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炎越しの丸い地平線を撮る 学生プロジェクトが資金募る(2)

sorae.jp / 2020年9月9日 10時45分

資金募集はクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で行われている (Credit: Earth Light Project)

「炎越しの地球を撮影したい!国境線のない宇宙に炎を掲げる、人類史上初のプロジェクト」をうたうアースライトプロジェクトについての記事、2回目は技術的な部分に踏み込んでいきます。

プロジェクト遂行には、さまざまな対応策が必要です。 (Credit: Earth Light Project)

1. 燃焼器が大きな開発要素

この計画の技術的なハードルは、高度30kmまで火を持っていき、いかに燃やし続けられるかにあります。
この高度の気圧は地上の1%。富士山頂の気圧が65%ほどなので、その薄さが分かるでしょうか。気温も-40~60℃で、冬の南極並みの寒さです。既製品でこの高度で燃え続けられる燃焼器(バーナー)はありませんから、自分たちで開発することになりました。
気圧が低く燃焼に必要な酸素が少ないため、燃焼器には何らかの手段で酸素供給をしてやらないとなりません。機体設計を担当する服部さんは、工夫として「電気を使わない設計にした」といいます。燃焼に必要な圧力を保つために電動ポンプと圧力センサを組み合わせる方法もありますが、これらは大きなバッテリが必要になって機体重量が増えます。撮影用カメラには電源が要りますが、燃焼器に必要なバッテリに比べれば小さいです。上昇時・滞空時の時間を考えると、その重量を燃料や空気にあてたほうがよいという判断でした。
空気の供給には、定圧タンクとダイアフラムを用いたバルブを組み合わせています。燃焼器の圧力が下がるとバルブが開き空気が供給され、上がりすぎるとバルブが閉じる、という動作を無電源で行うことができるのです。
炎を燃やす部分はカメラでの撮影がありますから透明な耐熱ガラス製。下部に燃料と空気のボンベや他の機材が取り付けられ、これらをスタイロフォーム(発泡スチロールの一種)で包みます。スタイロフォームを選んだのは、軽くて断熱性が良いため。上空の寒さからの断熱と、海上落下後に回収するためのフロートを兼ねているとのことでした。

燃焼器の外観や、スタイロフォームに覆われた姿など。(燃焼機となっているのは原資料のままです) (Credit: Earth Light Project)

機体制作を担当する樋口さんは、開発で大変だったところを「高高度の環境の模擬でした」と述べています。燃焼器を実験できる真空チャンバはありますが、スケジュールや運転費用の面で使えるところが限られていたそうです。結局、日本大学が所有する設備を借りることができたとのこと。

2. カメラの選定

Earth Light Projectでは、データをカメラのメモリに蓄積し機体とともに洋上で回収することにしています。このためのカメラに何を使うのか、なかなか悩ましかったとのこと。カメラ周りを担当する樋口さんによれば、現在、アクションカム(GoProに代表される、小型軽量で頑丈なビデオカメラのこと)を使う方向で考えているとのことでした。
・バッテリまで含めた重量が軽い
・画角(画面に映る範囲)が広いため、炎だけでなく背景の地球も充分映し込める
・明るい部分と暗い部分が同時に存在する条件でも画質が良い
というのが主な理由だそうです。しかし、長時間撮影時にカメラ自身の発熱によって止まってしまうことがあり、それを防ぐ方法を考案しているところなのだとか。
小型軽量で手軽なカメラと言えば、スマホに付いているカメラがあります。ものを選べば安価に手に入りますが、「確実に撮影したい」という条件だと信頼性が低く(読者の皆様は、スマホのカメラやアプリがフリーズしてしまった経験はないでしょうか)、法律(電波法)の問題もあって今回は使えないと判断したということでした。

Amazonで「アクションカム」と検索してみると、値段も形も様々なものが現れました。 (Credit: Amazon.co.jp)

打上げから回収までの流れ。 (Credit: Earth Light Project)

3. 気球を使う利点

機体設計を担当する阿部さんによれば「地平線が丸く見える高度から炎を撮影する」という目的が決まったとき、自身の経験もあり、ロケットの利用も考えたとのこと。結局ロケット案は採用されませんでしたが、それは

・コストが高い
・炎をどうやって積み込むか、などの技術面
・目標高度での滞在時間が1・2分程度と、かなり短い

という理由だったそうです。これらをクリアするのが、高高度まで上がれるゴム気球だったのです。
気球のメーカーは(株)気球製作所。気象庁の観測気球やJAXAの気球でも実績のある会社です。また、打ち上げ支援者として、「スペースバルーンコンテスト」を行っている(株)岩谷技研も協力しているとのこと。

4. 法令上の手続きなども自分たちで

高いところまで気球を飛ばし、映像を電波に載せて撮影し、最後は海上に降りてくる、という一連の流れを行うためには、様々な法令をクリアし、手続きを行わなければなりません。放球場所の許可も必要です。
例えば、高い高度を飛ぶ物体は航空法に基づいた申請と許可が必要で、中継の電波には電波法が関わり、燃料のガスボンベは高圧ガス保安法に合致していないといけません。こうした申請や交渉も、有識者のアドバイスを受けつつ自分たちで行うことにしています。

開発から飛ばすための手続きまで、140名のメンバーが様々な役割を果たさなければ、バルーンは飛ぶことができないのです。

第2回はここまで。次回(最終回)は、各セクションの責任者から、このプロジェクトにかける思いを聞きます。

 

【関連サイト】
・Earth Light Project公式サイト
・「炎越しの地球を撮影したい!国境線のない宇宙に炎を掲げる、人類史上初のプロジェクト」クラウドファンディングサイト

Image Credit: Erath Light Project / Amazon.co.jp
文/金木利憲)

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