を発見しています。
先述のトランジット法とは、恒星の手前を惑星が横切る場合に有効な惑星発見の手段です。恒星の明るさの減少が起こるのは、惑星が恒星の一部を隠すためであり、明るさの減少度合いと周期性から惑星の直径と公転周期を求めることができます。
もし惑星に衛星がある場合、衛星も恒星の手前を横切るため、追加の減光が観測されるはずです。また、恒星の手前を通過するたびに衛星の見た目の位置は変わるため、減光が起こるタイミングが変化するはずです。トランジット法は、太陽系外衛星を見つけることが可能な、現状では唯一の手段であると考えられています。
現状の観測精度の限界から、仮に太陽系外衛星が見つかるとしても、そのサイズはかなり巨大であることが予想されます。実際、初の太陽系外衛星の候補であるケプラー1625b Iは地球の約4.9倍、2番目の候補であるケプラー1708b Iは地球の約2.6倍の直径を持つと考えられており、これはいずれも海王星程度 (地球の約3.9倍) のスケールとなります。
ただし、ケプラー1625b Iとケプラー1708b Iの発見はこれまでのところ広く支持を集めているとは言い難い状況でした。当初はケプラーの観測データによって発見が主張されたものの、後の研究で実際にはノイズではないかという疑いが出たためです。この疑問に対しては、ケプラー1625b Iは「ハッブル宇宙望遠鏡」による観測で追加のデータが得られたことを根拠に、ケプラー1708b Iは偽のシグナルである可能性が約1%であることを根拠に、それぞれ反論もされていましたが、発見を決定的とするものではありませんでした。
■有力候補の太陽系外衛星は存在しない可能性が高いと判明Heller氏とHippke氏の研究チームは、太陽系外衛星の発見の根拠となったケプラーおよびハッブル宇宙望遠鏡の観測データを再度分析し、ケプラー1625b Iとケプラー1708b Iが本当に存在するのかを再検討しました。今回の研究では、昨年にオープンソースコードとなった、太陽系外衛星の探索のために独自開発および最適化された検索アルゴリズム「Pandora」を使用し、分析の高速化を図りました。
Heller氏とHippke氏はPandoraを使用し、ケプラー1625b Iとケプラー1708b Iの通過で起こるであろう恒星の明るさの減少をシミュレーションし、実際の観測データと比較しました。しかしながら今回の研究では、シミュレーションと実際の観測データには食い違いがあり、太陽系外衛星があるという証拠を得ることに失敗しました。むしろ、ケプラー1625b Iとケプラー1708b Iが実際に存在するとした場合、衛星による恒星の減光はより明白に捉えられるであろうことが判明しました。
Heller氏とHippke氏は、実際に衛星が無かったとしても、衛星があるように見えてしまう偽陽性の確率を計算し、ケプラー1625b Iは10.9%、ケプラー1708b Iは1.6%であると計算しました。実際の研究では数十個の太陽系外惑星のデータが分析されたため、偶然に偽陽性を引いてしまう可能性は十分にあります。Heller氏とHippke氏は偽陽性の確率の高さや、ケプラーやハッブル宇宙望遠鏡の観測データの特性に加えて、あくまで推測であるものの、観測データを見る際に「天文学史上初となる太陽系外衛星を発見したい」というバイアスが働いていた可能性にも触れています。
■現状の技術で見つかる太陽系外衛星はかなり異質Heller氏とHippke氏はさらに、どのような太陽系外衛星ならば発見可能なのかについてもシミュレーションを行いました。その結果、直径が地球の0.7倍以上、または巨大ガス惑星のヒル球 (衛星が半永久的に惑星の周りを公転できる範囲) の半径の30%より外側にあるならば、太陽系外衛星を発見できる可能性があることを示しました。太陽系最大の衛星である木星の衛星ガニメデの直径は地球の0.41倍であり、巨大ガス惑星の大きな衛星はヒル球の半径の3.5%より内側にあることを考えると、この条件はかなり異質です。
Heller氏とHippke氏は、もし過去のデータの分析や将来の太陽系外惑星の探査ミッションによって、本当に太陽系外衛星を発見できた場合、その性質は太陽系の衛星とはかけ離れた性質を持っている可能性が高いと推定しています。
Source
René Heller & Michael Hippke. “Large exomoons unlikely around Kepler-1625 b and Kepler-1708 b”. (Nature Astronomy) Birgit Krummheuer & René Heller. “Giant doubts about giant exomoons”. (Max-Planck-Gesellschaft)文/彩恵りり
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