「僕のなかで名将、知将と呼べるのは広岡達朗しかいない」常勝西武のチームリーダー石毛宏典が語る広岡野球の真髄
日刊SPA! / 2024年3月18日 15時51分
後続がすぐセカンドフライに倒れてチェンジ。石毛はアドレナリンが出ていたせいか最後までプレーを続ける。試合後、病院に行くと、右膝外側側副じん帯損傷の診断が下る。
翌日、選手ロッカー室でコーチの近藤昭仁とトレーナーが石毛の足の具合を見ていた。トレーナーが触診していると、右膝の外側側副じん帯部分がプラプラと横に揺れる。この状態を目にした石毛はすぐ口走った。
「昭さん、これ駄目でしょう」
「だな。いいよ、監督に言ってくるわ」
コーチの近藤昭仁が小走りでベンチに戻り、広岡監督の耳元で囁く。
「石毛、駄目ですわ」
「何? そんなに酷いのか?」
広岡は即座に反応し、急いで選手ロッカー室までやって来た。
ドアを開け、右足を伸ばしてトレーナーに処置されている石毛のもとまでカチャカチャとスパイクの音を立てて近づくなり、
「おい、出れるのか出れんのかどっちなんだお前」
焦っているのか、少し怒り気味で言う。石毛は、あれ昭さんから連絡いってないのかなと思い、返答に窮していると、
「どうすんだ、出れるのか?」
広岡が一喝する。思わず石毛は条件反射のように答える。
「出れます」
「トレーナー、テーピングでガチガチに撒いとけ。ボルタレン(痛み止め)も飲ませとけ。心配するな。後どんだけやっても2試合か3試合だ。その後は休むだけ休ませてやる」
それだけ言うと、広岡はさっさとベンチに戻っていった。
膝が壊れかけ寸前でてっきり交代かと思っていたところ、プレー続行。強制的に言われたような感じだろうけれども、自分でやると言った以上は、やるしかない。このまま第三戦を含めて第六戦まで出場し、第六戦にはシリーズ三本目のホームランを打つなど敢闘賞に選ばれた。幸い、断裂じゃなかったためシーズンオフにきちんと治療し、膝関節周りの筋力を鍛えて翌シーズンには間に合った。
◆「僕のなかで名将、知将と呼べるのは広岡達朗しかいない」
石毛は、この日本シリーズ第三戦で負傷しながらも最後まで強行出場したのは、広岡のもとで四年間野球したなかでも印象的な出来事のひとつだと語る。普通なら怪我のため交代し、翌日の日本シリーズも欠場となったかもしれない。
でも広岡の迫力に負けたというか「出れるんなら出ろ!」といった具合に背中を思い切り叩いて奮い立たせてプレーできたことに、ある種の感激もある。いわば精神力次第で不可能も可能になることもあるんだと教えられた石毛であった。現在の石毛はこう語る。
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