海洋物理学の研究から閃いた木星の極域サイクロン研究 「湿潤対流」がサイクロンを駆動
sorae.jp / 2022年1月18日 22時23分
NASAの木星探査機「ジュノー」により、木星でも「サイクロン」が観測されています。木星のサイクロンを、海洋学研究からインスピレーション(閃き)を得て研究を進めた結果が、2022年1月10日付けで『Nature Physics』に発表されました。
一般的に「サイクロン」(cyclone)はインド洋周辺で発生する熱帯低気圧や嵐のことを指しています。しかし、世界気象機関(WMO)の定義によれば、北インド洋の風速17m/s以上の嵐を「サイクロニック・ストーム」(cyclonic storm)と呼ぶことになっていて、「サイクロン」は正式名称ではありません。しかしながら、欧米では、低気圧全般や暴風を「サイクロン」と呼ぶことが多く、いわば渦のような乱流状態を指しているようです。
カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋学研究所のポスドク研究員で海洋物理学者のLia Siegelman氏は、木星の極域にあるサイクロンが、博士課程の学生時代に研究した海の渦と似ていることに気づき、この研究を進めることにしました。「木星のサイクロンの周りにある、フィラメントや小さな渦などの乱流の豊かさを見たとき、海の中で見られる渦の周りの乱流を思い起こしました」
研究者たちは、ジュノーから送られてきた、木星の北極域の渦の集まりを撮影した赤外線画像を解析し、雲の動きを追跡することで、風速と風向きを算出。次に、赤外線画像を雲の厚みで解釈しました。高温の領域は薄い雲に対応し、木星大気の奥深くまで見通すことができます。一方、冷たい領域は厚い雲に覆われ、木星大気を覆っていることを表しています。
この発見は、研究者に木星のサイクロンを駆動するエネルギーシステムについて手がかりを与えました。木星の雲が、高温で密度の低い空気が上昇することで形成されるメカニズムは「湿潤対流」と呼ばれ、地球上の気象学でも知られているプロセスです。
最大で半径約1000キロメートルにも及ぶサイクロンが、木星の北極に8つ、南極に5つ発生していることがわかっています。今回の研究により、そのエネルギー供給システムが湿潤対流によるものであることを明らかにしました。
Siegelman氏は「はるか彼方の惑星を研究し、そこに適用される物理学を見出すことができるのは魅力的です」と語っています。さらに「このようなプロセスは、私たちのブルードット(blue dot:青い地球)にも当てはまるのだろうかという疑問が湧いてきます」と彼女は続けています。
彼女の言葉からもわかるように、海洋学であれ、気象学であれ、今回の研究のように地球以外の惑星科学の分野であっても、同じ物理学的原理(メカニズム)を用いて現象を統一的に解釈できるところが、物理学が持つ魅力の一つだと言えるように思います。もし、木星のサイクロンの発生プロセスが地球上の現象に当てはまらなかったとしたら、物理学をさらに精緻な科学へと磨きをかけるきっかけを与えてくれたと考えるべきでしょう。
関連:木星の大赤斑が最近「加速」していることが判明
Image Credit: Enhanced Image by Gerald Eichstädt and Sean Doran (CC BY-NC-SA)/NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS
Source: University of California, San Diego / 論文、気象学と気象予報の発達史
文/吉田哲郎
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