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ハッブル宇宙望遠鏡、129億光年遠方の星「エアレンデル」を観測

sorae.jp / 2022年3月31日 21時13分

ハッブル宇宙望遠鏡の観測によって見つかった観測史上最遠となる単一の恒星「エアレンデル」(矢印)(Credit: NASA, ESA, B. Welch (JHU), D. Coe (STScI), A. Pagan (STScI) )

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡の観測によって見つかった観測史上最遠となる単一の恒星「エアレンデル」(矢印)(Credit: NASA, ESA, B. Welch (JHU), D. Coe (STScI), A. Pagan (STScI) )】

NASAが発表を予告していたのはこの発見でした。ジョンズ・ホプキンス大学の天文学者Brian Welchさんが率いる研究グループは、「ハッブル」宇宙望遠鏡を使った観測の結果、観測史上最も遠い単一の恒星が見つかったとする研究成果を発表しました。

「くじら座」の方向にあるこの星は、研究グループによって「エアレンデル(Earendel)」と名付けられました。エアレンデルは古英語で「明けの明星」を意味する言葉です。エアレンデルの発見はアメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)、それにハッブル宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)などからも発表されています。

■光が地球へ届くのに約129億年もかかるほど遠方の星「エアレンデル」

この宇宙は膨張し続けているため、天体を発した光の波長は長い距離を進むうちに伸びていきます。可視光線では波長が長い赤色のほうにずれていくことから、この現象は(宇宙論的な)赤方偏移と呼ばれています。

赤方偏移の量(zで示される)は光の進んだ距離が長ければ長いほど大きくなるので、地球からその天体までの距離を測るために用いることができます。これまでに知られていた最も遠い単一の恒星は2018年4月に発見が報告された「イカロス(Icarus)」と呼ばれる星で、赤方偏移は1.5、光が星を発したのは約94億年前とされていました。

発表によれば、エアレンデルの赤方偏移は6.2とされています。この値は、エアレンデルを発した光が地球に届くまで約129億年もかかったことを意味しており、イカロスの記録を大幅に更新することになったのです。今回の研究成果は“記録破りな発見”としてNASAが発表を予告していましたが、まさにその通りだと言えます。

関連:何が見つかった? NASAがハッブル宇宙望遠鏡による新たな観測成果の発表を予告

エアレンデルはハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測プログラム「RELICS」のデータから見つかりました。RELICSは初期宇宙の明るい銀河の観測を目的としており、今回の研究にも参加しているSTScIのDan Coeさんが率いていました。Welchさんは「最初は信じ難かったです、以前の記録よりもはるかに遠かったのですから」と振り返ります。

地球に光が届くまで100億年以上もかかるほど遠く離れていると、銀河のように大きな天体でも小さなしみのようにしか見えません。しかし、遠方の銀河と地球の間に銀河団のような天体が割り込むと、「重力レンズ」効果によって遠方銀河の像が拡大されることがあります。重力レンズとは、手前にある天体の重力が時空を歪めることで、遠くにある天体を発した光の進行方向を変化させる現象です。

関連:ハッブル宇宙望遠鏡の観測データから発見された謎の天体、その正体は?

エアレンデルが属する銀河は、手前にある銀河団「WHL0137-08」がレンズの役割を果たすことで像が歪められていて、細長い三日月状に見えています。エアレンデルはこの銀河に見られる特徴の一つとして観測されていて、重力レンズ効果によって拡大された単一の恒星であると研究グループは判断しました。エアレンデルの質量は、既知の最も重い恒星に比肩する太陽の約50倍と推定されています。

【▲ エアレンデル(Earendel)周辺の注釈付き拡大図。エアレンデルの像は銀河団の重力が生じさせた時空の波紋(点線)によって拡大されており、近くにはエアレンデルと同じ銀河に属する星団の2つの像(mirrored star cluster)が、波紋を挟むようにして見えている(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Brian Welch (JHU), Dan Coe (STScI); IMAGE PROCESSING: NASA, ESA, Alyssa Pagan (STScI) )】

研究グループは、今後のエアレンデルの観測に大きな期待を寄せています。特に注目されているのは、エアレンデルの化学組成です。

誕生したばかりの宇宙には、水素・ヘリウム・わずかな比率のリチウムしか存在していませんでした。金属(※ここでは水素やヘリウムよりも重い元素の総称)は恒星内部の核融合反応や超新星爆発などによって生成され、星の世代交代とともに増えていったと考えられています。

恒星は金属の量によって「種族I(金属が多い若い星)」「種族II(金属が少ない古い星)」「種族III(金属を含まない最初の世代の星)」に分類されています。ただ、ファーストスター(初代星)とも呼ばれる種族IIIの星はまだ見つかっていません。

エアレンデルはビッグバンから約9億年しか経っていなかった頃の星なので、含まれている金属の量はまだ少なかったはずです。可能性は低いとみられていますが、もしもエアレンデルが水素とヘリウムだけでできていた場合、史上初めてファーストスターの証拠が得られることになります。

発表によれば、2022年夏から科学観測を始める予定の新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」によるエアレンデルの観測が、早くも2022年後半に予定されているといいます。ウェッブ宇宙望遠鏡の観測では、エアレンデルが単一の恒星であることを確認したり、年齢・温度・質量・サイズといった情報を得たりすることが可能とされています。

また、Welchさんは、ウェッブ宇宙望遠鏡を使うことでさらに遠くの星を観測できる可能性に「信じられないほどワクワクします」と強い期待を寄せています。可視光線よりも波長の長い赤外線で天体を観測するウェッブ宇宙望遠鏡に期待されている成果のなかには、ファーストスターの発見も含まれています。「ウェッブ宇宙望遠鏡がエアレンデルの記録を破るところが見たいです」(Welchさん)

 

Source

Image Credit: NASA, ESA, B. Welch (JHU), D. Coe (STScI), A. Pagan (STScI) NASA - Record Broken: Hubble Spots Farthest Star Ever Seen ESA/Hubble - A Record Broken: Hubble Finds the Most Distant Star Ever Seen STScI - Record Broken: Hubble Spots Farthest Star Ever Seen

文/松村武宏

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