個人事業における経費の解釈を覆した弁護士必要経費訴訟とは?(松嶋洋)
相談LINE / 2016年4月22日 19時0分
税に詳しい方であれば、弁護士必要経費訴訟という裁判をご存じと思います。この裁判は、弁護士の経費について問題になった税務訴訟で、従来の個人事業の必要経費について、その通説を覆した判例として知られています。
具体的には、従来の通説は、「事業に直接必要な経費しか経費にならない」とされていたものを、直接という要件は不要として、「事業に必要な経費であれば経費として差し支えない」と判断した事例です。
■直接が不要になるとどうなる?
直接という要件が不要になれば、従来よりも幅広い経費が認められることになります。直接必要、という要件があるため、従来は取引先との一次会の費用は経費として落ちるものの、二次会の費用は経費にならない、などといったうわさがありました。取引先との関係を円滑にするのであれば、一次会だけで足りるはずであり、二次会までは直接必要とはいえない、などといった話もあったのです。
直接必要でないのであれば、二次会についても問題なく必要経費として認められるはずであり、この点からも弁護士必要経費訴訟のインパクトは大きいと言われています。
■国税の見解は?
しかし、このような事例があるからと言って、必要経費を甘く考えると痛い目に合います。と言いますのも、ある税務雑誌に掲載された国税の見解を見ますと、この裁判例は個別事案として説明されているからです。
国税が個別事案という言葉を使う場合、それはほかの実務には影響を与えない、ということを意味します。目先の事例のみに影響するから個別事案、というわけです。
このため、裁判で是正されるかどうかは別にして、先の弁護士必要経費訴訟に従って、「直接必要ではない」ものの、「事業に必要」なものについて経費とすると、税務調査で否認されることがあります。実際のところ、先日の事例では、司法書士の経費について、通説通り「直接必要な経費しか必要経費にならない」と判断されています。
■国税の見解まで見る必要がある
弁護士必要経費訴訟のような事件があると、税理士の中には短絡的に考えて、通説が大きく変わったと宣伝される方もいますが、通説が本当に変わるかどうか、国税の対応も慎重に判断しなければなりません。
君子危うきに立ち入らず、と申しますので、判例に一喜一憂せず、国税の対応まで含めて慎重に判断して下さい。
●執筆:元国税調査官・税理士 松嶋洋 WEBサイト
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後、経団連関連の税制研究所において、法人税制を中心とするあるべき税制の立案と解釈研究に従事。現在は、税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事するとともに、税理士向けに税務調査・法令解釈のノウハウにつき講演執筆活動を行う。
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