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「ウィンチカム隕石」の有機物を化学処理なしで分析 変質を最小限に抑える手法

sorae.jp / 2024年2月19日 11時30分

隕石の一部は有機物を豊富に含んでいることがこれまでに知られていますが、多くの分析研究の過程では、は有機物を抽出するために溶媒(※)や酸が使用されます。これらは詳細な分析を行う上で欠かせませんが、一方でサンプルを変質させてしまいます。

※…液体に別の物質が溶けている場合、その液体を溶媒、溶媒に溶けている物質を溶質と呼ぶ。例えば塩水なら水が溶媒、塩 (塩化ナトリウム) が溶質に当たる。

ミュンスター大学のChristian Vollmer氏などの研究チームは、落下からわずかな時間で回収されたことで知られている「ウィンチカム隕石(Winchcombe meteorite)」について、電子顕微鏡施設「SuperSTEM」と放射光施設「ダイヤモンド放射光施設 (DLS)」における分析研究を行いました。その結果、Vollmer氏らが「最小限に処理された(minimally processed)」と呼ぶ“化学処理を一切行わない方法”でも、有機物の正確な組成や化学結合の性質を特定できることが示されました。

この分析手法は、サンプルの変質を最低限に抑えられるという意味で、「リュウグウ」や「ベンヌ (ベヌー)」といった貴重な小惑星サンプルの分析にも生かされるかもしれません。

【▲図1: 今回の研究では、ウィンチカム隕石の断面の一部を電子顕微鏡とX線で分析することによって、有機物の正確な位置と化学的な状態を明らかにしました。 (Image Credit: SuperSTEM Laboratory) 】【▲図1: 今回の研究では、ウィンチカム隕石の断面の一部を電子顕微鏡とX線で分析することによって、有機物の正確な位置と化学的な状態を明らかにしました。 (Image Credit: SuperSTEM Laboratory) 】 ■隕石の有機物を調べるには化学処理が必要

これまでに見つかっている隕石の多くは、地球の岩石と同様に無機物を主体としています。しかし、小数の隕石は重量の数%が有機物でできているという変わった組成を持っています。このような「炭素質コンドライト」と呼ばれる隕石は、地球の有機物の源、ひいては生命の源になったかもしれません。このため、炭素質コンドライトは隕石の分析研究の中でも特に注目されています。

隕石に含まれる有機物は、溶媒に溶けやすい有機物と溶けにくい有機物に大別されます。溶媒に溶けやすい有機物はアミノ酸やアルコールのように単純な分子であり、なおかつ生命に直接関連した分子も多いため、特に注目されます。一方、溶媒に溶けにくい有機物はケロジェンと呼ばれる炭化水素などの高分子化合物であり、こちらを取り出すには酸が使用されます。

アミノ酸のような興味深い分子は、隕石の中でも少量しか存在しません。そのため、溶媒で抽出して濃度を高めることは詳細な分析を行う上で欠かせません。一方で、この方法は化学処理を行うため、サンプルを変質させてしまいます。サンプルが有限かつ貴重であること、技術革新によって新たな分析手法が登場している歴史を踏まえると、可能な限りサンプルに手を加えない手法 (in situな手法) で分析することが望ましいものの、そのような方法では有機物を隕石から抽出する場合と比べて限られた情報しか得ることができませんでした。

■「ウィンチカム隕石」を化学処理なしで分析!

2021年2月28日、イギリスのウィンチカムに落下した「ウィンチカム隕石」は、有機物を豊富に含む炭素質コンドライトの1つです。ウィンチカム隕石は落下からわずか12時間後に最初の破片 (約320g) が発見され、その後の1週間でも合計約200gが回収されました。地球由来の物質による汚染は見つかっているものの、落下から1週間の間に雨は降っておらず、今までに見つかった大半の炭素質コンドライトと比べれば極めて清浄な隕石です。

関連記事: 隕石は地球に落下後わずか数日で変質する これまでの予想以上に変化しやすいことが判明 (2023年2月19日)

イギリスに落下したことやその新鮮さから、ウィンチカム隕石の有機物に関する研究はいくつも行われていまが、分析では従来の方法が踏襲されています。今回Vollmer氏らの研究チームは、サンプルの変質を伴う従来の方法とは違う「最小限に処理された(minimally processed)」方法によって分析を行いました。

細かいものを観るには顕微鏡が使用されますが、隕石の組織のどこに有機物があるのかというナノメートルスケールの微細な位置を知るには電子顕微鏡が必要です。また、電子顕微鏡では有機物が存在する位置しか分からないため、有機物の組成を知るにはX線を照射する必要があります(X線分光分析) 。有機物の位置関係と正確な組成は研究における基礎的な情報となりますが、サンプルに手を加えずにそれらの情報を知るための分析には非常に感度の高い機器を必要とするため、世界の限られた施設でしか行えない分析研究となります。

【▲図2: SuperSTEMが所有する電子顕微鏡の一部の写真。 (Image Credit: SuperSTEM Laboratory) 】【▲図2: SuperSTEMが所有する電子顕微鏡の一部の写真(Credit: SuperSTEM Laboratory)】 【▲図3: ダイヤモンド放射光施設の全体外観の写真。 (Image Credit: Diamond Light Source) 】【▲図3: ダイヤモンド放射光施設の全体外観の写真(Credit: Diamond Light Source)】

Vollmer氏らは、ロンドン自然史博物館に収蔵されているウィンチカム隕石から新鮮な断面を作成し、イギリスのEPSRC(工学・物理化学研究評議会)が所有する電子顕微鏡施設「SuperSTEM」で有機物の詳細な位置の特定を、「ダイヤモンド放射光施設」のビームラインで有機物の詳細な組成の測定を行いました。分析はアミノ酸のような窒素を含む有機物を中心に行いました。

その結果、有機物の詳細な位置と、その化学的な性質について、抽出する場合に匹敵するほどの高精度なデータを得ることに成功しました。特に「異なる分析場所でほとんど同じ化学結合に関する情報が得られた」という結果は、抽出という変質を伴う研究では得難い情報です。

■リュウグウやベンヌのサンプルに応用も

今回の研究では、サンプルの変質を最小限にした方法でも十分な分析結果が得られ、一部は抽出では得難い情報も得られました。これは貴重なサンプルを後世に継承する上で重要です。

また、今回の研究方法は、ウィンチカム隕石より清浄で、かつ貴重なサンプルにも使えるかもしれません。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の「はやぶさ2」が持ち帰った「リュウグウ」のサンプルや、NASA (アメリカ航空宇宙局) の「OSIRIS-REx(オシリス・レックス / オサイリス・レックス)」が持ち帰った「ベンヌ」のサンプルがまさにそれに当たります。リュウグウもベンヌも炭素質コンドライトと非常に組成が似ているため、今回の研究手法がそのまま適用でき、かつ貴重なサンプルを守ることにもつながるでしょう。

 

Source

Christian Vollmer, et al. “High-spatial resolution functional chemistry of nitrogen compounds in the observed UK meteorite fall Winchcombe”. (Nature Communications) “Cosmic building blocks of life discovered through the electron microscope”. (Universität Münster) “New paper on analysis of organic matter within the Winchcombe Meteorite”. (SuperSTEM)

文/彩恵りり

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