「自分が信じる正義はちょっとしたことで転覆する」“信じること”の意味を問う長編小説/角田光代・著 『方舟を燃やす』書評
日刊SPA! / 2024年4月2日 8時50分
先日私が行った温泉施設はSNSで騒ぎが起きたあと、ホームページ上で「当施設は保健所の指導と検査を受けており、今回あらためて保健所と第三者機関の調査を行ったが管理状況は適切であると確認されました」「当施設の温泉の泉質は塩分濃度が高いため、ご利用者様の肌質や体調にあわせてご利用くださいますようお願いいたします」という旨の告知を行っていた。施設名で検索しても「〇〇にやってきました」という、何事もなかったような投稿が大半になっている。SNSで健康被害を訴えたうちの一人は、もう別の話を投稿している。別の一人は今も健康被害と対応の不備を動画で訴えているようだったが、私はそれを見ないまま画面をスクロールさせる。
私は、私が培ってきた「自分の正義」を信じている。けどその正義は時間がたったり、ほんのちょっとしたことで転覆するのかもしれない。この小説を読んでから、「身の回りの何を信じるか」ということをずっと考えている。
「身体にいいものを」と考えて半生を送ってきた不三子は、人生の晩年になってその「正義」が揺さぶられる出来事に直面する。 戸惑う彼女が語る言葉が、読み終わったあともずっと胸に沁みついている。
「私たちは知らない。ただしいはずの真実が、覆ることもあれば、消えることも、にせものだと暴露されることもある。それだけではない、人のいのちを奪うことも、人に人のいのちを奪わせることも、あり得る。そんなことにはじめて思い至り、不三子の内にもしずけさが流れこむ。私は違うという言葉も、そのしずけさにのみこまれていく。私が信じてきたことはなんだったの。私が信じていることはなんなの。しずけさのなか、ただ疑問だけがあぶくのように浮かぶ」(P392)
評者/伊野尾宏之
1974年、東京都生まれ。伊野尾書店店長。よく読むジャンルはノンフィクション。人の心を揺さぶるものをいつも探しています。趣味はプロレス観戦、プロ野球観戦、銭湯めぐり
―[書店員の書評]―
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