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中国の新ロケットシリーズ「快舟」 商業化でどこまでベールを脱ぐか

sorae.jp / 2017年1月9日 16時24分

 日本時間9日13時11分、甘粛省の酒泉衛星発射センターから、快舟一号甲(KZ-1A)ロケットが3機の小型衛星を載せて打ち上げられました。中国が打ち上げる衛星運搬用ロケットと言えば長征ロケットシリーズですが、長征ロケットの開発を手掛ける中国航天科技集団(CASC)と違い、「快舟」は中国の2大宇宙開発大手のもう片翼である中国航天科工集団(CASIC)が開発を進めてきたロケットです。
 

 
快舟一号甲は直径が1.4メートルの三段式固体燃料ロケット+上段ステージに液体推進スラスタを使用、200キログラムの衛星を高度700キロメートルの太陽同期軌道に打ち上げる能力があるとされています。今回打ち上げたのは、2015年10月に打ち上げられた「吉林一号」スマートビデオ衛星の同型機に当たるものでその3号機となる「林業一号」。そのほか、航天科工傘下企業と大学との共同開発による行雲試験一号、民間衛星メーカーが手掛けた凱盾一号の二つのキューブサットが合わせて打ち上げられました。行雲試験一号は低軌道でのナローバンド通信システム実証、凱盾一号は次世代海事衛星としてVHFデータシステム(VDES)の実証を行うとされています。

 
快舟ロケットが従来の長征ロケットと違い特徴的なのは、輸送起立発射機(TEL)と呼ばれる発射台を兼ねる専用のトレーラーで、どこへでもロケットを輸送し、どこからでも打ち上げ可能な点です。比較的固い地盤で平坦な土地であれば、快舟ロケットの打ち上げには問題ないとされています(なお、航天科技集団も長征六号ロケットで移動ランチャー式を採用していますが、現時点では西昌以外からの打ち上げを想定しているかは不明です)。
 過去二回の快舟ロケット打上げは、酒泉衛星発射センターの大型射点から離れたところにある演習場から行われていますが、サイトの説明には西昌、文昌(海南島)、太原の各発射センターからの打ち上げ能力グラフも掲載されており、酒泉以外からの打上げを想定していることが見て取れます。

 
航天科工集団はこれまで宇宙開発で表立った活躍を続けてきた航天科技の影に隠れ、軍用機器・設備の開発が主要事業とみられていました。しかし、2013年にロケット最上段と衛星が一体化した「快舟一号」を、14年には「快舟二号」を打ち上げ、衛星打ち上げビジネスの表舞台へ登場。快舟一号、二号はいずれも即応衛星システムとしての活用を念頭に置いたロケット(及び衛星)でしたが、この後、航天科工集団は同技術を民間サービスへと拡大した「飛天」ロケットを14年の珠海国際エアショーで発表します。
 

 
「飛天」計画はその後、「快舟」計画の一環として統合されたようで、「快舟一号汎用型」などと称されることもありましたが、依然として詳細な情報が出ることはありませんでした。しかし、15年に航天科工集団が湖北省政府及び同省武漢市政府と重大宇宙産業プロジェクトで手を結ぶことが発表されると、具体的な計画が浮上してきます。16年2月に航天科工集団は商業打ち上げサービス会社を立ち上げ、その後「快舟一号甲」ロケットという名前も明らかに。快舟一号甲や新型計画の快舟十一号ロケットについては、中国国内だけでなく、ファーンボロー国際航空ショーやIAC2016など海外の航空宇宙関連カンファレンス等でもモデルやパネルが展示されたようです。
 

 また、16年に国家発展改革委員会が発表した『武漢国家宇宙産業基地実施方案』では、「快舟ロケットを主体とする、低価格な小型衛星向け打上げサービスの提供」を謳っており、年産50基のロケット開発を目指すとされています。そして16年11月に開かれた珠海国際エアショーで、同年末に快舟一号甲ロケットによる初の商業打ち上げを行うと発表されました(実際には、打ち上げは年をまたいで1月9日になりましたが)。

 
このように、商業宇宙サービスへの注力を急速に増してきている航天科工集団ですが、同社が公開している紹介映像では、快舟ロケット及び快舟衛星を「宇宙国防」のコーナーで取り上げており、即応型小型衛星システムとしての側面をアピールしています。なお、今回の快舟一号甲打ち上げについてはこれまでと違い、解放軍報社が打上げ前のロケットの写真や打ち上げのもようなどをいち早く記事配信していますが、これが快舟ロケットについてオープンな報道を行うことを示しているのかは分かりません。
 

 6日に西昌衛星発射センターから、航天科技集団製の通信技術試験衛星2号が長征三号乙ロケットで打ち上げられました。2017年最初の打ち上げでありながら、ロケットを打ち上げたことの他には、衛星の詳細などがほとんど報じられなかったことから、これまでの長征ロケット打上げ報道との違和感が感じられました。その後、中国の地方メディアが「火眼一号」という衛星名を流してしまったことや、中国の宇宙開発関係者が微博(ウェイボー)で流した管制室モニタ上の画像から、その実態は早期警戒衛星ではとみられています。
 

 快舟ロケットも商業化に乗ってベールを脱いでいくことになります。詳細な報道もされるようになるでしょうし、また同ロケットの商業打ち上げサービスを手掛ける航天科工火箭技術有限公司(Expace社)では快舟一号甲及び快舟十一号のユーザーズマニュアルのサイト公開を予定しているそうです。こうした情報がこれから海外の宇宙技術や軍事に詳しい研究者、専門家らによってつぶさに解析されていくことは想像に難くありません。こうした状況は航天科工集団にとってジレンマかもしれませんが、そもそも中国が「軍民両用」をテーマに産業促進を後押ししている面もあり、快舟ロケットが軍事技術からの発展形だったり、表裏二つの顔を持っていたとしても、あまり気にしないのかもしれません。
 

 快舟ロケットシリーズは17年内に快舟十一号の打ち上げを控えるほか、さらに大型の快舟二十一号を計画中とされています。航天科技も固体ロケット長征十一号をリリースしたばかりで、競合状態が気になるところですが、中国として今後力を入れていく小型衛星分野に小型ロケットサービスの普及が必要不可欠なこともあり、当面は企業競争を通じた技術力向上も歓迎される方向にあるのでしょう。
 
Image Credit: CASIC
■快舟一号甲小型運載火箭成功実現“一箭三星”発射
http://zz.81.cn/content/2017-01/09/content_7442671.htm?utm_source=rss&utm_medium=rss

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